異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
ベスタをオークションで手に入れてから30日が過ぎた。
ロクサーヌの采配で家の役割分担も固まり、ベスタはキッチンや風呂、トイレといった水回りの掃除、それから庭の菜園の世話を主に担当している。
最初の数日はというと──まあ、大変だった。
彼女に衣服や生活雑貨を買い与えると、待遇の良さに驚いたのか遠慮してなかなか受け取らず、食事を摂らせると、毎回その内容や味に感動しては涙ぐんだ。
さらに、ベッドの上ではこちらが戸惑うほどしおらしく、俺に処女膜を貫かれたときも、静かに涙を流すだけで痛がる素振りは見せなかった。
だが数日もすると色々と落ち着いたのか?買い与えられた物に対して大きな反応は示さなくなり、俺やロクサーヌの指示にもたんたんと従うようになった。
ベッドの上でも涙を流すようなことはなくなり、感じているのか俺の律動に合わせて「んっ!んっ!!」とくぐもった声を出すようにはなった。
ただ、色々な体位やシチュエーションを試してはみたものの、彼女はロクサーヌやセリーのように積極的に快感を得ようと自ら動くことはなく、こちらもたんたんと受け入れている感じだ。
とにかく彼女からは意思というものを感じないし、それどころかどこか怯えたように、俺たちの顔色をうかがうような視線を感じることもある。
何故そのようになってしまったのか?
少し気になったのでロクサーヌに本心を探ってもらったところ、最近になってようやく理由が分かった。
「奴隷商館で聞いていた待遇と違いすぎて……いつか、とんでもない命令をされるんじゃないかって……毎日怖かったそうです」
ロクサーヌの言葉に、俺は思わず頭を抱えた。
なるほど、良くしていたつもりが逆に不安を煽っていたらしい。
ロクサーヌは言葉を選びながら報告しているので、もう少し根が深い何かがあるのかも知れないけど、今はまだそこには触れない方が良いのだろう。
それにしても、ベスタは30日もの間、ずっと戦々恐々としていたわけだ。
……本当に、どれだけ怯えながら過ごしていたんだか。
俺は自身の言動や行動を少しかえりみて、彼女を安心させるために何をすれば良いのか考えたけど、俺がどうこうする前に問題は解決していた。
詳しくは教えてもらえなかったけど、ロクサーヌが誠心誠意“O・HA・NA・SHI”したところ、ベスタからは顔色をうかがうような視線は感じられなくなったし、少しだけど自らの希望や意見を言うようになった。
その代わり、たまにロクサーヌから言葉をかけられたときにビクつくことがあるけれど、常にオドオドしながら自分の感情を消して生きるよりはよっぽどマシだと思うので、俺は気付かなかったことにした。
因みに家の中の役割として、ロクサーヌは洗濯と寝室のベッドメイク、それと干した洗濯物の取り込みと畳んで棚にしまうことを主に担当しているが、セリーは家事については主に担当することはなく、もっぱら俺と迷宮やモンスターの情報収集や整理、装備品の強化計画、それと鍛冶仕事を担当している。
尚、買い物や料理、掃除など、その他の家事仕事は手の空いている者が積極的に手をつけるようにしており、広い家だがそれなりに回せている感じだ。
気持ち的にはもう一人くらい娘がいて、掃除を担当させられることが出来れば余裕をもった生活ができるような気がするけど、奴隷を増やす話をするとロクサーヌがあまり良い顔をしないので、しばらくは4人で生活することになりそうだ。
商館の方も大きなトラブルやことさら面倒な顧客に振り回されることはなく、貴族絡みで不利益を被るようなこともなかった。
夏は奴隷の取り引きが活発な時期ではないが、オークションに出品した奴隷の評判が良かったせいか、客足が途絶えるようなことはなかったので、商売的には順調と言えるだろう。
ベスタも商館での役割が出来たためか落ち着いているように見えるし、ロクサーヌとセリーは生き生きと仕事をしている。
俺の奴隷という理由もあるだろうけど、3人とも素直な性格なので、商館の使用人たちからも可愛がられて人間関係も良好な状態だ。
このまま平穏な日々が送れれば......
