異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
ロクサーヌに索敵を依頼すると、彼女は少しだけ顔を上げて、スンスンと匂いを嗅ぎだした。
「レオン様。右側の通路から魔物の匂いがします。何の魔物かはわかりませんが、1種類はたぶん3匹。もう1種類は2匹だと思います」
「わかった。そちらに向かってくれ」
「はい。お任せ下さい」
入口小部屋から2分ほど歩くと、通路の先に魔物の群れが現れた。
ロクサーヌが索敵した通り魔物は5匹で、前衛がクラムシェル3匹、後衛がケトルマーメイド2匹だ。
俺たちは足を止め、ロクサーヌが俺の1mほど右前に立つ。
同時に先制して俺が無詠唱で魔法を放った。
ダートストーム、サンダーストーム、サンドストームの3連発だ。
1回目の魔法効果が切れたので、そのまま2回目の魔法3連発を放った。
魔物の群れは少しだけこちらに近づいてきたけれど、まだ距離があるので余裕がある。
しかし、2回目の魔法効果が切れた瞬間に、俺に向かって水弾が飛んできた。
すると、ロクサーヌが俺の前に割り込んで、飛んできた水弾を盾で弾いた。
動きは少しぎこちなかったけど、盾に角度をつけて、斜め左にうまく力をそらしていた。
まともに受けたらふっ飛ばされる可能性もあったので、いい判断だ。
うむ。ロクサーヌの戦闘センスは一流だな。
これなら安心して前を任せられる。
そんなことを考えながら、俺は3回目の魔法を放ち、魔物の配置を再確認した。
ふむ。こちらに辿り着きそうなのは、中央のクラムシェルだけだな。
左右のクラムシェルは動きをとめたので、2回目のサンダーストームで麻痺したようだ。
ケトルマーメイドは......
「チッ!」
クラムシェルの後ろから1匹ついてきてやがる。
てっきり煙になると思ってたが、意外としぶとい。
だが、アイツが前に回り込む時間は無い。
俺は次の行動を決め、ロクサーヌに指示を出した。
「ロクサーヌ。右後方に3m下がれ!」
次の瞬間、彼女はバックステップで即座に後退した。
そして3回目の魔法効果が切れたので、俺は4回目の魔法を放った。
クラムシェルはロクサーヌの眼前まで迫っていたが、魔法に飲まれて動きを止め、効果が切れると煙になった。
同時に他の魔物も煙に変わり、攻撃開始からわずか2分で戦闘が終了した。
「レオン様。すごいです! 言われた通り魔物が全滅しました」
「まあな。たけど、ロクサーヌが水弾を弾いてくれたから余裕を持って魔物の配置状況を確認出来た。
一人で戦ってた時はもっとバタバタしてたから、安心して戦えたよ」
「いえ、そんな大したことでは」
「いや、ほんとに助かったから。
それに、魔物の位置や数がわかるのもほんとに助かる。
一人のときは、魔物を探すのに結構苦労したんだ。
だから、これからもよろしく頼むな」
「はい。お任せ下さい♪ あっ、ドロップアイテムを拾ってきます。 〜♪」
ロクサーヌは返事をすると、サッと踵を返して駆けていった。
今の一戦で自信を持ったのか、さっきの動揺が何だったのかと思うくらい、やる気に満ちているようだ。
いや、いま、鼻歌が聞こえた気がした。
アレは浮かれているのか?
彼女からすると、思っていたよりも楽な戦いだったから、浮かれてしまっても仕方がないが......
“迷宮では何が起こるかわからないから、常に気を引き締めておけ”なんて言われている。
だけど、恐怖で足がすくんで何も出来なくなるよりは、ちょっとぐらい浮かれていても、このままの方がはるかにマシな気がする。
まあ、反省は家に帰ってからすればいいから、細かい注意でやる気を削ぐのは、今は得策じゃないな。
今日はこの階層でなるべく多く魔物と戦って、ロクサーヌにはたっぷり自信をつけさせる。
ついでにレベルアップが図れるから、一石二鳥ってところか。
そんなことを考えながら彼女を見ていると、ササッとアイテムを拾って駆け足で戻ってきた。
「ロクサーヌ。ありがとう。じゃあ次を探してくれ」
「はい♪」
彼女はアイテムを俺に渡すと、すぐさまスンスンと匂いを嗅いで魔物を探した。
「レオン様。左側の通路から魔物の匂いがします。
たぶんクラムシェル2匹と......
