異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
ロクサーヌの身請けについて俺の思いを語り、親父に認めてもらった。
すると親父は笑いを収め、彼女の境遇を語りはじめた。
彼女は条件付きの奴隷として購入している。
その条件とは、彼女を決して狼人族には売らないということ。
そして、将来的にも決して狼人族には渡らないよう手を尽くすということだった。
普通ならこのような面倒な条件のついた奴隷は親父は買い付けない。
しかし、今回は彼女の容姿に加え、本人が性奴隷となることを了承しているということで、購入することにしたとのことだった。
つまり、彼女は同族から狙われる立場にあるということだ。
貴族が絡んでいるということではないようだが、親父の見立てではどうやら力のある人物から目をつけられているとのことだった。
親父の言葉を聞いて、前世の知識から思い出したことがあったので親父に伝えることにした。
「バラダム家という商会が絡んでいると思う。確か彼女は容姿を嫉妬されて、バラダム家の令嬢から目をつけられていたはず」
「うむ。それも、前世の記憶か?」
「はい」
「そうか。しかしバラダム家か... 確かに良い噂は聞かないな」
「知ってるの?」
「南部のアイエナという町を本拠地にしている大商会だ。但し、圧力をかけた強引な取り引きや、対価の踏み倒しの噂が絶えない。
現金商売以外では、間違っても取り引きしたくない商会だな」
「そうなんだ。確か俺の知識では、バラダム家の令嬢はロクサーヌの人としての尊厳を踏みにじる為に彼女の家を経済的に追い詰めて、奴隷に落とさせた。
しかし、奴隷となった瞬間にロクサーヌを購入しようと待ち構えていたけど、すんでのところでどこかに逃げられてしまったことになっている」
「そうか。酷い話だな。
確か、ロクサーヌを連れてきた男は私に対してさえもかなり警戒していた。
しかも、彼女にはフードを目深に被らせて、周囲から容姿を隠すようにして連れてきていた。
訳ありの場合はよくあることなので気にしていなかったが...... ふむ、そういうことか。
バラダム家の奴等が彼女に執着しているなら、先ほどお前が言ったように今後彼女を探して怪しい者が訪ねてくることになるだろう。
いくつか対策を考えていた方が良いな」
それから親父と2人で、今後の対応についてしばらく語りあったのだった。
数日後。
親父が不在のとき、商館に身なりの良い狼人族の初老の男が訪ねてきた。
俺が相対すると、彼は若くて見目の良い狼人族の女性奴隷がいないか訪ねてきた。
もしやと思い、「当館には狼人族の家内奴隷はおりません」と告げると、彼は「ふむ。では、家内奴隷でなくても狼人族の女性奴隷はいないか?」と条件を変えて訪ねてきた。
“こいつ、怪しいな”
そう思って手筈通りに戦闘奴隷を紹介することにした。
「戦闘奴隷ならおります。但し、はじめの条件からするとご満足いただけないかも知れませんが、それでも宜しいですか?」
「そ、そうなのか?」
「あっ、健康上は問題ありません。
非処女ですのでお値段的にもお買い求め易くなっております」
「あ、いや。家内奴隷でなくても良いとは言ったが、ある程度の見た目でなくては困る。
済まないが今回は出直すとしよう」
この男。紹介される奴隷がロクサーヌとかけ離れていることが分かった瞬間に引いたな。
二度と来ないようにダメ押ししておいた方が良い気がする。
「そうですか。それは残念です。あの、良かったら狼人族以外の家内奴隷は如何ですか?
