異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
帝都の商館でミリアを仲間にし損ねてから30日経った。
その間、奴隷商人としての本業の方が忙しく、思うように迷宮探索が出来なかった。
それと、ミリアの代わりに遊撃ポジションが務められる人材を探していたけれど、結局彼女の代わりとなるメンバーは見つからなかった。
実は、10日ほど前にバラダム家から仕入れた奴隷の中に、候補になりそうな娘がいた。
19歳の狼人族の娘、18歳の狼人族の娘、それと19歳の猫人族の娘の3人で、その中の誰かを選んで一から鍛えるという手はあった。
けれど、その娘たちはバラダム家の男たちから長い間性奴隷以下の扱いを受けていたようで、最低限の返事しかしないし、ずっと俯いていた。
人に怯えるといった感じではなく、3人とも全くの無反応だ。
もう人としての尊厳をなくしているのか?
可哀想だけど、すっかり心が死んでいる。
それに加え、身体中に暴行された跡があり、傷や痣が無数にある。
表面的に欠損した部位はないものの、身体の中まで無事かどうかは分からない状態だ。
この状態では怪我が治って一般的な生活が送れるようになったとしても、迷宮探索に同行させるのは不可能だろう。
彼女たちを見たときに、俺はそう判断して3人の中からメンバーを選ぶことは諦めた。
普通、非処女で身体中に暴行された跡がある娘など、当商館では仕入れることはない。
しかも、ロクサーヌと因縁があるバラダム家との取引など、速攻で断るところだ。
しかし、今回は25歳の魔法使いの男とセットでの売却という条件を付けられていたので、当商館としては断腸の思いで彼女たちも仕入れることになってしまった。
状況が状況なだけに彼女たちは訳あり奴隷として扱わざるを得ない為、普通に売却することは出来ない。
仕入れ金額はほぼゼロに等しかったので、二束三文で飯場や娼館に売り飛ばすことは出来るけど、それは当商館の名を汚す行為であるし、娼館の元締めをしている盗賊たちとの繋がりが出来てしまうことになるので、こちらも実質的に出来ないことだ。
つまり、彼女たちはまともに販売する手立てがないので、最低限の教育を施しながら心のケアを行い、後は売却はせずに商館の下働きにする予定だ。
因みにこれは後から分かったことだけど、バラダム家は最近サボーと商家の跡取り予定だった一人娘を決闘で失ったらしい。
どうやら迷宮探索中に跡取り娘が他の探索者パーティーの女性に因縁をふっかけて、サボーも煽って決闘に持ち込ませたところ、あっさり返り討ちにされたとのこと。
本来決闘で負けた側からの再戦申し入れは出来ないけど、自分が煽って決闘させた挙句に目の前で跡取り娘を殺されてしまったサボーは引っ込みがつかなくなり、パーティーメンバーの装備品や手持ちの金品を全て積み上げて、それを賭けて無理矢理再戦に持ち込んだらしい。
しかし、再戦が叶って喜び勇んで決闘に臨んだサボーは、対戦相手に全く敵わず最後は両手を切断されたうえに腹を斬り裂かれて藻掻き苦しみながら死んだとのこと。
サボー・バラダムは狼人族一強いと言われていた男だったけど、傲慢で短気、粗暴で頭が悪く、度々自分たちに従わない取引相手や、町中で目についた男に因縁をふっかけては、無理矢理決闘に持ち込んで相手を嬲り殺しにしているようなヤツだった。
それと、跡取り娘も高慢ちきで性格が悪く、取り巻き連中を引き連れて、度々弱者をいじめていたところが目撃されていた。
一番強いと言われていた男と弱い者いじめばかりしていた娘。
そんなヤツらには、相手の探索者たちは今までと同じように簡単に痛めつけて憂さ晴らしが出来る。
そんな程度の弱者に見えたのだろうけど、今回は完璧に相手の力量を見誤ったようだ。
相手を貶して踏み躙ろうとした挙句、全く相手にならずに一蹴された。しかも2人連続で。
俺は当事者ではないけれど、話を聞いたときには胸がスッとした。
まったくザマアミロである。
決闘の代償として、バラダム家は最強の戦士と跡取り娘、それに加えて多数のスキル付き装備品やかなりの金を失った。
そのため、急激に力を無くしてしまい、今まで虐げてきた取引相手たちから一斉に反撃をくらっているらしい。
因みにうちに売却した魔法使い以外にも、バラダム家はいくつかの奴隷商館に家人を売却しているらしく、また、装備品を武器屋や防具屋に売却したり、スキル付きの装備品は商人ギルドを通してオークションに出品しているという情報もある。
売れる物は全て手放しているみたいだし、まだ決闘から数日しか経っていないけど、既に借金返済で首が回らなくなっている状況のようだ。
この調子だと、バラダム家はそう遠くないうちに没落するだろう。
まあ、今まで好き放題していたのだし、ロクサーヌを奴隷に落として3人の娘と同じように扱うつもりだった連中だ。
同情する気なんて1ミリも浮かばない。
