※この作品はR-18です。

この素晴らしい世界に保険を   作:kuroto xanadu

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今回はダラダラ長くなるのですみません。
流し読みで結構です。
登場人物増やしすぎてしまったけどこのままいきます。
前回のヘルという名前をヘラに修正させていただきました。


ファーストコンタクト

 ケントは子供達のことを知っていく為にそれぞれ話すことにした。

 最初はトール、ケントの前世の神話上では雷神。

ちなみに神と同じ名前なのに全く騒がれないのはこの世界には北欧神話やケルト神話などケントが元いた世界の神話が存在しないからである。

 

「兄ちゃん、強いのか?」

 

トールが訊いた。

 

「どうかな?ある人…ある方は人類最強だと言ってくれたけどどうだか」

 

「なにそれ?どっちなの?」

 

トールはケントの答えに笑った。

 

「俺さ、強くなりたいんだ。強くなって弟や妹達を守れるようになりたい」

 

「下の子っていうのはここで一緒に暮らしてる子達?」

 

「ああ、みんな血は繋がってないけど家族だ。フレイとフレイヤは双子だけど」

 

「家族を守るためか…もしよければ鑑定スキルで君の適性を視ることもできるよ」

 

「ほんとか!やってくれ!」

 

トールは即答した。

疑うことを知らないように。

 

「じゃあお言葉に甘えて。…うん…君に合っている武器はハンマー、それに雷属性のスキルの適性もある」

 

ケントは鑑定スキルの結果を伝える。

 

「ハンマーか…」

 

トールは考え込む。

 

「そうだな…ちょっとこの枝をハンマーの柄だと思って持ってごらん」

 

「?…分かった…」

 

トールはとりあえず言われた通りに持つ。

 

「振りかぶって…」

 

ケントの指示通りに動くトール。

 

「右足を引いて…」

 

トールが右足を引く。

 

「腰を落として…」

 

トールがグッと腰を落として構える。

 

「思いっきり振る!」

 

トールがブンッと音を立てて振ると周囲に風が巻き起こる。

 

「…」

 

トールは振り切った体勢で固まる。

 

「どうだった?」

 

「…すげぇ…すげぇよ!何か滅茶苦茶イメージできた!でっかいハンマー振ってる感じ!」

 

「それはよかった」

 

教え子を見るような微笑みを浮かべたケントだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 次はフレイとフレイヤ、神話上では豊穣を司る神。

2人は孤児院の花壇にいたので、ケントが近づいていく。

 

「よく育てられてるね」

 

ケントは2人に声をかける。

 

「えっと…ケントさん」

 

「正解」

 

名前を覚えていたフレイヤを褒める。

ちなみにフレイヤは愛と美を司る女神とも言われていて、彼女も美少女で、成長すればかなりの美女になるだろう。

 

「2人は植物が好きなんだね」

 

「「うん!」」

 

笑顔で応える2人。

 

「お花が好き!」

 

「野菜も好き!」

 

「草も好き!」

 

「葉っぱも好き!」

 

「木も好き!」

 

交互に好きなものを主張する2人。

 

「好きなものがいっぱいあっていいね」

 

「ケントさんは何が好きなの?」

 

「花で?」

 

「何でもいいよ!」

 

「そうだな…花だと薔薇が好きかな」

 

「私も好き!」

 

「僕も!」

 

笑顔で言う双子を見ているとなんとも微笑ましいものだ。

ケントは視線を花壇に移す。

 

「これは…ツボウウツボカズラだね」

 

「知ってるの?」

 

「蜜でアリをおびき寄せて入ったところで蓋を閉じる食虫植物だよね」

 

「すごい!ケントさん、よく知ってる!」

 

「君より年上なだけさ」

 

ケントはフレイヤの頭を撫でる。

 

「あ、すまない」

 

ついやってしまった行動に謝罪する。

 

「ううん。ケントさんに頭を撫でられるの嫌じゃないよ」

 

「そうか。それはよかった」

 

「僕も撫でて!」

 

フレイが身を乗り出してくる。

 

「私も!」

 

フレイヤも甘えだして2人が飽きるまでナデナデはやめられなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

 次はティアマト、神話上では原初の女神で、孤児院では一番年上で長女にあたる。

 

「ティアマト、君はここではお姉さんだそうだね」

 

「ええ、大変なこともありますけど…でもみんなで協力して仲良く暮らしています」

 

「そうか…」

 

ティアマトの言葉を聞いたケントは改めて考えた。

この家族の絆は強い。

自分が養子を取ればそれを引き裂いてしまうのではと。

だからケントは子供達のことを知ることに専念した。

 

「ケントさんは冒険者と聞きましたがどのような冒険をされたんですか?」

 

ティアマトに聞かれてケントはダンジョンでの冒険を話した。ロキのことは伏せて。

 

「とても信じられませんわ。凄すぎて…」

 

話のスケールが大きすぎて飲み込めないティアマト。

 

「無理に信じる必要はない。おとぎ話とでも思っててくれればいい」

 

そう言って微笑むケント。

 

「いいえ、信じます。あなたは嘘を言っていない」

 

真っ直ぐな目で言い切るティアマト。

ピンク色の髪が風で靡く。

 

「ありがとう」

 

ケントはそう返した。

 

 

◇◇◇

 

 

 次はダグザ、神話上では豊穣と再生を司る神で、孤児院では三男にあたる。

 

「…」

 

彼は他の子供と違って警戒心が強いダグザ。

 

「僕達を連れていこうとする気だろ」

 

「望めばね。強制するつもりはない」

 

「嘘だ。僕達を引き離すんだ」

 

「確かに誰かが私のところへ来れば結果的にはそうなる」

 

そう答えるケントのポケットに視線が向くダグザ。

 

「これが気になるかい?」

 

ポケットから杖を取り出すケント。

 

「…別に」

 

目を逸らすダグザ。

 

「これは魔法の杖だ」

 

