異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
「抽選の結果で順番が決まりました。まもなくオークションを始めます。2階の会場へ移動してください」
ロビーにギルド職員の声が響くと、入札参加者が一斉に2階のオークション会場に移動し始めた。
俺も流れに乗って会場に向かうと、商人ギルドに来たときに騒いでいたオヤジがオークション会場の扉の横でダメ押しのように「白金貨の持ち合わせが無いヤツは、魔法使いは諦めろ!」と喚いていた。
余りにも五月蝿いので、横を通り抜ける時に“お前の言うことなんて聞くやつがいると思ってるのか?”と嫌味の一つも言ってやろうかと思ったけど、喧嘩をふっかけたところでメリットがないので、黙って通り抜けた。
そうして会場に入り周りを見回していると、少し離れたところにステージを見つめているレオンがいた。
「なっ!アイツはっ!
なんでこっち側にいるんだ?アイツは出品する側だろ!」
思わず声が出てしまい慌てて周りを見回すと、近くにいた何人かは俺に怪訝な視線を向けていた。
一瞬ヤバイと思ったけど、殆どのヤツは気にしたそぶりも見せずにステージの方を向いたままだったので、取り敢えずそいつらは無視して何事もなかったかのように顔を澄ませた。
レオンに視線を戻すと、ヤツもステージの方に視線を向けたままでこちらを気にするそぶりは見せていなかったので、俺はホッと胸を撫で下ろし、ヤツに見つからないよう上着のフードを目深に被った。
それからは、他に厄介そうなヤツがいないか会場を見回していたけど、特に気になるヤツはいなかった。
そうしているうちにステージ上に司会者があがり挨拶をしはじめた。
「本日はご来場いただき、ありがとうございます。それでは、ただいまより奴隷商人ギルド主催のオークションを始めさせていただきます。出品の順番は先ほど厳正なる抽選を行い決定いたしました。最初の出品者はどうぞ」
司会の男が左端に寄ると、ステージの上に二人の男が出てきた。 一人は身長が3m近いから竜人族だろう。
隣にいるのは奴隷商か?
身長差だけ見ると親子だな。
そんなことを考えていると、司会者が「竜人族のオス、十五歳が出品対象となります。最低入札価格は十万ナールからです。それではどうぞ」と言って入札開始を宣言した。
直後、入札ルールを無視していきなり22万ナールと叫んだ男がいたけど、当然のように周りの怒りを買って精神的なプレッシャーをかけられ、早々に潰されてしまった。
暗黙のルールとはいえ、守らなかったらマズイことになる。
俺も気をつけないといけないな。
そんなことを考えながらパーティー加入の条件に合う奴隷の出品を待っていると、3人目がベスタだった。
やっぱデカイ。あの胸は反則だな。
顔も可愛いし、あれじゃ愛玩奴隷として入札するヤツも出てきそうだな。
そんなことを考えていると入札が開始され、勢いよく金額があがりはじめた。
そして、50万ナールを超えると、貴族風の男とレオンの一騎討ちとなり、10万ナールずつ金額をあげはじめた。
貴族は面子がかかっているから引けなくなっているのか。
レオンの方は異世界迷宮の漫画のメンバーを揃えようとしているから、なんとしてもベスタを落札したいのだろう。
「84万ナール!」
「......」
おっと、貴族のくせにもう限界なのか?
隣の商人に何か吹き込まれたのか、貴族は悔しそうにレオンを睨んでいたけど、フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
たぶん本命でもない入札に資金を流出しないよう諭されたのだろう。
レオンの方は競り勝ったと思ったのか、薄笑いを浮かべている。
なんとなくムカついたし、過去の恨みもあるので、ちょっかいをかけることにした。
「94万ナール!」
「なっ!」
札を挙げて金額を叫ぶとヤツは声を出して驚き、勢いよくこちらに振り向いた。
そして、怒りの形相を浮かべてジッとこちらを見つめているので、慌てて鑑定でもしているのだろう。
顔を隠していても無駄なので、俺はフードをめくって素顔を晒した。
すると、ヤツは驚愕の表情を浮かべたので、一先ず不意打ちは成功したみたいだ。
ヤツはショックが大きかったのか?
少し俯くように俺から視線を外していたけど、司会者が「94万ナール!それ以上の方はいらっしゃいませんか!」と声かけすると、慌てて顔をあげて「きゅ、95万ナール!」と叫んだ。
ん?1万ナールしか上乗せしないのか?
もしかして資金的に厳しいのだろうか......
