異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
ロクサーヌにベスタを預けてクーラタルの商人ギルドに戻ると、うちの商館のブースから親父が出品奴隷をオークション会場に連れていくところだった。
ボルタス ♂ 25歳 魔法使いLv22
狼人族という点は多少マイナスだけど、それでもコイツなら120万、いや、130万ナールはくだらないだろう。
ただ、今日はターヘラの商館や帝都の商館から客の目を引く奴隷が出品されているみたいなのが気がかりだ。
直接確認出来ていないからなんとも言えないけど、あの盛り上がりようは侮れない。
しかも、どちらもうちより後の出品なのが気がかりだ。
そんな事を考えていたのがいけなかったのか、オークションが終わって戻ってきた親父の顔色はすぐれなかった。
声をかけようと思ったけど、続けてボルタスとギルド職員、そしてオークションが始まる前に会場の前で騒いでいた男が入ってきたので押し黙った。
どういうことだ?
もしかして白金貨がどうこうと騒いでいたのはブラフで、本当はもっと資金があったということか?
うーん......
どう見ても駆け引きが上手い感じには見えないけど......
男を訝しんで見ていると、ギルド職員が最初に口を開いた。
「それでは取引を行なって下さい」
「では、代金はこのトレーに」
「おう!」
親父がテーブルのトレーを示すと、男が小袋から白金貨1枚と金貨を2枚出して並べて置いた。
えっ?終わり?
102万ナールで落札されたってことか?
思ってた金額よりだいぶ低いので驚いていると、親父が男とボルタスに左手を出させて奴隷契約を行ない、奴隷の扱いについて一通り説明した。
そして、男とボルタスを送り出すと、ギルド職員に向き直った。
ギルド職員は親父と目が合うと、「契約締結に問題はありませんでした。ご協力ありがとうございました」と告げて、一枚の書類を差し出した。
そして、親父からサインを受領すると、ギルド職員は一礼して退室していった。
「親父。何があったんだ?」
「うむ......
今日の入札者たちは我らが考えていたほど、ボルタスに魅力を感じなかったようだな」
「そう......
もしかすると落札した男がオークション開始直前に騒いでいたことが原因かも知れないけど、今さら考えても仕方がないか」
「ん?何かあったのか?」
「ああ。
落札した男はオークション会場の扉のすぐ手前で、“白金貨の無いヤツは魔法使いの落札は諦らめろ”って大声で叫んで、他の入札参加者を威嚇してたんだ」
「......」
「余裕ぶろうとしていたけど、何度も威嚇するもんだから、逆にコイツの資金は100万ナールそこそこって見透かされて、周りからは冷ややかな目で見られてたよ」
「ふむ...... それでか。
魔法使いは人気だが、一般の探索者で100万ナールを超える金額が出せる者はごく一部だ。
そして、そのごく一部となると、パーティーメンバーには既に魔法使いがいる可能性が高い」
「確かに......」
「そうなると競り合えるのは裕福な商家か貴族というところになるが、後に目当ての出品が控えている場合は競り合いには参加しない。
競り合っている者が自分の資金は100万ナールそこそこだと宣言しているなら、その金額を超えた瞬間に遊び半分でちょっかいをかけていた者がいたとしても手を引くだろう」
「実際にそうなったと」
「ああ。
92万ナールのところから、先ほどの男が102万ナールとコールしたら、それまで競っていた者たちは全員降りた」
「......それじゃあ仕方がないね。
ところで、ギルド職員が奴隷契約を監視するって聞いてた?」
「ふむ...... 聞いたのはボルタスのオークション終了直後だ。
近くに控えていたギルド職員に呼ばれて”落札額が高額なため不正取引が無いことを確認させて頂く”と一方的に告げられた」
「やっぱり抜き打ちか」
「うむ。そういうことだな。
はっきり言われたわけではないが、どうも奴隷商人ギルドというよりその上の組織で何かあったようだ」
「ちゃんと確認しなかったんだ」
「ああ。落札した男に急かされたので、詳しく聞けなかった」
「そうだったのか。
実は先ほどベスタという竜人族の娘を落札した。
彼女のことは今度紹介するが、そのとき向こうの商館主から契約監視が行われることになった経緯について聞いたよ」
「ほう」
「なんでも商人ギルドの方でオークションでの裏取引を仄めかして顧客を脅した仲買人がいたらしく、その本人の素行もあってかなり問題となったらしい。
そのため、オークションで相場と照らし合わせて高額な落札が発生したときは不正が無いか調査することになったらしいんだけど、奴隷商人ギルドも同様の調査を行うよう商人ギルドから指導があったらしいよ」
「ふむ。そういうことだったのだな」
親父はあまり気にした様子はない。
実際オークション後の契約を監視されたところで影響はないから、当たり前の反応だ。
だが、俺の場合は値引きスキルが使えなくなるから、ギルド職員による契約監視は影響が大きい。
これを事前に知っていたら、無理にミツオと競り合ってベスタを落札することはなかったと思う。
そういえば、会場を出る時にミツオがニヤけていたような気がしたけど、気のせいだろうか。
ヤツが奴隷契約の際にギルド職員の立ち会いがあることを知っていて、俺を引っかけたわけではないとは思うけど、あの物語のベスタの落札金額は60万ナールくらいだったはずだから、結果的に競り勝ったとはいえ2倍近い価格にされてしまった。
しかも値引きスキルが使えなかったから、実際に支払った金額はあの物語の3倍に近いはず。
クソッ!偶然が重なっただけなのかも知れないけど、今となってはミツオにしてやられた気分だ。
まあ、かなりの出費となってしまったけど、ベスタが手に入ったから今後パーティーは一段上の階層でも余裕をもって戦えることになるし、そうなれば継戦能力もあがるからドロップアイテムによる収入も期待出来る。
それに、セリーが作る装備品による収入や、一応商館の給料もあるから、しばらく慎ましく生活すれば問題ないだろう。
しかし......
これでやっと俺のパーティーは4人か。
迷宮探索は副業だから焦る必要はないけれど、ミツオは6人目を探していたのだから、何となく出遅れている感がある。
かと言って、親父へのロクサーヌ購入金の返済もあるからホイホイ増員は出来ないし、冬には税金を納めないといけないから、しばらくは次のメンバーを考えられる状況じゃないだろう。
それならどうするか...... ん?あれ?
今後、ヤツより早くメンバーを揃える必要なんてあるのか?
確かに今まではヤツを出し抜いてロクサーヌを手に入れ、商館前で上手くヤツを追い詰めてセリーを手に入れた。
ミリアだけは油断から手に入れることは叶わなかったけど、今回は競り勝ってベスタを手に入れることが出来ている。
あの物語のパーティーメンバーはあと1人いるけど、その娘はハルツ公爵絡みのはずだから、俺は手を出すつもりはない。
と、いうことは......
今まではともかく今後はヤツとパーティーメンバーを取り合うことはないだろうし、最後のメンバーをヤツが手に入れたとしても3対2。
つまり俺の勝ちってことだ。
それに、別に勝負をしていたわけじゃないけど、今後はヤツと張り合う理由はないから、そういう意味でも焦る必要はないと思う。
色々と因縁があるヤツだったけど、今回のオークションで本当の意味でのサヨナラということだ。
取り敢えず今回のオークションは成功だったということにして、家に帰ったらベスタの商館での仕事でも考えるか......
俺は気持ちを切り替えてブースを片付け、明日からのことについて親父と軽く打ち合わせてから帰宅した。