異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
盗賊を討伐した翌日。
朝食のあと、俺はカエデたちに家のことを任せ、1人でボーデ城にきた。
城に着いて騎士に「盗賊を倒したのでインテリジェンスカードを確認してほしい」と用向きを話すと、対応した騎士は一瞬訝しそうな顔をしたけど、俺のインテリジェンスカードを確認すると、驚いて話しかけてきた。
「あっ!ミツオって!
あんた、昨日ハルバーで盗賊を倒した人だよな。
やっぱりあんたが兇賊のハインツを討伐したのか?」
「えっ?ハインツ?」
「あれ?違うのか?
昨日あんたが引き上げたあと、12階層に乗り込んでハインツの一味を討伐したんだけど、懸賞金がかかるような主立った盗賊がいなかったんだよ。
だから、盗賊を倒したって言ってたあんたが倒したんじゃないか?って噂してたんだけど」
「いや、何人か盗賊を倒したけど、名前までは......
あっ!そう言えば確か兇賊がいたぞ」
俺はそう言いながら盗賊たちのカードを渡すと、受け取った騎士は、「うわ!ほんとにハインツだ! うお!こっちはシモンじゃん!」とカードをめくって騒ぎだした。
「おい!」
「あっ、いや。済まなかった。なんせコイツらは騎士を何人も殺している極悪人なんでな」
「いや、だからって騒ぐなよ」
「そうだな。悪かった。
それで、あんたが来たら、騎士団長のところに案内するよう言われてるんだ。
昨日のことで聞きたいことがあるらしいぞ」
「マジか......
さっさと帰りたいんだけど」
「ハハハハ。それはちょっと困るな。
すまんが団長のところまで案内するからついて来てくれ」
「面倒だなぁ」
「まあ、そう言うなって」
仕方がないので馴れ馴れしい騎士について行くと、ロビーに掲げられていた紋章が彫り込まれた重厚な扉の前についた。
「カイルです。ミツオ殿をお連れしました」
「入れ」
えっ!コイツ、敬語を喋れるのか?
カイルの変わりように驚いていると、目の前の重厚な扉が開かれた。
そして、その先にいたのはゴスラー騎士団長と団長よりも少し若そうなエルフだった。
「ミツオ殿。どうぞこちらに」
騎士団長はそう言いながら、応接ソファーに座るよう促した。
今すぐ踵を返したいのだけど、目の前にいる男はハルツ公爵本人か、その子息だろう。
はぁ...... これじゃ逃げ出すわけにはいかないな。
諦めてソファーに座ると、対面に若そうなエルフが座り、斜め右後方に騎士団長が立った。
ハルツ公爵
ブロッケン・ノルトブラウン・アンハルト ♂ 35歳 聖騎士Lv14
装備 オリハルコンの剣、身代わりのミサンガ
鑑定すると思った通りハルツ公爵本人だった。
クソッ!どうしてこうなった。
何日か経ってからインテリジェンスカードを換金しにくれば良かったか......
激しく後悔していると、公爵閣下から声がかかった。
「ミツオ殿。余はこのハルツ公領の領主をしている、ブロッケン・ノルトブラウン・アンハルトじゃ」
「冒険者のミツオ・カトウともうします」
挨拶して頭を下げると、公爵閣下から制された。
「余は堅苦しいのは嫌いじゃ。いちいち頭など下げなくて良い。普段通りの口調でかまわぬぞ」
「そう言われましても......」
「こちらから招いたのじゃ。ことさら丁寧な言葉を使う必要はない。
それに、ここは余のプライベートルームだ。
礼儀を気にする必要もないぞ」
これは罠だ。
こちらの警戒心を解いて、自然と情報を引き出すつもりなんだろう。
言葉遣いは楽にしても、気は抜かないようにしておこう。
「わかりました」
「ふむ。
ところでミツオ殿が兇賊のハインツを討伐したというのはまことか?」
「倒したときは知りませんでしたが、先ほど案内の騎士の方から凶悪な盗賊だったと伺いました」
「なんと。では、ハインツとは知らずに倒しておったのか」
「はい。
元々こちらには、迷宮探索に協力すればドロップアイテムを通常価格の2倍で買い取って頂けると聞いて、やって来ました」
「うむ。特別協力金のことじゃな」
「声をかけてきた商人は2倍としか言っておりませんでしたが」
「まあ、実質2倍だから間違ってはおらん」
「仰るとおり、それに関しては不満はありません。
ですが、その商人はセルマー伯爵領には盗賊が蔓延っていますが、ハルツ公爵領には盗賊はいないから迷宮探索に集中出来るとも言っておりました。
それもあって公領の迷宮探索を決めたので、昨日迷宮の前でゴスラー殿からお話を聞いたときは、正直驚きました」
「そうか。それは済まなかった」
「い、いえ。誤った情報を伝えたのはその商人ですし、ゴスラー殿が盗賊がいる可能性を伝えてくれたおかげで、こうして無事でおります。
ですので、お気になさらないで下さい」
「そう言ってくれると助かる。
ところでどのようにしてハインツを倒したのじゃ?」
「それは......」
やっぱりそれが聞きたかったのか。
正直に答えることは出来ないし、適当に誤魔化すにしても、どうするか......