そんな考えがフラグだったのか?
北方のセルマー伯爵領で内乱があり、敗北した側の貴族は家名を剥奪されたうえに奴隷身分に落とされたという情報が入ってきた。
つまり、あの物語の最後のメンバーが奴隷になったということか。
奴隷商人ギルド経由で競売の連絡がきており、名前は伏せられてはいるので確定ではないが、商品の中にはどうやらあの娘も含まれているみたいだ。
確か物語では彼女は競売にかかることはなく、直接主人公に引き渡されていたはずだが、そうはならなかったということか。
俺としては貴族に近づくつもりはないからスルーしたいところだけど、競売参加の可否を決めるのは親父だし、何事もなければ間違いなく参加すると思う。
まあ、貴族のしがらみさえなければ彼女をメンバーにすることはやぶさかではないし、実際彼女に出会ってしまったら情が湧いてしまう気もするが......
さてどうするか。
などと悩んでみても、現実的に彼女を仲間にすることは不可能だろう。
何故なら貴族の娘ということは、将来の高級奴隷ということだ。
そうなると競売段階とはいえ、ベスタ落札の影響で資金が大幅に目減りしている俺では太刀打ち出来ない。
自己資金で太刀打ち出来ないなら商館としての購入となるわけだが、さすがに商館として購入したら、身請けするには高級奴隷としての代金が必要となる。
教育などで販売されるようになるには30日〜50日はかかるけど、その間資金調達に奔走したとしても、高級奴隷を身請けするだけの資金を集めることは不可能だろう。
まあ、もとからあの娘をメンバーにするつもりはなかったし、早急に増員しないといけないわけではないから潔く諦めよう。
◆ ◆ ◆
数日後、親父が奴隷商人ギルド主催の競売に参加するため帝都の商人ギルドに出向き、敗戦した側の元爵位持ちの騎士1名とその息子を競り落としてきた。
2人ともエルフ族の♂で人間族の俺たちを侮んでいるのか、それともまだ奴隷落ちしたことに納得していないのか、商館で出迎えた俺やサビアナさんに対して挨拶もせず、鼻を鳴らして憎らしそうに睨んできた。
立場をわきまえるよう叱りつけたい気持ちになったが、何を言っても今は聞く耳を持たないだろう。
そう思ったので黙って睨み返しながら2人を鑑定したところ、父親は41歳で騎士Lv29、息子は17歳で戦士Lv14だった。
そこそこ戦えそうなので戦闘力に自信があるから反抗的な態度をとっているのだろう。
だけど、うちの戦闘奴隷はコイツらよりも遥かに強い。
この手のヤツなら10日も経てば、鼻っ柱を叩き折られて従順な奴隷になることだろう。
俺は態度の悪い2人への興味がなくなったので、意識を外して親父に話しかけた。
そして、競売の状況を聞いていたところ、あの物語に出ていた娘らしき元貴族の令嬢の話が出た。
どうやら彼女は帝都の商館がかなり高額で競り落としたらしく、親父曰く“落札額から考えると、貴族の愛妾か後妻、若しくは愛玩用の高級奴隷として販売されることになるだろう”とのことだった。
しかしそうなると......
もしかするとミツオのメンバーになるかも知れないな。
まあ、もうヤツと関わるつもりは無いからどうでもいいか。
俺のパーティーは4人だけど、前衛の3人と後衛の俺という配置はしっくりきている。
高階層で戦う際に全体攻撃魔法を受けることはあるけど、ベスタの耐性のおかげで大したダメージにはならない。
それに、3人がいれば日常生活も満たされているから、無理にメンバーを増やす必要もない状況だ。
俺はあの物語に出ていたエルフの娘のことは頭から消し去り、日常に戻ることにした。