異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
商館襲撃事件から4日経った。
襲撃を手引きした奴隷の主人も無事捕まり、俺たちはすっかり日常を取り戻している。
その日は商業ギルドの総会があり、親父は午後から出かけていたため俺は迷宮探索には行かず、午後も商館で働いていた。
日中は特に何事もなく過ごしていたけど、夕方、受付をしている使用人の1人が俺の執務室まで来て、商館の目の前で揉め事が起こったので、すぐに来てほしいと言われた。
何事かと思って商館の入口から外を見ると、そこにはミツオとうちの使用人。そして、フードを被った2人の小柄な人物がいた。
“チッ!なんでアイツが!”
俺は慌てて振り返り、後ろからついてきているロクサーヌを押しとどめた。
そして、右手で彼女の口を塞いで、小声で「ミツオがいる。見られる前に執務室に戻ってくれ」と伝えた。
俺の真剣さが伝わったのか、彼女は無言で頷くと踵を返して執務室に戻っていった。
俺はキャラクター再設定で探索者以外のジョブを外して、モメている場所に躍り出た。
状況を確認すると、フードをかぶった1人の腕をミツオが掴んでいた。
そしてブラヒム語で、「誤解すんな!俺は金を払うって言ってんだ!」と、もう一人のフードをかぶった人物に怒鳴っていた。
怒鳴られた男は、『あんた、何喋ってんだかわかんねえよ!いいから娘から手を離せ!』とミツオに向かってドワーフ言葉で怒鳴り返していた。
そして、うちの使用人は「こちらの方たちはウチに用があるって言ってんだ。とにかく一度、アンタは彼女から手を離せよ!」と、ミツオに食ってかかっている。
みんな頭に血が上っているようで、冷静な判断が出来なくなっているみたいだ。
なんでこんな状況になっているのかよくわからないけど、渦中の小柄な人物は、酷く怯えているみたいだ。
ずいぶん小柄だな...... この2人はドワーフか。
そう思いながらも、鑑定を使って2人を見た。
ガバール ♂ 41歳 鍛冶師Lv5
セリー ♀ 16歳 探索者Lv10
セリー?どこかで聞いた名前だな......
そう思って記憶の糸を探っていると、前世の記憶の中に思い当たる人物が一人いた。
そうだ!あの子も[異世界迷宮〜]の小説に登場していた娘だ。
確か... 何か理由があって自分から奴隷になることを提案したんじゃなかったか...
イマイチ思い出せないけど、とにかくこの場を収めないとマズイな。
俺はそう思い、行動に出ることにした。
俺はセリーを掴んでいるミツオの手首をガシッと掴むと、握りつぶす勢いで握力を込めた。
すると彼は「ウッ!」と唸って彼女を離したので、俺は握力を込め続けながら彼を睨みつけた。
セリーは解放されると、何故かそそくさと俺の後ろに回り込んで背中にしがみついた。
よっぽど怖かったのだろうか、少しでもミツオから身を隠したいようだ。
「彼女が怯えていますよ。冷静にお話ししましょう。
一体何があったのですか?」
俺がゆっくりと話しかけると、ミツオは少し冷静になったのか、俺の手を振りほどいて話し始めた。
「彼女は金に困って自分を身売りに来ている。だから、俺はその金を出すから身受けしたいって申し入れているんだ。
ところがコイツはよくわからない言葉をまくし立てるだけで、俺を無視して商館に行こうとした。
だから、俺は彼女の手を掴んで止めていただけだ。
そしたら商館からコイツが出て来て話をややこしくしやがった。
だから!」
「あっ!もういいです。あなたの主張は分かりました。次にこちらの方の話を聞きます」
俺はミツオの言葉を遮って、ドワーフ言葉でガバールに話しかけた。
ミツオは一瞬不満そうな顔をしたけど、とりあえず黙ったので放置だ。
『すみません。今の状況を教えてください』
『ああ。俺はこの娘をそこの商館に連れてきたんだ。
そしたら急にコイツが横から現れて、俺のしらん言葉で何かをまくし立てたんだ。
わけわからんからコイツを避けて商館に行こうとしたら、いきなり娘の腕を掴んだんだ。
だから離せって言ってんのに、全然離さねえ』
『わかりました。ところでこちらの方は、このお嬢様がお金に困って自分を身売りに来ていると言っていますが、そのことをこの方にお話しになったのですか?』
『はあ?そそそそ、そんなこと!お、俺は言ってない!
