異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
自分の身に起こったことと、前世の記憶について一通り話すと、ロクサーヌは「そうだったのですね......」と言って考え込んでしまった。
彼女に隠していたことや説明出来ずに嘘をついたこともあったので、きっと呆れていることだろう。
俺はしばらく黙って彼女の反応を待ったけど、無言のまま考え続けているので段々と不安になり、結局沈黙に耐えかねて口を開いた。
「本当なら、ロクサーヌは先ほど商館に来た男と人生を歩むはずだった。
それを、前世の記憶で何が起こるか知っていたことを良いことに、俺は自分の都合の良いようにお前の人生を変えてしまった」
「えっ?そんなことは......」
「いや。そんな綺麗なことじゃないな......
ロクサーヌが商館に来た日、俺はお前に一目惚れした。
だから俺は自分の欲望を満たすため、周りをうまく誘導して、ヤツからお前を寝取ったんだ!
俺は卑怯者だ。お前に相応しい男じゃない!
だから、見限られても仕方がないと思っている。
謝って済むことでは無いけど、本当に済まなかった!」
俺は 誠心誠意謝って頭を下げると、彼女から困惑したような声がかかった。
「えっと...... レオン様。頭をあげて下さい。
その... 私から全て話してほしいとお願いしたのですけど、想像したことも無い内容でしたので、ちょっと戸惑ってます。
ただ、レオン様は前世の記憶があったので私を見つけてくださったのですよね?」
「ああ、そうだけど」
「それと、寝取るとか、見限るとかの意味はよく分かりませんけど、前世の記憶についてのお話は、物語の出来事なんですよね?」
「確かにそうだけど...」
「私のことが書かれていたことは驚くことなのかも知れませんけど、所詮は物語の中の私のことです。
現実の私が物語通りの人生を歩む必要は無いと思いますし、そもそも私はレオン様と離れるなんて嫌ですよ?」
俺は、自分の欲望のまま彼女を主人公から寝取った。
そのことを話した結果、軽蔑され、呆れられて彼女の心が俺から離れてしまうことを恐れていた。
だけど、どうやら彼女は俺の態度に違う意味で呆れていたようだ。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、本当に良いのか?」
「はい」
「そうか......」
あっさり肯定したロクサーヌに驚いていると、彼女は話を続けた。
「あの... その主人公の人ですけど、物語の中の人は良い人なのかも知れませんけど、現実のその人も良い人とは限りませんよね?
言い方は良くないかも知れませんが、物語が現実になると思って従った結果、酷い扱いを受けて望まない形で何度も奉仕させられる可能性もあると思うのです」
「そう言われたら、否定は出来ないけど」
「私は性奴隷として商館に売られましたけど、運よくレオン様と出会うことが出来ました。
そして、幸運にもレオン様が身請けして下さったので、とても良い暮らしをしております。
これが現実の私です」
「そうだね」
「現実の私は幸せなのに、不幸になるかも知れない未来を選ぶことなんてあり得ません」
“私は幸せ”という言葉を聞いた瞬間、嬉しさが込み上げたけど、前世の記憶があるせいなのか“本当に俺で良かったのか?”というわだかまりが残ってしまう。
すると、それを察したのか、彼女は少しだけ怒り顔になった。
「もう... 先ほども言いましたけど、寝取るも何も、現実の私はレオン様のものですよ。
それに私は寝取られたのではなく、自らの意思で抱いて頂いたのです!」
「そ、そうか。変なことを言って悪かった」
思わず謝ると彼女は少し雰囲気が変わり、怪しい笑みを浮かべた。
「ですけど、ある意味私はレオン様に寝取られてしまったのかも知れません。
何故なら主人公の人に会う前に、すっかり貴方なしでは生きられない身体にされてしまいましたので」
「えっ?」
「ですから、レオン様には責任を取って頂き、一生私と一緒にいてもらいます♥」
「お、おう」
「その主人公の人はよく分かりませんけど、間違っても変な気は起こさないで下さいね♥」
「へ、変な気って」
「ふふっ♥」
ロクサーヌは急に妖艶な雰囲気を纏うと、俺の首に腕をまわして濃厚な口づけをしてきた。
そして、しばらくお互いの舌を絡め合うと、彼女はスッと顔を離した。
「レオン様。私を手放そうなんて考えないで下さいね♥
そんなことされたら、私は何をするか分かりませんよ?
