異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
事件の後、世話係のサビアナさんに色々と教えてもらった。
先ず、私を助けてくれた男性のこと。
彼はこの商館の跡取り息子で、名前はレオン。年は20歳。この商館の戦闘奴隷を連れて毎日迷宮に潜っているらしく、噂では相当強いらしい。
ただ、それ以上のことは「仲良くなってから直接本人に聞きなさい」と言われて教えてくれなかった。
商館の跡取り息子だから私の名前を知っていたのかな?
レオン様...... ちょっと格好良かったな。
そんなことを考えていると、私を突き飛ばした女性の話になった。
彼女はかなりの問題児だったらしく、詳しいことを教えてもらった。
彼女は私より少し前にこの商館に売られてきた没落商家の令嬢で、容姿と出自は高級奴隷として申し分ないけど、性格に難があるためお客様に勧めづらく扱いに困っていた女性だったとのこと。
しかも、彼女はこの商館の跡取りがレオン様だということを知ると、彼に自分の容姿をアピールし出した。
しかし、そっけなく断られると、次は自分は商家の娘なのでレオン様のサポートが出来るなどと言って彼に取り入ろうとした。
もちろんそれも断られていたけれど、レオン様はかなり迷惑そうにしていたらしい。
因みにレオン様は、
「経営力があるなら、商家が傾くことなんてなかっただろう?
たまにいるんだよな、地位が高ければ能力も高いと勘違いしてる無能者が」と言って、裏では彼女を馬鹿にしていたとのこと。
これについては「他言無用ですよ」と言って、サビアナさんは私だけにこっそりと教えてくれた。
彼女は他にも、自分には教養があるから教育は不要だとか、家事なんて学ぶ意味が無いだとか言って真面目に奴隷としての教育を受けなかったり、何を勘違いしたのか奴隷の身分を解放して自分を商館で雇えなどと言い出すこともあったとのこと。
そんな状態だったので、態度を改めないようなら他の商館に転売することも視野に、彼女への対処方法が検討されていたらしい。
しかし、今回彼女は、私の容姿に嫉妬して、私を突き飛ばして転ばせるという暴挙に出た。
彼女は怪我をさせるつもりはなく、転んだところを罵倒して辱めてやろうと考えていたらしいけど、相手が私だったことがマズかったらしく、レオン様の逆鱗に触れてしまったらしい。
何故相手が私だとマズいのか一瞬気になったけど、詳しく聞く前に話が進んでしまった。
仕方がないから後で聞こうと思ったけど、そのまま聞くことを忘れてしまった。
今回の件で彼女は個室を取り上げられ、大部屋で他の奴隷と生活するようになるとのことだった。
それは高級奴隷から一般的な奴隷への格下げということらしく、当然売価も下がる。
ただ、サビアナさんは、「彼女は見た目は悪くないから売価が下がればすぐに買い手がつくでしょうね」と言っていたので、あの女性が大部屋で生活するのは数日だけだろう。
彼女の話を聞いて、私は商館にきたその日から個室を与えられていたことに気が付いた。
私は狼人族への売却不可の条件と引き換えに性奴隷としてこの商館に売られた。
でも、高級奴隷なんて言われたことは無いし、出自からしても条件には当てはまらない。
なら、何で個室なのか......
考えても分からないので、素直にサビアナさんに尋ねると、「アラン様からの指示だから、私に聞かれても詳しいことは知らないわね」と言われてはぐらかされてしまった。
◆ ◆ ◆
事件以降、私はレオン様のことが気になってしまい、彼を見かけると目で追うようになってしまっていた。
彼は毎日商館の戦闘奴隷たちを率いて迷宮に潜っていると聞いているけど、商館の跡取りとして、執務や顧客応対、仕入れ業者との打ち合わせや館内の巡回点検なども行っているのでほぼ毎日見かけることができた。
私から見たレオン様は、普段はとても優しくて接し易く、大事な時には頼りがいのある人だ。
色々な人に手を差し伸べ、問題があれば解決するために積極的に関わっている。
そして、事の本質を見極めて行動するし、悪いことをした者への対処は徹底している。
一見非の打ち所のない完璧な人に思える。
でも、実はそうではない。
私は彼が食堂で寝癖をつけたまま朝食を食べていたり、料理人から「勝手に入らないでください」と叱られて厨房から摘み出されていたところを見たことがある。
そのときは、“すごい人だと思ったけど、こんな一面もあるんだ”と思って驚いたけど、“これって私だけが知ってるんだ”なんて思うと、ちょっと嬉しくなってしまった。
いつしか彼を見かけることが楽しみとなり、そんな彼に少しでもいい印象を持ってもらおうと、私は奴隷教育を真面目に受けるようになっていた。
そして、私がこの商館に来てから60日が過ぎた。
昨日で奴隷としての教育は全て終了し、今日からは私は自分が売れるまでこの商館で使用人として働くことになると聞かされていた。
しかし、朝方自室にサビアナさんが来て、「ロクサーヌ。貴方の主人が決まったので、1時間後にアラン様の所に行きますよ」と言われた。
サビアナさんの言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。
そんなっ!急過ぎる!私......
