異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
騎士団詰所を出てからいつも通りに夜半まではベイルの迷宮を探索したけど、ベイル亭で食事した後にスラムに行くと、予想通りどの盗賊グループも警戒度が高い状態だった。
数人で組んでアジトの周辺を見回りしていたり、アジトの入口に篝火を焚いて数人で見張りをしていたり、
アジト周りの空き家や建物の陰に人がいないか調べていたり......
張り込みどころかアジトに近づくだけでも厳しい状況だったので、すぐに諦めて帰宅した。
翌日。
俺は今までと作戦を変え、アジトの中ではなくスラムの路地で辻斬りのように盗賊を始末し、死体はワープで迷宮に運んで処分出来ないか検討をはじめた。
気付かれないように襲撃を繰り返していれば、盗賊グループどうしを敵対させることが出来るだろう.....
歩いている盗賊を襲撃するなら、暗くなってから奴等がアジトに帰るまでが勝負だ。
今までよりも早い時間帯に盗賊への対処が必要となるので、俺は自分の活動時間を[夕方〜朝方]までから、[昼〜夜半]までに変更した。
活動時間を変えてみると、迷宮では他の探索者と出会うことが3割ほど増えた。
反対に魔物との接敵は少し減ってしまったので、モヤモヤした気持ちを抱えたまま、迷宮探索を終えることになった。
そして、夕方ベイル亭で食事をして、日暮れ直後にスラムに近づくと、盗賊たちが活発に動き回っていた。
奴等はスラムと娼館街やその先の町中を精力的に行き来しており、ときより大きな袋を担いでいたり、荷車に樽や木箱を満載にして移動している奴もいた。
俺は外套を目深に羽織ってスラムの入口に近い場所で建物の陰にうずくまり、通り過ぎる人物に片っ端から鑑定をかけていた。
そうしてしばらく盗賊を始末するタイミングを計っていると、絶好の機会がまわってきた。
盗賊Lv42の男が単独で歩いてきており、周りには誰もいなかったのだ。
俺は、自分が隠れている場所の前を盗賊が通り過ぎると、オーバーホエルミングと念じて飛び出し、男の後ろから首をかき斬った。
さらに、背中から心臓を突き刺すと、そのまま盗賊を建物の陰に引きずり込んだ。
オーバーホエルミングの効果が切れると盗賊はビクビクと痙攣したけど、ほんの10秒ほどで動かなくなった。
俺は隠れている建物の外壁にワープゲートを開き、盗賊の死体を抱えて通り抜けた。
そして、ベイルの迷宮7階層の小部屋に移動すると、背中から剣を引き抜いて左手を斬り落とした。
俺は左手を拾って持参した袋にしまうと、盗賊の死体から金目の物を抜き取って、体は迷宮の通路に向かって蹴り飛ばした。
そして、再びワープゲートを開いて先ほどの建物の陰に移動して、再び通り過ぎる人物に鑑定をかけはじめた。
そうして2時間ほど辻斬りを続けていると、盗賊が集団でカンテラや松明で物陰を確認しながら近づいてきたので、俺はワープでベイルの迷宮に逃げ込んだ。
2時間とはいえ、俺はレベルが高目な盗賊を中心に8人も殺していたので、行方不明となった者がいることに気づいた奴がいたのだろう。
これ以上は危険と判断し、俺は辻斬りを終了することにした。
そして、盗賊たちの左手からインテリジェンスカードを回収し、改めて本日の成果を確認した。
倒した盗賊は8名。
盗賊Lv47、盗賊Lv42、海賊Lv38、盗賊Lv34、
盗賊Lv29、山賊Lv26、海賊Lv22、盗賊Lv21
押収した装備品は18点。
銅の剣2本、シミター1本、銅のフレイル1本、ダガー4本
皮のジャケット2個、革の靴3個、皮の靴5個
押収した金は合計で13631ナールだった。
賞金首が何人いるのかにもよるけど、アジトを襲うよりもいい稼ぎになってるだろう。
但し、死体は見つからなくても血の跡は見つかるだろうから、襲撃があったことは明日には知れ渡っているはず。
次はどうやって盗賊を殺すか、また別の方法を考えないといけないだろう。
その後、俺は盗賊たちの左手を迷宮の通路に投げ捨て、それから2時間ほど迷宮探索を行なった。
そして、日が変わる前にソマーラの家に帰宅した。
◆ ◆ ◆
翌日。
昼過ぎに帝都に行って盗賊から入手した武器や防具を処分し、その後ベイルの冒険者ギルドに移動して、ここ数日分のドロップアイテムを処分した。
そのあと歩いて騎士団詰所に向かうと、町中を騎士たちが忙しなく走り回っていた。
何事かと思いながら騎士団詰所に到着し、案内係の騎士に盗賊を倒した旨を伝えてインテリジェンスカードを差し出すと、その騎士は血相を変えて詰所の奥に走っていった。
なんだ?昨日の襲撃はマズかったのか?
