異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
ロクサーヌが商館に来てから72日。
たった今、グルカンというバラダム家の手先を追い返したところだ。
今後バラダム家がどう出るか...
今回のことを正直に報告すれば、バラダム家はサボーという男を送り込んでくるだろう。
そうすれば、こちらの思う壺だ。
前世の記憶とこちらで調べた結果を合わせて考えると、サボーという男は粗野で短気。何事も暴力で解決出来るし自分が世界一強いと思っている。
だから少しでも挑発されれば、すぐに決闘を吹っかけてくるはずだ。
そして、サボーはドープ薬を使って、強さを極限まで上げている。
確か薬の規定では50個までしか使ってはいけないことになっているけど、先日仕入れた情報によるとバラダム家が買い込んだドープ薬は100個を超えているとのこと。
何個かは他の家人が使ったかも知れないが、サボーの性格なら、大半は自分が使っているはず。
だから、サボーは間違いなく張りぼてのレベル99となっているだろう。
つまり、俺の特殊呪文、Lv99デスが効くはずだ。
仮に、Lv99デスが不発だったとしても、ただの獣戦士Lv99よりも、俺の近接戦闘仕様の方が強いはずだ。
いや、今までやったことはないけど、獲得経験値上昇20倍と必要経験値減少3分の1を外して、BP70ポイント分を敏捷性と腕力のパラメータに振り分けたら、先ず負けることはないだろう。
ただ......
グルカンが全て正直に報告することはないだろう。
何故なら自分の態度や不用意な発言のせいでバラダム家が盗賊扱いされたことが知れたら、グルカン自身が制裁を受けることになるからだ。
たぶん「ベイルの商館には、ロクサーヌはいなかった」と報告するのが精一杯だろう。
残念ながら、今回の件でサボーを引っ張り出し、バラダム家を崩壊に追い込むのは難しそうだ。
◆ ◆ ◆
バラダム家の手先を追い返してから10日経った。
さすがに諦めただろうと思っていたが、またしても怪しい客が来た。
次は問答無用で賠償金を請求すると言ってやったから、グルカンが報告してなかろうが、バラダム家に関係する奴だったら、捕まえて1億ナールの賠償請求。
そして払えないと言った瞬間に、バラダム家の当主に決闘を申し込む。
そして、のこのこ出てきたサボーを打ち取り、バラダム家を崩壊させてやる。
そう意気込んで応接室に入り、ソファーに座っていた男を鑑定すると、[ダユーム ♂ 19歳 僧侶Lv6]と表示された。
どう見ても狼人族だが、なんとなく線が細くて不健康そうな顔つきをしている。
それに、身なりは良いが、おどおどしている。
一言で言うと、なんか気持ち悪いやつだ。
そう思いながらも、とりあえずは客としていつも通り丁寧に接する。
「お待たせしました。当商館の副商館主、レオンと申します」
「ど、どうも。俺はダユームだ」
「本日はどのような者をお求めですか?
宜しければ、ご希望に合う者を紹介させて頂きます」
「ここに、ロクサーヌという狼人族の女はいないか?」
「ロクサーヌですか?当商館ではそのような名の奴隷は販売しておりませんが」
「いや、ここにいるはずだ」
「ふむ。そう言われましても......」
「帝国の南部から奴隷を仕入れてる商館は全てあたった。もう、ここしか無いはずなんだ!」
「その方は、本当に奴隷なのですか?」
「い、いや。でも、何処にもいないし。借金の方に奴隷になったとしか......」
「ほう。借金ですか...... 奴隷となる前に誰かが肩代わりしたということは無いのですか?」
「いや、バラダム家の奴等が目を光らせてるから借金を肩代わりする奴はいないはず。だから、ロクサーヌが奴隷になったら恋人の俺が助けるはずだったんだ。
それなのに、行方不明になってしまうなんて...」
ん?バラダム家の奴等?
コイツはバラダム家とは関係ないのか?
「バラダム家ですか......」
「そうだっ!だいたいアノ馬鹿どもがいなければ、今頃ロクサーヌは俺と結婚していたはずなんだ」
当たり前のように“恋人”とか“結婚していた”なんて言ってるが、コイツは...... ストーカーか?
あまり刺激しない方がいいな。
「はあ...... それは困りましたね」
「そうだ、困ってるんだ。頼む、助けてくれ!