もうロクサーヌが狙われることはないだろうけど、バラダム家には1日でも早く滅びてほしいものだ。
そんなことがあったので、奴隷オークションへの出品準備やバラダム家の情報収集などでバタバタしていて、迷宮探索もままならないまま、あっと言う間に奴隷オークションの日を迎えてしまった。
◆ ◆ ◆
奴隷オークションは年4回で、開催日は季節が切り替わる休日の1日目と決まっている。
開催場所は春から夏に切り替わる休日はクーラタルの商人ギルドで、夏から秋に切り替わる休日はザビルの公民館。
秋から冬に切り替わる休日は帝都の商人ギルドで、冬から春に切り替わる休日はサボージャの合同ギルドホールだ。
奴隷オークションには帝国中の奴隷商館が出品出来るけど、年4回も看板奴隷を仕立てられる商館は少ないので、実際に出品するのは全体の4〜5割程度だ。
それでも今回は40を超える町の奴隷商館が出品しており、出品してない奴隷商館も視察や自身の商館の宣伝。
他の商館との商談や懇意にしている有力者のエスコートなどで会場を訪れている。
それに、多くの入札予定者が訪れているので、会場は朝からごった返しており、トイレに行くのも厳しい状況だ。
今回の奴隷オークションに、当館は3人の奴隷を出品している。
一人目はつい最近バラダム家から仕入れた狼人族の25歳の男で、ジョブは狼人族としては珍しい魔法使いだ。
仕入れる際に使い物にならない娘を3人も押し付けられてしまったけど、この男は本物だった。
鑑定すると魔法使いLv22だったし、迷宮探索の経験は10年。
実際に迷宮に連れて行って動きを確認したところ、戦闘時に魔物に臆することはなかったし、詠唱も素早く即戦力として使える人材だった。
そして、狼人族の割に性格は穏和で、主人の命令には忠実に従う姿勢を示している。
迷宮を討伐して貴族に成り上がろうと野望を抱くものなら、喉から手が出るくらい欲しい奴隷だろう。
実際あらかじめクーラタルの商人ギルドで魔法使いが出品されることを吹聴したところ、話が広がり今回のオークションで一番の目玉として扱われることになった。
こんな男を手放さなくてはならなくなったバラダム家は、間違いなく存続の危機に立たされているのだろう。
二人目はドワーフの17歳の男で、探索者Lv9。
セリーを身請けしたあとに仕入れた男だけど、鍛冶師になれる可能性があるから、それなりの値がつくことを期待している。
三人目は人間族の15歳の娘でジョブは商人。
家内奴隷だけど、没落した商家の娘なので商売に明るく、加えて処女で容姿端麗なので、こちらもそれなりに良い値がつくだろう。
オークションの開始前に出品する奴隷の顔見せがあり、魔法使いを出品する当館のブースはかなり盛況だ。
オークションの本番は親父が出品者として登壇し、サビアナおばさんと2人の使用人が裏方で出品奴隷の世話をすることになっている。
だから、俺自身はオークションには参加出来るのだけど、出品前の今はウチのブースで入札予定者の案内をしなくてはいけない。
こういう時にロクサーヌやセリーがいてくれると少しは助かるのだけど、出品する予定も無いのに器量良しの奴隷を見せびらかすことはトラブルになりかねない。
そのため今日のところはおとなしく家で留守番させているのだけど、奴隷を除くスタッフだけで切り盛りしないといけないので、かなり忙しい状況だ。
そんな状況なので、本番前に何処かの商館のブースにいるはずのベスタを探して声をかけることは出来ないけど、トイレに行くついでにチラ見することくらいは出来るだろう。
そう思っていたのでトイレ休憩の際にベスタを探し回ったけど、そこそこ人が多くて盛り上がっている商館のブースには見当たらなかった。
それなら少し閑散としている商館のブースか、あそこの超盛り上がっている商館のブースのどちらかにいるのか......
そろそろ戻らないといけないし、事前にベスタを見ておくことは諦めるか......
そう考えながら後者の方を確認すると、視線の先に入札予定者を案内しているフレアがいた。
どうやら超盛り上がっているのは、ターヘラの奴隷商館のブースみたいだ。
あそこは奴隷の質が高く、聞いた噂では見目麗しい元貴族のお嬢様を出品するらしい。
いわゆる超高級奴隷というやつで、普段一般の客には顔見せすらしない奴隷だ。
当然購入できる人など限られた金持ちだけだろうけど、せっかくなのでこの機会にそのご尊顔を配そうと、多くの人が訪れていると言ったところか。
悔しいわけではないけれど、ウチと遜色ないくらいの盛り上がりのようだ。
それにしても......
「フレア...... 相変わらず可愛いな......」
思わずつぶやいてしまった。
そして、今なら少しくらい話せるか?と一瞬考えて、ハッとした。
自分の中では割り切ったつもりだったけど、まだ多少なりとも彼女に未練があるようだ。
その思いを自覚しつつ、俺はフレアとの馴れ初めや、1年ほど前の彼女に婚約の真意を確認しようとターヘラの商館に出向いた際の顛末を思い出していた。