異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
「つまり、二度とうちには来るなってことだね。
親父に道を断たれて、アイツはかなり焦ったんじゃない?」
「うむ。その通りだったな。
彼は見るからに動揺して、苦し紛れに「ロクサーヌという名の狼人族の女性を知らないか?奴隷になったと聞いたので、探しているのだが」と言い出したよ」
親父は自分の思い通りにミツオが口を滑らせたことが嬉しかったようで、ドヤ顔をしている。
しかし、一瞬の機転でヤツを追い詰めるとは、さすが親父だ。
「つまり自分から、戦闘奴隷を探していると言っていたのは彼女を探すための口実だったことを暴露したわけだね。
しかし、そこまでしてロクサーヌの所在が知りたかったのか?」
「うむ。私もその点は気になったが、先ずは彼を追い出すべきだと思い、その点については確認しなかったな。
そのときはロクサーヌについての話はせず、戦闘奴隷を探していると私を騙して彼女を探していたという彼の不誠実さを責めたてた。
そして、彼の言い訳は聞かずに、今後当商館の利用は遠慮するよう告げて、退館して頂いたよ」
「出入り禁止ってことか。苦し紛れにロクサーヌの名前を出したくらいだから、すんなり退館しなかったんじゃない?」
「いや。アドロンとサムロンの2人を呼んだら素直に退館してくれたぞ」
「いやいや、その2人はうちで一番の戦闘奴隷じゃないか。2人に囲まれたらさすがに抵抗出来ないだろ」
「その2人が一番なんですか?」
俺が疑問を口にすると、親父はニヤニヤしながら答えたので、思わず突っ込んでしまった。
すると、俺の言葉に何故かロクサーヌが反応した。
どうやら一番という単語が気になったようだ。
アドロンとサムロンの竜人族兄弟は親父のパーティーの主力メンバーなので商館内では名が知れていると思っていたけど、彼女は2人を知らないみたいだ。
「ああ。ロクサーヌは知らなかったか。
2人とも竜人族で体はかなり大きいし、ジョブも竜騎士で力もかなり強い。
両側から掴まれたら、俺でも動けないと思う」
「えっ!レオン様でもですか?」
「ああ。但し、掴まれたらだけどな」
「そうですね♪あくまで掴まれたらですね♪ふふっ♥」
ロクサーヌは俺の強さを間近で見てるので、実際に戦ったら負けることはないと思っているみたいだ。
俺は迷宮に入り始めてからもう10年。探索者のレベルも昨日の時点で83となっている。
だから、あの二人を同時に相手しても、まず負けることはないだろう。
だがミツオはどうだろうか?
確か駐車場でヤツを鑑定したときは、村人Lv9、英雄Lv4、盗賊Lv6だった。
アドロンとサムロンは竜騎士Lv30くらいだったから、スキルを使ったとしても、勝てるとは思えない。
素直だったかどうかはともかく、きっと抵抗出来ずに追い出されたんだろうな。
“運がなかったな”
俺は少しだけミツオに同情してしまった。
そう思っていると、ロクサーヌが申し訳なさそうに手をあげた。
「あの、ミツオという方はどうして私を知っていたのでしょうか?私にはその人との面識が無いのですが......」
ロクサーヌは先ほどのように取り乱したりはせず、冷静に疑問を口にした。
「ふむ。やはりバラダム家と関係があると見るのが妥当か...... レオンはどう思う?」
「親父の言う通りバラダム家の可能性もあるけど、俺は別の可能性を考えている」
「ほう。それは?」
「前世の記憶通りなら彼は異世界からの転移者で、この世界に来てまだ2日目だ。
しかも昨日はソマーラ の村に泊まっていて、ベイルに来たのは今日が初めてだったはずだから、彼がバラダム家とつながっているはずが無い。
だから、ロクサーヌのことは元の世界で得た知識なんだと思う」
「元の世界...... つまり、レオンが言うところの前世というやつか」
「突拍子もないと思うだろうけど、そう考えるのが自然なんだよな」
「ふむ...... そういうことなら辻褄が合うのか......
