異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
「失礼します」
そう言って応接室に入ると、使用人のお姉さんはレオン様から「どうだった?」と私の処女膜確認結果を聞かれた。
すると彼女は、「問題ありません」と言ってニッコリと微笑み、彼が「うむ」と言って頷くと、一礼して退室していった。
すると、入れ替わるように別の使用人が部屋に入ってきて、レオン様に小袋を渡した。
レオン様はその小袋を父に差し出すと、彼はそれを受け取り、おもむろに中身を出して確認した。
そして、商館の人たちには気づかれないよう、下を向いたままほくそ笑んだ。
チラッと確認すると、なんと金貨が7枚もあった。
7万ナール!
私なんかをそんなに高く買ってくれたのか。
私は自分自身がそこまで価値のある人間だとは思っていなかったので、金額を見てちょっと驚いた。
鍛冶師にもなれず巫女になることも出来なかった私は、父からは『出来損ない』と蔑まれ、母からは『女としての生き方も覚えない、馬鹿で情けない娘』だと散々罵られた。
私の方も、鍛冶師のくせにろくな装備品も作れない父と、まともに家事も出来ないくせに祖父の遺産を食い潰して贅沢三昧していた母を見下していたので、“どの口がほざいてんのよ!”と心の中では罵声を浴びせ返していたけれど、実際2度も転職に失敗してしまっていたので口に出すことは出来なかった。
そこへ来て、迷宮探索中に魔物のバックアタックを受けてしまい、家族の中で唯一私の味方をしてくれていた兄が大怪我をしてしまった。
命からがら迷宮からは脱出出来たものの、その時には兄は両手両足を動かせなくなっていた。
幸い高価な薬をいくつか使えば治療出来ることはわかったけど、問題は費用をどうやって捻出するかということになった。
祖父の遺産を食い潰してからは、うちの家計は兄が支えてなんとか体裁を保っていたくらいなので、家には薬を買う蓄えなんてなかったのだ。
家族会議のときの、「そんなもん金を借りて買えばいいだろう」と宣った父のアホ面を、私は一生忘れないだろう。
会議は紛糾したものの、最後は私が自身を奴隷として身売りすることを押し通した。
父は「お前みたいな出来損ないじゃ薬代になるはずないだろ」と私の覚悟を馬鹿にしていたけど、「それじゃ、アンタが身売りすれば?」と言い返すと、「ふんっ!」と鼻を鳴らして部屋から出て行った。
人に文句は言うくせに、自分では何もできない。
それどころか言い返せなくなると、その場から逃げ出す。
本当に情けない父親だ。
金貨を見ながらそのときのことを思い出し、ほくそ笑む父を冷めた目で見ていると、おもむろに彼はアイテムボックスを開いた。
そして、そそくさと金貨をしまうと、私に向かって『お前のような出来損ないでも、しっかり奉仕すれば主人に気に入られることもあるだろう。
せいぜい頑張るんだな』と嫌味を吐き捨てて帰っていった。
私は心の中で、“ふんっ!アンタに甲斐性がないから、私が自ら自分を売って兄様の治療薬代を稼ぐことにしたのよ!悔しかったら借金以外の方法でお金を稼いでみなさいよ!”と盛大に毒づいた。
本当は父だった男に罵声を浴びせてやりたかったけど、商館の人たちに私自身の心証を悪くしたくなかったので、その言葉を呑み込んだ。
しかし、父が立ち去ると、今まで張っていた気がはれてしまい、急に身体が泥のように重たくなった。
それと同時に、“あのお金で兄様が復活しても、あの両親じゃ遠からず家族は崩壊するんだろうな”なんて考えが頭に浮かび、私の気分はドン底まで沈んだ。
気が付くと、目の前には商館の前で暴漢から私を助けてくれたときのように、レオン様が立っていた。
“やっぱりこの人。すごくかっこいい♥”
なんて思っていると、次の瞬間、彼が私に抱きついた。
「!」
私は突然の彼の行動に驚いて身を硬くしたけど、耳元で『辛かったんだね。今だけは、思いっきり吐き出してもいいからね』と優しく声をかけられると、祖父が亡くなってからの辛く虐げられた日々の記憶が蘇った。
そして、悔しさや悲しみを両親や他の家族に見せないように張りつめていた気持ちがバリバリと音を立てて砕けた気がして、涙が止め処なく溢れだした。
私はレオン様にしがみついて泣きじゃくったけど、暫くすると全てを吐き出せた気がしてスッと気分が晴れた。
私は彼を見上げ、片言のブラヒム語で「ありがとう。大丈夫、です」と気持ちを込めて感謝を伝えた。
私はブラヒム語は殆ど話せないけど、レオン様は商館の使用人たちとはブラヒム語で話していたので、頑張って合わせてみたのだ。
すると、彼は少し驚いてたけど、私が実際にはいくつか単語を知ってるだけで、ちゃんと話せないということがわかると少し残念そうだった。
なんだかぬか喜びさせたようで、申し訳ない気分になってしまった。
それでも、いくつかの単語から、商館の前で暴漢に襲われた時には、“片言でもブラヒム語が理解出来ることは見せない方が良い”と判断して黙っていたことを、レオン様が『良い判断だった』と言って褒めてくれたことは、とても嬉しかった。
その後、私はレオン様に奴隷の首輪をつけられた。
首に首輪を充てがわれ、後ろからカチャリと音がした瞬間、私の口から意図せずに「ふぅ」と小さなため息が漏れ出た。
意識はしていなかったけど、奴隷に落ちたことに私はショックを受けていたのかも知れない。
そのとき、首輪のサイズがぴったりなので少し驚いたけど、すぐに奴隷の首輪にも装備品と同じ[サイズ自動調整の魔法]がかかっていることを思い出した。
だから、ぴったりになるのは当たり前のことだし、そのことを忘れて一瞬驚いてしまった自分に、何故か恥ずかしくなってしまった。
そうこうしているうちにレオン様はインテリジェンスカード操作のスキルを使い、私の身分を奴隷に変えて、所有者を自分に設定した。
これで私は“レオン様のものになったんだ”なんて言えたら嬉しいんだけど、実際には“この商館の副商館主であるレオン様が、奴隷になった私の一時的な所有者になった”だけなんだよね...
