異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
翌日。
俺たちは敢えて低階層で戦い、ミリアのレベルアップを図りつつ、忍者のスキルを確認した。
そこでわかったことは、忍者は暗殺や諜報活動に適したジョブであり、パーティーの遊撃ポジションとしてもうってつけということだ。
忍者には“投擲”と“隠形”というパッシブスキルと“初級遁術”というアクティブスキルがあり、遁術の方は初級魔法と同じように、火遁、煙遁、土遁の3つの遁術を唱えることが出来た。
先ず“投擲”は、ナイフや手で握れるくらいの小石なら、20mくらい離れた場所の的に正確に投げ当てることが出来るスキルだった。
ダガーを渡してこのスキルを使わせたところ、離れた位置にいる魔物に物理的な攻撃を加えることが出来た。
試してはいないが投げる武器に詠唱中断のスキルを付けていれば、離れた場所の魔物の詠唱を止めることが出来そうだ。
次に“隠形”は任意に気配を薄くすることが出来るスキルで、目一杯気配を薄くさせると、目の前にいても意識から外れてしまうスキルだった。
このスキルを使わせたところ、目の前で攻撃していても魔物からは存在を認識されなくなるようで、ミリアが攻撃し返されることは無かった。
それどころか、俺も一瞬魔物を意識したため彼女を見失ってしまい戦闘中にかなり焦ったくらいなので、このスキルがあれば高階層でも一人で探索出来そうだ。
但し、何度かスキルを使わせているうちに、このスキルには欠点があることに気が付いた。
それは物理的に消えているわけではないので、魔物に接触されたり魔法を撃たれたりすると、普通にダメージを受けることだ。
ミリアは余程忍者のジョブが気に入ったのか?楽しそうに戦っていたけど、調子に乗って魔物の目の前で攻撃していたところ、リリアに向かって魔物が突撃攻撃を仕掛けた際に巻き込まれ、ダメージを受けてしまった。
その後は気を引き締めていたので攻撃を受けることはなかったけど、上の階層に上がれば全体攻撃魔法を受けることもあるので、後でしっかりと注意しておこう。
最後に“初級遁術”だけど、先ず、火遁の術は相手の目の前で火を爆ぜさせて怯ませる技、
次に、煙遁の術は自分の目の前で白煙を爆ぜさせて相手から目を眩ます技、
最後に、土遁の術は壁や床に溶け込んで身を隠す技だった。
どうも基本的に遁術は逃げるときに使用する技のようだけど、火遁で怯ませたところに斬り込んだり、煙遁で目を眩ませてるうちに土遁で壁に潜り、相手が通り過ぎたら死角から襲うなど、応用の仕方によっては攻撃にもかなり使えるスキルのようだ。
以上により、スキルはかなり有用なのでミリアはこのまま忍者のジョブとしたいけど、一つ大きな問題が発生した。
それはミリアが使う武器についてだ。
忍者は動きが俊敏で、片手剣なら左右どちらに持っても素早く剣を振り回せるようなのだけど、レイピアでは刀身が長過ぎるようで、ミリア曰く“自分のイメージ通りに持ち替えや取り回しが出来ない”とのことだった。
それに、盾も動きが制限されるようで使いにくいと言い出したので、それならと前日に盗賊から接収した銅の剣を両手に持たせたところ、“動き易くはなったけど、まだ刀身が長過ぎる”とのことだった。
仕方がないのでリリアが作ったダガーを両手に持たせてみると、動きが格段に良くなった。
しかし、ミリアは何度か剣を振ったのちに首を傾げた。
「ミリア。まだしっくりこないのか?」
「銅の剣より動き易いです。
ですけど、もう少し刃の長さがあっても大丈夫だと思います」
「シミターくらいか?」
「シミターよりも少し短目で、細くてまっすぐな形がいい気がします」
「ふむ...... 両刃でもいいのか?」
「問題ありません」
シミターよりも少し短目で細身の直刀か......
俺の中では、忍者は鍔の無い短目の刀を片手に持ち、空いている手で手裏剣を投げるような戦い方をするイメージなんだけど、両刃の剣でもいいなら......
いや...... 今まで行った武器屋では、中途半端な長さの剣など見たことがない。
努めて探してはいなかったけど、そんな剣があるのか?
考えていると、リリアが俺の顔を覗き込んできた。
「あの、ご主人様。私が作ってみましょうか?
但し、空きスロット付きの武器が出来る可能性は低いと思いますけど」
「えっ?出来るの?」
「鍛冶師が装備品を作るときは、完成品をイメージしながらスキルを発動させます。
そのイメージ次第で装備品の形は変わるので、同じ武器でも作製した鍛冶師によって形が異なるのです」
「言われてみれば、同じ剣でも個々に微妙に形が違ってるな」
「ですので、剣を作るときにミリアの理想の形をイメージすれば、近い物が出来る気がします」
「そうか...... それなら一度試してみるか」
「かしこまりました」
その後、パピルスをミリアに渡して理想の剣を描かせると、刃渡り45cm、柄の長さが15cmくらいの直刀で、剣幅3cm、柄の直径も3cm、鍔は直径4〜5cmくらいの楕円形。
ダガーのような短剣とも、シミターのような片手剣とも違う、なんとも中途半端な長さだ。
武器であることには違いないが、こんな剣は見たことがない。
本当にこんな剣が作れるのか少し心配だ。
それにしても......
意外と上手く描けているので驚いていると、それを見たリリアは「少し変わった形だし、中途半端な長さだけど、多分作れると思います」と言って必要な素材を書き出した。
「ほんとにこんな剣が作れるのか?
