異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
さて、どこに住むか......
なんて考えても何も浮かんでこない。
大衆食堂で店員お勧めの定食を食いながら考えたけど、家なんて漫画に描かれていたクーラタル以外心当たりはないからだ。
素直にあの町の金物屋を探してみるか......
それとも誰かに話を聞くか......
ハァー。
いま考えると、さっきまでは正気を失っていたのかも。
ベイルの商館よりレベルが高い女性が多かったとはいえ、有り金の殆どをはたいて一度に3人も奴隷を買ってしまった。
何かあると、俺は衝動的に突き動かされてしまう。
昔はそんなことなかったのに......
いや..... 昔から変わってないか。
俺が暴走しなかったのは、いつでもそっと袖を引いてくれる彼女がいたからだ......
情けないな......
もう3年以上経っているのに......
別の世界に来てしまっているのに......
未だに彼女のことは忘れられない。
だけど、この町の商館に行ったことにより、ロクサーヌやセリーに拘っていた気持ちは、何故かスッパリと消え去った。
なんだか呪縛から解放された気分だ。
この世界における目標なんてものは無いけれど、先ずはカエデ、リリア、クラウディアの3人と不自由の無い生活を送れるようになろう。
そのためにも、早く家を決めないとな。
食事を終えて宿に戻り、受付で部屋の鍵を受け取った。
その際、受付の男に「この町で探索者に家を貸す世話役なんているのか?」と尋ねてみると、「食堂の2軒先に雑貨屋があるだろ。そこの店主が北区の世話役だ」とアッサリ紹介してくれた。
「北区?」
「ターヘラの町はな、東西南北の4つの区に分かれてんだよ。ま、あと中心にはどの区にも属してない領主館があるけどな。
そんで、探索者が住むなら迷宮に近い北区がお勧めというわけだ。
因みに商売人ならベイル方面の東区か帝都方面の西区がお勧めだ」
「そうなのか。ありがとう、助かったよ」
「いや、大したことねえよ。それよりこの町に住む気かい?」
「まだ考え中だ。
それより、迷宮は近いのか?」
「ああ。北区の門を出てすぐのところだ」
「すぐ?見えるのか?」
「見えないけど、一本道だから先ず間違わない。
3分で着くから、迷子になったら逆に驚くぞ?」
「そうか分かった。明日行ってみる。
因みに家具とか売ってる店はあるのか?」
「そうだな......
それなら南区にデカイ店がある。
他の区にも家具屋はあるが、あそこは品揃えが段違いだ。
騙されたと思って一度行ってみな」
「ありがとう。助かるよ」
「いや、だから大したことねえって。
それよりお湯はいるかい?桶一杯で20ナールだけど」
「ああ。頼む」
受付の男に銅貨を20枚渡し、俺は部屋に向かった。
そして、部屋に入りベッドに腰掛けて弛緩していると、5分も経たずに従業員がお湯が入った桶を抱えてやってきた。
意外と桶が深めなので不思議に思っていると、俺の表情を見て察したのか、従業員は「洗濯する場合は水が飛び散らないよう注意してください」と言って戻っていった。
桶が深い理由は、お湯を運ぶときに従業員に溢させない為かと思ったけど、使用する客に溢させない為でもあったようだ。
せっかくなのでパンツぐらい洗濯しようかと一瞬考えたけど、明日は早目に起きて家探しに出かけなくてはいけないので、俺はさっさと身体を拭いて眠りについた。
翌日。
朝早く目が覚めたけど、時計が無いので時間がわからない。
取り敢えず顔を洗い、素早く身支度を整えて1階に降りると、受付の男から「お!早いな。迷宮に行くのか?」と声をかけられた。
「いや、食堂で朝飯食ってから、昨日聞いた雑貨屋に行ってみるつもりだ」
「そうか。食堂は開いてるけど、あんまり早いと雑貨屋は微妙だぞ」
「うーん。早く起き過ぎたか。
まあ、開いてなかったら開くまで適当に時間潰すよ」
「はははは。頑張れよ」
何を頑張るんだかよくわからないけど、取り敢えず受付の男に頷いて俺は宿を出た。
そして、隣の食堂で少しゆっくり朝食を取り、それから雑貨屋に向かった。
雑貨屋に入ると、奥のカウンターに初老の男性がいた。
店主だろうか? 店番そっちのけで、何やらパピルスの束を読んでいる。
「失礼する」
「いらっしゃい。買うものが決まったらアイツに言ってくれ」
む!相手する気ないんか?