ケントは地面に落ちている石に杖を向ける。

 

「ウィンガーディアム·レヴィオーサ」

 

呪文を唱えると石が宙に浮いた。

 

「っ!」

 

それを見たダグザは目を見開いた。

 

「私の魔法は特殊だが、興味を持ってもらえたようだね」

 

「…別に」

 

今度は強がりを言っていることがケントにも分かった。

 

「さて…私は次の子に会いに行くよ」

 

ケントが立ち上がる。

 

「…どうすればあんたみたいに魔法が使える?」

 

ダグザが背中を向けるケントに訊いた。

ケントは振り返る。

 

「私の魔法は特殊と言ったね?でも私には『魔法伝授』というスキルがあってね。その特殊な魔法を教えることができる。後は君次第だ」

 

そう言って微笑んでからその場を去った。

 

「僕次第…」

 

ダグザは魔法の魅力に惹かれつつあった。

 

 

◇◇◇

 

 

 次はアポロン、ホルス、マリナのヒーロー好きトリオ。

3人とも神話上では太陽を司る神。

孤児院ではそれぞれ五男、六男、七女。

その3人は何やらポーズを考えていて、ケントはそれに付き合わされていた。

 

「ねぇ、どんなのがいいと思う?」

 

「カッコいいのがいい!」

 

「何かない?」

 

3人に訊かれたケントは思い付いたアイデアを言う。

 

「1人が前に屈んで両手を真横に伸ばす」

 

「こう?」

 

マリナが屈んで両手を真横に伸ばす。

野球の審判のセーフのように。

 

「あとの2人が片手を斜めに伸ばして3人で三角形を作るってのはどうかな?」

 

「こうかな?」

 

「こう?」

 

アポロンとホルスがそれぞれ対になるように手を伸ばす。

仮面ライダーの変身ポーズのように。

すると、3人のポーズが合わさって三角形が出来上がった。

 

「「「おぉっ!」」」

 

盛り上がる3人。

 

「「「カッコいい!」」」

 

「気に入ってくれたようでよかったよ」

 

「チーム名も欲しいなぁ…」

 

マリナが訊いてくるとあとの2人もキラキラした目で見つめてきた。

 

「…デルタフォースとか?」

 

我ながら安直なネーミングでケントは少し照れた。

 

「「「カッコいい!採用!」」」

 

3人は即決した。

こうして3人のチーム名はデルタフォースとなった。

 

 

◇◇◇

 

 

 次はフェンリル、神話上では神ではなく神獣なのだが、

 

「…」

 

フードをかぶっているフェンリルはケントから距離を置いて近づこうとしない。

 

「私と話すのは嫌かな?」

 

「そんなことは…ない…けど…」

 

しどろもどろな返事をするフェンリル。

 

「無理をする必要はない。君のペースでいい」

 

優しく話しかけるケント。

 

「その…私…は…他の人と違う…から…」

 

「うん」

 

ケントはゆっくりフェンリルの話を聞く。

 

「だから…きっと…嫌いになる…ふにゃっ!」

 

その時、ブオンッと強風が吹いてフェンリルのフードが飛ばされてその素顔が露になった。

彼女の頭には人間とは違う狼の耳があった。

気が緩んでしまったのかお尻からモフモフした尻尾が出てきている。

 

「わわわっ!これは…その…」

 

慌ててフードを被り直そうとするフェンリルだが焦ってうまくいかない。

そんなフェンリルの頭にケントは手を置いた。

 

「へ?」

 

「大丈夫。何もおかしいことはない。素敵な耳と尻尾だよ」

 

銀色の髪と耳を撫でるケント。

 

「本当?」

 

「ああ、本当だ」

 

「でも他の人と違う…」

 

シュンと耳を垂らすフェンリル。

 

「それは君の立派な個性だ。それに獣人族というのは君の他にもいるらしい」

 

「…ふへへ…」

 

ケントの褒め言葉を聞いたフェンリルは耳をピンッと立てて尻尾を振った。

ケントは満足するまでフェンリルの頭を撫で続けた。

 

 

◇◇◇

 

 

 次はクロノス、神話上では時間を司る神、孤児院では次男。

クールで逆立った髪型をしている少年は孤児院の床に座り込んで、いくつもの時計に囲まれていた。

 

「時計が好きなの?」

 

「うん」

 

ケントが話しかけるとクロノスが時計から目を離さずに答える。

 

「(自分の世界に没頭している。こういうタイプは無闇に話しかけない方がいいな)」

 

ケントはクロノスとの距離感を測っていた。

 

「っ!」

 

すると、クロノスが急に目の前の時計を1つ取って裏側を開いて弄り出した。

どうやら時計が狂ったので直しているようだ。

 

「(構造を理解している。しかも早い。将来、いい時計屋になりそうだな)」

 

ケントは1人にしてあげようとその場を離れた。

 

 

◇◇◇

 

 

 ケントが孤児院から外に出ると、突然何かが顔に飛んできた。

パッと片手で掴むとそれはおもちゃの矢だった。

 

「わぁ、すごい!」

 

「こら、ウル!人に向かって飛ばさない!…すみません。大丈夫ですか?」

 

矢をキャッチしたケントに感動する10歳のウルとそれに注意しつつケントを心配する14歳のアルテミス。

どちらも弓術に長けた神話上では神で、孤児院では七男と三女、2人とも水色の髪で本当の姉弟のようである。

 

「大丈夫だよ。はい、今度は気をつけてね」

 

アルテミスに心配ないと笑顔で応えて、ウルに矢を返す。

 

「は~い!」

 

ウルは素直に返事した。

 

「お兄さん…えっと…」

 

「ケントだよ」

 

ウルがケントの名前が思い出せなかったようなので助け船を出す。

 

「ケントさん!さっきのすごかった!何であんなこと出来るの?」

 

興奮した口調で質問するウル。

 

「う~ん…いっぱい鍛えたからかな」

 