俺、何かやらかした?
そこはかとなく不安を感じながら待っていると、先ほどの騎士が戻ってきて、「申し訳ありません。詳細を確認したいので、ご同行願います」と告げて俺を詰所の奥に案内した。
10分ほど応接室のような場所で待たされると、いつもの女騎士と一緒に歴戦の猛者といった雰囲気のある初老の騎士が入ってきた。
瞬間、背筋に悪寒を感じ、思わず鑑定してしまった。
[ホーク・マキシナント・ゴッゼル 男 57歳 聖騎士Lv41 装備 鋼鉄の鎧 鋼鉄のガントレット 鋼鉄のデミグリーヴ 身代わりのミサンガ]
聖騎士!? もしかして騎士の上か?
ん?マキシナント・ゴッゼル?
もしかして、この女の父親か!?
思わず2人を交互に見て驚いていると、父親の方が口を開いた。
「どうかしたかな?」
「あ、いえ。何となく雰囲気が似てると思いまして...」
「ガハハハ。ラディア。だ、そうだぞ」
「似てません!この男の勘違いです!」
女騎士は瞬間的に激昂すると、俺をキッと睨みつけた。
どうやらこの女は父親と似てると言われるのが相当嫌なようだ。
「改めて、私はこのベイル騎士団団長のホークだ。
ミツオ君だったかな?
娘のラディアがお世話になっているそうで、君には感謝しているよ」
「お世話になってません!余計なことは言わないで下さい!」
女騎士はまた怒鳴ると、今度は父親を睨みつけた。
「初めまして。ミツオ・カトウと申します。
探索者ですが、色々ありまして近頃は賞金稼ぎの真似事をしており、お嬢様には大変お世話になっております」
丁寧に挨拶すると、女騎士は目を丸くして俺を凝視した。
そんな娘の顔をチラッと確認して微笑むと、団長は今の状況について説明をはじめた。
それによると、昨日スラムに巣食っている盗賊グループのうち、2つのグループの幹部が何人か襲撃されたらしく、そのまま行方不明になっているとのこと。
そして、どういう経緯でそうなったのかは分からないが、現在全く無傷なグループと、幹部が襲撃されたグループが一触即発の状態となっており、一部では小競り合いが発生していて何人か怪我人が出ているらしい。
「以上だ。それでは、昨晩何があったのか教えてくれるかな?」
今の状況を説明し終わると、団長は俺に真実を話すよう促して、ニッコリと微笑んだ。
しかし、目が全く笑っていない。
まるで、“貴様のせいで死ぬほど忙しくなってんだ!納得いく説明してくれるんだよなっ!ああっ!”とヤクザに迫られているような迫力がある。
仕方が無いので、俺は多少の嘘を混ぜながら、出来る範囲で昨日のことを説明した。
昨日は日暮れ直後からスラム入口付近の建物の陰に潜んで、単身で通り過ぎた盗賊を後ろから斬り殺し、建物の陰に運び込んでいた。
死体は協力者にフィールドウォークで移動させて隠し、一時的に行方不明を装った。
それを2時間ほど繰り返して8人を始末すると、盗賊連中が行方不明者を探しはじめたので、見つかる前に協力者のフィールドウォークで死体の保管場所に移動し、インテリジェンスカードを回収した。
因みに盗賊の死体はとある場所の迷宮に捨てたので、見つかることはない。
行方不明者を探している盗賊たちは血痕を見つけて仲間が襲撃されたことには気付くけど、安否がわからないから拉致監禁されている可能性が捨てきれない。
するとどうなるか?
