異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
勧誘【Side 主人公】
ミリアをメンバーに加えてから5日。
レオンが拠点にしているベイルを避けているためか、帝都にも行かないようにしていたためなのかは分からないけど、ヤツらと出くわすこともなく、俺たちは迷宮探索を通じて順調にジョブのレベルアップが図れている。
そのためミリアの剣士レベルは28まで上がり、目標の30まであとひと息、今の調子だとあと2〜3日くらいで届くだろう。
ただ、金銭面に関しては、順調とは言い難い状況だ。
ドロップアイテムの売却により懐事情は改善されつつあるけれど、ミリアの購入と彼女の生活に必要な物品の購入でかなり散財してしまったことに加え、カエデたちにも不自由ないよう色々と物品を買い与えてしまった。
彼女たちと楽しく暮らせているから満足しているし、散財していることには全く後悔してないけど、今現在は装備品の充実を図るほどの余裕はない状況だ。
なので装備品に関しては、迷宮で拾った素材をもとに少しずつリリアに作成させて、アップグレードを図っている。
しかし、それでもモンスターカードの注文は欠かしたくはなかったので、今日はクレアを連れてクーラタルの商人ギルドに来ている。
ライザさんから、注文していた牛と蝶のモンスターカードを1枚ずつとコボルトのモンスターカードを2枚受け取り、代金を支払った。
空きスロットが2つ以上付いた竜革のブーツはまだ揃っていないけど、将来を考えてこの注文は続けよう。
そう考えて、コボルトと牛のカードを1枚ずつ注文し、本日の取り引きは終了した。
その後雑談していると、彼女が「あ、そういえば...」と言ってニヤリと微笑み、色魔オヤジのことを話しはじめた。
「商人ギルドの運営にミツオ様からのクレームを伝えたところ、ローレルは即座に監視対象にされましたよ」
「えっ!マジで?!」
「ええ。私も驚いたのですけど、二つ返事でした。
まあ、元々目を付けられていましたからね。
商人ギルドとしては機会を窺っていたのでしょう」
「ふむ...... その...... 何故ヤツが監視対象になると、俺たちが絡まれることが無くなるんだ?」
「そうですね。
先ず、監視対象になると全ての取引に不正が無いか追跡調査されることになります。
そして、それは本人だけでなく、取引した相手にも課されます。
その為、あの男が不正を企てても、それに加担する者は居なくなります」
「ふむ......」
「更に、ミツオ様のような一般のお客様もヒヤリング対象となります。
その際に“不正を持ちかけられた”とか、“脅迫された”などの問題が発覚したら、あの男は即座に仲買人のライセンスを取り消されます。
そして、商人ギルドからは永久追放されることになるのです」
「うむ。俺としては二度と絡まれないなら、ヤツがどうなろうと関係ないんだけど、ライセンス取り消しに永久追放か。
なんとなく逆恨みされそうだな」
「あの男には前科が有りますから、問題を起こせば軽い処分にはなりません。
ですが、心を入れ替えて誠実な態度で取引を行うようになれば処分されることは無いのです。
まあ、無理でしょうけどね。
ですが、逆恨みですか......
申し訳ありません。そこまで考えてはいませんでした」
「いや、謝罪の必要はないよ。
大して強そうじゃないし、いざとなれば決闘で方を付けるから、気にしないでくれ」
「ありがとうございます。
ですが、あの男は3日と空けずに迷宮に入っていて、噂では中階層で戦っていると聞いたことがあります。
それに、あの男の剣はスキル付きのはずですので、十分注意して下さい」
「わかった。忠告ありがとう」
「そうそう、それともう一つ。
商人ギルドはオークションでの不正対策として、落札金額が相場と比べて明らかに高い場合は、ギルド職員がその後の売却に立ち会って取り引きを監視することにしたそうです」
「不正対策?」
「はい。出品者と入札者が結託して、不当に入札額を吊り上げるような不正の防止を目的にしているのでしょう」
「イマイチわからないんだけど、対策になるのか?」
「誤って競り勝ってしまったら、落札者には相場に見合わない高額の支払いが発生します。
ギルド職員が立ち会っているので、裏取引にて予め決めておいた金額のみの支払いとすることは出来ません」
「まあ、そうなるな」
「ギルドは“裏取引するような出品者だったら、一度受け取った金を返すことは無いだろう”と考えています。
そうなると、必然的に仲買人は顧客から請け負った予算以上の入札は出来なくなりますので、自然とローレルのような男は排除されるのです」
「なるほどね」
「因みにこの対策は商人ギルドだけでなく、他の入札を行っているギルドにも波及するらしいですよ」
「それは何よりだな」
そう言って話を切り上げようとした時、ライザさんは思い出したように別の話題を持ち出した。
「ところでミツオ様は北方のハルツ公爵領やセルマー伯爵領の迷宮に行かれる予定はありますか?」
「北方?そんな予定は無いけど」
「そうですか。
実はここ最近のことですが、北方の貴族と懇意にしている仲買人が、商人ギルドに来たエルフ族の探索者に、北方の迷宮討伐の助力を乞う声掛けをしてるのです」
そう答えるとライザさんの視線がクレアに向いたので、釣られて隣のクレアを見ると、彼女は渋い顔をしていた。
