異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
本気で疑われていたわけじゃないとは思うけど、なんとなく気まずいのでさっさと移動しよう。
俺たちの中に盗賊がいる疑いは晴れたんだし、これ以上騎士団に足留めされることはないはずだ。
さっきは他の迷宮に行こうと思ったけど、今さら踵を返すのも不自然だから、予定通りこのままハルバーの迷宮に入ろう。
そう考えて騎士団長に「それじゃ、約束は守ってくれよ」と言って迷宮入口に向かおうとすると、彼は「ミツオ殿。迷惑をかけたお詫びに、何処かの階層まで送らせて頂けないか?」と提案してきた。
「それは助かるが......」
送ってくれるのは助かるけど、そうするとジョブや身に着けてる装備以上に俺たちの実力を測られてしまう。
全くお詫びと言いながら、食えないオッサンだ。
さて、どう答えるか......
少し逡巡していると、騎士団長が肩をすくめて口を開いた。
「我らは一隊を迷宮入口に待機させ、残りの全員で1階層から確認していく予定です。
ある程度上の階層から探索を始めないと、我々に背を追われるか、若しくは追い抜かれて魔物のいない迷宮を彷徨うことになりかねないですよ」
言われなくてもそんなことはわかってる。
かと言って...... こちらの実力を測られたら、ろくなことにならない気がする。
貴族の駒になんてなるつもりはないから、可能な限り実力は隠すべきだろう。
「そうか...... わかった。
それなら12階層まで送ってくれ」
「その階層で宜しいのですか?」
「ああ。迷宮探索で見栄を張っても仕方がないからな」
「......わかりました」
騎士団長は一つ頷くと部下を呼び、「このパーティーを12階層まで送ってきてくれ」と指示した。
そして、「それではミツオ殿。あとはお任せします」と
言って一礼してから下がっていった。
ふう、やっと行ったか。
それにしても、騎士団長は礼儀正しいオジサンだったな。
他種族を見下す態度もないし、そういう面では尊敬に値する人物なんだろう。
だが、それでも彼は貴族だから、手放しで信用するのは危ないだろうな。
少し緊張が解けてほっとしていると、送り役の騎士団員が「あの、12階層までお送りしますので、私をそちらのパーティーに入れてもらえますか」と声をかけてきた。
「リリア。頼む」
「えっ? あっ、はい! えっと.....
友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成」
リリアは自分が探索者になってることを一瞬忘れていたのだろう。
慌ててパーティー編成の呪文を唱え、騎士団員をパーティーに呼んだ。
「それでは12階層に送りますので、ついてきて下さい」
騎士団員に連れられて迷宮に入り、12階層の入口小部屋に出ると、彼はリリアにパーティー離脱を要請し、さっさと戻っていった。
「カエデ。ありがとう」
俺はカエデを抱き寄せてそのまま唇を重ねた。
彼女は一瞬身じろぎしたけど、すぐに俺を受け入れてくれた。
しばらく唇を重ねてからカエデを解放すると、彼女は「ふふっ♥満男君、落ち着いた?」と言って微笑んだ。
「ああ。落ち着いた。でも、ほんとに助かったよ」
「ふふっ。でも、頑張ったのは私だけじゃないわよ。
リリアとクレアは二つ返事でジョブ変更に応じてくれたし、インテリジェンスカードを表示されても微塵も動揺しなかったでしょ」
「確かに」
「ミリアだってリリアのアイテムボックスから中身を私に移し替えている間、さり気なく立ち位置を変えて騎士団の人たちから目隠ししてたのよ」
「そうだったのか。
みんな、ありがとう」
俺は3人にも礼を言うと、リリア、クレア、ミリアの順に抱き寄せて口づけした。
「さあ、気を取り直して探索をはじめよう!」
「あ!満男君待って!