ケントはそれとなく答える。

レベル999だと伝えても信じられないだろう。

 

「ウル君もいい狙撃だったよ」

 

「ほんと!やった~!」

 

子供らしく喜ぶウル。

 

「もう調子いいんだから…」

 

それに呆れるアルテミス。

とはいえ面倒見が良さそうなのでいいコンビなのだろう。

 

「ケントさんも一緒にやろう!」

 

「いいよ」

 

ウルのお願いにケントは快く応える。

 

「あそこの的を狙って真ん中に近い方が勝ちね!」

 

「分かった」

 

「よかったら私の使ってください」

 

「ありがとう」

 

アルテミスからおもちゃの弓矢を渡されて借りるケント。

サイズは大人でも使いやすくちょうどいい。

 

「先攻は僕だよ!」

 

そう宣言して構えるウル。

 

「……」

 

先程の雰囲気から急変して真剣な表情になるウル。

一言も発することなく的の一点を見つめる。

恐るべき集中力。

的との距離は20m。

ゆっくりと弓を引いていく。

 

「スー…っ!」

 

そして、放たれた矢は見事ど真ん中に命中した。

 

「おぉ…」

 

ケントは思わず感心する。

10歳でこれ程の腕なら磨けばもっと凄い狙撃手になるだろう。

 

「やった!」

 

ピョンピョン跳ねながら喜びを表現するウル。

その様子をケントは微笑ましく見る。

 

「次はケントさん!」

 

「ああ」

 

ケントは弓矢を構えて、ゆっくりと弓を引いていく。

矢を放つと、ウルと同じようにど真ん中に命中した。

 

「すごい!ケントさんも同じだ!」

 

「引き分け…ですね」

 

ウルが感動して、アルテミスが結果を口にする。

 

「(狙撃スキルカンストしてるから狙ったところに命中しちゃうんだよな…ちょっとズルで申し訳ないけど…それにしてもウル君…多分自分では気づいていないかもしれないけど…狙撃スキルを持っている…)」

 

ケントは罪悪感を抱きながら、ウルの将来性に期待する。

 

「ありがとう!ケントさん、すごく楽しかった!」

 

「こちらこそ。またね」

 

「うん!また!」

 

「付き合っていただいてありがとうございました」

 

ウルが元気よく手を振って、アルテミスが礼儀正しくお辞儀をしてケントを見送った。

 

 

◇◇◇

 

 

 ウルとアルテミスと別れて庭の方を歩いていると、

ケントの横を金髪でつり目の少年オーディン(9歳)と黒髪パーマの少年インドラ(9歳)が通りすぎた。

 

「コラ~!オーディン!インドラ!待ちなさい!」

 

それを追いかけるように孤児院の中から出てきたのは金髪で荒々しい髪型で気が強そうな少女ミネルヴァ(14歳)。

神話上ではオーディンは戦争と死、インドラは雷霆、ミネルヴァは戦争の神である。

孤児院ではそれぞれ八男、九男、四女。

 

「やばっ!もう来た!」

 

「追いつかれる!」

 

焦った様子のオーディンとインドラ。

 

「待ちなさいって…言ってるでしょ!」

 

ミネルヴァは高く跳び上がると宙返りして2人の前に着地した。

 

「「げっ!!」」

 

「覚悟しなさい」

 

ゴンッ!ゴンッ!

 

2人の頭頂部にはそれぞれたんこぶが出来た。

 

「「いって…」」

 

うずくまって頭を押さえる2人。

 

「これに懲りたら二度とイタズラなんてしないこと。いいわね?」

 

「「え~…」」

 

「いいわね?」

 

「「分かりました!!」」

 

ミネルヴァの睨みに2人は直立して敬礼した。

その様子をケントは見ていると、

 

「なに?」

 

ミネルヴァが訊いてきた。

目つきが鋭いので怒っているように見える。

 

「いや…殴ることはなかったんじゃないかなと思っただけだよ」

 

暴力で解決したミネルヴァに自分の意見を口にする。

 

「「そうだ!そうだ!」」

 

それに乗っかる2人の少年。

 

「お黙り!…いいのよ。こいつらはこれで。でないと反省しないんだから」

 

「(今も反省してるようには見えないが…)」 

 

2人を見る限り多分同じことをするだろう。

 

「とりあえず経緯を聞かせてくれないか?」

 

ケントはそう言いながらさりげなく回復魔法で2人のたんこぶを治す。

 

「「おぉ!!」」

 

「ちょっと!余計なことしないでよ!」

 

オーディンとインドラは感嘆して、ミネルヴァがケントに当たる。

 

「罰を与えるなら暴力ではなく別の方法にしないとね。例えば…」

 

ケントが杖を軽く振ると、オーディンとインドラの体が勝手に動いて正座させられた。

 

「「うっ!」」

 

強制的に正座させられた2人は呻き声を出す。

 

「あとは何か作業をやらせるとか…反省文とか…」

 

「反省文なんてこの2人には意味ないわ。どうせ守らないし書いてる途中で逃げるし」

 

「なら魔法的効果のある契約書みたいなものに書かせようか」

 

「…悪くないわね」

 

ケントのアドバイスにミネルヴァが顎に手を添えて考える。

 

「「ちょっと待て!」」

 

2人のツッコミが入る。

 

「まあ、そっちは冗談として…」

 

ケントはもう一度杖を軽く振って2人の正座を解いた。

 

「雑用くらいでちょうどいいんじゃないか?」

 

「…そうね。…ほら行くわよ悪ガキ共」

 

ミネルヴァはケントの言葉に納得すると、オーディンとインドラの首根っこを掴んで孤児院に向かって引きずっていく。

その握力は14歳とは思えないほど強かった。

 

「「うわぁ!た、助けてぇぇ!」」

 

2人の断末魔が青空へ響き渡ったのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 ケントは再び庭を歩く。

