異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
いま俺の隣にはロクサーヌとセリーがいる。
だから、以前みたいに“フレア以外の女性は目に入らない”なんてことはなくなった。
けれど、異種族の彼女たちとの間には残念ながら子供は出来ないから、将来的には人間族の女性を妻に迎え入れる必要があるとは思っている。
俺には人に知られるとまずいことになる能力がいくつもあるので、情報を秘匿するという点から考えると奴隷ではない者を迷宮探索のパーティーに加えるのは問題だ。
その点から考えると、100%大丈夫とは言い切れないものの奴隷商館の娘であるフレアなら、情報漏洩の怖さは知っており、十分及第点と言えるはず。
彼女と結ばれたいという純粋な気持ちもあるけれど、結婚を機に商館同士の結びつきを強くするという打算的な考えもある。
そういう意味でも、俺は彼女と結婚したいと思っている。
だから彼女自身がユグドとの婚約を快く思っていないのなら、今の婚約は解消するよう彼女の父親に頼む。
そして、婚約解消が成立したあかつきには、俺との結婚を認めてもらおう。
そんなことを考えながら彼女に近付いて、「フレア。久しぶり」と声をかけると、彼女は振り向いて俺の顔を確認し、ギョッとして一歩後ずさった。
「レ、レオン。久しぶりね」
フレアは一瞬目を丸くして驚いたけど、すぐに気を取り直して返事をしてくれた。
「済まない。後ろから声をかけたから驚いたか。
でも、そんなに驚くことはないだろう」
「そ、そうね。貴方も商館の跡取りなんだから、ここに来ていてもおかしくはないわね」
「なあ、今日は時間が取れないだろうから、今度落ち着いたところでゆっくり話さないか?」
「えっ!普通に嫌だけど」
「なっ!話すくらい良いだろう。
それともユグドと婚約しているから、他の男とは会えないってことか?」
そう聞くと、彼女は大きなため息をついて、不機嫌そうな顔で俺を睨んだ。
「あんたさあ、ウチを出禁になった時のことを覚えてないの?
それともあんたの耳は自分に都合のいいことしか聞こえないフィルターでもかかってるの?」
「えっ!」
急に言葉づかいが悪くなった彼女の態度に面をくらっていると、彼女は呆れたようにもう一度ため息をついて話を続けた。
「あのときお父さんから、“2人は好き合っているから婚約した。家どうしの結び付きを強くするためじゃないぞ”って言われてたよね。
それに、ユグドからも私につきまとうのは止めろって言われたでしょ」
「そうだけど、直接フレアから言われてないから......」
「はぁー...... あのときの私の態度を見ればどんなに鈍くても気がつくと思ってたけど、人の気持ちを分かろうともしないあんたには伝わらなかったみたいね」
「えっ、そんなことは......」
「私はユグドのことが好き。だから彼のプロポーズを受け入れたの。
あんたがどんな妄想してるのか知らないけど、お父さんが私とユグドの関係を知ったのは、プロポーズを受け入れたあとだからね」
「そうだったのか......
もし、俺が先にプロポーズしてたら、君は受け入れてくれたか?」
「えっ?...... 付き合ってもいないし、好きでもないのに...... 何言ってんの?」
「いや...... 確かに付き合ってはいないけど......」
俺が返事をすると、一瞬キョトンとしていたフレアの顔が再び半眼になった。
思わず息を飲むと、彼女は大きくため息を吐いてから俺をキッと睨んだ。
「はっきり言わないと分からないみたいね。
あんた、しつこいし気持ち悪いのよ!」
「えっ!何を言って...... 俺たち仲良くしてたじゃないか」
「はぁ...... 仲良いなんて、あり得ないんだけど......」
「そんなことはないだろう。
子供の頃からよく遊んだじゃないか」
「えっ?そんな記憶はないんだけど」
「いや、帝都の商館で......」
「帝都の商館でって...... あんたはそう考えてたんだ。
私はしつこく付きまとってくるし、強引なあんたは大嫌いだったわ。
だからユグドにお願いして、帝都にいるときはあんたと2人きりにならないようにしてもらってたのよ」
「そんな......」
「それなのに、あんたはターヘラの町にまで来るようになった。
後ろから声をかけられて、振り向いてあんたの顔を見たときは正直ゾッとしたわ」
「いや、あれは偶然......」
「はぁ?あんたの住んでる場所でもないのに、毎回毎回“やあ、こんなところで偶然だね”なんて言葉。私が信じていたとでも思ってるの?
