ロキのダンジョン 地下20階。
目の前に現れた巨大スフィンクスに対してケントはまず魔法を放った。
「インセンディオ!」
スフィンクスがボッと燃えるがダメージなし。
前足で踏みつけてきたので躱して剣で斬るがカキンッと硬い音が響く。
「装甲の薄いところは…」
ケントがスフィンクスの全身を観察すると、胸の中心部に窪みがあってそこにガラス玉のようなコアがあった。
「あれか」
ケントが突撃していくとスフィンクスが砂を浮かせて槍に変形させて撃ち放ってきたのでそれをステップで躱しながらスフィンクスの前足に乗る。
スフィンクスがもう片方の前足で殴ってきたのでそれを躱して転がった後に起き上がってさらに前に進む。
スフィンクスの前足を足場に跳んでコアを剣で突いた。
コアに亀裂が入りパリンッと音を立てて割れる。
スフィンクスの体が全て砂になり消えていった。
「はぁ…はぁ…」
強敵との戦いを終えてケントは息を整えようとする。
「いや~ボス戦勝利おめでとう!言い忘れてたけど20階層ごとにボスを用意しているんだよ!さて、本当はずっとついていたいけど用があるから失礼するよ!次に会うのは地下100階になるかもね!じゃあね!」
そう言ってロキはボンッと煙を立てて消えてしまった。
◇◇◇
ロキがいなくなった後もケントのダンジョン攻略は進んでいった。
21~30は水のエリアで、ボスはリヴァイアサン。
水中戦は苦戦したが、水泳スキルを覚えて水中で自由に呼吸できるようになった。
31~40はジャングルで、ボスはヒュドラ。
毒は厄介だったがおかげで毒無効のスキルと毒の状態異常のスキルを覚えた。
41~50はホラーエリアで、スケルトンやアンデッドやゴーストなどの敵が多かった。
ボスはリッチーで杖を持っていって魔法の撃ち合いとなったが『
それからもダンジョンを攻略していく中でレベルを上げスキルや魔法を覚えて、宝箱でレアアイテムをゲットした。
その中にはハリー・ポッターで有名な魔法の箒『ファイアボルト』などもあった。
ダンジョン攻略を始めて約1年、ようやく地下100階に辿り着いた。
現在のレベルは998。
剣や鎧も豪華になっている。
地下100階は直径100mのドーム状の空間と奥にプラチナの宝箱があるだけだった。
とはいえ簡単に宝箱に行けるわけもないだろう。
走らず進んでいくと目の前に転移魔法の魔法陣が現れてそこから巨大な白いドラゴンが現れた。
「グオォォォォォォォォォォ!!!!」
その咆哮の威圧感は凄まじく並の冒険者なら尻尾巻いて逃げるか失禁していることだろう。
「あれはエンシェントドラゴンだ」
いつの間にいたのか背後からロキの声が聞こえた。
探知スキルを発動しているケントでも気づかなかった。
ケントはエンシェントドラゴンに視線を集中したままロキの話を聞く。
「といってもこの世界のじゃなく僕が一から作ったオリジナルだけどね。物理·魔法耐性、高威力範囲攻撃、回復スキル持ち、状態異常無効、即死無効、デバフ無効、デバフ付きの咆哮をつけてある」
ロキは結局ロキだった。
「グオォォォ!!!」
エンシェントドラゴンが正面を向いてデバフ付きの咆哮を放ってくる。
しかし、ケントには効果がなかった。
「君もデバフ無効のスキルを持っていたのか。いや今のレベルなら当然か」
ロキが遠くで観察しながら呟く。
エンシェントドラゴンは踏み込み爪で攻撃してきた。
そのスピードは凄まじく並の冒険者なら何が起きたか分からない内に死んでいただろう。
ケントはバックステップで避けてから剣でエンシェントドラゴンの頭を斬りつけた。
だがその手応えはあまりにも鈍い。
「物理耐性…ここまでか」
ケントが呟く。
エンシェントドラゴンは大きく息を吸い込んで炎のブレスを吐いた。
前方広範囲の攻撃で逃げ場がない。
ケントは剣でブレスを縦一線に切り裂いた。
さらに、もう一撃斬撃を放ってエンシェントドラゴンの顔に直撃させる。この間1秒、恐るべき早業だ。
「ウェアァァァァァ!!!!!!」
エンシェントドラゴンが真上を向いて咆哮を放った。
その体が緑色の光に包まれて傷を癒していく。
「あれが回復スキル…」
