異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
その夜。
2人の寝息を聞きながら、ぼんやりと今日のことを考えた。
あの漫画と何が違ったんだろう。
いや、違うところはたくさんあった。というか、自ら変えてしまったことがいくつもある。
先ずはじめにこの村で、村長に女を要求した。
そして、ティリヒとセラの2人を差し出させた。
2人に寂しく余生を過ごさせない為の村なりの配慮と俺の要求が合致した結果なんだし、彼女たちも境遇を受け容れたようだったので後ろめたさは無いのだけど、
夫を殺されたその日の夜に、見ず知らずの男からの種付けを受け容れた彼女たちの葛藤は相当なものだったろう。
だが、俺のテクで女の悦びを教えてやったから、2人とも自分たちの選択を後悔するようなことはないだろう。
取り敢えず5日間は村に通って2人に種付けすることになってるし、俺の気分次第で延ばすことも出来ると思う。
色魔のジョブもゲットしたし、これに関しては漫画の主人公よりもかなりいい状況だろう。
次に、騎士団詰所で女騎士を煽ったせいで、町の盗賊を壊滅させなければいけなくなった。
美人で生意気な女騎士を性奴隷にしてやろうなんて考えた結果だから自業自得なんだが...... これは最悪まで一歩手前の酷い状況になってしまった。
商人が言った通りで期限が無いからまだマシだけど、ベイルの騎士団は根性腐ってそうだから、定期的に成果を上げないとちょっとやばい気がする。
迷宮討伐がうまくいかない腹いせに、投獄されるなんてことになったら目も当てられないから、こんな負の遺産は早めに片付けた方がいいな。
あとは、迷宮に入ったな。
確か漫画では明日行くことになっていたはずだから、漫画の主人公を1日リードしていることになるのか。
探索者のジョブをゲットしたし、いつの間にか戦士と剣士のジョブもゲットしていた。
しかも2時間足らずで探索者のレベルを4まで上げられた。
もう少しだけレベルを上げたら村人を外して探索者をファーストジョブに出来る。
そうすればインテリジェンスカードを見られても恥ずかしくないし、堂々と探索者と名乗れるようになるから、まあ、これは良かったんじゃないかな。
ただ、次は最悪だ。
盗賊のことなんて比較にならないくらい最悪だ!
ベイルの商館にはロクサーヌがいなかった。
いや、もしかしたら会わせてもらえなかっただけなのか、それとも既に売れていたのかも知れないけど、とにかく俺の前には現れなかった。
俺はそのことに動揺して誤った選択をし、揚げ足を取られて奴隷商に追い込まれた。
そして、最後は焦って余計なことを口走ってしまい、奴隷商に俺を出入り禁止にする為の口実を与えてしまった。
はぁ......
あれだけハッキリ言われてしまったんだ。
何があっても、もうあの商館には行けない。
必ずしも俺から何かしたわけじゃないけど、あの奴隷商は、最初に盗人を売りに行った時から俺への態度はそっけなかった気がする。
考えてみたら商人が俺をかなり持ち上げてたのに、あの奴隷商は俺のことは殆ど聞かなかったし、奴隷を勧めることもなかった。
よくよく考えると何となく余所余所しい態度だった気もするし、漫画とはだいぶ違う行動をとっていた。
もしかして、俺は会った瞬間から嫌われていたのか?
だったら何が悪かったんだ。
ちょっと偉そうにしてたのがマズかったのか......
それとも朝からティリヒやセラを抱いたことが、何か影響していたのだろうか......
匂いか?そんなことがあるのか?
ロクサーヌだったらありそうな気もするが、あの奴隷商が匂いを嗅いでたら...... キモッ!
いや、余計なことを考えている場合じゃない。
とにかく考えれば考えるほど、わからなくなる。
まあ、最初に盗人を売りに行った時は、気づかぬうちに言葉の行き違いがあったのかもしれない。
でも、2回目に行った時は...... やっぱりおかしいな。
結果的にだけど、あの商館にいた獣人の女性は全員見た。
ロクサーヌの名前を出したのはその後だから、彼女がいなかったのはやっぱり変だ。
漫画と何か違ったか?
まず、給仕としてロクサーヌが現れることはなかった。
奴隷商から彼女を進められることもなかった。
それ以外はないはずだけど...... ん?待てよ。
確か漫画の方は、装備品を売った後に主人公は商館に戻ってたな。
ところが俺は迷宮に行っちまった。
そのせいで商館に行くのが2時間は遅くなっている......
