異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
Side ロクサーヌ1
わたしの名はロクサーヌ。
狼人族で16才の獣戦士、そしてベイルの商館の次期当主であるレオン様の奴隷。
今は主人のレオン様と帝都の借家に住みながら、ベイルの商館の使用人と、探索者の2足の草鞋を履いている。
私は10歳のときに探索者だった両親が迷宮で亡くなり、以降は農場をしていた叔母夫婦に育てて頂いた。
叔母夫婦との関係は良かったし、私が自立するために探索者になりたいと言うと、心配しながらも応援してくれていたけど、私が15歳になると雲行きが変わった。
理由は分からないけど農場の経営が悪くなり、生活がどんどん苦しくなっていったのだ。
そしてもうすぐ16歳。
冬まであと4日となった日に、私は叔父から衝撃的な言葉を浴びせられた。
「このままでは次の税金が払えない。
だから、お前を商館に売ることにした」
「えっ?」
「突然ですまないが、もう決めたことだ」
「叔父様。そんな......」
「それと、決して狼人族には売られないようにするから、性奴隷となることは了承してくれ」
「......」
性奴隷...... そんな、何で私が......
性奴隷という言葉があまりにも衝撃的で、その後叔父が何か言っていたけれど、彼の言葉は全く頭に入ってこなかった。
ただ、叔父が最後に「明日は日が出る前には家を出るから、寝る前に身の回りの整理をしておくように」と言われたことだけは、何故かハッキリ覚えている。
その後、私は自室に戻り、片付けしながら考えた。
私は13歳の時に獣戦士になり、それ以降2年間はとある探索者パーティーに参加して頑張っていた。
しかし、そのパーティーはとんでもないもので、メンバーはろくに魔物と戦いもせず、2日に1日は酔いつぶれて探索を行わないような連中の集まりだった。
そのせいで収入が少なく、パーティー活動が無い日にソロ探索で稼がないと生活していけないことがわかった。
半ば騙されて加入したこともあり、すぐに抜けようとしたけれど、契約内容に「脱退はパーティーリーダーと本人の双方の同意が必要」という条件があったので、抜けさせてもらえなかった。
そのうえ、私が成長して体つきが変わってくると、男性メンバーが私をいやらしい目で見るようになり、90日ほど前のある日、探索中に迷宮の袋小路に追い詰められ、危うく乱暴されそうになった。
その時は偶然にも直近に魔物が湧いたため事なきを得たけれど、冒険者ギルドに戻ったときに、「もうこのパーティーでの探索には参加しない」と宣言すると、リーダーが「参加しないならお前をクビにするぞ」と脅してきた。
これ幸いと、クビ宣言を受け入れてそのままパーティーを抜けたのだけど、それ以降は何処のパーティーにも入れてはもらえなかった。
仕方がないのでソロ探索者として迷宮に潜り、日銭を稼ぐことは出来ていたけど、自分自身の人頭税が払えるほどは稼げていない。
ならば“家を出て一人で生きればいいのでは?”と一瞬考えてはみたけれど、一人で生きるということは自由民になるということだから、税金は3万ナールではなく10万ナールとなってしまう。
そんな大金、今の私に払えるわけがない。
どのみち3万ナールだって払えないのだから、悔しいけど私には家長の叔父の言うことに従う道しかないのだ。
性奴隷......
瞬間、迷宮で迫ってきたときの元パーティーメンバーの男たちの顔がチラつき、吐き気が込み上げてきて口元を押さえた。
“あんな男たちに汚されるなんて死んでも嫌だ!”
そう考えると、狼人族に売られないという条件は、奴隷にされる私にとってはすごくいい条件なんだろう。
でも、性奴隷か......
それって、私は買われた人の慰みものになるってことだし、それを拒否できないってことだよね。
別にいま好きな人がいるわけじゃないけど、でも、私だって好きな人じゃないと......
仮に性奴隷になることを拒んでも、元パーティーメンバーの男たちに買われたら、無理矢理犯されて慰みものにされてしまうだろう。
狼人族の男は直情的な性格の人が多いから、他の狼人族の男でも大差はないと思う。
何度か狼人族の男が連れている女性奴隷を見たことがあるけど、みんな粗末な服を着させられていたし、まるで生きる希望をなくしているみたいな虚ろな目をしていた。
性奴隷なんてなりたくないけど、あんなふうにはなりたくない......
叔父の言うことをきくしかないのね......
その後、私はベッドに倒れ込み、マクラに顔を埋めて一晩中泣き続けた。
◆ ◆ ◆
翌朝。
まだ日が昇らないうちに私は起こされ、顔まですっぽり隠れるような大きめな外套をかぶせられた。
その後、叔母が抱きついてきて泣きながら謝っていたけど、性奴隷になるしか道がなくて絶望していた私には、彼女の言葉は言い訳にしか聞こえなかった。
結局叔母の言葉に私は1ミリも心が動くことはなく、一言も応えずに叔父に連れられて家を出た。
それから冒険者ギルドに連れていかれ、フィールドウォークでいくつかの冒険者ギルドを経由して、どこかの屋敷に連れていかれた。
そして気が付くと、いつの間にか叔父は居なくなっており、私の首には黒くて鎖のついた首輪が着けられていた。
“私... 奴隷になったんだ...”