だいたいセリーを売ることは、家族以外知らないはずだ。
なんでコイツは知ってんだ!』
俺の言葉を聞くと、ガバールは激しく動揺しながらも、ミツオを指差して訝しんだ。
やはりそうだったか。
ミツオはドワーフ言葉を全く理解していない。
だから、本来彼はセリーが商館に来た理由なんて知っているはずがないのだ。
それなのに、ミツオはセリーの事情を知っていることが前提で、自分の行動の正当性を証言したのだ。
俺はそのことを不審に思ったけど、一応事情を話していたか、ガバールに確認してみた。
すると、案の定この男はミツオにセリーの事情を話してはいなかったし、ミツオのことを“家族しか知らない事情を何故か知っている怪しい人物”だと認識し、指を差して非難しだした。
俺は親父に聞いた印象から、ミツオは自分の知識通りに物事は進み、周りの人も自分の知識に殉じて行動するものだと思い込んでいる。
だから、上手く立ち回れば自分の思い通りにことを進められると考えている人物だと思っていた。
それと、窮地に追い込まれるとすぐに逆ギレするような堪え性のない人物で、考えなしに発言してしまうような傾向もある人物だとも思っていた。
つまり今回の件は......
セリーを見つけたミツオは、“彼女は金に困ってるから、金さえ出せばすんなり奴隷に出来るはず”と思い込んでいた。
それなのに、2人には言葉が通じず、自分の主張が通らないので堪えきれなくなって逆ギレした。
何となくそんなことじゃないのかと思いながら話を聞き出したけど、まさしくそうだったみたいだ。
ミツオは何故ガバールが自分を指差して喚いているか理由が分からず、俺に怪訝そうな視線を向けてきたけど、その視線は無視しつつ、うちの使用人にも話を聞いた。
「ランデル。君はなんでこの状況に巻き込まれてるんだ?」
「レオン様。すみません。
俺は食材の注文を仰せつかったので、今から問屋に行くところだったのですが、商館から出たところ、目の前でこの3人がもめていたのです。
なので仲裁するつもりで話しかけたところ、こちらのお二方はうちに用があると言っているのに、この男が納得せずに引き留めていたことがわかりました。
しかも、こちらの女性を自分に売れなどと言い出したので、白昼堂々こいつは何を言ってるんだと思い、とにかく引き離さなくてはいけないという気持ちになってしまいました。
そして、気づいたら口論しておりました。
面目ありません」
「うむ。だいたい状況がわかった」
ランデルと話していると、横でミツオが「チッ!てめえも商館の人間だったのかよ!」と吐き捨てるように言って俺を睨みつけてきたけど、とりあえずミツオは無視して考えをまとめた。
ランデルはともかく、ミツオとドワーフは話が全く噛み合ってないな。
それ以上に、ヤツは根本的なことを忘れている。
いや、本当に忘れているのか?
もしかして常識を知らないのか?
何にせよ、コイツにセリーを任せるわけにはいかないな。
俺はランデルにセリーと一緒に少し離れるように指示すると、言葉の端から責め立ててミツオを追い込むことを決意して、毅然とした態度で彼に向き直った。
「申しわけありませんが、貴方は何故、あちらの女性がお金に困っていると言っているのですか?
こちらの男性は、そんなことは伝えてないのに何故知っているのかと不審に思っているようですが」
「へっ? あっ! いや、直接聞いたんじゃなくて、知り合いから聞いたんだ」
かなり動揺しているな。
目が泳いでいるし、その知り合いって誰だよって話しだ。
「こちらの方たちの不審感を取り除く為、知り合いから聞いたということを伝えてもよろしいですか?
