異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
午後になると、オークション会場となるギルドホールに入札予定者たちが吸い込まれだした。
すると、ホールの扉の前で「お前ら!白金貨の準備はいいか!」と探索者風で小太りのむさい男が威勢よく怒鳴り出した。
うるさいヤツだな。
そう思いながら視線を向けると、そいつは扉に貼ってあったパピルスに気がついたようで、叫ぶのをやめるとそちらを凝視した。
すると、急にニヤニヤし出し、「ようし。魔法使いが出てくるのは最後の方だな」と言ってこちらの方に振り返った。
どうやらあのパピルスには、出品される奴隷の順番が書かれているようだ。
その後も五月蝿い男は「お前ら全員それまでに金を使っておけよ!」などと叫んでいたけど、周りの者はみんな苦笑しつつも男を無視してホールに入っていった。
俺も無視して通ろうと思ったけど、ヤツの「俺はこの白金貨で魔法使いを競り落とす!」との言葉に思わず吹き出しそうになってしまい、思わず顔を伏せた。
どうやらヤツは目当ての奴隷を落札する為、資金力をアピールして他の入札予定者を牽制しているようだけど、自ら予算は白金貨1枚と言っているようなものだし、当商館が出品する魔法使いの落札を考えているなら明らかに資金不足だ。
多分初めてオークションに参加するやつなんだろう 。
可哀想とは思わないけど、ヤツが魔法使いを落札する未来は来ないだろう。
そんなことを考えながら会場入りすると、ほどなくしてホール入口の扉が閉まった。
そして壇上に司会者が立ち、“オークションを開会する”と宣言した。
◆ ◆ ◆
一人目は竜人族の男で、ジョブは竜騎士だった。
隣の奴隷商や司会者との比較だから正確ではないけど、身長は2.5mはありそうだ。
ただ、うちのアドロンやサムロンと比べると細身で迫力に欠けるので、たぶん竜騎士になってからの経験は少ないのだろう。
そう考えて鑑定したら、15歳で竜騎士Lv1だった。
商館主は自慢気に竜騎士の男をアピールしているけど、歳も若いし実際は“ギリギリ転職がオークションに間に合った”というところだろう。
しかし、最低入札価格10万ナールから競りが始まると、いきなり22万ナールと叫んで入札したヤツがいた。
は?アイツは入札ルールを知らんのか?いや、明文化されたルールじゃないからマナーの問題か。
俺だけじゃなく、会場のみんなが一瞬呆気にとられたけど、すぐに気を取り直してヤツに敵意を向けだした。
オークションは最初は最低入札価格で入札し、それ以降の値上げは入札単位の10倍までという暗黙のルールがある。
今回のオークションの入札単位は1万ナールなので、金額のつり上げは最大でも10万ナールだ。
暗黙のルールではあるけれど、穏便に入札するなら順守する必要がある。
案の定、ルールを無視したヤツには対抗馬が現れて、やつを上回る金額で入札しだした。
そして、その人の前に他の入札者の列が出来、代わる代わる銀貨を積み始めた。
一人が積む額は銀貨が1枚だけど、多くの人が積んだためにすぐに対抗馬の前には銀貨の山が出来上がった。
これは、ルール違反したヤツにはかなりのプレッシャーだ。
俺もさりげなく銀貨を積み上げてから、よほど豪胆じゃないと耐えられないだろうと思いながらルール違反者を見ると、真っ青な顔をして銀貨の山を凝視していた。
そして、肩を落としてガックリと項垂れて、金額の提示をやめた。
俺は心の中で、”出直してこい!”と毒づきながら違反者のことは頭の片隅に追いやり、3番目に出品される予定の竜人族で15歳の女性に意識を切り替えた。
ギルドホールに入る際に扉に貼ってあった出品奴隷のリストを確認したところ、竜人族で15歳の女性は二人いて、3番目と19番目の出品となっていたからだ。
リストには名前までは書いてないので確証はないけど、19番目の女性はジョブが探索者だったから、まず間違いなく3番目のジョブが村人の奴隷がベスタだろう。
そう考えながら待っていると、3番目に登壇したのは長身で褐色肌、ショートカットで燃えるような赤髪、そして何より今まで見たことのないような巨乳の女性だった。
驚くべきことにその巨乳はツンと突き出し、全く垂れているようには見えない。
「何だあの胸は!補正下着でもつけているのか?!」
思わず凝視してしまい、言葉が漏れてしまった。
8頭身、いや、9頭身か?