彼はこの商館にロクサーヌがいると思っていたから“戦闘奴隷で人間族以外の女性”という条件をつけたし、それなのに彼女がいなかったので混乱した。ということだったのだな」
親父は少し考えて、自分の中で納得できたようだ。
「どちらにしても、ミツオが出入り禁止になったので、俺としては一安心だ。親父、本当にありがとう」
「ふむ。こちらを騙して奴隷を購入しようとするような不誠実な人間には、ロクサーヌに限らず他の者であっても販売するつもりはない。
出入り禁止にしたのも正当な対応だと思っている。
だから、あまり気にすることはない」
「アラン様。正当な対応だったのかも知れませんが、私からもお礼を言わせて下さい。
私を守って頂き、本当にありがとうございました」
「うむ」
ロクサーヌが深々と頭を下げると、親父は優しく微笑んだ。
◆ ◆ ◆
それから10日経った。
朝イチで親父の所に行くと、スラムにいくつかある盗賊のグループのうち、2つのグループが壊滅したという話を聞かされた。
何でも凄腕の賞金稼ぎがいるらしく、3日前に1グループ、一昨日もう1グループを壊滅させたらしい。
しかも壊滅されたグループは、幹部をはじめかなりの人数が討伐されたとのこと。
おかげでまだ無事な盗賊グループはかなり警戒しているらしく、スラムや歓楽街には近づかない方が良いとのことだ。
この情報を持ってきた商人は「盗賊壊滅作戦を掲げていた騎士団は面子を潰されて、さぞかし機嫌が悪いだろう」と言っていたらしいけど、果たしてどうなのか。
ベイルの騎士団は盗賊壊滅作戦をはじめてすぐに新しい迷宮が見つかり、盗賊討伐と迷宮攻略がどちらも進まずに苦労していると聞いていた。
騎士団の上の連中は面子を潰されたなんて言いそうだけど、一般の騎士団員は賞金稼ぎに感謝してるだろうな。
ただ、こんな急激に討伐が進むと反動が無いのか?
なんか嫌な予感がする......
「盗賊のことだけど、スラムだけで済む話なんだろうか?」
「うむ。壊滅したグループには生き残りがいるらしいから、面倒なことになるかも知れないな」
「面倒なことって盗賊グループ同士の抗争ってこと?」
「いや。壊滅した盗賊グループに力はないから、抗争するようなことはない。
生き残った盗賊は他のグループに吸収されることが多いが、扱いが悪くなるから少人数でも独立しようとする場合がある。
その場合はスラムから逃げだして街の外に拠点を築くか、近隣の村を襲って占拠しようとすることがあるのだ。
厄介なのはこの独立する場合で、逃げるついでに民家や商家を襲ったりすることがあるのだ」
「民家や商家を襲うとすると、日中ってことは無いだろうから、夜中から明け方にかけてか......
その時間帯に警戒しないといけないのは面倒だね」
「ふむ。確かにそうだが、戦闘奴隷がいるからうちが襲われることはないと思うぞ」
親父は自信があるようだけど、盗賊が商館に押し入ったなんて話しは何度も聞いたことがある。
商館は奴隷の購入も考えて、常時それなりの資金があるから、リスクに見合うと考える輩も多いからだ。
確かにうちの奴隷たちは強いけど、盗賊たちがそれを知っているとは限らない。
何だか嫌な予感がするし、注意喚起しておいた方がいいだろう。
「そうだね。俺もそんな命知らずがいるとは思えないけど、ただ、商館には常時それなりの資金があるから警戒しておいた方がいいと思う」
「ふむ... 確かにそうだな。
そうだ、盗賊と言えば話してなかったが......」
親父はそう言うと、前に出入り禁止にしたミツオが売りに来た男が一昨日売れたと言い出した。
購入した客は二人組で来ていて、一人と交渉しているうちにもう一人が奴隷の男に小声で話しかけていたそうだ。
そちらの方にも注意を払っていたのだけど、何を話していたのか聞こえなかったので、商談成立後に奴隷の男に確認した。
しかし、「出身地や奴隷になった経緯など、当たり障りのないことを話しただけです」と言われたとのこと。
ただ、聞かれたことに動揺したのか、奴隷の男は目が泳いでいたし、何だか落ち着かない様子だった。
さすがに何か隠していると思い、奴隷の男を問い詰めたのだけど、「よく覚えていない」の一点張りで、結局聞き出せなかったとのこと。
「あの男は、“盗賊専用の装備品を盗もうとして奴隷の身分に落とされた”と、ミツオと一緒に売りに来た商人が言っていた。
もしかすると、この町の盗賊とつながりがあるのかも知れない」
「売却したなら今更心配することはないんじゃない?」
「その奴隷の男なんだが… 購入した客から「あてがう住居の準備が出来てないから明後日まで預かってくれ」と言われたので、今は売却済奴隷用の個室で預かっている」
「ということは、明日までそいつはこの商館にいるのか......」
「うむ......」
「考え過ぎかも知れないけど、タイミング的に何だか怪しくないか?」
「購入した者のジョブは商人だったが...... タイミング的には確かにそうだな」
「こういう時は、悪い方向で考えておいた方がいい」
「うむ、それならどうするか......」
それから親父と話し合い、念のために今晩と明日の晩は以下の対策を取ることにした。
①戦闘奴隷に商館の出入口を見張らせる
②緊急時に備え、俺も此方に泊まる
③夜明け前から日が昇るまで、完全武装で待機する
④寝ている間に何か有ったら、俺と親父に連絡を入れてもらう
それから、本日の業務予定について打ち合わせしてから自分の執務室に行き、昨日の収支まとめや備品手配書の決裁などの事務仕事を行なった。
そして、商館内の巡回を行い、お昼になったので食堂に向かった。
その後はいつも通りロクサーヌと一緒に昼食を摂り、一度帰宅した後にクーラタルの迷宮に向かった。