異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
「ミツオ殿。公爵から伝言があります」
決意の指輪の代金を頂いたので、さっさと引き上げようと思っていたら、騎士団長がメモ書きを読みながら話しはじめた。
先ほどハルツ公爵が不在と聞いて安堵したのだけど、残念ながら布石を打たれていたみたいだ。
何を言われるのか分からないけど、取り敢えずは聞くしかない。
さっさと帰りたいという気持ちを抑えつつ、俺は椅子に座りなおした。
「なんでしょうか......」
「はははは。そんなに大したことではありませんよ」
「そうですか」
「公爵からの伝言、というか確認事項ですが......
先ずは、ハルツ公領の御用冒険者としてミツオ殿のパーティーと契約したいのですが、如何でしょうか」
「御用冒険者とは、何をするのですか?」
「公爵の命を受けて色々と雑務を引き受けて頂きます。
それと、騎士団の者では対応しづらい他領での調査とか、危険人物の監視なども依頼したいと考えております。
勿論、契約金額は弾みますし、騎士団の者が対応出来ないような仕事に関しては成功報酬も支払います」
「そうですか。
ですが、契約となると好き勝手に迷宮探索したり、出かけたりすることは出来なくなりますね」
「確かにそうですが、安定した収入に加えて場合によっては成功報酬も期待出来ますが」
「いや。やはり自由を失うような契約は遠慮します」
「わかりました。
それでは契約は無しで、何か依頼したい事柄があった時に連絡を取らせて頂き、受けるかどうかは話を聞いてから判断して頂くということでは如何ですか」
それなら自由に行動出来るし一見悪くない提案だ。
そう思っていると、カエデが袖を引っ張り耳打ちしてきた。
「満男君。連絡を取らせてって、居場所を教えろってことじゃない?」
「!」
そういうことか。
全くあの公爵め。どう切り返すか......
「連絡は、あくまでクーラタルのルーク経由で。
なかなか連絡が取れないときは諦めて頂くということなら」
「それでは......
直接連絡を取らせていただくことは出来ませんか?」
カエデの言った通りか......
家を突き止められるとろくな事にはならないよな。
どう答えるか......
「申し訳ありませんが、稼げる迷宮を渡り歩いておりますので難しいかと」
これならどうだ。
居場所が変わるなら直接連絡を取るのは無理だろう。
そう思っていると、騎士団長は少し目を細めながら再度口を開いた。
「ミツオ殿はクーラタルの商人ギルドでは何方を仲買人に指名しておられるのですか?
その方を経由して連絡を取らせて頂くことは出来ないでしょうか」
「それは、公爵閣下はルークとの取り引きは止めて、彼女に切り替えるということですか?」
「いえ、そういうわけでは」
「取り引きもなしで頼みごとをするのですか?
彼女に恨まれることになるので困るのですが」
「そうですね。
すみません。配慮が足りませんでした」
思うような答えが返ってこなくて気を落としたのか。
騎士団長は小さくため息をつくと、一瞬瞑目した。
「それでは今まで通り、ルーク殿を経由して連絡を入れさせて頂きます」
「わかりました」
勝った!
これでしつこく付きまとわれることはないだろう。
そう思ってホッと胸を撫で下ろしていたら、騎士団長は最後に爆弾を放り込んできやがった。
「それでは最後になりますが、ハインツ一味の討伐と決意の指輪の奪還に対して改めて御礼を伝える為、公爵はミツオ殿とパーティーメンバーを食事会に招待したいとのことです」
「えっ!食事会ですか?!」
「ええ。都合はミツオ殿に合わせますので、先ずは日取りを決めるため、明日以降こちらに来れる日を教えて頂きたいのですが」
食事会って何だ?
アレか?貴族のパーティーみたいなものか?
貴族の作法なんて知らないし、礼服やドレスなんか持ってないぞ。
だいたい公爵なんかと何を話せばいいんだよ!
クソッ!これって断われないのか?
返事に困ってカエデを見ると、懇願するような表情で小さく首を振られた。
つまり、アドバイスは出来ないけど、なんとかして断わってほしいということだ。
リリアとクレアも同じような反応なので、やはり貴族との食事会なんて嫌なんだろう。
ミリアだけは俺の視線に困惑して首を傾げていたけど、騎士団長の前で彼女が理解出来るように説明するわけにはいかないから、今はスルーだ。
俺は短く息を吐いて、覚悟を決めて返事をした。
「すみません。食事会はお断りさせて下さい」
「ミツオ殿。プライベートな食事会ですので、堅苦しく考えなくても良いのですよ」
「いえ。そういう意味ではなく......」
クソッ!察しろよ!
貴族とは絡みたくないってオーラを出しまくってるのに、なんで諦めないんだ。
なんかわからんけど、俺にこだわる理由があるのか?
いっそのこと“貴族とは付き合いたくない”ってストレートに言っちまうか......
流石にそこまで言ったら温厚そうな騎士団長でもキレるか......
どうしたら諦めてくれるのかあれこれと考えていると、流石に察したのか、騎士団長は小さくため息を吐いてから再び口を開いた。
「ミツオ殿。なにか懸念事項があるのですか?
言っていただければ配慮しますが」
「申し訳ありません。
詳しくは話せませんが、公爵閣下の庇護を受けるわけにはいかないのです。
ですので、一介の冒険者からすると大変光栄なことなのですが、お誘いを受けることは......」
「そうですか...... わかりました。
ミツオ殿には諸事情があるため閣下とは縁を結ぶことが出来ないようですと、公爵には伝えておきます」
「そう言っていただけると助かります」
上手くいった。
騎士団長は俺が口を濁したことを良い方向に勘違いしたようだ。
正直に「貴族なんかと付き合いたくない」などとは言えないので、彼の言葉は否定せずに、このまま勘違いに乗ることにしよう。
「食事会の方も諦めるよう、公爵閣下に伝えます」
「宜しくお願いいたします」
うん。これで完全勝利だ。
俺はカエデたちを引き連れて、意気揚々と帰宅した。
なんとなく騎士団長が恨めしそうな顔をしてたけど、もう関わる必要は無いんだから、とっとと忘れてしまおう。
その夜。公爵の布石に完全勝利した高揚感からか、決闘騒ぎで生存本能が刺激されたからなのかは分からないけど、俺だけじゃなく皆もすごく積極的だった。
当然返り討ちにされないように色魔を着けて応戦したけど、4対1では本気になった彼女たちに勝てるわけもなく、限界まで搾り取られてしまった。
そして、たぶんこの世界にきてから初めて精根尽き果てて、意識を失うように眠りについた。
翌日、色魔のレベルが上がっていたことは、言うまでもないだろう。