答えに窮していると、騎士団長から援護射撃が入った。
「閣下。
戦い方を明かすということは、パーティーの戦力を開示することになり兼ねません。
上を目指すものなら秘匿したいことかと」
「ふむ。そうであるか。
ミツオ殿のパーティーは多種族で構成されており、加えて1時間足らずでハインツのグループの主立った者を倒しているようだとの報告を受けていた。
なので、是非ともその手腕を聞きたかったのだが......
仕方あるまい」
「ご理解頂き、ありがとうございます」
返事をすると、タイミングを見計らったかのように扉がノックされた。
そして、インテリジェンスカードを手渡した騎士が入室してきた。
「インテリジェンスカードの確認が完了しました」
「して、どうだった?」
「ハインツの一味で間違いありません。
それと、ミツオ様が討伐された15名のうち、9名に懸賞金がかかっておりました」
「そんなにか」
「はい。こちらが目録です」
公爵は騎士から目録を受け取ると、おもむろに記載内容を読み出した。
「ふむ。
ハインツ、シモン、マクガエル、エルマー、ハナイ、タンザ、ホーキンス、ツェルド、バルク......
信じられないがハインツ一味の主立った盗賊は全員いるな。
それと、ハナイとホーキンスは別の盗賊一味だったはずじゃが、合流したのか?
ゴスラー。どう思う?」
「私も合流したものと思います。
主立ったものはいませんでしたが、昨日騎士団で討伐した盗賊は29名もおりました。
ミツオ殿の倒した人数を加えると、事前調査で判明していたハインツ一味の人数を上回っておりますので、間違いないかと」
「そして、こちらが懸賞金となります」
「ふむ。白金貨があるな。全部で...... 144万ナールか」
「それではミツオ殿。受け取ってくれ」
「はっ!遠慮なく」
懸賞金を受け取ると、またもやタイミングを見計らったかのように扉がノックされた。
そして、入室してきたのは、美しさと気品を兼ね備えたエルフ女性だった。
エルフ女性はみんな顔立ちが綺麗で、うちのクレアもかなりの美人だけど、この人は更に一段上の絶世の美女と呼ばれるような究極の美人だ。
「お呼びになられましたでしょうか」
「カシアよ。まずは紹介しておこう。
こちらは冒険者のミツオ殿じゃ。
ミツオ殿。余の妻室のカシアだ」
「カシアです」
彼女は片足を少し引き、頭と腰を少し曲げて挨拶した。
これは、貴族流のお辞儀か。
それより妻室ってなんだ?正妻のことか?
カシア・ノルトブラウン・アンセルム ♀ 29歳 魔法使いLv41
装備 身代わりのミサンガ
鑑定したけど妻室なんて記載はない。
ノルトブラウンは一緒だけど..... わからん。
いや、そんなことしてる場合じゃない!
「み、ミツオ・カトウと申します」
「ん?ミツオ殿どうした?
もしやカシアに見惚れていたのか?」
クソッ!ニヤニヤしやがって。
余計なことを考えたせいで、公爵に変な勘違いをされちまった。
「カシアよ。朗報じゃ。
ミツオ殿がハインツを討伐した 」
「まあ!それは本当ですか?」
「ああ。しかもシモンを筆頭にハインツ一味の主立った盗賊も軒並み討伐しておる」
公爵閣下からハインツ一味が討伐されたことを聞かされると、彼女は俺に向かって深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。
ハインツが跋扈していたのはわたくしの実家にあたるセルマー伯の領内です。
わたくしの知り合いもハインツに殺されました。
ミツオ様はわたくしにとっても仇をとってくれたことになります」
「襲われたので返り討ちにしたまでです。
こちらは懸賞金を頂きますので、気になさらないでください」
カシア様に返事をすると、彼女は胸の前で手を組んで、こちらを見つめていた。
きっと感謝の気持ちでいっぱいなんだろう。
「ところでミツオ殿。
ハインツかその一味で指輪を装備しておる者はいなかったか?」
「えっ!指輪ですか?!