身長は高いが手足は細長く、竜人族とは思えないくらいの美しさだ。
いわゆるモデル体型というやつだろうか?
かなりの美人だし、実年齢よりも少し年上に見える。
まだ登壇して1分も経っていないけど、早くも周りの男どもの視線を釘漬けにしている。
鑑定すると、予想通り彼女がベスタだった。
”早く落札して、彼女もロクサーヌたちと一緒に味わいたい!”
一瞬その光景を思い浮かべ、頭を振って意識を戻した。
そして、ゴクリと唾を飲み込み、興奮を抑えながら入札開始の合図を待った。
◆ ◆ ◆
「最低入札価格は20万ナールからです。それではどうぞ!」
ベスタの入札が始まると、次の瞬間に「20万ナール!」と叫んで入札したヤツがいた。
チラッと見ると、先ほどマナー違反をやらかして竜人族の男を落札出来なかった男だ。
「21万ナール!」
「22万ナール!」
金額を上乗せして入札すると、ヤツもすかさず金額を被せてきた。
今度はちゃんと暗黙のルールは守って入札しているので、どうやら最初の入札で学習したようだ。
チッ、面倒だな......
そう思っていると、あちこちから金額上乗せの声が上がりはじめた。
ライバルはあの男だけではなかったようで、ベスタの肢体に魅せられたのか?熱狂的に入札する者も現れた。
すると、マナー違反をやらかしたヤツは32万ナールで脱落した。
ヤツは先ほど資金の底を見せているので、今日はこの先も競り勝てることはないだろう。
思った以上の盛り上がりだったけど、競り合いが進み50万ナールを超えるとほとんどの者は脱落し、残っているのは俺と見るからに貴族風の男だけになった。
但し、その男は自分では入札していない。
理由は分からないけれど、入札の声をあげているのは隣に立つ商人風の男だ。
しかし、少し前から金額の推移に一喜一憂しているし、何度も商人風の男に耳打ちしている。
よほど目が節穴でなければ、誰が主導しているのかはすぐに気付くだろう。
あくまで“自分は入札していない”というスタンスが必要なのか?
ヤツの背景はよく分からんが、立場的に必要なこと なんだろう。
だからと言って俺が引いてやる必要は全くない。
「53万ナール!」
一切容赦なく1万ナール上乗せして入札金額を叫ぶと、貴族風の男はニヤリと口の先を歪め、執事に耳打ちした。
「63万ナール!」
なっ!63万?!ココに来て一気に10万ナールも上げやがった。
心の中では一瞬動揺したけれど、俺は壇上のベスタに視線を固定させたまま全力で平静を装った。
そして、一旦心を落ち着けてから貴族風の男をチラ見すると、ヤツは完全に視線を俺に向けていて、ニヤニヤしながらこちらを見下していた。
“してやったり”というところだろうか。
さぞ気分が良いのだろう。
だけど、勝ち誇ったような顔をしたのは間違いだ。
何故ならオークションで競り勝つには、豊富な資金だけでなく、相手に自分の感情を悟らせないことも重要だからだ。
なので、俺は全く表情を変えずに口を開いた。
「73万ナール!」
「なっ!」
俺が10万ナール上乗せしたことに驚いたのか?
貴族風の男は顔色を変えて思わず立ち上がった。
そして、商人を通して入札する余裕がなくなったようで、自ら「な、74万ナール!」と震える声で叫んだ。
ん?意外と限界なのか?
入札直後、貴族風の男に商人風の男が話しかけると、何やら小声で揉めだした。
たぶん予め決めていたラインを越えているのだろう。
「84万ナール!」
「......」
顔色を変えずにもう一度10万ナール上乗せしてやると、貴族風の男はこちらを睨んできた。
拳がプルプルと震えており、上乗せしたくても資金的に限界ということが察せられる。
貴族としてのプライドなのか?
ベスタを得られないことに落胆するのではなく、競り負けること自体が許せないのだろう。
“ふふっ、勝ったな”
そう思った次の瞬間、全く別の場所から声があがった。