犯人がわからないので、行方不明者が出ているグループは他のグループを警戒するし、仲間が監禁されていないか嗅ぎ回ることになる。
探られている側のグループも、自分たちが探られていれば相手を警戒するようになる。
その結果が今の状況なんだと思う。
「昨日の今日で盗賊グループ同士が対立することになるとは、思ってもみなかったけど......」
昨日のことに自分の考察を加えて話すと、団長は顎先をつまんで少し考えた。
あまり深く考えていなかったけど、盗賊グループ同士が対立することはあまり良くないことだったようだ。
「ふむ。盗賊どもが対立している原因はわかったが、君には協力者がいるのか?」
「一時的に雇っただけですが」
「ほう... まあ、それは良いか。
それより迷宮入口には探索者がいたはずだが...
いや、夜だから探索者がいなかったのか。
因みに何処の迷宮だ?」
「申し訳ありませんが、それについてはお答え出来ません。御容赦願います」
「うむ...... 仕方ないか......
ところで1グループだけ全く無傷だったようだが、それについて何か心当たりはないか?」
「それについては偶然です。
ただ、理由はわかりませんが、スラムの盗賊たちは、不自然なほどお互いに接触しないようにしていました。
昨日は2つのグループのナワバリが重なる場所で襲撃を行なったので......」
「偶然1グループだけ襲撃を受けることが無かったと......
はぁ.....」
団長はため息をついたあと表情を真剣なものに戻した。
「盗賊排除に協力してくれることは騎士団としては助かるが、盗賊グループ同士が対立しはじめた為にスラム周辺の治安が急激に悪化してしまった。
これ以上の悪化を防ぐためにも、盗賊たちが落ち着くまでは襲撃を自重してくれると有り難い」
「わかりました」
俺はそう言って深くお辞儀をし、懸賞金を受け取った。
応接室を出て詰所の入口まで行くと、女騎士から声がかかった。
「済まない。お前のおかげで短期間でこの町の盗賊は半減した。治安はかなり良くなっているし、騎士団としては感謝している。
しかし、急激な変化を好まない者もいるのだ」
彼女はそう言うと、拳を握りしめて少し目を伏せた。
それだけで、彼女が何を言わんとしてるのか分かった気がする。
多分上の方から圧力がかかっているのだろう。
もしかして以前騎士の一人がボソッと話していた男爵の影響か?なんて考えが一瞬頭をよぎったけど、口に出すのは憚られるので気休め程度に返事をした。
「いや、俺は気にしてない。とりあえずしばらくは自重するよ」
「そ、そうか。それは助かる」
返事をすると女騎士は緊張が解けたのか、少し雰囲気が柔らかくなった。
「と、ところで壊滅とは言わないが、お前はかなりの盗賊を討伐した。
その、約束したわけではなかったが、今度食事でもどうだろうか」
そう言うと、女騎士は少しだけ顔を赤らめた。
まんざらでもなかったけど、なんとなく今はそんな気になれなかったので、「わかった。そちらが落ち着いたら声をかけてくれ」と言って話を終わらせた。
そして、“この町の盗賊討伐は中断となったので暫くここに来ることはないだろう”と思いながら、俺は騎士団詰所を後にした。