異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
セリーを商館で仕入れた日の夜。
親父が商館に戻った時間は日が暮れてから1時間ほど経ってからだったけど、その時間まで俺が残っていたことに気が付くと、少し驚いて声をかけてきた。
「レオン。こんな時間まで残っていて、何かあったのか?」
「あ、おかえり。商館の運営には何も問題は起きてないよ」
「そうか。それなら良いが」
「親父にお願いしたいことがあって、出来れば今日中に話しておきたかったから残ってたんだ」
「ふむ。言ってみなさい」
「先ほど1人女性奴隷を仕入れたんだけど、その女性を俺のパーティーメンバーに迎えたいんだ」
「どんな娘だ」
「名前はセリー。16歳のドワーフで 探索者レベル10の娘だ。但し、鍛冶師と巫女に挑戦したけど、どちらもなれなかった経緯がある。
処女で容姿も悪くなく、奴隷としてやっていく覚悟が備わっていたので7万ナールで仕入れている」
「なるほど。前衛として育てるつもりか?」
「最初は前衛をやってもらうけど、彼女は鍛冶師になれるはずなので、メンバーが揃った時には中段に配置しようと思っている」
「なれるはず?
もしかすると、彼女はお前の前世の記憶に関係する娘なのか?」
「そうなんだ。それもあるけど、彼女は知識が豊富で頭の回転も速い。パーティー編成を考えると、是非欲しい人材なんだ」
「ふむ...... それならどの程度の教育を考えているのだ?」
「迷宮探索での活躍だけじゃなく、鍛冶師になれたらそちらの仕事も期待したい。
だけど、基本的には商館の仕事も手伝わせるから、ロクサーヌと同等の教育を施してほしい」
「わかった。では次に彼女の価値だが、どれくらいと考える?一応ジョブについては探索者Lv10で考えて良いぞ」
「ありがとう。それなら50万ナールで」
「ふむ。まあ妥当な金額だな。それで対価はどうするつもりだ?」
「今回は一括で払うよ」
「ふむ。彼女は初年度奴隷となるから、その辺りも忘れるなよ」
「大丈夫。蓄えはあるから問題ないよ」
「わかった。では最後だが、その彼女のパーティー加入について、ロクサーヌの承諾はもらえているのか?」
「ああ。先ほどもらった。大変だったけどね」
「フッ。なんだかすっかり頭が上がらなくなってるな」
「そうなんだけど、その方が楽なんだよね」
親父の言葉に返事をしつつ、俺は1時間ほど前の出来事を思い出した。
◆ ◆ ◆
1時間前。
セリーをサビアナおばさんに預けると、俺は応接室を後にして自分の執務室に戻った。
「おかえりなさいませ」
「はははは。ただいま。
まあ、目の前に出かけただけだけどね」
扉を開いた途端、ロクサーヌが深々と頭を下げて俺を出迎えてくれたのでちょっと驚いたけど、それよりも商館の目の前に出ただけなのに、帰りを待ちわびていたような態度に思わず笑ってしまった。
「そうですけど... ところでどうなったのですか?」
「そうだな。先に結果を言っておくけど、次のパーティーメンバーが決まった」
「えっ!」
「次のメンバーはセリーというドワーフの女性で、16歳。たっ......」
「女性ですか......」
「う、うむ。それで、彼女は探索者Lv10だ。
それから、彼女にはロクサーヌと同じ教育を受けさせるつもりなので、ご......」
「私と同じ... ですか......」
セリーという“女性”と言った次の瞬間、ロクサーヌから背筋が凍るほどぞっとした雰囲気が伝わってきて、思わず言葉を止めてしまった。
そのあと気を取り直して話を続けたけど、“同じ教育を受けさせる”というと、再び彼女から尋常ならざる気配が伝わってきた。
「いや... その... だから、合流するのはまだ先だ」
「......」
プレッシャーに耐えきれず、苦し紛れに「ろ、ロクサーヌは先輩として、彼女が合流したら色々と教えてあげてくれ」と俺の希望を伝えると、一気に雰囲気が弛緩した。
彼女は満面の笑みを浮かべ、「かしこまりました。一番奴隷として、セリーさんは私がしっかりと教育します!」と力強く宣言した。
どうやら彼女の中では、先輩+指導者=一番奴隷ということになったようで、自分が俺の一番に位置付けられていることが確認出来たことにより気持ちが落ち着いた...
