異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
「94万ナール!」
「なっ!」
不意打ちだった為、思わず驚いて声を出してしまった。
そして入札した方を見ると、フードで顔を隠した男が札を挙げていた。
クソッ!決まったと思ったのに邪魔しやがって!
誰だかわからんが、顔を隠していても無駄だ。
そう思いながら鑑定をかけようとすると、その前に男はおもむろにこちらを向いてフードをめくった。
なっ!アイツはミツオじゃないか!
何でヤツがいるんだ?
驚いてヤツの顔を凝視すると、口端がニヤリと吊り上がった。
どうやらヤツの方は少し前から俺に気づいていたようだ。
次の瞬間、俺は自分がいま複数のジョブを就けていたことを思い出し、慌ててキャラクター再設定を開いた。
そして、探索者以外のジョブを外していると、「94万ナール!それ以上の方はいらっしゃいませんか!」という司会者の声が響いた。
ま、まずい!
「きゅ、95万ナール!」
「105万ナール!」
「なっ!また!」
ミツオを見ると、ヤツは俺を見ながら腹を抱え、必死に笑いを堪えていた。
そこで少し冷静になり、俺が使えるようにヤツにも鑑定が使える可能性があることに気がついた。
そして、ヤツがなぜ笑っているのか?その理由に思い至った。
ミツオは“複数ジョブについていた俺が、ヤツに気づいた途端に探索者以外のジョブを外した”ことを、鑑定を使って見ていたのだろう。
そして、俺の慌てっぷりを嘲笑っているというところか。
クソッ!慌ててジョブを組み換えたのは失敗だ!
いや、複数ジョブに就いていたことは見られてしまっただろうから、商人ギルドに着いた直後に探索者以外のジョブを外していなかったことが失敗だったということか。
しかし、ヤツに動揺している素振りはない。
俺にヤツと同じ能力があることをいつ知ったのかはわからないけど、昨日今日知ったということではないような気がする。
「105万ナール!それ以上の方はいらっしゃいませんか!」
「あっ!106万ナールで!」
チッ!落ち着いて考えている暇もない。
ミツオは[異世界迷宮でハーレムを]の小説のメンバーを集めているのだから、なんとしてもベスタを落札する気なんだろう。
対してロクサーヌやセリーを手中に収めているとはいえ、俺の方はベスタ本人に拘る必要はない。
だけど、彼女のような前衛でタンク役をこなす者は中々いないし、あれほどの容姿ならきっと抱き心地も良いはずだ。
是非とも欲しい!
既に想定価格は超えているけど、出来れば降りたくない。
そう思いながらもう一度ミツオを見ると、ヤツはキッと俺を睨んでいた。
そして、こちらを睨んだままスッと手をあげた。
「ひゃ、107万ナール!」
クッ!まだイケるのか。いや、いまの声は震えていた。
たぶんヤツは限界なんだろう。
ギリギリだけど、こちらはまだイケる。
それに値引交渉のスキルがあるから、もう少し吊り上げても大丈夫だ。
ここでトドメを刺してやる!
「117万ナール!」
「......」
ふっ、今度こそ勝ったな。
ミツオを見ると、悔しいのか?ヤツは俯いたままプルプルと震えている。
「117万ナール!それ以上の方はいらっしゃいませんか!
いらっしゃいませんか!いらっしゃいませんね!」
「......」
「それでは、117万ナールでの落札とさせていただきます。ギルド職員の案内に従って出品者と落札者は奥の部屋へ移動してください」
「ヨシ!」
ヤツに競り勝ったことが嬉しくて、思わずガッツポーズを取ってしまった。
本来ベスタのスペックなら50万ナール程度が相場だけど、相手がミツオだったために少し熱くなってしまい、相場の2倍以上の資金を注ぎ込んでしまった。
おかげで俺の資金は底をつき、この後ミリアの代わりとなるような奴隷が出品されても入札することすら不可能となってしまった。
それにしても、100万ナールを超えても競りかけられたことには驚いた......
30日前にヤツはミリアを手に入れている。
だから多少なりとも散財しているはずなのに、どうやってそんなに金を稼いでるんだ?
その点は気になるけど......
”ふふっ、残念だったな。だけど、お前にベスタは勿体ない。
まあ、100万ナールあるんなら、他に買える奴隷はいくらでもいる。
これに懲りたら俺に歯向かうようなことはせず、俺とは絡まない場所で精々頑張るんだな!”
