異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
奴隷を仕入れに出かけていた親父が、5日ぶりにドブローの出張所から帰ってきた。
今回は29人も仕入れたようで、荷運び奴隷のバザンはフィールドウォークで何往復もさせられたためか、強壮剤を飲んでいるのに疲れ果ててグッタリしている。
親父はバザンを労って今日は休むように言いつけると、先に連れてこられた奴隷たちを出迎えていた俺と世話係のサビアナおばさんに話しかけてきた。
「今戻った」
「旦那様。おかえりなさいませ」
「おかえり。かなり仕入れてきたね」
「うむ。訳ありもいるが、今回は概ね満足いく結果だ」
「訳ありじゃない奴隷なんてい...な...!」
話しながら親父があとから連れてきた奴隷を見渡している途中で、俺は固まった。
親父の後ろに前世の記憶で見覚えのある娘がいたからだ。
あの娘は...... ロクサーヌ?
魅惑的なとび色の瞳。髪はそれよりも濃い鮮やかな栗色。狼人族特有のフサフサとした大きな耳と同じくフサフサとした尻尾。
小説の挿絵でしか見たことはなかったけど、たぶん間違いないはず。
俺は思わず無詠唱で[鑑定]スキルを使ってしまった。
ロクサーヌ ♀ 15歳 奴隷
獣戦士Lv6
おおっ。間違いなかった。
[異世界迷宮でハーレムを]に登場していたメインヒロインだ。
かなり美人だしスタイルも抜群。
パッと見ただけでもかなりの器量良しと言えるだろう。
この容姿なら相当モテるはず。
周りの男たちが放っとくことは無いと思うが、なんでこんな娘が奴隷になったのか......
ジッと彼女を見つめながら、奴隷になった理由を思いだそうとしたけれど、前世の記憶に無かったのか、残念ながら思い出すことは出来なかった。
ロクサーヌをガン見しながら色々と考え込んでいると、そんな俺を不審に思ったのか、親父が話しかけてきた。
「レオン。どうかしたのか?」
「い、いや。何でも......」
「ほう......」
咄嗟に誤魔化したけど、親父からは訝しそうな視線を向けられてしまった。
しかし、強烈に彼女が気になってしまい、俺は自分を抑えきれなかった。
親父から目をそらし、改めてロクサーヌを見返すと、彼女は死んだような目をしていた。
さらに、ずっと俯いて床を見つめている。
他の奴隷たちは親父や世話係のおばさんから言葉をかけられると、そちらを見て返事をしているけど、彼女は小声でぼそぼそと返事をするだけで、決して顔をあげようとしない。
これでは...... せっかくの器量も台無しだな。
記憶の中の彼女は、明朗快活だけど普段はおとなしくて素直。しかし、戦闘となると積極的で、魔物に怯むことなく立ち向かえる。
さらに、主人への忠誠心も高く、心を許した後は夜の奉仕も積極的だった。
そんな理想的な女性だったはずなので、今の状態は非常に残念だ。
きっと彼女は奴隷として売られたことをまだ受け入れることが出来ていなくて、塞ぎ込んでいるのだろう。
加えて人間不信も併発しているから、こんな状態になっているといったところか。
たぶん彼女には、奴隷教育と並行し、心のケアも必要だと思う。
前世の知識が確かなら、彼女はもうすぐ16歳になるはずだ。
俺とは4歳差か......
確か今から90日くらい後。冬の87日目か、88日目には主人公がうちにやってきて、彼女は......
「はぁ......」
思わず溜め息を吐いてしまった。
そしてハッとした。
俺...... 今...... 彼女を渡したくないと思った?
何を考えているんだ。
彼女を教育してちゃんとした主人に引き渡すのが俺の仕事だぞ。
それなのに...... 俺は......
彼女を見つめて考えごとをしていると、世話係と奴隷たちにここでの生活を説明していた親父から声をかけられた。
俺はロクサーヌのことが気になるあまり、親父が近くにいることすら、すっかり失念していたのだ。
「レオン。話がある。ついて来なさい」
親父はそう言うと、廊下を歩いて普段は奴隷売買を交渉する際に使う応接室に入った。
俺は自分の失態を悔やみつつ、親父に続いて部屋に入った。
◆ ◆ ◆
応接室に入りソファーに座ると、おもむろに向かいに座った親父が口を開いた。
「レオン。私に何か言うことがあるんじゃないか?」
「えっ......」
親父の言葉と眼光の鋭さに動揺してしまい、思わず目を伏せてしまった。
親父が説明を求めてるのは、俺がロクサーヌを見知っている理由だ。
いや、見知っていることまでは気付いていないのかも知れないが、とにかくガン見していたことは説明しないとダメだろう。
チラッと見ると、また目が合ってしまった。
親父は俺に、無言で次の言葉を促している。
彼女を見て、動揺を隠せなかった俺が悪いのだけど、親父の表情を見て、俺は中途半端に誤魔化すことは無理だと悟った。
ついに、秘密を打ち明けるときがきたのか......
俺は10歳のときに前世の記憶を取り戻し、人には無い能力を得た。
そしてはじめは自分だけの特別な能力を得たことに調子づき、“強くなってから誰かを驚かしてやろう”なんてイタズラ心が疼いたので、自分に起きていることを誰にも打ち明けることはしなかった。
しかし、親父の手伝いをはじめ、この世界の常識や、貴族や王族のような存在を理解していくうちに、“自分の能力がバレたときにどうなるのか”、そのことに気が付いて恐くなり、逆に実の父親にさえ秘密を打ち明けることが出来なくなっていた。
武器や防具を身に着けて出かけていたことは知られてるから、親父に隠れて身体を鍛えていることくらいは気付かれてるとは思うけど、俺に前世の記憶があるなんて思いもしないだろう。
でも、さっきの態度は親父の前では致命的な失態だ。
ロクサーヌを得たいなら、俺の能力や前世の知識のことを黙っていることは無理だろう。
そこで改めて気が付いた。
俺は... なんとしても彼女を手に入れたいと思っているのか。
前世の記憶で知っているとはいえ、さっきはじめて会ったばかりなのに......
これは...... 一目惚れというやつか?
いや、そんなことは、いま考えることじゃないな。
うん。俺はロクサーヌが欲しい!
正直に、そう思う。
俺は覚悟を決めて、親父に全てを打ち明けることにした。