すると、外のテーブルでチェスをやっている2人がいた。

金髪で笑顔が素敵な少女のメルクリウス(10歳)と銀髪で口元をマフラーで隠した少年のシン(7歳)だ。

神話上ではメルクリウスは商人と旅人の守護神として、シンは月の神である。

孤児院では八女と十一男。

年齢差もある2人でメルクリウスの方が優勢だが、シンの方

もかなり粘っている。

 

「ここ、いいかな?」

 

ケントが空いた席を指す。

 

「ええ、どうぞ」

 

メルクリウスが笑顔で応えて、シンが無言で頷く。

 

「ありがとう」

 

ケントはシンの隣に座る。

盤面を見るとシンの方が劣勢ではあるが逆転が不可能ではない。

ケントはチェスのルールを知っているもののあまりやったことはない。

だが、彼の保有スキルに『先読み』というスキルがあり、相手の次の手を読むことが出来る。

つまりチートである。

ケントはそのスキルを使った。

その直後、シンの手が動いた。

その一手で一瞬形勢逆転したかと思えたが、

 

「はい」

 

メルクリウスが笑顔で指した手がさらに翻した。

シンの一手は決して浅はかなものでなかった。

しかし、それをメルクリウスが上回ったのだ。

10歳と7歳とは思えないほどハイレベルな闘いである。

そして、お互いの手は進んでいき、

 

「はい。チェックメイト」

 

メルクリウスの勝ちが決まった。

 

「また負けた」

 

シンがそう呟いた。

感情が薄めなので悔しさが分かりにくいが。

 

「すごいね。2人とも」

 

ケントは素直に感心した。

 

「こんなのただの遊び」

 

「ですね。…ケントさんは冒険者をされているとか?」

 

メルクリウスが丁寧な言葉遣いで訊く。

 

「(10歳にしては大人びてるな…)そうだよ。といってもまだまだ新米だけどね」

 

「どのような冒険をされたのですか?」

 

「そうだね…」

 

ケントはロキのダンジョンでの冒険を話した。

 

「まあ、素晴らしい冒険をされたんですね」

 

「信じられない…」

 

感動するメルクリウスと疑うシン。

 

「まあ、普通は信じられないだろうね」

 

シンの言葉に苦笑いするケント。

 

「それより…やろう」

 

シンがチェスを指差した。

 

「私と?」

 

ケントの問いにシンは無言で頷いた。

 

「分かった」

 

「どうぞ。こちらへ」

 

「ありがとう」

 

メルクリウスが席を空けてくれたのでケントが移動する。

2人の対局が始まる。

ケントは普通にやっては勝てないと思って『先読み』スキルを使った。

その結果、ケントが勝った。

 

「ごめんね。君が強いからちょっとズルさせてもらったよ」

 

ケントは『先読み』スキルのことを説明した。

 

「ズルい…」

 

「ケントさん、ズルはダメですよ」

 

「うん。ごめん…次はスキルなしで…」

 

「ありでいい。もう1回」

 

「え?」

 

シンの一言にケントが聞き返す。

 

「スキルありでいい。次は勝つ」

 

「シンはこう見えて負けず嫌いなんです」

 

メルクリウスの言葉にケントは意外そうな反応をする。

感情表現が豊かではないシンだが、確かにその瞳の奥には闘志が燃えている。

 

「分かった。それじゃ遠慮なく」

 

そして、次の対局はケントの勝ち。

 

「もう1回」

 

その次もケントの勝ち。

 

「もう1回」

 

そのまた次もケントの勝ち。

 

「もう1回っ」

 

「シン、ケントさんにこれ以上お時間を取らせてはいけませんよ」

 

メルクリウスの言葉にケントは腕時計を確認する。

つい夢中になって時間が過ぎてしまったようだ。

この後、他の子供にも会う予定があるのでチェスはここまでだ。

 

「うぅ…」

 

納得のいかないシン。

 

「シン君、明日も来るからその時にやろう」

 

「じゃあ、約束」

 

シンが小指を出す。

 

「うん。約束だ」

 

ケントも小指を出し、絡み合わせて約束を交わす。

 

「じゃあね」

 

「うん」

 

「また」

 

ケントが席を立って手を振ると、2人も手を振り返してくれた。

 

 

◇◇◇

 

 

 再び孤児院の中に戻ると、4人の子供に囲まれた。

 

「やっと来た!」

 

「待ってたぞ!」

 

「早く遊ぼ」

 

「遊ぼ遊ぼ!」

 

ケントを囲んだのは青髪の少年ポセイドン(7歳)、真紅の髪の少年アグニ(6歳)、紫色の髪の少女オシリス(9歳)、水色の髪の少女シヴァ(8歳)。

神話上ではポセイドンは海の神、アグニは火の神、オシリスは冥府の神、シヴァは破壊神である。

孤児院ではそれぞれ十男、十二男、九女、十女。

4人に手を引かれて連れてこられたのは孤児院の食堂。

食事中以外では子供達の遊び場として利用しているようだ。

 

「それで何をして遊ぶんだ?」

 

「キャッチボール!」「鬼ごっこ!」「かくれんぼ!」「おままごと!」

 

ケントが訊くと見事にバラバラだった。

 

「キャッチボールしたい!」

 

「キャッチボールは2人でやるものだろ!鬼ごっこだったらみんなで出来る!」

 

「ならかくれんぼでもいいでしょ」

 

「かくれんぼは飽きた!おままごとで決まり!」

 

4人はお互いの意見を譲らず睨み合っていた。

 

「それじゃ全部やろうか」

 

ケントが頭の上にポンと手を置いて落ち着かせる。

 

「どうやって?」

 

「キャッチボールから…そうだな…15分ごとに分けて最後はおままごとをすればいい。そうすれば1時間で4つのことが出来るぞ」

 

「「「「おぉ~!」」」」

 

ケントの提案に4人が感心する。

 

「キャッチボールをしたいって言ってたのは…アグニ君だったかな?」

 