指輪をしていたものは何人もおりましたけど、装備品としての指輪は......」
急に話題が変わったので一瞬焦ったけど、俺はアイテムボックスから決意の指輪を取り出して公爵閣下に差し出した。
「これだけです。これは兇賊の男が着けておりました」
「おお。たぶんこれじゃ。ゴスラー。どうじゃ」
「はっ!間違いないかと」
「カシアはどう思う」
「貴方から結納品として頂いたものに間違いないと思います」
「みな同じ結論か。
ミツオ殿。この指輪は買い取らせてもらえないか」
「由来のあるものですか?」
「ああ。5代前の祖先が固定の時に頂いたものだ。
但し、間違いがあってはいかんので、防具鑑定のために一旦余の方で預からせてもらおう」
「わかりました」
「ミツオ殿をセルマー伯のところに連れて行きたいと思うが、カシアはどう思う」
「はい。もちろんセルマー伯からも感謝の言葉があってしかるべきでしょう」
「そうであろう。ミツオ殿も宜しいか。
なに、少しの時間頭を下げておけば終わる話じゃ」
「申し訳ありませんがお断りします」
「ミツオ殿。堅苦しく考えることはない。
決して悪いようにはいたさぬし、迷惑をかけることはないぞ」
「申し訳ありませんが、それでもお断りします」
「ふむ。何が不満なのだ?」
「何故、私がセルマー伯の不興を買いに行かなければならないのですか?」
「不興とはどういうことじゃ」
「セルマー伯が盗賊討伐の話を聞いて、自ら私に感謝を伝えたいと言ったのなら行くことは吝かではありません。
しかし、伯が何も言ってないのに“盗賊を討伐したから感謝しろ”と言いに行けば、形ばかりの言葉は頂けたとしても内心では疎まれることでしょう」
「ふむ。感謝はされぬと......」
「決してセルマー伯が狭量な方だと申しているわけではありません。
私だったら頼んでもいないことを、“お前の代わりにやってやったんだから感謝しろ”と言われても素直に感謝は出来ないので。
あくまで自分基準で考えた判断です」
「ふむ...... ミツオ殿はそのように考えるのか。
わかった。セルマー伯のところに行くことは一先ず保留としよう」
一先ず保留ね。
悪いけど、俺は公爵がマウントを取るための道具になるつもりはないから、セルマー伯に会いに行くのは一生保留だ。
しかし、思っていた通り貴族はヤバイな。
いや、ヤバイのはこの公爵か。
無理難題を押し付けられる前に、とにかく一刻も早くココから逃げよう。
「申し訳ありませんが、そろそろ下がらせて頂いてもよろしいでしょうか」
「そうか。残念だが仕方あるまいな」
「失礼しました」
俺は公爵と夫人に頭を下げて応接室より退室し、騎士団長に送られてロビーに移動した。
「ミツオ殿。指輪の鑑定結果が出ましたら連絡したいのですが」
「それでは、私は数日に一度クーラタルの商人ギルドに行きますので、そこのルークという仲買人にお伝え下さい」
「承知しました」
俺は騎士団長にお辞儀をすると、ロビーのハルツ公爵の紋章の垂れ幕にワープゲートを開き、家に帰った。
さっさとインテリジェンスカードを換金して家に戻るつもりだったのに、結局昼までかかってしまった。
しかも、公爵の道具にされそうになるし、決意の指輪の代金をもらいにもう一度ボーデ城に行かなければならなくなったし。
色々面倒なことに巻き込まれてムカついていたので、最後に連絡先を俺を騙したアノ商人にしてやった。
何日後に呼び出しがあるのか知らないけど、あの商人は俺に会えるまで、何日でも商人ギルドの壁の前で待ち続ければ良いだろう。
その後、俺は出迎えてくれた4人に癒されて、それから日々の生活を送るうちに、再びボーデ城に出向く必要があることなどすっかり忘れてしまった。