こんな中途半端な長さの剣は見たことないんだけど」
「私もこんな長さの剣は見たことはありませんけど......
それなら......」
リリアは少し考えると、取り敢えずお試しということでミリアが描いた剣の絵を目の前に置き、その上で銅の剣を製造した。
すると、ミリアの描いた絵とほぼ同じ形の剣が出来上がったので、これなら本番も大丈夫だろう。
それにしても、絵通りに出来たのだから、普通の銅の剣よりも明らかに短い......
もしかして新しい種別の剣なのか?
ちょっとだけ製品名が気になったので鑑定してみたけど、結果はただの銅の剣だったのでガッカリした。
更に翌日。
朝から商人ギルドに出向き、ライザさんに強権の鋼鉄剣と防毒の鋼鉄盾の売却と、ダマスカス鋼の購入を依頼した。
因みに防毒の鋼鉄盾は以前リリアが使っていたものだけど、効果に多少の不安があったので売却用としていたものだ。
そして、ミリアに使わせていた鋼鉄の盾に蟻とコボルトのモンスターカードを融合させて耐毒の鋼鉄盾とし、リリアに使わせることにしている。
ライザさんは装備品のオークション出品は快く請け負ってくれたけど、ダマスカス鋼については自分を通して購入するのではなく、鍛冶師ギルドから直接仕入れた方が良いとアドバイスをくれた。
それと、ルークという仲買人が俺のことを嗅ぎまわっていてライザさんと取り引きしていることをつきとめたらしく、貴族の名前をチラつかせながらさり気なく連絡先を聞こうとしたり、専属を代わるよう圧力をかけてきていることを聞かされた。
なので、先日の経緯とその後のハルツ公領での出来事を伝え、せっかく忠告してくれたにも拘らず、軽い気持ちでヤツの誘いにのってしまい、結果的にライザさんに迷惑をかけることになってしまったことを謝罪した。
「経緯はわかりました。
特にミツオ様が悪いわけではありませんし、少し愚痴をこぼしましたが仕事で妨害を受けたわけではありませんので、気にしないで下さい」
彼女はそう言って微笑んだ。
「そう言ってくれると助かるよ。
俺としてはライザさん以外の仲買人と取り引きするつもりはないからさ。
良かったら、今後も指名させてほしい」
「それは私のセリフです。
こちらこそ今後とも宜しくお願いいたします」
「ああ。宜しく」
俺は立ち上がり、彼女と握手を交わした。
そして、しばらく迷宮探索に専念するから、12日後に開催される奴隷オークション以降に再び訪ねることを彼女に伝え、商談室を退室した。
その後、商人ギルドの壁からワープで帰宅したのだけど、ゲートを出している際に誰かが声をかけながら近づいてきた。
しかし、その声には聞き覚えがあったので、敢えて無視してそのままゲートをくぐり抜けた。
ふふっ。ルークのヤツ、今頃焦っているだろうな。
何を話したかったのかは分からないけど、どうせロクでもないことだろう。
もしかしたらハルツ公爵から何か言われているのかも知れないけど、俺は貴族と付き合う気なんてないから聞いても無駄だ。
俺はプチざまあが出来たことに少し気分が良くなったけど、そんなことより鍛冶師ギルドに行ってダマスカス鋼を購入することと、それまでのあいだミリアにどんな武器を使わせるか考える方が重要なので、ヤツのことなど直ぐに忘れてしまった。
◆ ◆ ◆
その頃......【Side ルーク】
マズイ、マズイ、マズイ、マズイ。
声をかけられたら普通は立ち止まるでしょ!
声をかければ当然立ち止まるものと思っていたから腕を掴もうとは思わなかったし、“ミツオという冒険者がセーブルの娘と面会している”との情報を得ても、無視されるとは思わなかったから、なりふり構わず商談室の前で張り込むようなことまではしなかった。
ハルツ公爵から直ぐに出頭させるよう言われているのに......
あのミツオという男。
貴族に関わることをかなり嫌がっていたけど、だからといって連絡役に私を指名することはないだろう。
嫌がる彼を半ば騙して騎士団長に引き合わせているので、彼に恨まれても仕方がない状況なのだけど、連絡役に指名するなら常識的に考えて、連絡先まで伝えておくべきではないのか?
彼と連絡が取れないせいで、ここ数日は仕事が手につかない状態だ。
連絡先さえ分かればなんとでもなるけれど、セーブルの娘に聞いても“知らぬ存ぜぬ”の一点張りだ。
しかも隠しているわけではなく、本当に知らないようなので始末におえない。
商人ならば取り引き相手の素性を調べることは、自分の身を守るうえで必須項目なのだけど、あの娘はそんな些細な商人の常識も弁えてはいないようだ。
そんな彼女がミツオの期待に応え続けることは厳しいだろうし、オークションでの立ち回りを見る限り、アレではそう遠くないうちにボロを出して不興を買う気もする。
現時点では、ミツオは私のことを嫌っているのかも知れないけど、公爵閣下と付き合ううえでは私を連絡役に選んだことは正解だろう。
それに、よくよく考えてみれば、私にとっても僥倖なのかも知れない。
当面は彼と私の関係修復に気を配る必要があるけれど、諸々片が付いたら彼との取り引きは私に引く次ぐよう、もう一度セーブルの娘を説得しよう。
そう考えて私は部下を呼び出し、明日以降もセーブルの娘の動向を監視してミツオが現れたら即座に報告するよう指示したのだけど、残念ながらそれから数日経っても彼が商人ギルドに現れることはなかった。