異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
扉が閉まると、部屋の中央に煙が集まり、ラピッドラビットが姿を現した。
ロクサーヌが魔物に向かって駆け出したのを横目で見つつ、俺はオーバードライブと念じて駆け出した。
そして、一気に彼女を追い抜いて、魔物に向けてラッシュと念じながらフラガラッハを振り抜いた。
更に反転してもう一度ラッシュと念じながらフラガラッハを振り抜くと、ラピッドラビットは煙に変わった。
オーバードライブの効果が切れると、魔物に向かって駆けていたロクサーヌの足が止まり、その場で呆然と立ち尽くした。
そして次の瞬間、これ以上ないくらい目を見開いた。
「ええええええええっ!レオン様っ!今の!今の何ですか?!すごいです!速すぎて殆ど見えませんでした!」
ロクサーヌはよっぽど興奮したのか、目をキラキラさせて俺の眼前まで飛び込んできた。
「ああ。今のはオーバードライブという勇者のスキルだ」
「ゆ、勇者のスキルですか!
昨日も一瞬すごく速く動いて攻撃していました。ですが、今のは凄すぎです!」
「はははは。昨日使ってたのは、オーバーホエルミングという英雄のスキルだな」
「勇者と英雄ですか。レオン様は自由にスキルを使えるのですね♪」
彼女は胸の前で両手を組み、鼻息を荒くしてグイグイと身を乗り出して迫ってきた。
まるで愛犬が主人に戯れついて、言葉を待っているみたいだ。
“くっ!可愛すぎる!”
普段の淑女然として落ち着いた態度とは真逆の状態の彼女に心を奪われつつも、何とか話を続けた。
「ま、まあ。オーバーホエルミングでもいける気がするけど、ラピッドラビットは素早く動き回って面倒だから、今回は確実に倒すためにオーバードライブを使ってみた。
いざという時は瞬殺できるから、次はこのスキルを使わずに戦ってみよう」
「はい。次は頑張ります!」
俺たちはドロップアイテムの兎の肉を拾って、ボス部屋の奥の扉を抜けて8階層に上がった。
そして、8階層の入口小部屋から、ダンジョンウォークで7階層のボス部屋に一番近い小部屋に移動した。
ゲートを出るとロクサーヌはボス部屋方向の匂いを嗅いで索敵をした。
「レオン様。ボス部屋までの間に魔物が湧いてます。スローラビット1匹と私の知らない魔物が1匹いると思います。
あと、待機部屋にさっきとは別のパーティーがいるみたいです」
「わかった。ロクサーヌはスローラビットを頼む。俺は知らない魔物を殺る。
それと、この階層はそれなりに混んでるから、別のパーティーとの接触回避は諦めて良い。
いざとなれば殲滅するが、接触したときはなるべく穏便にやり過ごそう」
「かしこまりました」
方針が決まったので、俺たちは2週目のボス戦に向けて迷宮通路を歩き出した。
2分ほど歩くと、前方に魔物が見えてきた。
1匹はスローラビット、もう1匹はミノだ。
“そうか、ロクサーヌはミノと戦うのは初めてなんだな”
そう思いながら魔物に向かって駆け出し、俺はミノを袈裟斬りにした。
今回はラッシュを使ってなかったが、それでもミノは一撃で煙に変わった。
一応スローラビットで試さないと確証は持てないが、どうやら7階層ならラッシュは必要なさそうだ。
ロクサーヌの方を確認すると、先ほど 同様スローラビット相手に無難に立ち回っている。
彼女は問題なさそうなので、俺はミノのドロップアイテムを拾ってアイテムボックスにしまった。
そして、もう一度彼女を見ると、兎の毛皮を持ってにっこり微笑んでいた。
「はい。レオン様。先ほどよりも、少し早く倒せた気がします」
ロクサーヌは兎の毛皮を渡しながら、少しだけ首を傾げた。
俺は「ちょっと待って」と声を掛けて、彼女に鑑定をかけた。
ロクサーヌ ♀ 16歳 奴隷
所有者 レオン
獣戦士Lv18
お、探索開始時は獣戦士Lv17だったから、1つ上がったか...
「ロクサーヌ。獣戦士のレベルが17から18に上がってる。たぶんラピッドラビットを倒したときにレベルアップしたんだろう。
レベルが上がれば強くなるから、魔物が早く倒せたんだと思う」
「そうなんですね♪」
「ああ。但し、レベルは段々上がりにくくなるから、そのつもりでいること」
「はい。
ところでレオン様のレベルはいくつなんですか?」
「ん?一応一番レベルが高いのは探索者なんだが、レベルは81だ」
「えっ?81?」
「ああ。81だ」
「えっ! ええええええええっ!