って、さっきからなんだか変。
自分が自分じゃないみたい......
なんて馬鹿なことを考えながら、何気なくレオン様のインテリジェンスカードが目に入り、その内容に驚愕した!
なんと、彼のジョブが探索者だったのだ!
驚いて質問すると、彼は一瞬“しまった”という表情になったけど、そのあと少し考えてから、『セリー。すまないが、今見たことは内密にしてくれ』と言って、唇の前に人差し指を立てた。
探索者が奴隷商人のスキルを使えるなんて、常識的にはありえないことだ。
だけど、実際に起こった事象から考えると、レオン様は複数のジョブに就いている。
若しくは、ジョブには就いていなくても、スキルだけ使える能力がある。ということになる。
私はレオン様の命令に従い、この事を内密にすることを約束したけど、どういう仕組みなのかは、ちゃんと教えてほしい。
瞬間的にその欲求が高まってしまい、『あの。それで、これはどういうことなんですか?』と恐れ多くも質問してしまった。
私は彼預かりの奴隷になったので、レオン様は答える必要は無いし、『お前は知らなくていい』と怒鳴りつけてもいいところだ。
だけど、彼は少し悩んでから、『説明するには時間がかかるから、今は難しい』と、こちらを気遣うように返事をしてくれた。
それなのに、私は好奇心に蓋をされてしまったことを残念に思い、レオン様を恨めしそうに見つめてしまった。
次の瞬間、“私ってなんで気持ちを抑えることが出来ないんだろう”と、少し後悔したけど、彼はそんな私の気持ちを察してくれたようで、“この商館で行なっている様々な教育を一通り完了することが出来たら、自分のことを教えてくれる”と約束してくれた。
その言葉を聞いて私は気分が上がり、やる気が漲った。
その後、私はサビアナさんに連れられて応接室を退出し、 今は夕食を頂くために食堂に来ているというわけだ。
さて...
奴隷と言うと、粗末な貫頭衣を着て、朝から晩まで身体がボロボロになるまで働かされる。
食事は主人の余り物を床に座って食べ、粗末なボロ布に包まって床に敷いた薄いゴザの上で眠りにつく。
主人からお情けを頂くことはあっても、意見が言えるわけでは無いし、決して対等な人間として扱われることはない。
私はそういうイメージを持っていたし、そうなる覚悟を持って自ら奴隷になったのだけど、すれ違った他の奴隷を見た限りでは、この商館の中ではそのように扱われることはないようだ。
食堂に来る前に私がこれから生活する部屋に案内されたのだけど、そこはなんと個室だった。
私は性奴隷という商品なんだから大事にされるのは当然のことなのかも知れないけど、大部屋で何人もの奴隷と集団生活を送ると思っていたので、破格の待遇に驚いた。
このままずっとこの商館に居られたら幸せね。
なんてことを考えながら、夕飯を食べ進めたのだった。
◆ ◆ ◆
翌日から、私の奴隷教育が始まった。
最初に説明されたのだけど、この商館では奴隷の価値を高めるために様々な付加教育を施している。
その中でも、一番力を入れているのはブラヒム語の教育らしく、全く話せなかった人でも、20日ほどで違和感なく会話出来るようになるらしい。
そして、更にあと20日ほどで、読み書きも出来るようになるとのこと。
最初の5日間は、奴隷としての立場や主人に仕える作法。加えて主人に奉仕するための性技など、奴隷としての基礎教育を受けさせられた。
更に、奴隷の社会的な立場や、一般的には奴隷がどのような扱いを受ける存在なのかを学ばされ、自分が奴隷となったことを自覚させられた。
そして、たとえ自分の意にそぐわなくても、生命の危機でない限り主人の命令には絶対に服従しなくてはならないということを、頭の中に刷り込まれた。
5日間の奴隷教育が終わると、奴隷の価値を高めるための付加教育が始まった。
付加教育には言語学習や一般的な家事に関する教育に加え、礼儀作法や国内情勢に関する知識、簿記や経営などの商いに関する知識、計算や統計に関する知識など、様々なものがある。
普通はその中からいくつかの教育を並行して受けさせられるのだけど、私はブラヒム語の教育を集中的に受けさせられた。
これは、早く戦闘奴隷として迷宮で鍛えはじめるための施策ということらしい。
ブラヒム語は複雑で難解な為、話者になるだけでも尊敬されたりする。
それ故に、市せいで学ぶためには時間と費用が非常にかかるのだ。
しかし、多くの奴隷商館では、奴隷の価値を高めるためにブラヒム語を学ばせている。
つまり、奴隷になれば、ただでブラヒム語が取得出来るのだ。
実は私が奴隷になる決意をした理由の一つに、これがあったのだ。
独学で少しだけ知っていたけど、ブラヒム語の文字はドワーフ言葉の文字とほとんど同じだった。
ドワーフ言葉よりは複雑だし、読み方は多少異なるけど、文字が同じだったからか理解に苦しむことは少なく、10日もかからず会話はもとより読み書きすることも支障がないくらい扱えるようになった。
そして、奴隷になってから15日目。
私は戦闘奴隷としての訓練のため、レオン様と迷宮に入ることになった。
そして、この日の出来事が、その後の私の人生に大きく影響することになるのだった。