俺は心の中で独り言ち、それでもヤツには注意する必要があると改めて思った。
だけど、思いがけずミリアの時の意趣返しが出来たので、今は大変満足だ。
“ザマアみろ!”
心の中でそう叫び、会場を出る際にミツオに向けてニヤついてみせると、ヤツは俺を見ながら肩を震わせていた。
よく見ると口角が上がっており、明らかに笑いを耐えている。
“えっ?”
思った反応と違っていたので思わず足を止めてしまった。
俺はヤツに競り勝ってベスタを落札した。
ヤツからすれば悔しくて仕方がないはずだ。
それなのに何故笑っていられる?
もしかしてヤツはベスタは欲していなかったのか?
ざまあしたつもりが実はざまあされていた?
急に不安が込み上げてきてヤツの考えていることを読み解こうとしたけど、まごまごしているうちにギルドの職員に「どうぞ、こちらです」と移動を促されてしまい、思考がまとまらないままオークション会場から出されてしまった。
その後、俺は商談室に通されたのだけど、何故かギルド職員が立会人としてそのまま入室してきた。
“は?なんでコイツは立ち会ってんだ?部外者は出てけよ!”
一瞬そう思ったけど、自分は“ベイルの奴隷商館の副商館主”という素性を隠している。
バレるとヤバい気がするので、余計なことは口に出さなかった。
おかげで値引交渉のスキルが付けられず、まともに117万ナールを支払うことになってしまった。
かなり冷や汗ものだったけど、手持ち資金のほぼ全額を出して何とかベスタの落札代金を支払うことが出来たので、正直ホッとした。
その後、ベスタとの奴隷契約が完了すると、取引に立ち会っていたギルド職員は出品元の奴隷商に一枚の書類を差し出した。
そしてサインを受領すると、ギルド職員は一礼して退室していった。
俺の知る限りオークション後の出品者と落札者の取引にギルド職員が立ち合うことは無かったので、扉が閉まった後に相手の奴隷商に事情を確認した。
「実はお客様がベスタを落札したあと近くに控えていたギルド職員に呼ばれましてな、”落札額が著しく高額なため不正取引が無いことを確認させて頂く”と言われてしまったのです」
「ふ、不正取引ですか?!」
「私も驚いたのですが、なんでも奴隷商人ギルドの上位組織である商人ギルドの方で少し前にオークションでの裏取引を仄めかして顧客を脅した仲買人がいたらしく、その本人の素行もあってかなり問題となったらしいのですよ。
そのため商人ギルドでは、オークションで相場と照らし合わせて著しく高額な落札が発生したときは不正が無いか調査することになったらしいのですが、数日前に奴隷商人ギルドに商人ギルドの方から同様の調査を行うよう指導があったとのことです」
「そんなことがあったのか......」
「おかげで私どもはしばらくの間オークションでの取引状況を監視されることになってしまったのですけど......
まあ、不正になるような取引はしておりませんし多少煩わしいかもしれませんが実質的に困ることはありませんな。
あははははははは」
今回は俺がミツオと競り合った結果、ギルド側に”著しく高い落札額”と判断された為、不正監視対象とされたらしい。
奴隷商にはほぼ影響がなく笑って済ませられることかも知れないけど、こちらは目標通りベスタを落札出来たものの、おかげで手痛い出費となってしまった。
しばらくは資金不足でメンバーの増員や装備品の充実を図ることは厳しい。
それどころか質素倹約しなくてはいけないような状況となってしまった。
だけど、俺は貴族を目指してるわけじゃないし別に焦る必要はない。
先ずはベスタを竜騎士に転職させて、中階層でも前衛タンクとして働けるように鍛えよう。
あと、商館のスタッフとしてどの程度働けるのか、事務的な作業についても適正があるのか確認しないといけないな。
そう思いながら俺はベスタに話かけた。
「レオンだ。宜しく」
「ベスタです。宜しくお願いいたします」
「うむ。一度帰宅する。詳しい話はそちらでするからついて来てくれ」
「かしこまりました」
ベスタが頷いたので、俺はパーティー編成で彼女をメンバーに加え、商人ギルドの玄関ホールに移動した。
「ベスタ。今から帰宅するけど、着くまで一切喋らないこと」
「かしこまりました」
彼女が同意したので、俺は壁にワープゲートを開いた。
そして、困惑している彼女の手を引いてゲートをくぐり抜け、帝都の自宅に移動した。
それからベスタにロクサーヌとセリーを紹介して彼女を二人に預け、俺は親父を手伝うためにもう一度オークション会場に戻った。