そういえばクレアは北方出身だったか。
「俺はかけられていないけど... ふむ。クレアを連れてるからか。
でも、何でエルフ族に声をかけてるんだ?」
「エルフ族は北方出身の人が多いのです。
ハルツ公爵、セルマー伯爵は伴にエルフ族ですし、確か住民の8割はエルフ族だったはずです。
もしかして、クラウディアさんもそちらの出身では?」
「そうですね」
クレアが頷くと、ライザさんは目を細めて話を続けた。
「何でも北方は迷宮が多発しているらしく、故郷の窮状を訴えて助力を求めているらしいのですけど、肝心なことを伏せているようなのです」
「肝心なこと?」
「ええ。実は大規模な盗賊団が蔓延っていて、討伐に出向いた騎士団が返り討ちにされたらしいのです。
そのため迷宮討伐が滞り、町の治安もかなり悪くなっているとか......」
「ほう......」
「北方に出向いたまま消息不明となった探索者も多いようですが、取引に関わることではないため商人ギルドは関知出来ません。
あくまで自己責任となりますので、迷宮討伐への協力を依頼されても安請け合いしないよう注意してください」
「わかった。情報ありがとう。
窮状を訴えられたところで遠征するつもりは無いけど、取り敢えず覚えておくよ」
そう言って今度こそ立ち上がり、俺たちは商談室を後にした。
しかし、北方か。
縁もゆかりもない迷宮の討伐に協力するつもりはないけど、盗賊の懸賞金には興味がある。
ライザさんには遠征するつもりはないって言ってしまったけど......
さて、どうするか。
クレアは渋い顔をしたまま考えごとをしているし、家に帰って話を聞くか。
そう考えながらフィールドウォークが出来る垂れ幕のかかった壁の前まで来ると、脇に立っていた男から声をかけられた。
「失礼。冒険者の方とお見受けしますが。
突然で申し訳ないのですが、少しだけお時間をいただけないでしょうか」
「ん?何だ?」
話しかけてきた男は人間族で、俺より少し歳上っぽい。
無駄に似合うベレー帽を被っており、いかにも商人風の格好をした優男だ。
俺とクレアを交互に見ているので、どうやらこの壁の前でエルフ族に関係ありそうな冒険者が通るのを待っていたようだ。
愛想良さそうな微笑を浮かべているけど、なんとなく胡散臭い。
いきなり騙すようなことはないだろうけど、信用できるかと聞かれれば、答えはノーだろう。
しかし、今さっき聞いたばかりだけど、早速か......
そう思いながら男を鑑定すると、
ルーク・アシッド 男 24歳 防具商人Lv2
装備 身代わりのミサンガ
と表示された。
「私は仲買人をしております、ルークと申します。
部屋を取ってありますのでこちらにお越し頂けますか」
ルークはそう言うと、商談室への移動を促した。
しかし、こいつの思惑に乗る必要はないので、「すまないがあまり時間がない。何かあるなら今ここで話してくれ」と言うと、ヤツは一瞬顔を顰めた。
しかし、次の瞬間、再び愛想良さそうな微笑を浮かべると、声をかけた理由を話し始めた。
「かしこまりました。
ところでお客様の御名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「ミツオだ」
「それではミツオ様。早速お話をさせていただきます」
「うむ」
「実は、私が懇意にしているエルフ族のご領主様がいるのですが、その方からエルフ族に理解があり、その上で迷宮討伐に協力して頂ける探索者パーティーを探すよう仰せつかっているのです」
「ほう。それなら冒険者ギルドで依頼を出せば良いのでは?」
「勿論、そちらでも募集しています。
ですが、迷宮の中階層や高階層で戦っているような有力なパーティーの方は殆ど依頼掲示板を見ないので、なかなか良い探索者が集まらないのです」
「ふむ。言われてみれば、掲示板を見ていたのは低階層を探索してた頃までだった気がするな」
「そこで、領主様は商人ギルドを利用するような探索者 ならそこそこの実力があるはずと考えて、私に探すよう、お命じになったのです。
そこで、本日こちらでエルフ族の探索者が訪れないか探していたところ、お客様がたをお見受けしたので声をかけさせて頂いた次第です」
「そうか。
確かに彼女はエルフ族だけど、だからと言って縁もゆかりもない場所の迷宮討伐に協力するつもりは無いのだが」
「もちろん無償でとは言いません。
協力して頂ける場合は協力者の証であるワッペンをお渡しします。
領内の冒険者ギルドにてそちらを提示して頂くと、ドロップアイテムの買取り価格が通常の倍額となります」
「ほう。
それは魅力的だけど、何か言ってないことがあるんじゃないのか?」
そう言ってルークの顔をじっと見ると、ヤツは一瞬目を見張ったものの、すぐに表情を戻した。
抜け目ないヤツだとでも思ったのか、ルークはひと息吐くと気を取り直して話を続けた。
「すみません。誤魔化すつもりはなかったのですが、実は迷宮討伐に騎士団が力を取られている為、少し治安が悪くなっているようです」
「少し?わざわざ遠方で人を募らざるを得ないのに、そんなレベルなのか?」
突っ込まれたくないことだったのか。
ルークの顔色が変わった。
しかし、一息吐くと、諦めたように肩をすくめて話を続けた。
「鋭いですね。
ハッキリ言うと、セルマー伯爵領はかなり盗賊が増えていて危険です。
領都であっても路地裏に入ることはお勧め出来ません」
「ふーん......