ふふっ♥」
「わ、わかった」
彼女の表情を見たとたん、一瞬背筋にゾクリと悪寒が走った気がしたけど、次の瞬間には再度唇を重ねられ、そんなことはどうでもよくなってしまった。
口づけをかわし終わると、彼女はスッといつもの表情に戻った。
今のは演技だったのだろうか?
なんて考えが一瞬頭をよぎったけど、賢明な俺は黙っていることにした。
「ところでレオン様。前世の記憶通りだと、その主人公って人は、もう一度商館に来るのですよね?」
「ああ。なので、万が一にもロクサーヌと合わせないように帰ってきたんだが」
少しバツが悪そうに思っていると、彼女はそんな俺の態度を見てクスッと笑った。
「ふふっ。先ほども言いましたけど、物語と現実は違います。ですので、その主人公の人に会ったとしても、私の気持ちは揺るぎません。
レオン様も、私が貴方のものなのは当然のことで、誰からも非難される謂れはないと考えていて下さいね♪」
微笑みながらそう言い切った彼女を見て、“敵わないな”と 考えてしまった俺は、かなり重症なのかも知れない。
「わかった。俺も物語と現実の人は別物だって割り切ることにするよ」
俺の言葉を聞いて嬉しそうに頷くと、ロクサーヌは何かに気がついたような顔をして、もう一度口を開いた。
「ところで、レオン様は帰ってきてしまっても宜しかったのですか?」
「ああ、それな。
本当は自分で対処したいと思ってたけど、何だか親父が張り切ってたから、今回は任せてきた。
俺が言うのもなんだけど、親父の交渉力はピカイチだから、問題は無いと思う」
「そうですか。それなら明日は安心してお話が聞けますね」
「ああ。そうだな」
「それでは朝イチで伺いましょう」
「えっ? ......ロクサーヌも聞きに行くのか?」
俺が驚くと、ロクサーヌは不思議そうに首を傾げた。
「はい。そのつもりですが、私が聞いたら何か問題でもありますか?」
「いや、特に問題は無いが......」
「それでは私もご一緒しますね♪」
「......わかった」
結局彼女に押し切られ、翌日は朝イチで親父に話を聞きに行くことになった。
◆ ◆ ◆
「と、いうことがあって、ロクサーヌにも話を聞かせるために連れてきた」
昨日のことを搔い摘んで説明し、彼女を連れてくることになった経緯を伝えると、親父は納得したように小さく頷いた。
そして、俺たちにソファーに座るよう促して、自分は対面側に座って話し始めた。
「うむ。わかった。
それにしても、物語と現実は別物か。
ロクサーヌの方が、私たちよりも、よっぽど事の本質が見えていたようだな」
「あの。そんなことは...」
親父がロクサーヌの見識を褒めると、彼女は恥ずかしそうに俯いた。
「そう謙遜しなくても良い。君の考えた通り、レオンから聞いた前世の記憶にある物語の主人公と昨日現れたミツオという男は全く別物だった」
「そうだったのですか?」
親父がロクサーヌの考えは正しかったと言うと、彼女は少し驚いた。
可能性としては全くの別人ということもあり得ると考えていたけど、どうやら彼女自身はそれが正解だとは思っていなかったようだ。
「うむ。レオンの言った通り、昨日の夕方アノ男はやって来た。そして、その理由は、“ベイルの迷宮に入ることにしたから戦闘奴隷を探しに来た”というものだった。......最初はな」
「最初は?どういうこと?」
「ふむ。最初彼は、購入する奴隷は“戦闘経験に関してのこだわりは無いが、人間族以外の女性が良い”という条件をつけてきた」
「それはつまり、そういうことか」
「うむ。その通りだ。