冒険者からすればせっかくダメージを与えた敵に回復されたら最悪だろう。
だが、ケントは冷静に敵の行動を分析していた。
物理·魔法耐性、高威力範囲攻撃、回復スキル、状態異常やデバフが効かないので小細工は通用しない…であれば、
「回復の隙を与えない高速物理攻撃。これしかない」
分析した上の答えがまさかの脳筋プレイである。
「ブハハハハハハ!!!!!!何だそれ!最下層で?ラスボスで?脳筋って…ハハハ!」
これには笑いが止まらないロキ。
ケントは換装スキルを発動させて装備を変える。
剣はそのまま、鎧は消えて別のものに変わる。
それはスーツだった。
サラリーマンが着る黒いスーツ。
靴も革靴に変わっている。
その装いはこの場に最も不釣り合いなもの。
だが、このスーツこそケントにとっての正装である。
「いくぞ」
ケントはスキルの重ね掛けで攻撃力とスピードを限界まで…いや限界以上に強化した。
「グオォ…グアァッ!」
エンシェントドラゴンが咆哮を放とうしたが出来なかった。それよりも速く首を斬られたからだ。
その皮膚の硬さはさすがというべきかまだ首は落ちていない。しかし咆哮を止めるだけの威力はあった。
次に動く前にまた斬られた。その次も斬られた。その次の次も斬られた。その繰り返し。休む間もない連続攻撃。咆哮させないように首だけを狙っている。面ではなく点を狙った集中攻撃。
そのスピードはまるで彗星の如く速い。
床や天井を足場にしてスーパーボールのように跳んでいる。
そして、ケントはもう1つスキルを発動させていた。
攻撃すればするほど攻撃力が上がる連撃スキル。
限界突破していた攻撃力がさらに上がっている。
「ハアッ!」
ケントは最後に真上から剣を振り下ろしついにエンシェントドラゴンの首を切り落とした。
鮮血が噴き出してエンシェントドラゴンの首が床に転がる。
その瞬間、ケントのレベルがついに999に達した。
「おめでとう!まさか本当にあのエンシェントドラゴンを倒せるとはね!君には驚かされてばかりだよ!これでダンジョンはクリア!…と言いたいところだけど実はこのエンシェントドラゴンはラスボスじゃないんだ」
ケントの勝利に拍手を送った後、ロキは何か勿体ぶった言い方をし始めた。
「この地下100階、そしてこのダンジョンのラスボスはね………この僕だ!」
ケントの正面で浮遊しているロキは高らかに宣言した。
ロキのダンジョンのラスボスはロキ自身だったのだ。
ロキの魔力が高まっていく。
サイズは相変わらずぬいぐるみサイズのままだが、威圧感
は今までのどのモンスターを遥かに超えていた。
「君も予想はついていたんだろ?だからさっきの戦いで魔法を使わなかった。いくら魔法耐性があるって言っても全く使わないのはおかしいと思っていたよ。だから温存していた。この僕との戦いに備えてね」
悪魔のような邪悪な笑みを浮かべるロキ。
「…俺が前世で何の仕事をしていたか知ってるんだろ?」
「ああ、知っている。君の前世は保険会社のサラリーマン。ただしブラック企業のね。だけど君は異常だった。ブラック企業に勤めていたにも関わらず仕事は定時で終わらせ残業なし、営業部で業績もトップだった…だろ?」
ロキはケントの前世を語る。
「そうだ。だから保険をかけることに関しては手を抜かない」
「ああ…そうだったね」
ロキが指をパチンっと鳴らすとエンシェントドラゴンの体が消滅した。
「邪魔なものは消えてもらうとして…始めようか!ラストバトルを!」
ロキの背後に複数の魔法陣が展開されそこから火·水·風·土·雷·氷·光·闇の八属性の魔法が一斉に放たれる。
既にスキルで攻撃力とスピードが上がっているケントは難なく躱す。
「躱すか…じゃあこれはどうかな?」
ロキの魔方陣が1つになり、そこから1本の槍が現れた。
「槍?」
「ただの槍じゃない。父上の槍、グングニルを模して作ったものだ。贋作だからといって舐めない方がいいよ!」
ロキが手を振り下ろすと槍がケントに向けて放たれる。
そのスピードはまさに一瞬だった。
ケントは剣で槍を弾いた。
「マジかよ…なら数を増やしたらどうかな?」