金なら払う。だからロクサーヌを探してくれ」
「申し訳ありません。当家は奴隷商館でございます。
いくら対価を積まれても、人探しは出来ません」
「何でだよっ!金ならいくらでも払うって言ってんだぞ!」
いや、“いくらでも”とは言ってないだろう。
思わずツッコミたくなったけど、ここは自重だ。
まあ、言われていたら、必要資金として白金貨10枚出せくらい言って追い込んでやるとこだったが。
「申し訳ありません。私どもには人を探すノウハウがないのです」
「クソッ!どいつもこいつも当てにならねえ!」
ダユームはそう吐き捨てると、商館を立ち去った。
◆ ◆ ◆
その夜。
いつも通りロクサーヌと激しく愛し合った後、ベッドの中で眠りにつく前に、ふとダユームのことを思い出した。
言うかどうか少し迷ったけど、言わないでいて後で後悔することになるのは嫌なので、意を決してロクサーヌに話しかけた。
「ロクサーヌ。まだ起きてるか?」
「ふふっ♥ レオンさまぁ♥ なんですか?」
「今日商館に変な客が来たんだが。そいつは自分はロクサーヌの恋人だって言ってたんだよ」
「えっ?私にそんな人はいません。レオン様だけです!」
彼女は 思わずそう叫ぶと、俺の腕にギュッとしがみついた。
「いや、すまん。自称恋人だった」
「どちらにしても不愉快です」
「ハハハハ。だろうな。不健康そうな顔つきだったし、妙にキョドってたから、すぐに嘘だと分かったけど。
向こうはロクサーヌの名前を出したから、一応伝えておこうと思ってな」
「えっ?」
「狼人族の男にしては珍しく僧侶のジョブで、名前は... 確かダユームだったかな?」
「ひっ!」
ダユームの名を告げた途端、ロクサーヌの身体がビクッと震え、背中がゾワリと総毛立った。
驚いて彼女を見ると、顔を青くしてものすごく不安そうな表情をしていた。
「ろ、ロクサーヌ。大丈夫か?」
「レオン様。私のこと、言ってませんよねっ!」
「大丈夫。言ってないよ。それに奴はロクサーヌの居場所を知って商館に来たわけではない。
闇雲に回っている場所の一つがベイルの商館だっただけだ」
「そうでしたか。その人は私が以前いた探索者パーティーのメンバーです。
私にずっと付きまとっていた人で、バラダム家とは別の商人の息子です。
パーティーのリーダーたちに金を払ってメンバーにしてもらっていたようで、迷宮探索はついてくるだけで働いていませんでした。
私は二度とあの気持ち悪いボンボン僧侶には会いたくありません」
「大丈夫。ロクサーヌは俺が守るから」
「ありがとうございます。レオン様。大好きです」
「ロクサーヌ。俺もだ」
俺はそう言うと、彼女の唇に吸い付いた。
そして、もう一度、夜がふけるまで愛し合った。
◆ ◆ ◆
それから5日経った。
その日の朝、騎士団から商館に“昨日町の直近に迷宮が見つかった。今日から 騎士団が調査するので注意すること”という連絡が回ってきた。
確か、いま騎士団は“盗賊壊滅作戦”と称して町の治安回復に乗り出していたはず。
そこへ持ってきて迷宮か。精強な騎士団といえど、これは厳しい状況だな。
と、いうことはいよいよ明日か。
ついに[異世界迷宮でハーレムを]の主人公がやって来るんだな。
名前は確か... ミチ... ミツ... 駄目だ、思い出せない。
17歳の青年で、確か商人と一緒に奴隷を売りに来るはずだったな。
どうしよう。
いっそのこと、ロクサーヌは休ませるか。
それか、執務室から出さないように......
とにかく主人公には合わせない方が良いな。
俺はそう考えて思い切って親父に相談すると、「この商館で販売してない奴隷をどうやって客に紹介するのだ?」とあっけらかんと言われてしまった。
「安心しなさい。本来あってはいけないことだが、その客には奴隷は紹介しない方向で話を進めることにする」
「親父。ありがとう」
「はは。まだ何もしてないぞ。とにかくお前は、不慮の事故が起きないようにだけ、注意しておきなさい」
「わかった」
明日はいつも通り執務を行い、ロクサーヌは俺の手伝いをさせることをサビアナおばさんに了承してもらった。
そして、ロクサーヌ自身には、「明日の午前中はあまり良くない客が来る予定なので、ロクサーヌは俺の執務室で仕事をするように」と伝え、準備を整えた。
その夜。
ロクサーヌの全身に俺を刻みつけるように、何度も彼女と身体を重ね、最後は抱き潰してしまった。
そして、気を失ってそのまま眠ってしまった彼女の顔を見ながら、改めて誓った。
「ロクサーヌ。お前は俺のものだ。絶対に渡さない!」
そう呟いて彼女を抱き寄せ、俺も眠りについた。
翌日。
ロクサーヌがこの商館にきてから88日目。
ついにその日がやって来た。
少し緊張しながら書類作成を行なっていると、商人が奴隷を売りに来たという連絡が入った。
俺はロクサーヌを執務室に残し、商館の馬車用の駐車場に行くと、何度か見かけたことのある商人と一緒に見知らぬ青年が馬車の馭者台から降りてきた。
アイツが主人公か。
俺は奴隷を受け取りながらこっそり青年を鑑定した。
[ミツオ・カトウ 男 21歳 村人Lv9、英雄Lv4、盗賊Lv6 装備 決意の指輪]
ん?21歳?
あれ?こいつで合ってるのか?
ちょっと頭の整理がつかないけど、英雄のジョブを持っているし、何よりジョブが3つ。
アイツが主人公で間違いないんだろう。
ん、3つ!
まずい、鑑定だとセカンドジョブ以外も見えるのか?!
俺は慌ててキャラクター再設定でセカンドジョブ以下を外そうとしたけど、探索者が外れなくて滅茶苦茶焦った。
すぐにアイテムボックスのことに気づいてファーストジョブを探索者に替え、他を全て外してからミツオの様子を見たけれど、何故かヤツは商人を睨んでいて俺のことは気にしてないようなので、ほっと胸を撫でおろした。
それにしても、何か態度が悪いな。
イラついているのか?
口をモゴモゴさせながら、何か文句を言いたそうにしている。
うちの使用人と会話を終えた商人が、ことさら丁寧にミツオに話しかけると、ヤツは尊大な態度で返事をした。
アイツ、一緒に来た商人に気を使われていることに......
まあ、気が付かないんだろうな。
もう少しアイツの人となりを観察していたかったけど、気付かれたら面倒なことになりそうなので、俺はこの場を退散することにした。
俺は使用人たちと奴隷を取り囲むと、枷を確認したのちに医務室に連れていき、健康状態を確認した。
そして、1人を応接室の親父のもとに使わせると、家令のシモンには応接室の裏で待機、奴隷世話係のサビアナおばさんには、人間族の給仕を選定して客人2名と親父にお茶を出すよう指示した。
後は親父次第だな。
俺は湧き上がる不安を押し殺して、一度、深呼吸してから自分の執務室に戻った。