そう思って店主らしきオヤジが向いてる方向に視線を向けると、猫人族の男が品だししていた。
全く気配を感じなかったので一瞬ビビったけど、よく見るとその男は首輪をしていた。
この店に入ってパッとカウンターを見た時は、“あのジジイが店主だったら、この店は万引きし放題じゃん”なんて思ったけど、猫人族の男を見てその考えを改めた。
あの男、品だししながらさり気なく周囲を警戒しているな。
顔は品物を見ていても、耳が激しく動いてやがる。
ここの店主はあの男がいるから、入店した人を放置しておけるんだな。
但し、俺のことを雑貨を買いに来た客だと思っている点については、店主に考えを改めてもらおう。
「いや、雑貨を買いにきたんじゃなくて、家を紹介してもらいたいんだが」
「おお、そちらでしたか。
私はこの店の店主 兼 北区世話役のハダールと申します。宜しくお願い致します」
「ミツオだ。宜しく」
「それでお客さまは、どのような物件をお探しですか?」
「俺は探索者なので、パーティーメンバー6人で生活出来る家を探している」
「そうでしたか。北区は迷宮に近いので、探索者には人気があるエリアです。
6名で生活するとなると.....
ふむ。お客様のご要望に添える物件がいくつかあったはずです。
只今資料を用意しますので、そちらのソファーにお座りになって、お待ちください」
最初、店主はあからさまに手を抜いた態度だったけど、俺が不動産を探していると理解した途端、急に丁寧な態度に変わった。
不動産業はよっぽど美味しいのか?
カモが来たと思ってるんじゃねえよな?
何か怪しいオヤジだな。
あからさまな対応の変化に少し呆れてしまうけど、どうやら希望に沿いそうな物件はありそうなので、先ずは間取りを確認するか。
そう思っていると、世話役のオヤジが数枚のパピルスを持って戻ってきた。
その紙には思った通り部屋の間取りが描いてあったけど、字が読めないのでイマイチわからない。
それでもオヤジに色々と確認しながら、何とか良さげな間取りの物件を3軒選んだ。
因みに物件は、以下の条件で選んでいる。
・厨房以外に8畳くらいの風呂桶が置ける水場があること。
・その水場の隣に4畳くらいの脱衣室に出来る部屋があること。
・トイレが2つあること。
・玄関の近くに2畳〜3畳で良いので物置に出来る部屋があること。
・厨房の隣に8畳くらいのダイニングがあること。
・ダイニングとは別に8畳くらいのリビングがあること。
・主寝室に出来る10畳〜12畳くらいの部屋があること。
・主寝室の隣に8畳くらいの部屋があること。
尚、主寝室については一部屋にキングサイズのベッドが2つ置ける広さと考えたけど、そこまで大きな部屋のある物件は無かったので、キングサイズのベッドが置ける6畳くらいの広さの部屋が2部屋あることで妥協した。
候補が決まったので、早速世話役のオヤジと内見に出かけた。
そして、歩いてるときに気がついた。
“コレって... もう3軒の中から選ばないと、マズイ状況だよな...”
そんなことを気にしながらも3軒の家を順番にまわり、北区の中でも比較的大きな家が並んでいる住宅街にある家を借りることにした。
場所的には北門から歩いて10分。雑貨屋や冒険者ギルドの辺りからは歩いて5分くらいの所だ。
因みに家賃は1年間で2万5千ナールだったけど、料理用の鍋とフライパンを同時購入して3割引を発動させて、1万7千850ナールで契約した。
その後、一度契約した家に行き、パピルスに必要な家具をリストアップした。
そして、宿屋で紹介された南区の家具屋に向かってみた。
◆ ◆ ◆
家具屋は大型の倉庫のような建物だった。
そして、宿屋の受付の情報通り、すごい数の家具が展示販売されていた。
家具屋の店員に話しかけ、購入した家具の配達について聞くと、本日購入すれば明日の昼以降なら配達可能と言われた。
「それと、こちらに展示されている家具には、全て番号札がついています。
お客様は購入したい家具の番号をこちらのパピルスに書き出し、選び終わったらそのパピルスを店員にお渡しください。
裏の倉庫から同じ物の新品をお持ちしますので、代金支払い後、品物をお持ち帰りください。
あと、配達の場合は代金支払い後、預かり表を発行しますので、そちらを持ち帰り商品が配達された際に配達員にお渡しください」
「わかった」
俺は返事をして、店員から小さなパピルスの紙片と筆記用具を受け取り、必要なサイズの家具類を探した。