あと、どなたから聞いたのか教えて頂きたいのですが」
「いや。その、内密にしてくれって言われてるから、知り合いのことは黙っていてくれ」
フッ。苦しい言い訳だな。もう少しイジメてやるか。
俺はミツオが失念していることをぶつけることにした。
「はて、困りましたな。それではこちらの方の不審感を取り除くことは出来ませんが。
それと、失礼ですが貴方は奴隷商人ですか?」
「いや、違うが?」
「ならばどうやって、彼女を身請けするのですか?」
彼は一瞬呆けると、次の瞬間には目が泳ぎだした。
「そ、それは、何かやりようがあるだろう」
「つまり、ノープランということですか」
「そそ、そんなことはない」
ノープランという言葉にミツオが動揺したので、俺は一気に彼を追い詰めることにした。
「貴方は以前のおこないで、当商館を出入禁止にされていますよね」
「なっ!」
「やりようですか。信用の無い貴方が、何をどうすればこの女性を身請け出来ると思っているのですか?」
「ああっ!そんなこと、てめぇに関係ねえだろ!」
自分の不利を悟ったのか、ミツオはいきなりブチキレた。薄々感じていたけど、これがこの男の本質なんだろう。
こういう男は感情に任せて突発的な行動を起こすから、いざとなったら奴隷に何をするかわからないな。
俺は、奴隷商とは単なる人身売買の許可を得た人間なのではなく、借金を背負ってしまった者や軽い罪を犯してしまった者に適切な教育を施して、新たな人生を歩ませる。そのきっかけを作る人間だと思っている。
だから売る時は、奴隷を大切に扱う人物かどうか面談して確認しているし、問題のあると感じた時は販売を断っているのだ。
だから、少なくても今のミツオには奴隷を売ることなんて出来ないし、そういう意味ではコイツを出入禁止にした親父の判断は間違えはなかったということになる。
とにかくこちらは冷静に、理詰めで話して彼を追い返す。
改めてそう考え、一度深呼吸してから俺は言葉を発した。
「いえ、関係ありますよ。何故なら彼等は当商館のお客様なんですからね」
「ここは店の中じゃねえ!だから、まだコイツらはお前の客じゃねえんだよ!」
「そうですか。
つまり貴方は、彼女を奴隷に落として身請けするから、奴隷商館を通さずに直接自分に売れと。
こちらの方に、そう言っているのですか?」
「そうだっ!文句あんのか!」
「その資格も無いのに?」
「はあ?資格だあ?」
「はい。奴隷を商う資格です」
「ああっ!奴隷を商う資格だと!
資格...... だと...... 資格...... ひ、必要なのか?」
たった今までキレ散らかしていたミツオは、頭から冷水をかけられたみたいな表情になり、急激におとなしくなった。
「そんなこと、常識でしょう。
先ほどから貴方は無許可で人身売買を行うと言っているのです。それは、犯罪行為ですよ」
「そう...... だったのか......」
「申し訳ありませんが、引いて下さいませんか?」
ミツオは顔を真っ青にさせると、体を小刻みに震わせながら、俺に向かって手を伸ばしかけた。
「いや... その... 済まなかった。
その... 金なら払う。
いくらでも払うから、彼女を譲ってくれ......」
「お断りします」
きっぱりと断ると、ミツオは膝から崩れ落ち、四つん這いになって地面を見つめた。
しかし、次の瞬間に顔を上げて俺を見上げると、奴は両手を伸ばして俺の足にしがみつこうとした。
なんて諦めの悪いやつだ!
組みついて認めてもらうまで粘ろうとでも思ったのか!
俺は、スッと下がってその手を躱し、文字通り上から言葉を叩きつけた。
「素直にお引き取り下さらないなら、騎士団を呼ぶことになりますよ。
その時は、貴方が人身売買を持ちかけて、この少女に暴行を働こうとしたことを証言します。
腕を掴んで離さなかったようですからね。
周りにこれだけ証言者がいますから、貴方の有罪は確定ですよ。
それでもよろしいのですか?」
強い言葉で最後通告すると、彼は「くそっ!くそっ!」と叫びながら何度か地面を殴りつけ、それからフラフラと立ち上がった。
そして、彼は一度俺を睨みつけると、肩を落としてこの場から去っていった。
離れた位置でミツオはこちらを振り返っていたようだけど、すぐに見えなくなったので、俺は改めて2人のドワーフに向き直った。
そして、ホッとしている2人に『災難でしたね。私は当商館の副商館主をしているレオンと申します。お話を伺いたいと思いますので、どうぞ、こちらにお越しください』と声をかけ、商館への移動を促した。