戦闘奴隷とは言っていたが、態度からして、はじめから購入したら性奴隷として扱うことが見え透いていた。
実際、「ほう。他種族の女性ですか......」と言って目を合わせると、彼は「まあ、そういうことだ」と言ってあっさりと肯定していた」
「うーん... なんだか前世の記憶の主人公とは、雰囲気が違う気がするな」
「うむ。レオンの言う通りだ。なぜなら“戦闘奴隷を探しに来た”という話は嘘だったわけだからな」
「えっ?嘘?!」
俺が驚くと親父は小さく頷いた。
「うむ。彼はロクサーヌを探しにきていたのだ」
「えっ?私ですか?!」
ロクサーヌは自分の名前が出てきたことに驚いて、思わず立ち上がってしまった。
そして、「あっ!し、失礼しました」と言って、すぐに座り直した。
おかしい。
確か[異世界迷宮〜]の主人公は、この商館ではじめてロクサーヌを見たはずだ。
会ったことも無いのに彼女を知っているはずが無い。
ロクサーヌがうちにいるってことはこの商館の者しか知らないはずだし、商館の者には情報秘匿の重要性について十分教育しているから情報が漏れることはないはずだ。
度々来ているバラダム家の連中も、ロクサーヌがうちにいるって分かって来ていたわけじゃないし、仮にバラダム家から情報を得ていたとしても、彼女の容姿を知るはずがない。
それなのに何故......
親父は考え込んでいる俺を一瞥すると、フッとひと息吐いて話を続けた。
「話の続きだが、こちらは彼の要求通り、人間族以外の戦闘奴隷を一通り見せることにした。
該当者が9名いたので2部屋に分けて見せたのだが、そこでアノ男は怪しい動きをしたのだ。
先ず1部屋目の5人はしっかりと確認していた。
しかし、2部屋目に入った瞬間、彼は誰かを探すように周りをキョロキョロと見回し始めた。
そして残りの4人は殆ど確認もせず、私に向かってこれで全員かと確認してきた。
そこで条件に合う奴隷はこれで全員だと答えると、彼は人間族以外の家内奴隷を見せるよう要求してきた」
「条件を変えたのか。家内奴隷を探しに来て容姿に納得いかずに戦闘奴隷を見せろという客はたまにいるけれど、その逆はありえないな」
「普通はそうだが、彼は、“獣人は種族的に身体能力が優れてるから、戦闘奴隷でなくてもそこそこ戦える者がいるような気がする”なんて苦しい言い訳をしていたぞ」
「アイツは自分がおかしなことを言い出したことに気づいてなかったのか?」
「性格的に戦闘に向かないので紹介しないと言ったところ、「本人が戦闘を望まないなら、無理強いはしない」などと言っていたから、かなり混乱していたようだ。
彼には自分が失言している自覚はなかっただろう」
「もはや支離滅裂だな」
「この時点で誰かを探していることは明白だったが、誰を探しているのかまではわからなかったので、要求通り人間族以外の家内奴隷も一通り見せることにした。
そして 準備が出来たので彼に見せたけど、意中の人物がいなかったようで、彼は誰かを探していたことを誤魔化すように、「済まない。この中にもピンとくる者はいない。残念だが、奴隷購入はまたの機会にする」と言って商談を終わらせようとした」
「多分そう言っておけば、どんなに怪しまれていても再度うちを訪れる言い訳は出来るだろうと思ったんだな」
「うむ。私もそう思ったので、「当商館ではご期待に応えることは出来ないと思います。しかし、ご安心下さい。奴隷を扱う商館は他の町にもございます。
これに懲りず御納得のいく者をお探しになられた方が宜しいかと思います」と言って退館を促した」