“嫌”という言葉が喉まで出た。
しかし、奴隷の私が決して口にはしてはいけない言葉なので、その思いを必死に飲み込んだ。
ついに性奴隷として売却されるのね......
どんな人に買われたんだろう......
レオン様みたいな優しい人だといいな......
そう考えていてハッとした。
私は無意識にレオン様のことを考え、彼と主人となる人を比べようとしていたのだ。
これから新しいご主人様に仕えなくてはならないのに、誰かと比べるなんて失礼極まりないことだ。
でも...... 私、レオン様のこと......
彼のことを考えはじめると止まらなくなった。
彼の行動、彼の仕草、彼の言葉、何度か会話した時に感じた彼の優しさ、私だけしか知らない彼の姿......
レオン様への気持ちが恋なのか、それともただの憧れなのかよくわからないけど、この想いは胸の奥にしまい込んで、新しいご主人様に誠心誠意仕えないと......
そう思った途端、涙が溢れてきた。
あれ、おかしいな... 私、何で......
結局、色々考えが巡ってしまい、気持ちの整理がつかないうちにサビアナさんが迎えに来てしまった。
「ロクサーヌ。行くわよ」
サビアナさんは声をかけながら私の顔を見て、一瞬申し訳なさそうな顔をしたけど、それ以上は何も言わなかった。
アラン様の部屋に向かいながら、サビアナさんに「あの、私のご主人様になる人は、どのような方ですか?」と聞いたけど、「ふふっ。それは今は言えないわね」と言って教えてくれなかった。
ただ、何故か少し楽しそうなのが気になったけど、理由を聞く前にアラン様の部屋の前に着いていた。
コンコン。
「はい」
「サビアナです。ロクサーヌを連れてまいりました」
「うむ。入れ」
許可を頂いたので入室すると、そこにはアラン様だけでなく、家令のシモンさんもいた。
「サビアナ。彼女は間違いなく全ての教育を終了したのだな?」
「はい。間違いございません」
「と、いうことだ。シモンも良いな」
「はい。異存はございません」
さっきから皆さんは何の話をしているのだろう。
いや、私の教育状況を確認していたことは分かったけど、だから何なの?
「うむ。では、ロクサーヌよ。レオンの所に行くぞ」
「えっ? は、はい?」
アラン様たちの話の意図が全くつかめず、私は混乱したままレオン様の執務室に連れられていった。
ただ、最後になると思うけど、一目だけでもレオン様に会えるのはすごく嬉しい。
もし、売られた先で辛いことや悲しいことがあったとしても、私はレオン様と出会えたことを心の支えとして生きていこう。
そんなことを考えながら、アラン様に連れられてレオン様の執務室に入った。
◆ ◆ ◆
執務室に入ると、正面のデスクでレオン様が仕事をしていた。
私ははじめてレオン様の執務室に入ったので、部屋の中を見回していると、レオン様に「フッ」と笑われてしまった。
恥ずかしくなって少し目線を下げると、アラン様がレオン様に“私の教育が終わったので、約束通り引き渡す”と言い出した。
え?どういうこと?約束通り?
意味が分からなくて混乱していると、いつのまにかレオン様が私の前まで来ていて、「今日からよろしく」と挨拶された。
状況が飲み込めないまま慌てて「えっ、あっ、はい」と返事をすると、アラン様に左手を差し出すよう言われた。
私は言われるまま手を突き出すとレオン様も同じように手を突き出した。
そして、アラン様が呪文を唱えるとインテリジェンスカードが表示され、その後、カードが輝いて、私のカードに[所有者 レオン]と書き込まれていた。
私は驚き過ぎて、思わず「えっ?」と小さく声を漏らした。そして、レオン様が私のご主人様になったことが信じられなくて、自分のカードとレオン様を何度も交互に見てしまった。
すると、私の行動を不審に思ったのか、レオン様から声がかかった。
「ん?どうした?」
「あっ、いえ......」
「ふふっ。ロクサーヌ。カードを見せてくれ」
「あっ、はい。どうぞ」
慌ててレオン様にカードを見せると、彼は満足そうにうなずいた。
私はもう一度自分のインテリジェンスカードにレオン様の名前があることを確認した。
私、レオン様の奴隷になったんだ。
もう、彼と離れることなんて考えなくていいんだ。
そう思うと、心の底から安堵感と嬉しさがこみ上げてくることを実感し、しばらく幸せに浸った。