いや、司会者の声に急かされて慌てたみたいだったから、まだ限界じゃないだろう。
落札する気はないけれど、もうひと声いけるだろう。
「105万ナール!」
再度10万ナール上乗せすると、ヤツは一瞬ひるんだものの再び何やら考え込みはじめた。
ヤバッ、もしかして限度を超えたか?!
俺はベスタが欲しいわけじゃなく、嫌がらせのために札を入れてる状態だ。
費用が払えない訳ではないけれど、だからと言ってヤツにおりられたら目も当てられない。
ドキドキしながらヤツを観察していると、不意に司会者が「105万ナール!それ以上の方はいらっしゃいませんか!」と叫んだ。
まさか本当におりるのか?!
そう考えて内心焦っていると、ヤツは「あっ!106万ナールで!」と言って何事もないように競ってきた。
なんだ今の言い方は。
限界なのか?
まだいけるのか?
上乗せ金額を最低ラインまで落としているとはいえ、余裕がありそうな感じがする。
対してこっちは入札限度と考えた金額は超えているし、それ以前に間違っても落札したくはない。
そろそろ降りたほうが良い気がするけど......
そう思いながらレオンの顔を見ていると、ヤツの口の端が少しあがった。
クソッ!なんだあのニヤけ顔は!
まるで、「貧乏人が無理すんな」と俺を小馬鹿にしているような感じがする。
ムカつく!なんかスッゲームカついた!
男は度胸だ!もうひと声いってやる!
俺は深呼吸して腹に力を込め、言葉を吐いた。
「ひゃ、107万ナール!」
しまった。声が震えちまった。
ヤツは急に顔が険しくなり、訝しそうに目を細めてこちらを睨んでいる。
もしかして俺が限界ってことがバレたのか?
そう思っていると、レオンは再びニヤついた。
「117万ナール!」
「なっ!」
ここへきて10万かよ!
たぶんヤツは俺が無理していることを見抜いて落としにきたのだろう。
しかし117万か。
もう少し粘って金額を吊り上げてやりたいけど、間違っても落札したら手持ちの金を殆んどはたいてしまうから、かなり厳しい状況に追い込まれる。
あのニヤけ顔はムカつくけど、万が一を考えると流石にこれ以上の吊りあげはリスクが高いか......
でも......
84万ナールから33万ナールもあげてやった。
嫌がらせとしては十分だろう。
それに、この前ライザさんが言っていたことが本当なら、多分この後ギルド職員立ち会いで奴隷契約を結ぶことになるはず。
ククッ。レオンのヤツ。
監視されていて割引きスキルが使えなくなり、相当焦るだろうな。
俺はここでおりることを決め、表情を悟られないように少し俯いた。
そうして込み上げてくる笑いを必死に堪えていると、司会者が「117万ナール!それ以上の方はいらっしゃいませんか! いらっしゃいませんか!いらっしゃいませんね!」 と叫んだ。
「それでは、117万ナールでの落札とさせていただきます。ギルド職員の案内に従って出品者と落札者は奥の部屋へ移動してください」
「ヨシ!」
レオンはここまで聞こえるほどの声で叫び、ガッツポーズを取った。
こちらは嫌がらせのつもりで応札していただけだから、競り負けても悔しくない。
しかし、ヤツは競り勝ったことがよほど嬉しかったのだろう。ニヤニヤしながらこちらを見ている。
そんなヤツが滑稽に見えて失笑しそうになったけど、ここで笑ってしまったら、周りの奴等からは“気でも触れた”のかと思われてしまう。
間違ってもそうならないように、俯いてヤツから視線を外し、込み上げてくる笑いを必死に堪えた。
レオンは奴隷商人ギルドの職員に案内されて会場から出ていったけど、扉の前で一瞬立ち止まり、俺の方を振り返った。
しかし、次の瞬間職員に急かされて、そのまま会場を出ていった。
ヤツからしたら大したダメージじゃないのかも知れないけど、一応ミリアの入手は阻止した形になってるし、今回落札金額を引きあげてやったことで、少しは気が晴れた。
色々と因縁があるヤツだけど、ロクサーヌやセリーを手に入れられなかったことでカエデたちを手に入れられたのだから、今となっては良かったのかも知れない。
どこまでいっても気に食わないヤツだけど、取り敢えずレオンとはこれで決着ってことでいいだろう。
今後、俺はヤツを無視するから、ヤツの方から絡んでこないことを期待したい。
俺はそう考えて頭の中からヤツを追い出し、オークションの続きに専念することとした。