そんな状況じゃ迷宮探索なんてしてらんないだろう」
「ハルツ公爵領の方は盗賊団は出ておりません。
ですので、そちらなら問題ないでしょう」
「問題はないけど遠征となると、食費が嵩むし宿代もかかる。
ドロップアイテムを倍額で買取ると言われても、あまり魅力は感じないな」
「そんなことはありません。
迷宮探索で活躍すれば公爵閣下の覚えがめでたくなりますし、そうなれば何かと便宜を図って頂けるでしょう」
「便宜を図ってもらえる?
厄介ごとを押し付けられるの間違いじゃないのか?
現にアンタは仲買人のくせに探索者の勧誘をさせられてるだろう?」
「ハハハハ。そうですね......」
「まあ、安全な方なら一度行ってみてもいいけど、貴族絡みは勘弁だな」
「えっ!協力して頂けるのですか?」
「俺の判断で危険を感じたら引き上げるし、探索に関しては自由にやらしてもらう。
それと、面倒ごとは避けたいので、貴族絡みはほんとに勘弁だぞ。
それでもいいなら」
「勿論ミツオ様が出来る範囲での協力で問題ありません。
それに、公爵様と絡むような話でもありませんので、面倒なことも無いでしょう」
「わかった。
それなら公爵領の迷宮や冒険者ギルドに一度連れて行ってもらいたい。
それと、協力者の証であるワッペンを頂きたいのだが」
「ありがとうございます。
それではワッペンと案内する者を用意しますので、明朝こちらで私を呼び出していただけますか?」
「良いだろう。
では、そろそろ引き上げさせてもらうよ」
「はい。本日はお話を聞いて頂き、誠にありがとうございました。
明日こちらでお待ちしておりますので、よろしくお願いいたします」
ルークはそう言いながら深々と頭を下げた。
そのためヤツの表情は窺えなかったけど、俺を口説き落とせてホッとしていることだろう。
まだ何か隠していることがある気もするけど......
まあ、なんとかなるだろう。
そう思いながら帰宅したけど、よくよく考えるとキャッチセールスにでも引っかかったような状況だ。
俺的には問題ないと思って勧誘に乗ってしまったけど、なんとなく不安だったので、夕食のときに商人ギルドでの顛末を説明し、みんなの意見を聞いた。
勧誘されている間、隣にいたクレアはずっと考え事をしていたので、帰宅直後に気になることがあるのか聞いたけど、彼女の懸念は以前いた神殿の人たちと出会う可能性について考えていただけで、遠征すること自体は歓迎するとのことだった。
あとのメンバーは北方には関係無さそうなので、反対されることは無いと思うけど、勝手に遠征を決めたことについてはカエデあたりから多少のお小言はもらうだろうと思っていた。
しかし、思いのほか彼女たちの反応は良く、反対されるどころか「盗賊がいるなら臨時収入を得るチャンスじゃない?」とか、「ハルツ公爵領に行くなら漁村まで足を延ばせば新鮮な魚が買えますよ」なんて意見まで飛び出し、あっさりと全員の同意が取れてしまった。
遠足を控えた小学生じゃないけれど、なんだかみんなウキウキし始めている。
ターヘラにはいわゆるスラム街は無く、騎士団が精強で治安が良い。
常設店舗が多くあるのに物価が高いこともない。
それなりに稼げる迷宮もあるし、俺にとっては住みやすい町だ。
しかし......
たまには他の町に行ってみるのも良いかもな。
思わずそんなことを考えるくらい、俺も浮かれていたのだろう。
仲買人を使ってまで探索者を集めている、貴族の思惑に気付けないくらいには......