知らない魔物が2匹です」
「わかった。案内してくれ」
ロクサーヌに先導してもらいながら、彼女を鑑定してみた。
ロクサーヌ ♀ 16歳 奴隷
所有者 レオン
獣戦士Lv8
おお、たった1戦でレベルが2つも上がったか。
段々上がりにくくなるだろうが、先ずは数日この階層で戦って、ロクサーヌのレベルを30まで上げよう。
そして、彼女のレベルが30まで上がったら、身入りのいい階層に戦場を移すか、それともこの階層で50までレベルを上げて、上位ジョブを目指すか......
うーん、どうするか...... 本人に選ばせたいところだが、そうするとジョブレベルのことを教えないといけないんだよな...... この世界の常識を覆す説明をしないといけなくなるから、理解させるのが大変そうだ。
はぁ...... 悩ましいな。
彼女の後ろ姿を見ながら考えていると、不意に彼女が振り返った。
「レオン様。この先にいます」
「へ? あっ! わ、わかった」
慌てて返事をすると、彼女は俺を見て首を捻っていたけど、魔物の群れが現れたと同時にスッと表情が引き締まった。
一瞬で戦闘態勢に移行できるのも、彼女の特技なんだろう。
ロクサーヌの索敵通り魔物は4匹だ。
前衛がクラムシェル2匹、後衛がラブシュラブ2匹だ。
「ロクサーヌ。後衛のラブシュラブは頻繁に枝を飛ばしてくるから、うまく盾で弾いてくれ!」
そう叫んだ次の瞬間、俺は1回目の魔法を放った。
◆ ◆ ◆
夕方。日が傾く前に本日の迷宮探索を終了した。
ロクサーヌは魔物の攻撃を殆ど受けることは無く、かなり自信をつけたようだ。
クーラタルの迷宮から帝都の冒険者ギルドにワープで移動して、ギルドカウンターにドロップアイテムを売却しにいく。
ゲートをくぐり抜けた瞬間、黙ってワープを使ってしまったから“またロクサーヌが騒いでしまう”と思って焦ったけど、ゲートを抜けてきた彼女は平然としていた。
「......」
確かに2回目だけど、慣れるの早くね?
そう思いながら彼女を見ていると、「ふふっ♥」と笑ってから「一々驚いていたら身が持ちません」と言って、何故か胸を張っていた。
何故彼女が誇らしそうにしているのか理由はよくわからないけど、機嫌は良さそうだから問題ないだろう。
俺たちは1階のホールを抜けて、階段で2階に上がる。
アイテムが大量にあったので1階の通常カウンターではなく2階の買取専用カウンターにきたのだ。
専用カウンターのギルド職員なら驚くこともないと思っていたけれど、アイテムボックスから同じアイテムばかり大量に出していくと、対応した女性職員は段々顔が険しくなってきた。
シェルパウダー109個、干魚73匹、板61 枚、猿の毛皮33枚。
今日拾ったアイテムを全て出し終わると、彼女はうんざりした顔になり、ため息を吐いた。
「はぁ... こんなに一度に...」
彼女はボソッとそう言うと、カウンターの奥に向かって「すみませーん。大口なんで手伝って下さーい!」と大声で叫んだ。
程なくして、カウンターの奥から他の職員が台車を押してきた。
すると彼女はカウンターのアイテムを台車に移しながら、「こんなに貯め込まずに売りにきてくれれば台車なんて必要ないんですけどねぇ」と嫌味っぽく言ってこちらを睨んだ。
“あんたらそこからマージン取ってんだろ” と思ったけど、顔に出さずに「いや。すみませんね 」と愛想笑いを浮かべ、一応口だけは謝っておいた。
女性職員は「フンッ!」と鼻を鳴らして奥に引っ込むと、すぐに代金を持って戻ってきた。
売却額は14,235ナール。
初回にしてはいい稼ぎだ。
ロクサーヌは黙っているけど、輝く笑顔に盛大に振られる尻尾。
うん。かなり機嫌が良さそうだな。