異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
主人公訪問の裏で1【Side レオン】
俺はレオン。20歳の奴隷商人。
ベイルの商館の次期当主として、父の下で研鑽を重ねている。
また、自宅は帝都、南区外側の居住地区の一軒家で、奴隷のロクサーヌと二人で暮らしている。
[異世界迷宮〜]の主人公のはずだった、ミツオという男が商館を訪れた翌日。
俺たちは朝イチで、昨日のミツオとの遣り取りについて事のあらましを聞くために、親父の執務室に直行した。
因みにここにはロクサーヌもいる。
商館主の執務室の扉をノックすると、「どうぞ」と聞き慣れた親父の声がした。
「おはよう」
「おはようございます」
「......おはよう」
親父がロクサーヌを連れていることに驚いたようなので、俺は先に事情を話すことにした。
「昨日の話を聞きたいけど、先にロクサーヌを連れてくることになった経緯を話しておいてもいいかな」
「ふむ。彼女を見れば何となく想像はつくが、一応聞いておこう」
親父は苦笑いしながら俺に会話の初動を譲ってくれた。
俺は、昨日の昼のことを思い出しながら、彼女を連れてくることになった経緯を話し始めた。
◆ ◆ ◆
ミツオという男が帰り、ヤツから買い入れた奴隷にこの商館での生活を説明した後、俺は親父の執務室に行った。
「それじゃあ俺はロクサーヌを連れて今日は引き上げる。その......」
「ふむ。確かさっきのミツオという男が、もう一度訪ねてくるのだったな」
「ああ。前世の記憶ではそのはず...」
「先ほどは、敢えてあの男のジョブについては言及しなかったし、奴隷を勧めてもいない。
こちらが勧めてない以上、今日のうちにもう一度彼が訪れるとは思えないが...」
「俺もそう思うけど...」
「それでも来るのならどのような理由をつけてもう一度うちを訪れるのか、興味はあるな。
まあ、どちらにしても、対価がなければ奴隷を販売することはない。
それに、昨日も言ったがうちで販売していない者について、勧めることは無いし、顧客についての情報を漏らすこともない。
だから、あとは任せておきなさい」
「よろしくお願いします」
俺は親父に頭を下げ、後を任せて退出した。
そして自分の執務室に戻り、ロクサーヌを連れて自宅に戻った。
ワープゲートを抜けて自宅の玄関に戻ったとき、俺は思わず「ふぅ」と息を吐いて弛緩した。
思いのほか緊張していたようだ。
取り敢えずあの男からロクサーヌを遠ざけた。
後は親父次第だが、少なくても、もうあの男とロクサーヌが鉢合わせするような事故は起こらない。
ひとまず山は乗り越えたと考えても良いだろう。
ほっと一息ついていると、俺の表情を間近で見ていたロクサーヌから声をかけられた。
「レオン様。ほっとされているようですが、どうされました?」
彼女は俺の顔を覗き込んで小首をかしげ、不思議そうに俺を見ている。
「いや。午前中にあまり良くない客が来るって言ってただろ。その客とロクサーヌが顔を合わせずに済んだのでな」
「えっ? 私に関係ある人だったのですか?」
「いや、そういうわけではないが、お前に一目惚れして、売れってゴネられても困るのでな」
彼女の言葉に一瞬ドキッとして、思わず誤魔化してしまった。
「私はレオン様のものですよ?」
「世の中には道理も常識も通用しない奴もいるんだよ」
「そうですか... ちょっと怖いですね」
彼女はそう言うと薄ら寒そうに両腕をさすった。
しかし、次の瞬間フッと微笑んだ。
「でも、レオン様が守ってくれたんですよね?」
「まあ、俺はロクサーヌを遠ざけてただけだけどな」
「でも、一度見に行かれてましたよね? 確か、二人組が奴隷を売りに来たって聞いて」
「ああ。どんなヤツか見ておきたかったのでな。
というか、アレが良くない客って気づいてたのか?」
「はい。なんとなくレオン様が緊張していたので」
「はははは。そう見えたか。自分では緊張してるつもりはなかったが......」
「それで、どんな人だったんですか?」
「うーん。なんか態度の悪いやつだったな。まあ、もう会うこともないだろうから、忘れよう」
俺がヤツの話を終わりにしようとすると、彼女はスッと真剣な顔になった。
「レオン様。ちゃんと鑑定したのですよね?」
「ああ... その... そうだな。間違いなく危険なヤツだった」
俺は一瞬迷ったけど、ロクサーヌから有無を言わさぬような圧を感じたので、諦めてちゃんと話しておくことにした。
「ヤツの名はミツオ・カトウ。
人間族の21歳で、ジョブが村人、英雄、盗賊の3つだった。
つまり、ヤツは俺と同じで複数のジョブに就く能力があるということだ」
「えっ!レオン様と同じ能力ですか?!」
「ああ。決意の指輪を着けていたし、何よりサードジョブまで就いているから、ボーナスポイントを割り振って俺のように色々出来るに違いない。
まず間違いなく俺と同じように鑑定スキルも使えるだろうから、ヤツを鑑定して複数ジョブに就いてることに気がついた時はかなり焦ったよ。
すぐに探索者以外のジョブを全て外したけど、それでもレベルを見られたら警戒されると思ってヒヤヒヤした。
幸いヤツは他のことを気にしていたらしく、俺に気づくことはなかったようだったけど」
「そ、そうだったのですね。
ところでその人は盗賊なのですか?」
「ファーストジョブは村人だったから、インテリジェンスカードを見ても分からないけど、間違いなく盗賊のジョブに就いていた。
何をしたのかは分からないけど、ヤツが罪を犯していることは間違いない」
彼女はヤツの鑑定結果を聞くと、顔を青くした。
「その人はレオン様の知り合いの方なんですか?」
「いや、知り合いじゃない。俺が一方的にヤツを知っていただけだ。ただ、俺の記憶と少し違ってたんで戸惑ったけど」
「レオン様。何が違っていたのですか?」
「えっ? あ、いや。大したことは......」
「そうですか......」
詳しい説明を避けたかったので言葉を濁したけど、彼女はその言葉を聞くと、俺と目を合わせてスッと表情を引き締めた。
「レオン様。まだ話してないことがありますよね?」
「いや... その...」
「ありますよね?」
「......」
「レ、オ、ン、さ、ま」
彼女はそう言いながら、ぐっと俺に顔を近づけてきた。
圧がすごい!