レオン様っ!それでは今すぐ迷宮討伐出来るのではありませんか?!」
「いや。さすがに一人じゃ無理だろう。それに、俺は迷宮を討伐するつもりはないからな」
「そうでした。目標は平穏な生活でしたね♥」
「ああ。でも、いざという時に備えて実力はつけておく。
先ずはロクサーヌのレベルを上げる。
次に、仲間を増やしてパーティーとしての実力を付ける。
そして、ゆくゆくは34階層から上の階層を探索出来るようになりたいと考えている」
「素晴らしいお考えだと思います。
私も一緒に頑張ります♥」
「ああ。よろしく頼む」
それから10分ほど歩き、俺たちは待機部屋に到着した。
しかし、先ほどと同じように、待機していたパーティーはおらず、ボス部屋の扉が閉まっていた。
「さっきと同じだな」
「そうですね。今回は近づいてくるパーティーはいません。扉が開くまでゆっくり休みましょう」
それから座って休憩を始めたが、3分も経たずにボス部屋の扉が開いた。
“3分だったら座らない方が良かったかも”
なんて思いながら俺たちは立ち上がった。
「ロクサーヌ。近くに探索者はいるか?」
「えっと....... 近くにはいません」
ロクサーヌはスンスンと匂いを嗅いで確かめると、他の
探索者はいないと断言した。
本当にすごい能力だ。
親父には、少し見栄を張って“彼女には100万ナールの価値がある”と言ったけど、こうして彼女の索敵力をまざまざと見せつけられると、あながち間違った評価じゃなかったと思える。
これなら、本当の意味でのボスマラソンが可能だ。
俺はそう思い、彼女に方針を伝えた。
「分かった。それならボスを瞬殺して8階に上がらずワープでこの部屋に戻ってこよう」
「そのようなことがお出来になるのですか?
ダンジョンウォークで待機部屋に移動することは出来ないはずですが...」
「ああ。俺のワープを使えば出来る」
「さすがはレオン様です!」
ロクサーヌは申しわけなさそうに、待機部屋には移動出来ないと言ったけど、俺が出来ると断言すると、パッと顔が明るくなった。
信頼してもらえているようで何よりだ。
「ロクサーヌ。ここからは本当のボスマラソンだ。では、行くぞ!」
「はい♪」
それからは、ボス部屋に飛び込んで、1、2分でボスを倒すと、ワープで待機部屋に戻った。
その度にロクサーヌに索敵させて、他のパーティーが近くにいないか確認し、再びボス部屋に飛び込んだ。
そうして10分ほどボス戦を繰り返し、ラピットラビットを6回(最初の一回と合わせて7回)倒した。
因みに最後、ロクサーヌの報告では、「他のパーティーの到着まで5分はかかると思います」ということだったが、相手側にも索敵できる狼人族がいないとも限らないので、ボスを倒した後は8階層に上がり、そこからダンジョンウォークを使って10階層に移動した。
◆ ◆ ◆
ゲートを抜けて10階層のボス部屋に一番近い小部屋に移動し、地図でボス部屋の方向を確認すると、ロクサーヌがスンスンと匂いを嗅ぎはじめた。
何も言わなくても自分の役割を理解しているので何よりだ。
そう思って見ていると、彼女の顔が険しくなった。
「レオン様。少し先に魔物と人の匂いがします。たぶん戦闘中だと思います」
「そうか。まあ、低階層だから仕方がないな。
ちょっとだけ近づいて、様子を見てみよう」
「かしこまりました」
この階層の魔物はエスケープゴートだし、ボスはパーンだからクーラタルの迷宮の中でもここは人気のない階層だ。
だから、他の探索者パーティーとの接触は低いと思っていたのだが、よりにもよって行く手を阻まれてしまうとは、ままならないものだな。
そう思っていたが、見えるところまで近づくと、魔物と戦っているパーティーはかなり苦戦していた。
魔物はエスケープゴート2匹と、ニートアント1匹だ。
対するパーティー側は、探索者Lv5、戦士Lv5、戦士Lv4、僧侶Lv4の4人だが、戦士の一人は動きが鈍く、脂汗を流している。
“あれはニートアントの毒を受けたな。毒消し丸を持ってないのか?
それより4人パーティーで平均レベルが5を切っているのにこの階層に挑戦したのか... 無謀な奴らだな”
そう思いながら見ていると、エスケープゴートのうち1匹が逃げ出した。
それとほぼ同時にニートアントが煙になったが、毒を受けていた戦士も倒れた。
パーティー側が有利になったけど、倒れた戦士はかなり苦しそうだ。
“あれは、今すぐ毒消し丸を飲まさないと危ないな”
そう思って見ていたが、残りの3人は魔物を倒すことを優先し、残ったエスケープゴートを3人で囲って3分ほどで煙に変えた。
戦闘が終了すると、3人は倒れた戦士を囲って悔やんでいるようだったけど、俺たちは彼等を無視して横を通り抜け、そのままボス部屋に向かった。