異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
ロクサーヌが商館に来てから60日が経った。
その日、朝から執務室で書類仕事をしていると、親父が彼女を連れてきた。
彼女はここに来た頃は自分の境遇が受け容れられず、無気力に過ごしていたけれど、この商館の雰囲気に慣れたのか、境遇を受け容れて前に進もうと気持ちが変化したのか、それとも奴隷教育の賜物なのかは分からないけど、60日でかなり前向きな態度に変わった。
ここ最近は、仕事の合間にそんな彼女を眺めることが楽しみになっていた。
そんな彼女はこの部屋に入ってから、何故かキョロキョロと周りを見渡していた。
その彼女の態度を見て、思わずフッと笑いが出てしまった。
「レオン。昨日まででロクサーヌの教育が終わった。
約束通り、今日をもってお前に引き渡す」
「親父。ありがとう」
「うむ」
「ロクサーヌ。今日からよろしく」
「えっ、あっ、はい」
俺が挨拶すると、彼女はかなり驚いていた。
この部屋に入ってきたときの態度も考えると、どうやら親父は彼女には何も話していないようだ。
親父はスッと真剣な表情になると、「では、二人とも左手を出しなさい」と言って手を出させた。
そして、親父も含めて3人の手を突き合わせると、呪文の詠唱をはじめた。
「滔々流るる霊の意思、脈々息づく知の調べ、インテリジェンスカード、オープン」
親父はインテリジェンスカードを表示させると、ロクサーヌの契約者を俺に変更したので、俺は自分のインテリジェンスカードを確認した。
レオン 男 20歳 奴隷商人 自由民
所有奴隷 ロクサーヌ
おおっ。所有者を移してもらったので当たり前のことなんだけど、自分のカードに表示されているロクサーヌの名前を見て、思わず感動してしまった。
彼女を見ると、「えっ?」と小さく驚きながら、自分のカードと俺を何度も交互に見ている。
「ん?どうした?」
「あっ、いえ......」
「ふふっ。ロクサーヌ。カードを見せてくれ」
「あっ、はい。どうぞ」
あたふたしている彼女を見て苦笑しつつ、カードの内容を確認した。
ロクサーヌ ♀ 16歳 獣戦士 奴隷
所有者 レオン
うん。所有者が俺になっている。
間違いなく彼女が俺の奴隷になったことに感動していると、親父が話しはじめた。
「レオン。今さら言わなくてもわかっているとは思うが」
「ああ。彼女は大切に扱うし、衣食住と税金も俺が保証する」
「うむ。では、今後のことを話そうか」
その後、親父と話し合い、以下のことが決まった。
・俺は早目に家を借りて、商館を出て生活すること
・商館にはフィールドウォークを使って通うこと
・毎朝必ず商館に来て、業務予定に変更が無いか確認すること
・仕事内容は今まで通りだが、正式に副商館主という肩書となり、今後俺に対しては10日毎に1万ナールの給金が支払われること
・俺の執務中はロクサーヌは商館付きの使用人として、裏方で働くこと
・ロクサーヌの働いた分の給金は10日毎に5千ナールで、主人である俺に支払われること
・ロクサーヌの代金として、10日毎に1万ナールを給金から天引きされること
結果、俺は10日毎に5千ナールの給金で、2人で生活することになる。
これは、一般的な使用人の給金と変わらないくらいの金額なので、俺はかなり優遇されていると思う。
因みに1ナールは前世の世界の10円くらいの感覚だ。
さらに、以下のことも取り決めた。
・俺が迷宮に入る際は自分のパーティーを率いること
・自分のパーティーはロクサーヌを筆頭に、今後、俺の力で集めた奴隷をメンバーとしていくこと
・当然のことだが、俺が迷宮探索で稼いだ金は、俺の収入とすること。
因みに親父のパーティーメンバーは、普段はローテーションで2人は親父の警護、3人は身体が鈍らないよう迷宮の8階層辺りを探索させるそうだ。
ロクサーヌは商館付きの使用人として働くと聞かされたときに少しだけ表情が曇ったけど、その後に迷宮に入る旨を聞かされると目を輝かせ、「戦闘はお任せ下さい」と言って胸を張った。
前世の記憶で知っていたことだけど、相当戦うことが好きなようだ。
その後も少しだけ今後のことを話して一通り方針が決まった後、ロクサーヌから何となく熱っぽい視線を感じたので、改めて俺と行動をともにすることを命じると、彼女は「かしこまりました」としっかり返事をしてくれた。
その後、家令のシモンと奴隷世話係のサビアナおばさんを呼んで、親父と取り決めたことを伝えると、シモンは「坊ちゃま。立派になられましたな」と言って感激し、サビアナおばさんはロクサーヌに「おめでとう。しっかりやりなさい」と激励の言葉をかけていた。
2人の心情ははかり兼ねるけど、俺がロクサーヌを身請けしたことを喜んでくれているので、正直ほっとしている。
◆ ◆ ◆
親父たちが退室したあと、ロクサーヌに少し手伝ってもらい、手早く書類を片付けた。
因みにロクサーヌ本人は気付いていないようだけど、彼女は通常の奴隷教育だけでなく、簿記や経営、歴史や地理、政治や社会情勢など、商館の事務や運営に携わる為の教育も受けている。
だから、即戦力として俺の仕事をサポート出来る人材となっていたりする。
但し、先ほどサビアナおばさんに、「ロクサーヌには私が花嫁修業をさせるから、当面副商館主としての仕事はサポート無しで頑張りなさい」と言われてしまったので、しばらくの間は孤軍奮闘しなければいけないようだ。
その後、親父に断わって、午後からロクサーヌと新居を探すことにした。
「ロクサーヌ。これから俺は、奴隷商人と探索者を兼務することになる。
それを考慮して、どこか住みやすいところに心当たりはないか?