首輪に触れると鎖がチリンと鳴った。
その瞬間、世界が灰色に変わった気がした。
その後の記憶は定かではないけど、気が付くと私は大勢の奴隷と一緒にベイルの奴隷商館に辿り着いていた。
そして、アラン様という人間族の初老の男性とサビアナさんという人間族の初老の女性から商館で生活する上での注意事項を伝えられたけど、その時は全く頭に入ってこなかった。
その為、後日サビアナさんや他の世話係の人に色々と聞き返すことになり、何度か呆れられてしまった。
因みにここがベイルという町の奴隷商館で、アラン様が商館主、サビアナさんが奴隷世話係の責任者だと認識したのは私が連れてこられた3日後のことだった。
商館に来た当初、私は性奴隷として売られたことがショックで無気力に過ごしており、まるで井戸の底に沈んでいたような気分だった。
周りが全く見えておらず何を言われても何も感じない状態だったけど、商館に来てから5日くらい経ったある日、アラン 様に声をかけられた。
「お前は美人で器量も良い。ブラヒム語や礼儀作法をしっかり学んで身につけられれば、必ず明るい未来が待っている。だから自分のためにもこの商館でしっかりまなび、自分を磨きなさい」
彼はそう言って私を励ましたけど、正直性奴隷となる私からすると綺麗事を言っているようにしか思えなかった。
しかし、その翌日にちょっとした事件が起こった。
私が礼儀作法の教育で使った食器をトレーに乗せて運んでいるとき、私と一緒に教育を受けていた女性奴隷に後ろから突き飛ばされて転ばされたのだ。
私はトレーをひっくり返して食器をぶちまけてしまったので、派手に音が鳴り響いてしまい、すぐに何人か人が集まってきた。
すると私を突き飛ばした女性は私に向かって、「どんくさいわね!何転んでるの!貴方みたいな女は安く買われて、娼婦にでもなればいいのよ!」とわざと周りに聞こえるように大声で罵倒してきた。
女性は勝ち誇ったかのように私を見下ろしていたけど、集まってきた人の中から抜け出してきた男の人に、「あなたは同僚を罵倒する前に、なぜ手を差し伸べようとしないのですか?そのような心構えの方を特別扱いするわけにはいきませんね」と笑顔で言われると、顔が真っ青になった。
彼女は彼を知っていたようで、“この女が勝手に転んだ”と慌てて嘘をつき、さらに“目の前で転ばれたから、動揺して咄嗟に言葉が出てしまった”と言い訳した。
すると彼の彼女を見る目が急に鋭くなった。
どう見ても怒ったようなので、どうやら彼女の言動に許せないものがあったようだ。
「転んだだけでこのようにお皿が飛び散るとは思えませんが、それは置いておいても咄嗟に言葉が出るということは、普段からそのように考えているということですよね」
「いえ、そんなことは」
「そんなことはないとでも言いたいのですか?
どちらにしても、貴方が転んでいる女性を罵倒した事実は変わりません」
「......」
彼に事実を突きつけられて、ついに彼女は反論出来ずに口を噤んだ。
そして、何故か這いつくばったまま顔を上げて成り行きを見ていた私を悔しそうに睨みつけた。
すると彼は、「はぁ。仕方ないか」とつぶやいて、それから言葉を続けた。
「残念ながら反省する気は無いみたいですね。
どうやら貴方は自分の立場というものが分かっていないようだ」
「えっ!」
「普段の言動も目に余りますが、他人に手を出すようなことは許せません。
処分は追って伝えますので、身辺整理をしておきなさい」
「そんな、レオン様。私は...」
「黙りなさい!貴方の戯れ言など聞く気はありません」
彼に毅然とした態度で突き放されると、彼女はその場に崩れ落ちた。
目の前の状況に呆然としていると、彼は私の前に片膝をついてしゃがみ、私の手をとって立ち上がらせてくれた。
そして、私の膝についた埃をパンッ!パンッ!と叩いてはらってくれながら、「ロクサーヌ。大丈夫だったか?どこか痛いところは無いか?」と聞いてきた。
私が「えっ、あっ、だ、大丈夫です」と慌てて答えると、彼は「良かった」と ひとこと言って微笑んだ。
そして、落ちていたトレーを拾って周りの人たちと一緒に食器を片付けはじめた。
私はその光景に呆気に取られていたけれど、すぐにハッとして「わ、私が片付けます」と言って慌てて食器を拾った。
しかし、彼は私に向かってもう一度微笑むと、そのまま無言で最後まで片付けを手伝ってくれた。
片付けが終わった後、「ありがとうございました」とお礼を言ったけど、彼は、「気にしなくていいよ。それより学ぶことが多くて大変だと思うけど、これからも頑張ってね」と言って執務室の方に歩いていった。
私は去っていく彼の背中を見ながら、ぼんやりと考えた。
あの人、さっき私の名前を... 私のこと、知ってるの?