あり得ないでしょ!」
「......」
「最初は何で町中であんたに会うのかわからなかったから、出かけるときは手の空いてる使用人に同行してもらってたけど、もうあんたの手口はわかったから」
「えっ!」
「最近はいないみたいだけど、あんたがウチの裏口を見張ってたこと、わかってるんだからね!」
毎回多少驚かせてしまってたけど、いつも笑顔であいさつしてくれてたから嫌がってはいないと思ってた。
しかし俺の考えは、どうやら的外れだったようだ。
彼女は心底俺と会いたくなかったので、いつの間にか俺と鉢合わせする原因を探っていたのだ。
俺は頭が真っ白になり、まともに反論出来ずに半ば無意識に助けを求めて周りを見回すと、いつの間にか彼女の隣には彼女の父親が来ていて、憐れみの表情で俺を見つめていた。
それに、いつの間にか人だかりが出来ており、ニヤニヤしたり、隣の人と小声でひそひそと話しながらこちらを見ていることにも気がついた。
畜生っ!見せもんじゃねえ!
盛大に振られつつある俺を見て嘲笑っている外野に心の中で叫びつつも何とか冷静を保とうとしていると、フレアがとどめと言わんばかりに言葉を重ねてきた。
「私はあんたみたいな強引で人の話を最後まで聞かずに自分の意見を押しつけてくる人は大嫌い。
それに、そもそもあんたみたいな“内心では他人を見下しているような気持ち悪い笑顔”を見ると吐き気がするのよ!
今までは社交辞令で挨拶と最低限の受け答えはしてたけど、もうそれもしたくないわ。
だから、彼との婚約は抜きにしても、あなたと付き合うなんて天地がひっくり返ってもあり得ないから。
わかったら、もう私には付きまとわないで!」
ついに、決定的な一言を言われてしまった。
もうどう転んでも、逆転の目はないだろう。
「分かった...... 今まで済まなかった......」
俺は一言そう告げて、そのまま自分の商館のブースに戻った。
周囲に俺を嘲笑うヤツラがいたような気がしたけど、どうでも良かった。
◆ ◆ ◆
うちのブースに着き、親父に「ただいま」と一言だけ告げて、俺は入札予定者の案内をはじめた。
親父が一瞬目を細めた気がしたけど特に何も言われなかったので、盛大に振られた直後ではあるけど、一応平静は装えているのだろう。
俺は少しホッとしつつも案内に集中しようと思ったけど、次の瞬間には先ほどのことを思い返していた。
実はフレアは俺のことが嫌いなんじゃないのか?
帝都の商館やターヘラの町中での態度から、薄々感じてはいたけど、認めたくなかった。
だけど......
あれだけはっきりと拒絶されれば嫌でもわかる。
俺は尋常ではないぐらい、彼女に嫌われていたのだと。
俺は、女性は多少強引でも、グイグイと自分を引っ張っていくような男らしい人に惹かれるものだと思っていた。
しかし、それは自分本位な考えで、彼女のような自律心の強い女性には通用しなかった。
それに気づけなかった俺は、ずっと彼女に嫌われるようなことをし続けていたのだ。
だから、今となってはもうどう転んでも、彼女と未来を紡ぐ目はないのだ......
俺は大きく息を吸い、深く息を吐いた。
すると、胸にかかっていた靄が晴れた気がしてスッキリした。
気分爽快!というほどではないけれど、それでも良い気分だ。
理由はわかっている。
ロクサーヌとセリーが隣にいるので、フレアへの恋慕の気持ちは元々薄らいでた。
今まで聞けずにいたフレアの本心もわかったし、きっぱりと振られたことで彼女への未恋も断ち切れたからだ。
結果的に盛大に振られる形にはなったし、後で噂になるかも知れないけど、どうやら思ったよりもダメージはないようだ。
しかし......
フレアとひと悶着あったため、オークション前にベスタを確認するという当初の目的は果たせなかった。
彼女は竜人族の娘で、赤髪で褐色肌、高身長で爆乳という特徴なので、一目見れば分かったはず。
長年貯め込んでいた気持ちに一区切りつけられたことは良かったけど、事前にベスタを見れなかったのは残念だ。
内心ではそんなことを考えながらも、表面的には完璧に入札予定者の案内をこなし続け、午前中の顔見せ会は終了した。