それから1時間ほどかかって、
3人くらい余裕で横になれる大きなサイズのベッドを2つ。
そのベッドに合うサイズのマットを2つ。
それから衣服をしまう棚やクローゼットのような家具。
ダイニングテーブルと椅子を6脚。
キッチンや脱衣室、物置に置く棚。
リリアに鍛冶をさせるときに使えそうな低めのテーブルとそれに合う椅子を1脚。
以上を選んで店員に声をかけ、番号を記入したパピルスを渡した。
そして、10分ほど待っていると、店の奥から3人の従業員が台車に家具を積んでやってきた。
俺は選んだ家具が揃っていることを確認し、問題がないので代金を支払った。
3割引をセットしてたけど、それでも金貨2枚が旅立ってしまったのは地味にショックだ。
その後、家具は明日の昼に家に届けるように店員に配達を依頼して、預かり票を受け取った。
それから寝具屋でベッドサイズに合うシーツと肌掛け、それと枕を6個購入し、家への配達を依頼した。
家具と寝具の購入が完了したので、次は桶屋に向かった。勿論風呂桶を探すためだ。
俺は家具屋の店員に教えてもらった道順をたどり、10分ほどで桶屋に到着した。
場所はこの町の南門に近い辺りだ。
桶屋に入ると、頭に手ぬぐいを巻き付けた身長150cmくらいのガチムチ、ヒゲ面のオヤジがいた。
見るからにドワーフだ。
ドワーフの男はこの店の店長らしく、俺の希望を聞くと、「風呂桶か...... ふむ。受注生産だから5日くらいかかるけど、角に丸みがある長方形の桶も作れるぞ?」などと言い出した。
「縦2m、横3m、深さ60cmくらいの桶も作れるのか?」
「そのくらいのサイズなら余裕だな。まあ、材料と工賃で..... 2200ナールだな」
「それでお願いする」
「わかった。水抜き用の穴の位置を教えてくれ」
俺は穴の位置を指示して、5日後に家に配達するように依頼して代金を支払った。
その際、洗濯用の直径80cmの桶1つと、風呂で身体を洗う際に使う桶を3つ一緒に買ったけど、何故か割引が利かなかった。
去り際に桶屋の男を鑑定すると、ジョブが村人だった。
はじめて商人以外のジョブの人から物を買ったので、まだなんとも言えないけど、どうやら値引きスキルが使えないジョブもあるみたいだ。
桶屋の壁からワープで帰宅して、風呂場に桶を仮置きしてから雑貨屋に移動した。
そして、食器類などを購入して再度家に向けて歩いてるときに、不意に服屋の店先に外套が吊られているところが目に入った。
服は本人がいないと買えないけど、外套くらいは買っておいても良いかな?
なんて考えながら服屋を通り過ぎそうになったとき、ハッと気がついた。
彼女たちの容姿は隠しておいた方が良いのでは?
奴隷とわかっていても、手を出すヤツはきっといる。
少なくても俺自身だけではなく、彼女たち自身がある程度強くなるまでは、容姿を晒して歩きまわることは控えよう。
取り敢えず一着だけでも大き目の外套を買っておくか。
そう考えて服屋に入ったけど、正直どれくらいの大きさにしたらいいのか......
ちょっと迷ったけど、俺にちょうどいいサイズなら彼女たちを隠すには十分だろう。
そう思っていくつかの外套を身体に合わせてみて、シンプルなデザインのフード付きの外套を購入した。
帰宅後、外套を試着してみると、膝まで隠れて俺にはちょうど良いサイズだった。
うん。バッチリだな...... あっ!
一瞬 納得しかけたけど、次の瞬間に一時的にカエデたちの身を隠すために購入したことを思い出した。
しまった......
デカ過ぎたか......
カエデとクラウディアは身長150cmくらいだった。
俺より20cm低いくらいなら、足首から下は出るだろう。
でも、リリアは身長130cm。俺より40cmは低い。
ギリギリアウトのような気がする。
うーん......
もう一着買わなきゃダメか.....
外套を眺めながらしばらく悩んだけど、結局衣服に関しては “俺一人では解決しない”という結論になった。
それに、家の準備の方も抜けがあるような気がしてきてしまい、なんだか自信が無くなってしまった。
そうか、一人でダメなら二人で考えれば良いんだ。
明日は朝イチで商館に行ってカエデを受け入れ、衣服や生活するのに必要な物の準備を手伝わせることにした。
カエデには申し訳ないけど、将来の1番奴隷として頑張ってもらおう。
そんなことを考えてると日が暮れてきたので、俺は明日に備えて宿屋に戻ることにした。