というより、一気にやる気が漲ったみたいだ。
「あ、ああ。その、宜しく頼む」
彼女の勢いに押されて一番奴隷であることを自然と受け入れてしまったけど、それで機嫌が直るなら問題ないと思い、そのまま任せることにした。
「それじゃ、何があったか詳しく説明する」
「お願いします」
ロクサーヌがやる気になってるうちに順を追って説明を始めると、最初はミツオの態度にプンスコと怒り、「信じられません!」などとツッコミを入れていたけど、だんだん呆れて物も言えないといった感じになった。
そして、一通り話を聞き終わると、彼女は顎に手を当てて、自分の考えを整理するように呟いた。
「ミツオって人は、思っていた以上に粗暴だし、頭も悪いのですね。
いきなり初対面の女性の手を掴むなんてあり得ませんし、止めるならガバールという人にすべきだったと思います。
それに、ランデルさんは通訳として使えば良かったのに、ちょっと指摘されたからって激昂して言い合いするなんて、何だか狼人族のダメ男みたいですね」
「まあ、奴隷商館を通さない人の売買が犯罪ということを知らなかったようだから、冷静に対処していても途中でランデルが話を止めて、結局もめることになっていたと思うよ」
「つまり、ミツオがセリーさんを入手することは不可能だったということですか」
ロクサーヌはミツオを見下したのか、完全に呼び捨てになった。
「いや。アイツがドワーフ言葉を理解していれば、なんとか出来たと思うよ」
「えっ!どういうことですか?」
「セリーを連れてきたガバールという男なんだけど、ミツオを追い払った後に話したら、セリーが高く売れれば彼女がどうなろうと知ったことではないという感じのヤツだった。
だから、裏で金を掴ませて口裏を合わせてもらい、そのうえで他の町の奴隷商館に仲介を頼めば、彼女はアイツの奴隷になっていたと思うよ」
「そうでしたか。セリーさんってなんだか可哀想な人ですね」
「フッ! ......そうだな」
「えっ?レオン様?そこは笑うところじゃないと思いますが」
ロクサーヌがセリーの境遇に同情したことが可笑しくて思わず吹き出してしまうと、彼女は少し呆れた感じでツッコんだ。
「いや、ロクサーヌもセリーと殆ど同じ境遇なのに、自分そっちのけで彼女に同情してるもんだから、なんだか可笑しくなってしまってな」
「同じ? ......ふふっ♥」
ロクサーヌは表情を蕩けさせると、上目遣いで俺を見つめた。
そして、少し恥ずかしそうにしながら口を開いた。
「私は今が幸せなんで、いいんです♥」
「そ、そうか。それはなんだか嬉しいな。
ところで改めて確認するけど、セリーのパーティー加入は承諾してくれるか?」
「そうですね... レオン様がパーティーに加えると言うのなら、私に否はありません。
ですけど、許されるなら、一度面談して本人のやる気を確かめたいと思います」
「ふむ... わかった。
たぶん明日の朝イチに親父に面談させることになるから、その時に確認してくれ」
「わかりました。
ところで彼女が合流するのは、まだ先なんですよね?」
「ああ。ロクサーヌと同じ教育をするよう頼むから、2ヶ月はかかると思う」
「そうですか......