「うん!先に外で待ってて!今ボールとグローブ取ってくる!」

 

アグニが部屋を出た。

ケントと他の3人が庭で待っていると2、3分経過したところでアグニが出てきた。

 

「待たせたな!早くやろう!」

 

アグニはケントにグローブを渡して自身もグローブをつける。

 

「他の3人はどうする?」

 

「「パス」」「パス!」

 

3人は離れたところで見学することにした。

 

「分かった」

 

ケントはグローブをつけて構える。

 

「せっかくだから会話のキャッチボールもしようか」

 

「会話のキャッチボール?」

 

アグニが首を傾げる。

 

「何でも質問してくれてもいいよ。それに私が答えるから」

 

「分かった!それじゃ…冒険者をやってるってほんと?」

 

アグニが質問と同時にボールを投げる。

 

「本当だよ。といってもまだ2年目だけどね」

 

ケントもボールを投げ返す。

もちろん手加減している。

本気でやれば大砲並の威力はあるだろう。

 

「レベルはいくつ?」

 

「999」

 

「嘘!?そんなの…ありえない…よ!」

 

アグニが力を込めて投げたその瞬間、ボールに一瞬火花が散る。

パンッと音を立ててキャッチしたケントがグローブからボールを出して確認する。

 

「(ボールがところどころで焼け焦げている。火属性の魔法を使ったのか…恐らく無意識。育てればこの子は化けるだろうな…)」

 

ケントはアグニの将来性に頬が緩む。

 

「ねぇ!本当にレベル999なら証明してよ!」

 

「ん?ああ…ほら冒険者カード」

 

ケントはポケットから冒険者カードを取り出して見せる。

確かにレベル999と記載されている。

 

「んん~…あ、じゃあなんか凄いことしてよ!」

 

「凄いことか…」

 

アグニのアバウトなお願いにケントは考える。

 

「それじゃ…これで…どう!」

 

ケントは足元に転がっていた石ころを掴むと、それを空へ向けて投げた。

筋力値カンストの投石はソニックブームを起こし超高速で飛んで白い雲をブワッと晴らした。

 

「っ………」

 

「「「………」」」

 

アグニは口を開けて驚き、他の3人も無言になっている。

 

「これでどうかな?」

 

ケントが訊く。

 

「………きょ、今日はこのくらいにしておいてやるよ!」

 

アグニが突然キャッチボールを切り上げた。

 

「「「ビビリ」」」

 

「うるせぇ!」

 

見学していた3人の一言にアグニが言い返す。

 

「5分で終わっちゃったけど…じゃあ、次は…」

 

「鬼ごっこ!」

 

ポセイドンが元気よく手を挙げる。

 

「鬼は誰がやろうか?」

 

「兄ちゃん!」

 

ポセイドンがケントを指差し、他の3人もそれに続く。

 

「分かった。それじゃ、30秒数えたら始めるけどそれでいい?」

 

「いいよ!」

 

「「「いいよ!」」」

 

ケントの提案に4人は同意する。

 

「い~ち…に~…」

 

ケントが数え始めると4人は一斉に散らばり始めた。

そのスピードは年相応とは思えないほどで、生まれつきステータスが高いのだろう。

 

「29…30!…さて、まずは探すところからだな」

 

数を数え終えたケントは歩き出して4人を探し始める。

探知スキルを使えば一発なのだが、もちろんそんなズルはしない。

そんなことをせずともレベル999のステータスは伊達ではない。

遊びとはいえ手は抜かない。

子供はそういうことに敏感なのである。

遊び時は全力で遊ぶ。

一歩踏み込んだ直後、風を切る音がした。

孤児院の外壁周りを駆けていくと真紅の髪と小さな背中が見えた。

 

「嘘だろ!?もう追いついてきたのかよ!?」

 

ケントのスピードに振り向き驚くアグニ。

常人離れしている彼は兄弟達以外で追いつく人間が初めてなのだろう。

 

「くそっ!」

 

さらにスピードを上げるアグニ。

その足元は彼が踏む度にボッと発火している。

 

「(なるほど。火属性の加速魔法を使っているのか)」

 

追いかけながら冷静に分析するケント。

 

「(恐らく無意識だろうが無詠唱で魔法を使うとは大した才能だ)」

 

ケントもさらに加速する。

 

「うわあぁぁぁ!」

 

「はい。タッチ」

 

ついにアグニは追いつかれケントに肩をポンと叩かれた。

 

「くそ~…よしっ!次は俺が鬼だ!10秒数えたら追いかけるぞ!」

 

「分かった」

 

逃げる側になったケントは走り出す。

 

「1…2…3…」

 

数え始めるアグニ。

逃げているポセイドン達も声でアグニが鬼になったことが分かるだろう。

 

「9…10!」

 

数え終わったアグニが走り始める。

火属性の加速魔法を使って走るアグニはある背中が見えた。

 

「見つけたぜ!ポセイドン!」

 

「げっ!」

 

「待て~!」

 

「誰が待つかよ!」

 

逃げるポセイドンが手のひらを後ろに向けるとそこからなんと水が噴き出して加速した。

 

「あの子も魔法が使えるのか」

 

木の上から観察しているケントは子供達の才能に改めて感心する。

 

「このまま隠れていてもいいが時間ももう5分しか残ってないしな」

 

ケントは木の上から飛び降りた。

一方、ポセイドンはまだアグニから逃げ続けていたがその差は徐々に縮まっていた。

加速力ではアグニの方が上のようだ。

 

「追い詰めたぜ!」

 

「チッ!」

 

途中角を曲がったりして撒こうとするが上手くいかない。

次の角を曲がろうとしたその瞬間、ケントが飛び出てきた。

 

「え、うわっと!」

 

驚いたポセイドンが慌ててブレーキをかけるが、加速状態に入っていた為、止まれない。

 

「チャンス!捕まえた!」

 