それに、商館の受付で、結構待たされたよな?
まさか、直前に売れたなんてこと...... あるのか?
そんなことがあるのか?!
もし2時間遅れたことがロクサーヌがいない原因だったら...... クソッ!俺は何やってんだ!
迷宮探索に行ったことが良かっただって?
もしタッチの差で売れてたんだったら、俺はただのバカじゃねえかっ!
「はぁー」思わずため息が出た。
そして、なんだか情けなくなってきた。
俺は、漫画の知識とチート能力があるからって、調子に乗ってたのか......
異世界まで来て、俺は何をやってんだろう......
俺はこの世界で何がしたいんだ?
考えてみたら、俺には目的も目標も、何もない。
ロクサーヌとセリーのことは、漫画通りに話を進めれば買えることになってたし、魅力的な能力があるから欲しいとは思っていた。
だから彼女たちを得ることは、目標の1つと言えないことはないだろう。
でも、それは 近い将来実現できる目標。というか俺にとっては通過点のようなもので、最終的な目標とは言えない。
俺には、この世界でどうしたいのか、何になりたいのか、という最終的な目標がないのだ。
いや、目標が無いのはこの世界に限ったことじゃない。
前の世界でもそんなものはなかった......
いや...... 無くなった。
わためが死んだと聞かされたあの日に、将来の目標なんてものは無くなってしまったのだ。
あの男たちや高飛車女に復讐はしたけど、新たに目標が生まれるなんてことは無かった。
俺には何も無い。
生きてる意味もないのかも知れない......
だから、[自殺の決意をする前に]なんてサイトが開いて、この世界に来られたのかも知れないな。
俺は何がしたいんだ...
俺は何のためにここにいる...
俺は... 俺は...
わため... 俺は何をすればいい?
脳裏に彼女の姿を思い浮かべていると、いきなりティリヒに抱き寄せられた。
いきなり何だ?と思った次の瞬間、今度は頭を撫でられた。
「ダイ、ジョブ... ダイ、ジョブ...」
えっ?なんだ?この女は急に何してんだ?
「ミツオ様。ダイ、ジョブ... 泣く、ナイ... ダイ、ジョブ...」
泣く?俺が? ......!
ティリヒの呟きを聞いて、俺は自分が涙を流していたことに気がついた。
どうやら彼女は泣いてる俺に気が付いて、頭を撫でて安心させようとしてるみたいだ。
だが、ティリヒに頭を撫でられても、残念ながら俺の心が癒されることはない。
彼女には少し悪いと思いつつ、わために抱かれて頭を撫でられている光景を思い浮かべた。
そして、“わため... 頼む... 俺を導いてくれ......”と心の中で呟きながら、俺はゆっくり意識を落としていった。
翌朝。
俺は思いのほかスッキリ目が覚めた。
昨日はロクサーヌには会えず、商館を出入り禁止にされるなんて悲劇があったにもかかわらず、なぜか気持ちは晴れている。
別にロクサーヌが全てじゃない。
手に入らないものに拘るよりも、なるべく良いものを手に入れて、大切にするべきなんだろう。
俺がこの世界に来た意味は分からないし、目標があるわけじゃないけれど、1つだけ分かったことがある。
それは、漫画の知識には拘らず、“本当の意味で、俺はこの世界で生きていかなくてはならない”ということだ。
「先ずは負の遺産を清算しないとな」
その為には、ベイルの町の盗賊についてちゃんと調べる必要がある。
漫画みたいに、偶然見かけた盗賊がアジトまで案内してくれるなんて、そんなご都合主義な展開は、普通に考えたらあり得ないことなのだ。
さて、朝食を済ませたら、あの町のスラムに行ってみるか。
ああ、その前にコートみたいな、身体を隠す服を買っておいた方がいいな。
ああ、それと、迷宮に入って少しレベルも上げとかないとな。
俺は心を入れ替えて、この日から盗賊壊滅に向けて動きだした。
それからしばらくの間、騎士団にも頭を下げて情報をもらい、盗賊壊滅に向けて真面目にやっていた。
女騎士から、「お前、憑き物でも落ちたのか?」なんて言われるくらいには。
なんせ俺には、それしか目的にすることがなかったからだ。
俺は......
きっとこのままこの世界に溶け込んで、何事もなく生きていくことになりそうだな。
そう思いながら、ただ黙々と日々を暮らし始めた。
そう......
自分自身を売りに来たという華奢で小柄な彼女を、商館の前で偶然見かけるその日までは......