どうするか... 今は“説明出来ない”と言って切り抜けることは出来るだろう。
でも、それはただの先延ばしだ。
ずっと黙っておくことは......
そう考えながら彼女と目を合わせ、俺は一瞬で諦めた。
うん。これは無理だな。
ロクサーヌと暮らしはじめてからまだ30日しか経っていないけど、俺たちは既に主人と奴隷という関係ではなくなっている。
いや、対外的には主人と奴隷なのかも知れないけど......
思わず彼女から目をそらせ、俺は彼女と生活を始めてからのことを思い返した。
俺はここ30日で、自分が如何に生活無能力者であったということを思い知った。
当初懸念していた炊事だけでなく、他にもまともに出来ないことがたくさんあったのだ。
先ず洗濯だが、服を洗えば汚れが残り、そうならないよう力を込めたら、部分的に色落ちしたり、服自体を破いてしまうことがあった。
掃除くらいはと思ったけど、部屋の隅に埃が残ったり、床には拭きムラが出来てしまった。
更に細かいところを拭こうとすると、棚に飾ってあった小物を落としたり、慌てて拾おうとして蹴とばしてしまい壊してしまった。
“生活に必要な物の買い出しなら”と思ったけど、まずもって必要な物の買い出しリストがまともに出来ず、リストに書いた物以外を気を利かせて買ってくることも出来なかった。
結果、何度も買い物に出かけることになり、今では彼女の同行なしでは行かせてもらえない。
生まれて20年。ずっと商館の使用人たちに頼りきっていた俺には、日常生活をまともに送ることはハードルが高く、たった3日でロクサーヌから戦力外通告を受けてしまった。
それでも何度か手伝おうと手を出したけど、その都度彼女から、「レオン様は主人として、家ではデンと構えていれば良いのです。家事は私がやっておきますので♪」なんて可愛く言われてしまい、遠ざけられるようになってしまった。
そして今では、風呂の準備と買い物の時の荷物持ち以外、家のことは何もさせてもらえない状態となっている。
かろうじて財布は死守しているが、それを握られるのも時間の問題のような気がしている。
ロクサーヌは商館で仕込まれたこともあり、家事スキルはかなり高い。
何も出来ない俺の代わりに家事全般をこなしてくれているし、日常生活において俺が至らない点については、やんわりと注意してくれることもある。
だから、対外的にはともかく、実質的に日常生活において、俺は彼女に頭が上がらない状態だ。
それだけでは無くロクサーヌとは身体の相性もピッタリで、毎晩たっぷり楽しませてもらっている。
彼女も悦んでいるのでお互いさまなのかも知れないけど、控えめに言っても最高の身体だし、奉仕する時の彼女の妖艶さは格別だ。
俺より4つも年下なのに、抱いてるときに彼女の纏う雰囲気は、娼館の女性にも引けを取らない。
贔屓目に見て、彼女に迫られて正気でいられる男なんていないだろう。
更に、迷宮探索でもレベルが上がるたびに動きが洗練されていき、魔物の攻撃を回避する動きには、思わず魅了されてしまいそうになる。
索敵能力にも磨きがかかっており、今では中層から下の魔物なら全て判別出来る状態になっている。
俺は彼女の夜の妖艶さと普段の可愛さ、そして日常生活や迷宮探索での能力の高さをまざまざと見せつけられ、たった30日ですっかり籠絡されてしまった。
そのことを、俺は自覚してはいるけれど、今はそれが心地よいので甘んじて受け入れているのだ。
少し話が逸れたけど、俺はロクサーヌに強く出られると、よっぽどのことでなければ逆らいたくない。
いや、彼女の思いを優先したいのだ。
だから、彼女が“まだ話してないこと”に関して知りたいと思うなら、リスクがあっても教えてあげたいと思ってしまう。
でも......
「はぁー」
俺は大きく一息吐くと覚悟を決めて、彼女と目を合わせた。
「ロクサーヌ。俺には前世の記憶がある。だけど、それを伝える勇気が無くて、お前にいくつか嘘をついてしまった。
途中できっと言いたいことがあると思うけど、ひとまず最後まで聞いてほしい」
「えっと... わかりました」
一応彼女の同意を得られたので、俺は10年前に自分の身に起こったことと、前世の記憶について覚えていることを話しはじめた。