先にジョブを戻さないと... ふふっ♥もう♥」
「す、済まない。みんなちょっとだけ待っててくれ」
それから10分ほどかけて、みんなのジョブとボーナスポイントの割り振りをもとに戻した。
そして今度こそ気を取り直し、迷宮探索を開始した。
◆ ◆ ◆
ハルバーの迷宮12階層の魔物はグラスビーだ。
毒針を飛ばす遠隔攻撃があるけど、飛ばす前にその場にホバリングするし直線的だから、今の俺たちなら余裕で避けられる。
下の階層のミノやニートアント、エスケープゴートも出るには出るけど、俺とカエデの1回目の魔法で全滅するからいないのと同じだ。
戦力を隠すため、騎士団の探索者には12階層に送らせたけど、この階層では消化不良になるので、ボス部屋を見つけてさっさと上の階層に上がろう。
そう考えながらしばらく迷宮を探索していると、不意にカエデが首を傾げた。
「カエデ。どうした?」
「満男君。騎士団は下の階層から上がってくるって言ってたよね?」
「そうだな」
「あのね。この先にたくさん人がいるみたいなの」
「たくさん?」
「何人か分からないけど、1パーティーって感じじゃないわ」
「それって...... もしかして盗賊か?」
「分からないけど、騎士団だったら1か所に集まってるってことはない気がするのよね」
「近寄るのは危険か......」
俺とカエデが悩んでいると、クレアが小さく手を挙げた。
「あの、ご主人様。ターヘラのときみたいに、少し近づいたら追いかけられたりしないでしょうか?」
「釣り出すってことか?」
「はい。1パーティーずつなら......」
「イケるか...... よし、やってみよう。
この前と同じで、盗賊たちが近づいたら背後にファイヤーウォールを出す。
ヤツらが振り向いた瞬間に俺とカエデが突っ込むから、
盗賊を倒したら左手の回収は3人に任せる。
あと、もし瀕死の状態で生き残ったヤツがいても、躊躇せずにトドメを刺せ。
それから死体が迷宮に飲まれたら、装備品も回収する」
「わかったわ」
「わかりました」
「回収はお任せ下さい」
「が、頑張ります」
ミリアはまだ盗賊を殺したことがないので少し不安だけど、リリアとクレアが入れば大丈夫だろう。
そう思いながら2人を見ると、グッと拳を握って頷いていた。
何をすればいいのか、ちゃんと理解してるという合図だ。
「それじゃカエデ。頼むぞ!」
カエデは無言で頷くと、前方に集中しながら歩き出した。
そして、2分ほど歩くと立ち止まり、踵を返して引き返すサインを出した。
釣れたのか?
カエデに従っていま来た通路を引き返し、2分ほど歩いて先ほどの場所まで戻ってくると、彼女が再度向き直った。
「すぐに見えるわ」
そう言いながら彼女が通路の奥に視線を向けると、5人の男が見えてきた。
鑑定すると、盗賊Lv46、盗賊Lv31、海賊Lv29、盗賊Lv4 、盗賊Lv3。
見事に5人とも盗賊だった。
奴等は剣を仕舞ったまま小走りで俺たちに向かってくると、先頭の盗賊Lv46が「そこを退け!」と怒鳴った。
一見通り抜ける感じだけど、剣の柄に手がかかっている。
ヤツは通り抜ける瞬間に、俺たちに斬りかかるつもりだろう。
俺は端に避けるふりをしながら奴等の前にファイヤーウォールを出すよう念じた。
次の瞬間、盗賊たちの目の前にゴォォォッ!と音をたてて炎の壁が立ち上がった。
「なっ!」
「うわっ!」
「うげっ!」
「ヒィッ!」
思った通り盗賊たちはすれ違いながら俺を斬るつもりだったようで、10mほど手前の位置で加速すると同時に剣を抜き放った。
だけど、勢いをつけたために次の瞬間に止まることが出来ず、5人のうち4人がファイヤーウォールに突っ込んだ。
4人は俺たちの手前に火だるまになって倒れ込み、苦し紛れに転がりまわったけど、正面からまともに突っ込んでいた2人は全身が黒焦げとなり、すぐに動かなくなった。
右半身を焼かれた男はなんとか火をもみ消したけど、次の瞬間クレアに心臓を一突きされて絶命。
もう1人は左半身を焼かれて必死に火を消そうと藻掻いていたけど、リリアの一振りであっさりと首を飛ばされて絶命した。
すると、ファイヤーウォールの向こう側からも悲鳴とバタバタ転がりまわる音が聞こえてきたので、俺はファイヤーウォールと壁の隙間を通り抜けて状況を確認した。
すると盗賊が黒焦げになった右足を抱えて藻掻いていたので、どうやらコイツも止まれずにファイヤーウォールに右足を突っ込んじまったのだろう。
盗賊は俺に気付いて命乞いをはじめたけど、俺は無視して首を刎ね飛ばした。
ファイヤーウォールが消えると、既にカエデたちは4人の手首を切り落とし、ヤツらの衣服で作った袋に回収していた。
俺も自分が倒した盗賊の左手首を切り飛ばし、カエデに渡そうとすると不意に彼女がスッと目を閉じた。
「満男君。また来るわ。
さっきよりは遅いと思うけど、間違いなくこっちに近づいてきてる」
「わかった。その後の左の通路にコイツラを放り込め」
俺はそう言いながら足元の盗賊を引っ張っていき、左の通路に放り投げた。
それからみんなで死体を左の通路に放り投げ、ミリアに盗賊の手首をしまった袋を渡して後ろ手に持たせる。
そして、こちらに向かって来ている奴等からは見えないように一番後ろに立たせた。
そうして体制を整えて待ち構えていると、通路の先から歩いてきた奴等は俺たちを見て足を止め、驚いたような表情をした。
向こうは6人。
鑑定すると、盗賊Lv22、盗賊Lv17、盗賊Lv13、兇賊Lv24、海賊Lv67、探索者Lv48
海賊Lv67!アイツは盗賊団の頭か?