ああ、俺は移動魔法が使えるから、距離的なことは無視してもいいぞ」
「えっ?私が意見しても良いのですか?
それに、移動魔法が使えるって。ご主人様は奴隷商人でしたが。
あっ!他に冒険者のパーティーメンバーがいるということでしょうか?」
「ん〜。魔法の件は追々説明する。今は住まいのことだけ考えてくれ」
「か、かしこまりました。
えっと、移動を考えなくても良いならどこでも良いような気がしますが、普段の生活を考えるなら、クーラタルか...... やはり帝都でしょうか」
「ふむ」
「移動を考えなくて良いといっても、村や小さな町では近所付き合いをそれなりにする必要があり、それが大変な場合もあります。
ですので、どちらかというと大きな町の方が良いと思います」
「やっぱそうだよな」
「はい。あと、実際の家探しは、その町の世話役に相談するしかないと思います」
「うむ......」
さてどうするか。
俺も考えていた通り、ロクサーヌもクーラタルか帝都が生活し易いと考えている。
前世の知識から考えると、クーラタルの住宅街は良いところなんだろう。
だけど...... もし[異世界迷宮〜]の小説のようにミチオが現れたら......
やはりここは帝都にするべきではないだろうか。
ベイルに通うならクーラタルよりも近いし。
環境的にはクーラタルの方が良さそうだけど、心の奥底に不安を抱えたまま暮らすのは遠慮したい。
ならば......
「ロクサーヌ。帝都に住んでみないか?」
「えっと...... はい」
帝都を選ぶと、何故かロクサーヌが不安そうな表情になった。
「どうしたの?」
「あの...... 私が帝都と言ったのですが、実は行ったことは無いので、その......
もし住みにくかったら申し訳なくて......」
「はははは。そんなに重く考えなくてもいいよ。
取り敢えず1年くらい住んでみて、合わなかったら引っ越せばいいし」
「そ、そうですか」
「それに、俺は帝都には何度か行ったことがあるから、住み易いということは何となく分かる。ただ、帝都はデカイから、住む場所は慎重に選ぶ必要があるけどな」
「帝都の中でですか?」
「ああ。治安が悪い場所もあるしな」
「そうなんですね」
「先ず帝都の中心には帝城や大貴族の邸宅などがあり、内壁に囲まれている中心地区がある。
そして、その周りが8つの地区に分かれている。
確か大きく分けて、神官ギルドなどがある北区、神殿がある北東区、商業ギルドがある東区、大型の常設店舗がある南東区、雑貨屋などの中小規模の常設店舗が多い南区、冒険者ギルドや探索者ギルドがある南西区、鍛冶師ギルドがあり武具店などが多い西区、薬師ギルドがある北西区だ。
この8つの地区が第1外壁内の地区で、その周りをぐるっと一般の人が住む居住地区が囲んでいる。
居住地区も第2外壁に囲まれていて、その外は森や畑、いくつかの街道があり、確かいくつか迷宮もあったはずだ。
とにかく大きな街だから、住む場所を選ぶのも一苦労かも知れないな」
「そんなに大きな街とは思いませんでした」
「まあ、そうは言っても南地区か南東地区の外側の居住地区が住み易そうだと思うので、先ずはそこで探してみよう」
「かしこまりました」
「良し。では今から帝都に向かおう」
こうして新居の場所を帝都に定め、2人で探しにいくことになった。