ロキの魔法陣が増えていく。その数、1000。
その全てからグングニルのコピーが放たれる。
ケントはそれらを超高速で弾いていく。
連続する金属音がダンジョン内に響き渡る。
「大した神業だがいつまで続く?」
ロキは余裕の笑みを浮かべる。
「もう終わっている」
ロキの背後から声が聞こえた。
振り返るとケントが空中で斬撃を放つ態勢に入っていた。
「いつの間に…姿くらましか!」
ロキが防御魔法を使うのとケントが斬撃を放ったのはほぼ同時だった。
ロキの体が魔法障壁に押されて床に落ちる。
「ぐへっ…やるね。だけど勝負はこれから」
「終わっていると言ったはずだ」
床に降りたケントが剣を床に突き刺すとロキの周囲を六角形の魔法陣が包囲した。
「結界!?いつの間に…」
「さっきお前の魔法を躱している時に仕掛けておいた。隠蔽魔法も使ってな」
「闇雲に躱していたわけじゃなかったのか。だがこの程度の結界、すぐに壊して」
「無駄だ」
ケントが手をかざすとロキの周囲にいくつもの魔法陣が展開されて鎖が放たれてロキの体を拘束する。
「何!?ぐっ…何だ…この脱力感…まさか!」
「そう。この鎖は神縛りの鎖だ」
「バカな!そんなもの、このダンジョンに用意してな…まさか作ったのか!?」
「その通り、この鎖は俺の鍛冶スキルで作ったものだ」
「あり得ない!もはやそれは宝具の領域だぞ!」
ロキは地下21~99階層までのケントを見ていない。
故に知らない。
ケントがどんな力を手に入れたのかを。
「とどめだ」
ケントが左手を上に掲げるとロキの真上に10個の魔法陣が縦に並んだ状態で展開される。
魔法陣が1個ずつ輝いていく。
「光属性最上級魔法、ホーリーノヴァ!」
それは天から降り注ぐ光の柱だった。
極太の光がロキに降り注がれる。
「うおあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ロキの断末魔がダンジョン内に響き渡る。
光の柱が段々細くなっていく。
そして、細い光が消えていって残ったのは黒焦げのロキだった。
「完敗だよ」
仰向けに倒れるロキは敗北宣言した。
「殺すことも出来ただろうに。君も作ったんだろう?グングニル、神殺しの槍をさ」
「…お前には感謝している。俺が強くなれたのはお前のおかげだからな」
「全く…兄上といいお前といい甘さと優しさを履き違えてるね。君からは闘気は感じたが殺気は感じなかった」
ロキはそう言ってため息を吐いた後、プラチナの宝箱に顔を向けた。
「君のものだ。持っていけ」
ロキの言葉にケントは頷いて宝箱に近づいて開けた。
「ニワトコの杖、蘇りの石、透明マント…これは」
「死の秘宝さ…ハリー・ポッターのね。これで君は人類最強、無敵の冒険者だ」
「そうか」
ケントは死の秘宝を道具袋の中に入れた。
「ああ、それと…このダンジョンの管理権を君に移した。アイテムはもうないがモンスターは君の好きなように作ることができる。入れるのも君か君が許可した者だけだ。まあ、好きに使え」
「ありがとう」
「ハハハ!この僕にそんなこと言うとは変な奴だ。それで?姿現しが使える君ならダンジョンの入り口どころかアクセルにも一瞬で帰れるだろう」
「…いやダンジョンの入り口までだ。そこからは自分の足で帰る。だから帰りはモンスターを避けておく必要はない」
ケントは少し考えてそう言った。
「気づいていたか」
「ここに来る時にモンスターに会わせなかったのは俺がダンジョンに着く前に死なないようにするため。レベル1だったからな」
「楽しみを奪われるなんて我慢ならないからね」
ロキが起き上がって浮遊する。
黒焦げだった姿も元に戻っている。
「それじゃ戻るぞ」
ケントとロキの体がフッと空間に吸い込まれるように消えた。
次に2人が現れたのはダンジョンの入り口、あの扉の前だった。
ケントはダンジョンから森に出る。
1年ぶりの地上にケントは帰ってきたのだ。
「それじゃ、僕は失礼するよ。また会う時を楽しみにしている」
別れの言葉を言ってロキは姿を消した。
「…帰るか」
ケントは1年ぶりのアクセルに向かって歩き出すのだった。