狼人族で、かなり凶暴そうな面構えだ。
それに兇賊ってなんだ?
そんなジョブ、聞いたことがないぞ!
どうやらエルフのようだけど、
奴等は小声で何か打ち合わせをすると、剣を構えて近寄ってきた。
そして、真ん中の海賊Lv67の男が唾を飛ばしながら吠え立てた。
「$#≡$#$≦∇!」
「ん?お前、なに言ってんだ?」
「$#≡$#$≦∇!∇$≦!∇×!」
「だからなに言ってんだかわからねえ。
ブラヒム語で話せよ」
「満男君。あれはバーナ語。
てめえら、バルクたちはどうした!って言ってるわ」
「ん?バルクって誰だ?」
「$#≡$#∑%∌?」
カエデがバーナ語で答えると、俺たちを怒鳴りつけてきた海賊Lv67の男は隣の兇賊の男に話しかけた。
今だ!
海賊の視線が俺たちから外れたので、その瞬間に奴等のすぐ後にファイヤーウォールを出した。
そして、盗賊たちが振り返った瞬間に頭の中でオーバードライブと念じて走り出した。
次の瞬間、海賊Lv67の首を斬りつけたけど、俺の剣はヤツの首の表面を滑った。
すると海賊はこちらに振り返りはじめたけど、その前に返す刀でもう一度首を狙い、今度はしっかりと斬り飛ばした。
チッ!盗賊のくせに身代わりのミサンガを着けてるのか。
むっとしながら兇賊Lv24の首を斬りつけると、こちらも剣の刃が首の表面を滑った。
チッ!コイツもか!
次の瞬間、兇賊もこちらに振り返りはじめたけど、その前に返す刀で首を斬り飛ばしてやった。
それから俺は右回りに移動して盗賊Lv17の首を斬り飛ばし、返す刀で盗賊Lv13の首も斬り飛ばした。
バックステップで元の位置に戻ると、俺と同じようにカエデもバックステップで戻ってきた。
そして、オーバードライブの効果が切れると、首を飛ばされた6人の死体が一斉に倒れ伏した。
どうやらカエデは俺と同時に飛び出して、左回りに探索者Lv48と盗賊Lv22の首を刎ねてまわったみたいだ。
かなり強そうな集団だったけど、奇襲をしかけたら一発だったな。
殆どの盗賊は自分たちは奇襲でも何でもするくせに、自分がされることは考えてない。
だから、こちらから奇襲を仕掛けると面白いように毎回ハマる。
普通の探索者はまともに戦うしかないから、迷宮内にいる盗賊相手は骨が折れるだろうけど、俺たちには奇襲を仕掛けるスキルがあるから、迷宮にいる盗賊は魔物以上においしい存在だ。
あと何人盗賊がいるのか分からないけど、騎士団に駆逐される前に可能な限り俺たちで狩り回ろう。
「みんな。怪我はないか?」
「大丈夫よ」
「大丈夫です」
「私も大丈夫」
「私も大丈夫です」
「それじゃ、コイツらの左手を回収するぞ」
そう言ってから盗賊の左手を切り離していると、隣にきたカエデが話しかけてきた。
「満男君。取り敢えず向かってきてる人はいないけど、この先に魔物が湧いたから、回収し終わったら少し戻った場所の小部屋で休憩しない?」
「別に構わないけど、そんなに疲れたのか?」
「ん?そうじゃなくて、手首があるとミリアが動けないでしょ。
だからカードを取って、手首は捨てときたいのよ」
「あ!そうか。
わかった。カエデの言う通りにしよう」
それからすぐに盗賊たちの死体が迷宮に飲まれたので、俺たちは装備品を回収し、ついでに先に倒した5人の分の装備品も回収して、小部屋に移動した。