追いついたアグニが手を伸ばす。

ケントはポセイドンを受け止めて片手で抱き抱えると、宙返りでアグニを躱し、さらに空中でもう一方の片手で氷属性の魔法で滑り台を作って着地して滑り降りた。

 

「「………」」

 

目の前で起きた現象に言葉を失う。

そこでちょうど15分経過して鬼ごっこが終了した。

 

「「すげぇ…」」

 

ハモる2人。

 

「あ、ごめんな。今下ろすから」

 

ケントは抱き抱えていたポセイドンを下ろした。

 

「ありがとう。兄ちゃん、すごくカッコよかった!」

 

目をキラキラさせながらケントを見上げるポセイドン。

 

「いや、こちらこそ急に飛び出して悪かった」

 

「全然いいよ!何ともないし!」

 

手をブンブン振ってアピールするポセイドン。

 

「ちぇ~もうちょっとでタッチできたのに…」

 

腕を組んで悔しがるアグニ。

 

「負け惜しみ~!」

 

「うるせぇ!次は勝つ!」

 

煽るポセイドンにアグニは両手を振り上げて言い返す。

 

「終わった?」

 

「じゃあ次はかくれんぼね」

 

シヴァとオシリスが出てくる。

 

「鬼は…」

 

「「「「兄ちゃん!」」」」

 

「だよね…」

 

当然の結論にもはや反論の余地がないケント。

 

「じゃあ1分数えるから隠れてね」

 

「「「「は~い!」」」」

 

元気よく返事する4人。

 

「1…2…3…」

 

ケントが顔を手で覆って数を数える。

4人は一斉に走って隠れ始める。

 

「59…60!もういいか~い?」

 

「「「もういいよ~!」」」

 

「ま~だだよ~!」

 

3人は隠れたようだが、あと1人はまだのようだ。

 

「もういいか~い?」

 

ケントは少し待ってからもう一度声をかけた。

 

「もういいよ~!」

 

全員隠れたことを確認したケントは顔を上げて歩き出す。

声の方向から位置を絞り出して探す。

レベル999で聴覚が常人離れしているケントにとっては造作もないことだ。

 

「1人目は…見~つけた」

 

「え、はやっ!」

 

1人目は食堂のテーブルの下に隠れていたアグニを見つけた。

 

「兄ちゃん、早すぎ~」

 

「手は抜けないからね」

 

「ちぇ~」

 

ブー垂れるアグニ。

 

「2人目は…こっちだな。見~つけた」

 

ケントは洗面所の陰に隠れていたポセイドンを見つけた。

 

「見つかっちゃった」

 

ポセイドンは洗面所の陰から出てきた。

 

「ビリはアグニか」

 

「うるせぇ」

 

またも煽るアグニに対してポセイドンが言い返す。

見つけられた2人はケントについていく。

 

「3人目は…こっちだな」

 

ケントが向かったのは孤児院の外の木の上。

 

「見~つけた」

 

そこに立っていたシヴァを見つけた。

 

「うわ~はや~い!」

 

シヴァは笑顔で木の上から飛び降りて着地した。

 

「最後の1人は…この辺なんだが…」

 

ケントは孤児院の入り口近くを探すが見つからない。

声の方向から間違ってはいないはずだが正確な位置が絞り込めない。

そうしている間に開始から15分経過してかくれんぼが終了した。

 

「タイムアップか…俺の負けだ!出てきてくれ!」

 

「ここだよ!」

 

そう言って現れたオシリスが立っていたのは孤児院の入り口の上の壁のさらに上、大きな時計の下だった。

 

「危ないよ!降りてきて!」

 

心配したケントが呼びかける。

 

「分かった!とりゃっ!」

 

段ごとに降りるのかと思いきやオシリスは何と下にいるケントに向かって飛び降りてきた。

 

「ちょっ、あぶなっ!」

 

ケントは何とかオシリスを受け止めて衝撃を逃がすためにその場を回った。

 

「ったく、危ないからああいうことはやめてくれ」

 

「ごめんなさ~い!」

 

オシリスは笑顔で謝った。

 

「ほんとに分かってるんだか…」

 

ケントはため息をつきながらオシリスを下ろした。

 

「さて、最後は…」

 

「おままごと!」

 

待ってましたと言わんばかりにシヴァが手を挙げた。

 

「役はどうする?」

 

「私がママ!兄ちゃんがパパ!」

 

シヴァが自分とケントを順番に指差す。

 

「私は?」

 

「娘!」

 

オシリスの問いにシヴァが答える。

 

「え~!私の方がお姉さんなのに!」

 

「ダメ!私がママ!」

 

シヴァは譲らない。

 

「しょうがないな~…よろしくね!パパ!」

 

オシリスは気持ちを切り替えてケントに笑いかける。

 

「…パパか」

 

ケントが笑みがこぼれる。

保護者の予行練習にはちょうどいいだろう。

 

「「俺たちは?」」

 

「ワンちゃんとにゃんこ」

 

「「人ですらねぇ!」」

 

シヴァの一言に2人がツッコんだ。

 

「せめて人にしてくれ!弟とか息子とか!」

 

「頼む!」

 

「ダメ」

 

2人の懇願をシヴァが拒否する。

 

「まあ、彼女も2人の遊びに付き合ってくれたんだから言うことを聞いてやってくれ」

 

ケントは2人を説き伏せる。

 

「うっ…それならまあ…」

 

「しょうがねぇな…」

 

「(いい子達だ)」

 

素直に言うことを聞いた2人にケントは感心した。

 

「じゃあ、始めるよ!」

 

シヴァはどこから持ってきたのかシートを庭に広げて、おもちゃの食器や食べ物を並べる。

他の4人もそれぞれの位置につく。

ケントは玄関のドアを開ける真似をして、靴を脱いでからシートを上に立った。

 

「ただいま」

 

「遅い!何時だと思ってるの!」

 

「え?」

 

急に険しい表情になったシヴァに驚くケント。

 

