翌日というより今朝。
ルナと愛しまくったケントは帰宅してから寝て、7時頃に起きた。
ルナは引っ越しの準備と手続き(住所変更など)に向かった。
朝食を食べ終えたケント達はある部屋に集まっていた。
黒板と机のあるその部屋はまるで学校の教室のようであり、皆それぞれ体格にあった席に座っている。
「さて、皆に集まってもらったのはある話があるからだ」
ケントの一言で皆が静かになる。
「俺が当初、皆を養子にしようと思ったのは会社を設立したくてその社員を確保するためだった」
その言葉に動揺の気配が漂う。
それもそうだろう。
ケントは自分の目的のために子供達を利用したと言えるのだから。
本来なら。
「だけどシスターや皆に出会ってその考えは少し変わった。会社を建てたい夢は変わらない。けど君達の意思を無視してまで成し遂げようとは思わない。俺についてきてくれるものだけでいい。それと…」
ケントが杖を振ると、紙とペンがそれぞれの机の上に飛んで置かれていく。
「これからの方針を決めていくために将来の夢について考えて欲しい。何になりたいかどうしていきたいのかを」
「将来の夢って?」
「よく分からないよ!」
オーディンとインドラが挙手して意見する。
「難しく考える必要はない。最初はなんとなくでいいよ」
「もじかけない…」
まだ3歳のゼウスが言った。
「絵でもいいよ」
ケントは教壇から下りてゼウスに近づくと頭を撫でる。
「うん!」
俯いていたゼウスの顔がパッと明るい笑顔に変わる。
「わたしはかけるわ!」
4歳のヘラが胸を張る。
「そうか。すごいな」
ケントが今度はヘラの頭を撫でる。
「もっとほめてくれてもいいのよ!」
手を払いのけないあたり、ケントに対する好感度は上がっているのだろう。
「それじゃ、自由に書いていいよ。俺に見せたい人は見せに来ていいし、見せたくない人は自分の内にしまっていい。大事なのは書くことだから」
「は~い!」と子供達から元気のいい返事が返ってきた。
それから5分後、
「書けたぜ!」
トールが立ち上がった。
「俺の夢は『最強』だ!」
最強(もちろん日本語ではなくこの世界の言語)という二文字が大きくバーンと書かれた紙を見せてニカッと笑った。
「バカ丸出し…」
ミネルヴァがジト目を向ける。
「なんだと!?じゃあミネルヴァは何て書いたんだよ?」
「私は…」
ミネルヴァの紙には『正義の人』と書かれていた。
「正義の人って…なに?」
「べ、別にいいでしょ!」
トールは素直に疑問を口にするとミネルヴァが睨み返す。
「「「ケント!」」」
するとアポロン、ホルス、マリナが紙を持ってきた。
「「「書いたよ!」」」
「お、どれどれ…」
ケントが渡された紙を見る。
3枚とも同じ内容で『ヒーロー』と書かれていた。
これはケントが色々話した影響とも言えるだろう。
「なるほど。ちなみにどんなヒーローになりたいとかはある?」
「強くて優しい!」
「悪者をやっつける!」
「街を守る!」
ケントの問いに対して返ってきた答えは子供らしくて純粋だった。
とはいえ11歳の答えとしてはそんなものだろう。
「そうか。良く分かった」
ケントがそう返すと3人はそれぞれの席に戻った。
「書いた」
いつの間にかクロノスがケントの横に立っていた。
「はい」
ケントは渡された紙を見る。
「『時計職人』か」
「自分にぴったりかなって…ダメ?」
「そんなことないよ。自分で考えて出した答えなんだから」
「うん」
口数の少ないクロノスはそれだけ言って席に戻る。
「んしょ…」
教壇の机に紙が置かれる。
身長が足りないのか誰が置いたか見えない。
「ん?」
ケントが回り込んで覗くと紙を置いたのはシヴァだった。
「書いた~!」
直接渡せばいいのに机に置くあたり抜けてて可愛らしい。
ケントが机の上に置かれた紙を見る。
紙には『女優』と書かれていた。
「うん。シヴァは演技が上手いからきっとなれるよ」
ケントがシヴァの頭を撫でる。
「ほんと!」
「本当」
「やった~!」
ケントの言葉にシヴァが両手を挙げて喜ぶ。
事実、おままごとで見せたシヴァの演技力はかなりのものだった。
シヴァはスキップしながら席に戻っていく。
「ケント!」
次にヘラが駆け寄って来る。
「みなさい!これがわたしのみらいよ!」
ヘラが見せた紙には『ゼウスとけっこん』と書かれていた。
ケントは内心頭を抱えた。
ゼウスとヘラは書類上兄妹関係にある。
この国で近親婚は法律上禁止されている。
とはいえ子供の夢を否定するのもしたくない。
下手なことを言えばドロップキックが飛びかねない。
「そうか…できるといいな」
ケントの答えは何とも曖昧なものだった。
「ぜったいできるわ!」
ヘラはフフンと胸を張っている。
「(こりゃ手強いな)」
ケントはとりあえず保留することにした。
そんな中、イシュタルはまだ考えているところだった。
「(将来の夢…将来の夢…私の将来…)」
自身の将来を想像しながら紙にペンを走らせていく。
『お嫁さ』とまで書いたところで、
「イシュタル姉さん、何書いて…」
トールが覗き込もうとすると、
「見ないで!」
イシュタルが紙に覆い被さって隠す。
「え、なに?」
「見ないで!見たらブッ飛ばすから!」
トールをキッと睨むイシュタル。
「お、おう…」
あまりの剣幕に怯むトール。
「トール、無理に詮索するものじゃないよ」
「は~い」
ケントにも注意されてトールはおとなしく席に戻る。
「できた!」
すると、ゼウスが声を上げた。
「見てもいい?」
ケントが近づいて訊く。
「いいよ!」
ゼウスの承諾を得たので紙を見る。
そこにはゼウスや他の子供達、ケントも含めて楽しそうに笑っている絵が書いてあった。
後ろには小さいがロキもいる。
「みんなとずっとなかよし!」
「上手に描けてるよ。偉い」
「えへへ♪」
ケントに頭を撫でられて笑顔を浮かべるゼウス。
他の子供達は悩んでいるようでまだ決まっていないようだ。
「さて、そろそろ時間だしここで一旦お開きにしようか。まだ決まっていない人は焦らずゆっくり時間をかけていいからね」
授業を終えるようにケントが声をかける。
「午後からは魔法について教えるから楽しみにしててね」
ケントの言葉に対して「は~い!」と返事が聞こえる。
こうして午前が終わった。