今ならお勧めの娘がおりますが」
「い、いや。狼人族以外は紹介しなくて良い」
「さようですか。しかし、せっかく奴隷を買いにきたのですよね。でしたら狼人族ではありませんが、見るだけでもどうですか?」
「い、いや。本当に不要だ。本日は失礼する」
男はそう言うとソファーから立ち上がり、そそくさと帰っていった。
それからしばらく怪しい客は現れなかったけど、30日ほど経つと、また怪しい客がやって来た。
今度の客は探索者のようだが、パーティーメンバー3人での来客だ。
しかし、どう見ても金を持っているようには見えない。
全員狼人族で荒くれ者という感じだし、奴隷をまともに扱うようにも見えない。
待合室で武器を預かるよう伝えると、「はあ?お前、誰に指図してんだ?」とか、「それが客に対する態度か?」とか、「あー、今の言葉で傷付いちゃったなー。なんか補償してもらわねえとなー」などと口々に文句を言い、「詫びとしてもらってやるから狼人族の若い女を連れてこい!」と言って、案の定こちらを脅してきた。
しかし、待機させていた戦闘奴隷を呼んで取り囲み、「ふむ。ルールに従わずに脅しをかけるような輩はお客様とは呼べませんな。今すぐ立ち去らないなら問答無用で騎士団に突き出しますが」と親父が圧力をかけると、奴等は顔を青くした。
そして、男たちは急に愛想笑いを浮かべ、「あ、いや。そんなつもりは」とか、「お、脅すつもりなんて...」とか、「俺たちは、知り合いに頼まれて狼人族の女の奴隷を探しているだけで」などと言い訳をはじめたけど、親父は彼等の言葉を遮って「コイツラをつまみ出せ。暴れるようなら痛めつけてから騎士団に連れて行け」と言って前言通り問答無用で叩き出した。
男たちは口をパクパクとしていたけど、我が商館自慢の戦闘奴隷たちに囲まれて商館の外に放り出されると、呆然としながら町中に消えていった。
「どうやらあいつらは、ロクサーヌを探しにきたみたいだったね。でも、うちに彼女がいると気付いている訳じゃないみたい」
「うむ。だが、バラダム家がまだ諦めていないことも確かだ。
しばらくすると、また別の人間が来ると思っている方が良い」
「そうだね。しばらくは気を抜かないようにするよ」
それから10日後。
親父が予想した通り、また怪しい客がやって来た。
今度の客はあまり特徴のない商人風の人間族の男だ。
このときは俺が対応したんだが、最初のうちは普通の客だと思っていた。
最初彼は自分の商売を手伝う女性奴隷を探しているとこちらに要望を伝えてきた。
そして、詳しく聞くと、「商売に関しては一から教え込むので、女性であれば誰でも良い。だが、一緒に働くことになるのだから、女性奴隷を一通り見て、その中から選びたい」と言ってきた。
特別おかしなところもなかったので、2階の女性奴隷がいる部屋を回って一通り顔合わせをすると、彼は「申し訳ないがピンとくる女性はいなかった。他に女性奴隷はいないのか?」と聞いてきた。
「おりますが、容姿端麗な高級奴隷です。失礼ですが、お客様の要望にはそぐわないかと思いますが」
「そうかも知れないが、一応見せてくれ」
ん?何故見る必要がある?高級奴隷に一から商売を教え込むつもりか?
男の言葉を聞いたとき、俺は違和感を覚えた。
なので本来なら聞かないことを敢えて聞いてみた。
「失礼ですがお客様。ご予算は如何ほどですか?」
「へっ? あ、ああ。よ、予算は100万。100万ナールだ」
おかしい。普通は聞かれないことだけど、急に聞かれたからといって、こんなに動揺することでは無いはず。
それに言われたからって、普通、商人相手に予算を開示するか?
こいつ、素人だな。
こいつもロクサーヌを探しに来たのか?
違和感が拭いきれないので、俺はもう少し揺さぶってみることにした。
「そうですか。では、こちらに資金を積んで頂いても宜しいですか?」
「な、何でだ!」
「高級奴隷を紹介するのです。冷やかしの客にお見せすることは出来ません。何処の商館でも当たり前のルールですが......」
「う、その...... あっ!そ、そうだ。資金はとある人に預けてある。だから今は一般的な奴隷を購入する費用しか持ち合わせが無いのだ」
「そうですか...... なら、致し方ありません」
「で、では見せていただ......」
「本日はお帰り頂き、資金を御用意されてから、再度当館をお訪ね下さい」
“致し方ない”と言った瞬間、男は胸をなで下ろしたようだったけど、直後に言葉を遮られて再訪を促されると、その顔が引き攣った。
結局。
怪しい男は俺の言葉に反論が出来ず、肩を落として帰っていった。
「はぁ。これで3度目か。なかなかしつこい奴らだ。
いっそのこと、決闘でも仕掛けてくれば良いのだけど」
少し物騒なことを考えながら、俺も執務室に戻ることにした。