ふふっ♥ それまでは、2人っきりですね♥」
「ああ。そうだな」
「レオン様。
次にメンバーを決めるときは、私に相談してからにして下さいね♪」
「わ、わかった」
甘い雰囲気のまま話がまとまったと思ったけど、最後の最後にロクサーヌから目が笑っていない笑顔を向けられてぞっとした。
だけど、なんだかこのまま話が終わるのは負けたような気がしたので、返事をしたあとにロクサーヌに近づき、不思議そうに俺を見ている彼女を抱き寄せた。
そして、驚いて固まっている彼女の唇を奪うと、その顔を蕩けさせるまで堪能してやった。
◆ ◆ ◆
「うむ。彼女の承諾を得ているなら問題ないが、一応明日、本人と面談してから最終決定とする」
「宜しくお願いします」
セリーのパーティー加入について、ロクサーヌの承諾を受けていることを伝えると、親父は俺がセリーを身受けすることを承諾してくれた。
一応面談するとは言っているけど、それは俺が選んだ娘を見ておきたいということで、面談次第で彼女の身請けを否定するわけではないからだ。
「それじゃ取り敢えず対価は精算しておくね」
俺はそう返事をすると、アイテムボックスを開いて金貨を50枚取り出した。
そして、その金貨を親父の執務室に設置してある金庫に収納した。
翌日。
朝イチで親父の執務室に行くと、すぐにサビアナおばさんがセリーを連れてきた。
『セリーです。宜しくお願いします』
『うむ。私はアラン。この商館の主だ。ここのルールは聞いたかな?』
『はい。昨日サビアナさんから教えて頂きました』
『そうか。ドワーフにしては背が高い方だな。それに、容姿も悪くない。
ブラヒム語や礼儀作法をしっかり学んで身につけられれば、必ず明るい未来が待っている。
だから自分のためにもこの商館でしっかりまなび、自分を磨きなさい』
『はい。頑張ります』
親父から励ましの言葉をかけられると、セリーは返事をしながらペコリと頭を下げた。
親父との話が終わったので、昨日聞き忘れたことを彼女に確認した。
『昨日は確認しなかったので聞いておきたいのだけど、探索者として迷宮に入ることは問題ないよね?』
『はい。私は鍛冶師にはなれませんでしたけど、2年間探索者として迷宮に入っておりましたので、魔物に臆することはありません。
戦闘は任せてください!』
『わかった。それなら教育と並行して、たまに戦闘訓練も行うから、そのつもりでいてくれ』
『わかりました。必ずお役に立ちますので、宜しくお願い致します』
セリーは力強く宣言すると、ガバッと勢いよく頭を下げた。
その後、彼女がサビアナおばさんに連れられて退室したので、俺はロクサーヌに声をかけた。
「ロクサーヌ。どう思った?」
「彼女は迷宮を怖がってはいませんでした。ドワーフですから力強いはずですし、何よりやる気がありそうなところが良かったです。
私は、パーティーに加えても問題ないと思います。
それに、彼女は例の物語の登場人物なんですよね?」
「えっ! なんでわかったんだ?」
「私の時もそうでしたけど、レオン様の雰囲気が他の奴隷に対するときの雰囲気と少し違う気がしましたので。
何て言うか... 少し柔らかい... みたいな?
ちょっと曖昧ですけど、なんとなくわかるんですよね」
「そ、そうか」
セリーがロクサーヌのお眼鏡にかなったようなので一安心だけど......
俺ってそんなに分かりやすい人間だったのだろうか?
そんな別の心配が発生したけど、とにかく彼女的にセリーのパーティー加入は問題はないということなので、俺は親父に向き直った。
すると、話を切り出す前に、俺の考えを察していた親父から、先に声をかけられた。
「レオン。セリーをパーティーに加えておきたいか?」
「うん。そうだね。
一度迷宮で彼女の力量を確かめたいけど、その後はパーティーメンバーに加えておいて、合流する前に中階層で通用するくらいには育てておきたいね」
「ふむ。そうか」
「ロクサーヌと意思疎通が測れないうちは厳しいだろうけど、ブラヒム語が話せるようになったらそれは解消されるから、そうしたらセリーを一度迷宮に連れて行きたい」
「わかった。彼女にはブラヒム語の教育を優先して行うよう、サビアナに伝えておく」
「ありがとう。助かるよ」
礼を言うと、親父は苦笑いしつつ、もう一度サビアナおばさんを呼びつけた。
その後、セリーはブラヒム語の集中講義を受け、なんと15日で読み書きすることに支障がないくらいマスターしてしまうのだった。