「あなた、またあの女のところに行ってたんでしょ!」

 

「えっと…行ってないよ」

 

いきなり昼ドラのような展開に変わり、戸惑うケントだがここは何とか合わせる。

 

「(いや、何てハイレベルな遊びをするんだ。この子は)」

 

「嘘よ!知ってるの。あなたが毎週あの金髪の女に会いに行ってるのは!」

 

そう言われてケントの脳裏に一瞬ルナの姿がよぎる。

 

「金髪の女って…何のこと?」

 

「何よ!そんなに年上のお姉さんがいいの?」

 

「(いや、何か妙に鋭いな)」

 

「この子だってまだ生まれたばかりで小さいのよ!」

 

そう言ってオシリスを抱くシヴァ。

 

「え、私赤ちゃんなの!?」

 

「喋らないで」

 

「あ、はい…バ、バブー…///」

 

シヴァに注意されたオシリスは恥ずかしがりながらも赤ちゃんの演技(棒読み)をする。

 

「証明して」

 

「え?」

 

「私のこと、愛してるって言ってくれなきゃ許さない」

 

プイッとそっぽを向くシヴァ。

ケントは考える。

おままごととはいえ8歳の少女に愛の告白をする17歳、端から見たら通報ものだろう。

しかし、ここで拒否したら彼女は納得せずおままごとも終わらない。

ケントも覚悟を決めた。

スキルの中に俳優スキルがあったのでそれを使った。

 

「愛してるよ」

 

ケントはキメ顔でそう言った。

 

「じゃあ許してあげる♪…はあ、満足した」

 

「「いや、俺たち空気だったよ!」」

 

おままごとの終わりを告げたシヴァに男子2人がツッコむ。

 

「アハハ…」

 

ケントは苦笑いする。

女は生まれながらの女優とはよく言うが、シヴァの演技力はずば抜けていた。

将来、本当に名女優になるかもしれない。

 

 

◇◇◇

 

 

 4人とのそれぞれの遊びを終えたケントは孤児院の中に戻った。

 

「残るは…あと3人か」

 

そう呟いているとズボンの裾を掴まれる感触がした。

視線を下に向けると、雲のような白髪天然パーマの十三男、ゼウス(3歳)が曇りなき純粋な瞳でケントの顔を見上げていた。

神話上では雷と天空を司る最高神、まさに神の頂点であるが、ここでは末っ子。

 

「あそぼ」

 

そう言われてケントは膝を曲げて目線を合わせる。

 

「いいよ。何して遊ぼうか?」

 

「あっち」

 

ゼウスは指を差しなからケントの手を引いて案内する。

だがその瞬間、

 

「おねえちゃんキック~!」

 

背後から飛び蹴りが襲ってきたのでケントは空いている片手一本で受け止めた。

 

「ゼウスをどこにつれていくつもり!」

 

着地してそう怒りを露にしたのは二つの輪っかの髪型の十一女、ヘラ(4歳)。

神話上では神々の女王と呼ばれ結婚·出産·貞節を司る女神である。

 

「どこって…それはゼウスに聞いてくれ」

 

「あそぶ」

 

ゼウスはこればっかり。

 

「いくらゼウスがかわいいからってつれていくなんてひどいわ!」

 

こっちはこっちで話を聞いていない。

仕方なく、ここは話をまとめることにした。

 

「ゼウスに遊ぼうと誘われてな。場所はゼウスしか知らなくてこうして案内されている。そこで君が飛び込んできたってわけだよ」

 

「ならわたしもいっしょにゼウスとあそぶ!ゼウス~おねえちゃんともあそびたいでしょ~?」

 

ヘラが笑顔でゼウスに近づく。

 

「うん。あそぼ」

 

「ありがとう!ゼウス!」

 

ヘラは笑顔でゼウスを抱き締めて頬をくっつけた。

 

「えへへ…」

 

ゼウスも嬉しそうだ。

 

「(神話ではヘラはゼウスの妻で浮気を許さない女神で、一方のゼウスは女好きで有名な神だったな)」

 

2人を見ながらケントが神話を思い出す。

見ての通り、こっちの世界のヘラは超絶ブラコンといった感じだ。

 

「(この子が一番癖が強いな。それにしてもさっきのキック、4歳とは思えないほど強かった。大人でも食らったら吹っ飛びそうだ)」

 

ケントが無傷なのもレベル999のステータスのおかげだろう。

 

「…と、ゼウス…そろそろ案内してくれないか?」

 

「うん。こっち」

 

ゼウスは再びケントの手を引いていく。

 

「ゼウス、おねえちゃんとも手をつなぎましょう!」

 

「いいよ」

 

ゼウスが空いた手でヘラと繋ぎ、ゼウスを中心に3人手を繋いで廊下を歩く形となった。

少し歩いてゼウスに招かれたのはゼウスとヘラの部屋だった。

 

「これであそぼ」

 

ゼウスが持ったのは部屋の真ん中に置いてあった積み木。

先程、体力を使う遊びをしたのでケントにとってはありがたい。

 

「いいよ」

 

ケントが床に座ると、ゼウスが積み木を積み立て始める。

 

「つぎ」

 

ゼウスに指示をされて、ケントが上に積む。

 

「わたしもやる!」

 

ヘラも座って積む。

3人で一つのタワーを作り上げていく。

やがてゼウスの身長では積めない高さになってきた。

すると、

 

「だっこ」

 

ゼウスがそう言ってきたので、ケントはゼウスを抱き上げる。

 

「よいしょ…ほらどうぞ」

 

「…やった!」

 

積み木が積めて拍手して喜ぶゼウス。

その後、ケントも余裕で積み、ヘラの方を見ると何か言いたそうにしていた。

恐らく自分も届かないから抱っこして欲しいがケントに頼むのは気が引けるのだろう。

そこでケントがヘラの言葉を先回りした。

 

「よかったら抱っこしてあげようか?」

 

「え…そ、そうね!どうしてもしたいというならさせてあけてもいいわよ!」

 

視線を逸らしながら返すヘラ。

 

「どうしても」

 

「ならしょうがないわね!」

 

そう言うがどことなく嬉しそうである。

 

「いくよ…よいしょ」

 

ケントがヘラを抱き上げる。

 

「あっ…い、いがいとうまいじゃない!ほめてあげる!」

 

「どういたしまして」

 

素直じゃないヘラの褒め言葉にケントは笑顔で返す。

ヘラが積み終えたので下ろすと、

 

「だっこ」

 

今度はゼウスが催促してきた。

さっきと同じようにしてからゼウスを下ろすと、

 

「ほら、つぎはわたし!」

 

「えっと…次は俺の番じゃ…」

 

「いいから!」

 

もはや順番など関係ないとばかりにヘラが催促してくる。

 

「分かったよ」

 

そんなやり取りが30分も続き、最終的には肩車まですることになった。

 

「…ん~…」

 

遊び疲れてきたのかゼウスの頭が船を漕いでいる。

 

「そろそろ休もうか」

 

「や~だ……まだあそぶ…」

 

そう返すが眠気には勝てないようだ。

 

「また今度にしよう」

 

「あそ…ぶ…ん~…スー…」

 

そこで電池切れしてしまい寝落ちしてしまったゼウス。

ケントはゼウスを抱き上げてベッドに寝かせてあげた。

ヘラの方へ向くと彼女も眠気と闘っていた。

 

「ヘラも寝ようか」

 

「だいじょうぶよ…まだねむたくなんて…ないんだから…」

 

そう言うが瞼が落ちてきていることは明白だ。

 

「もっと…ゼウスと…いっしょに…スー…」

 

ヘラも電池切れして眠ってしまったので、ケントが抱き上げてゼウスと同じベッドに寝かせる。

 

「…ん~…ゼウス…だいすき…」

 

ゼウスを抱き締めて寝言を呟くヘラ。

そんな2人を微笑ましそうに見届けたケントは、杖を取り出して軽く振り魔法で積み木をおもちゃ箱の中に入れる。

2人に掛け布団をかけてから静かに部屋を出た。

 

 

◇◇◇

 

 

「さて、最後の1人は…」

 

ケントが後ろを振り返る。

すると、壁の曲がり角がひょこっと顔を出していた人物が引っ込んだ。

 

「…どうしたものか」

 

実は視線については他の子供達と遊んでいる時から気づいていた。

ただ声をかけるべきかどうか考えていただけだ。

 

「そろそろいいかな…」

 

ケントはそう呟いた。

 

「…」

 

視線の主が曲がり角から顔を出す。

すると、ケントの姿がなかった。

 

「え?」

 

「何か用かな?」

 

「きゃあぁっ!」

 

背後から声をかけられたその人物は跳び上がって驚いた声を上げた。

振り返るとそこにはなんとケントがいた。

 

「い、いつの間に…」

 

「移動しただけだよ。君には見えないようにね」

 

ケントは改めて目の前の人物を見る。

次女のイシュタル(15歳)、黒髪ポニーテールの美少女で、神話上では愛の女神と呼ばれている。

 

「先程から私に話しかけたそうにしていたからこっちから声をかけさせてもらった」

 

「え、あっ、いやっ…その決して覗いてたとかそういうことじゃなくて…どう声をかけていいか分からなくて…///」

 

イシュタルはケントと視線を合わせられず頬も少し赤い。

 

「とりあえず落ち着いて話そうか」

 

ケントが手を差し出す。

 

「え?」

 

「ここで立ち話もなんだし場所を変えよう」

 

「あっはい…///」

 

イシュタルは顔を真っ赤にしながらもケントの手を取る。

 

「うぅ…///」

 

移動中もイシュタルは俯いたままだった。

ケントがイシュタルを連れてやってきたのは礼拝堂。

最前席で2人は隣り合って腰かける。

 

「改めて自己紹介しよう。私はケント、17歳で冒険者をやっている」

 

「イシュタルです…その…15歳です…」

 

自己紹介したイシュタルは両手の拳を膝の上に置いている。

 

「それでずっと隠れて見てたのは…」

 

「す、すみません!嫌でしたよね!気持ち悪かったですよね!」

 

ケントの問いにイシュタルは慌てて返す。

 

「いやちょっと気になっただけでそこまでは思ってないよ」

 

「そ、そうですか!…よかった…」

 

背を向けたイシュタルは安堵の息を漏らした。

 

「私も君と話したかったから」

 

「ふぇっ!?///え、えっと…私も話したかったです…///」

 

そこでイシュタルはようやくケントと目を合わせる。

しかし、それも数秒ともたず、イシュタルの顔がまるで茹でダコのように真っ赤になった。

 

「きょ、今日はこれで失礼します~!///」

 

イシュタルはバッと立ち上がって礼拝堂を飛び出した。

 

「…まだまだだな…俺も」

 

ケントはそう口にした。

 

「どうでしたか?子供達と接してみて」

 

イシュタルと入れ替わるように隣に座ってきたのはシスター·マリアだった。

 

「大変ですね。1人1人個性があって、体力もあって、シスターのすごさが身に染みて分かりました」

 

「ふふ…同じ人間なんて1人もいませんよ。みんな違う。だからこそ人生は素晴らしいものなのでしょう?」

 

シスターの達観した言葉は年の積み重ねを感じさせる。

 

「そうですね」

 

「それでどうしますか?諦めますか?」

 

「…いいえ。あと1ヶ月くらいはここに通わせていただきたいです。養子の件とは別に私はもっとあの子達と接してみたくなりました」

 

「そう…では勝負ですね。私とあなたの」

 

「はい」

 

笑顔で語り合う2人。

それは何とも平和な戦いだった。

そして、この時のケントは後にあのようなことが起きるとは思いもしなかったのだった。




次回は多分短くなる…と思います。
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