異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
私はリリア。ドワーフ族で16歳の女の子。
私の父は鍛冶師で、迷宮探索で素材を集めて装備品を作成し、それを売って生計を立てていた。
物心つく頃からそんな父を見ていた私は、いつか自分も鍛冶師になって、一緒に働きたいと思っていた。
父は私が13歳のときに流行り病にかかり亡くなってしまったけど、私は鍛冶師になりたいという思いを捨てきれず、探索者に転職した。
そして、探索者ギルドで知り合った人たちとパーティーを組み、迷宮探索に挑戦した。
それから2年経ち、15歳のときにやっと私の探索者レベルが10になった。
これで鍛冶師になれると思い鍛冶師ギルドで転職判定を受けたのだけど、ギルド神殿に資格無しと判定されてしまい、残念ながら鍛冶師への転職は叶わなかった。
当時はかなり落ち込んだけど、鍛冶師になれないのなら探索者として高みを目指し、いつかは冒険者になろうと新たな目標をたてて前向きに頑張っていた。
しかし、しばらくして商家から請負った商品の運搬依頼の際に盗賊の襲撃を受け、命は助かったものの商品を運搬馬車ごと川に落とすという大失敗を犯した。
そのため商品が全てダメになってしまい莫大な違約金の支払いが発生。
パーティーメンバーは全員奴隷落ちとなってしまい、皆散り散りに奴隷商館に引き取られた。
私はターヘラの商館に引き取られ、そこで奴隷としての覚悟と、ブラヒム語や人間語などの語学や炊事や洗濯などの家事仕事を仕込まれた。
そして、商館に引き取られてから60日ほど経ち、16歳になった頃には、性奴隷として購入して頂いたご主人様に誠心誠意仕える覚悟が出来ていた。
しかし、お客様に見て頂ける機会はあったし、何度か面談もして頂いたことはあったけど、残念ながら購入しては頂けなかった。
理由はなんとなくわかっている。
私は性奴隷となることは了承しているけど、顔立ちは大人びているのに背は低く、その割りに胸がかなり大きい。
そのため性的嗜好としては幼女趣味の人にも、普通の感覚の人にも刺さらないようなのだ。
そうなると私の売りは戦闘面ということになるのだけど、お客様がドワーフに期待することは鍛冶師か、若しくは鍛冶師になれる可能性があるかという点が大きく、私が探索者Lv11で鍛冶師になれなかったことを知ると、あからさまにガッカリする人が殆どだった。
一応迷宮探索では、前衛でタンク役として貢献出来るとアピールしたこともあったけど、「そんな小さな身体でタンクって言われてもなぁ」と言われ、殆ど話を聞いてはもらえなかった。
そんなことが積み重なり、私は“このまま購入されることはなく、この商館で何年も過ごすことになるのかな?”なんて少し後ろ向きな考えをしはじめていたけれど、そんな私に突然転機が訪れた。
女性の戦闘奴隷を探していた20歳くらいの男性が、私を購入してくれることになったのだ。
その男性は人間族で、私も含めて5人の女性と面談していたので、まさか自分が選ばれるとは思っていなかった。
だから、商館の人に「おめでとう。貴方も選ばれたわ」と言われたときは驚いたし、連れていかれた応接室にクレアもいたことにも驚いた。
そして何よりも、この商館で一番高いんじゃないかと噂されていた高級奴隷のカエデまでいたことに、心底驚いた。
一度に3人も買うなんて、この男性は一体どんな人なのか?
しかも一人はカエデ。
そして私とクレアは戦闘奴隷だ。
ちょっとやそっとのお金持ちじゃないはず。
私より5歳くらい年上に見えるけど、若づくりしてるだけで実際はそうとう年上か、若しくは一般庶民に変装している貴族か有力者の子息なんだろう。
そんな人から見れば、私は使い捨ての戦闘奴隷なのかも知れないけど、それでも彼をご主人様と仰いで、精一杯頑張ろう。
私は自分のインテリジェンスカードに書かれた“所有者 ミツオ・カトウ”という文字を見つめながら、改めて覚悟をきめた。
しかし、そんな私の覚悟をあざ笑うかのように、私たち3人はご主人様の受入準備が出来るまで、商館で待機していてくれと言われてしまった。
そして、ご主人様が帰った後、私たちは売却済みの奴隷が一時的に滞在する部屋に移された。
その後、夕食のとき、食堂でイリスとユリを見かけた。
彼女たちも私たちに気付いたようだけど、お互いに声をかけることは無かった。
今朝までは普通にお喋りしてたのに、たった半日でとても気まずい関係になってしまった。
今までの私は向こう側だったのでわからなかったけど、いざ自分がコチラの立場になると、彼女たちの視線が少し恐ろしい。
それに、彼女たちだけじゃなく、いつの間にか食堂にいる他の人たちからも注目されていて、そこかしこからヒソヒソと囁く声が聞こえる。
私は内容までは聞き取れないからまだマシだったけど、エルフのクレアはしっかり聞こえているようで、俯いたまま無言でスープをかき込んでいる。
カエデもかなり気になるようで、周りに視線を向けないようにしてるけど、耳がしきりにピクピクと動いてときより顔を顰めていた。
とにかく居心地が悪かったので、私たちは終始無言で食事をし、そそくさと部屋に戻った。
◆ ◆ ◆
翌々日。
朝食を食べ終わって部屋に戻ると、すぐに商館の使用人が来て、「お客様がカエデ一人を迎えに来たわ。すぐに支度してついてきて」と言い放った。
私とクレアは唖然として何も言えなかったけど、カエデは「あの、私だけですか?」と訝しそうに使用人に質問した。
「そうよ。お客様は、今日は貴方を連れて帰ると言ってるらしいわ。
とにかく私は貴方だけ連れてくるよう言われているから」
「......わかりました」
カエデは使用人に返事をすると、私とクレアの方に振り返った。
少し不安そうな、もしくは申し訳なさそうな表情をしている。
私とクレアは大部屋で一緒に生活していたので元から仲が良かったけど、カエデは高級奴隷として私たちとは別の部屋で生活していたので、見かけたことはあったけど話したことは無かった。
それに、ご主人様の奴隷となったとき、彼から彼女を一番奴隷とするとも言われていたので、一昨日この部屋で一緒になったときは彼女の醸し出す雰囲気に圧倒されてしまい、最初は話しかけられなかった。
だけど、彼女の方から積極的に話しかけてくれたし、「同年代なんだからお互いに名前は呼び捨てにしましょ」なんて提案もしてくれたので、仲良くなるのに時間は掛からなかった。
なので、私の方から「私たちは大丈夫だから」と声をかけると、カエデは「うん。2人が苦労しないよう、先に行ってご主人様の機嫌を取っておくわ」と言ってニッコリと微笑んだ。
「カエデ。無理しちゃダメだよ」
「そうよ。私たちのことよりも、先ずは自分を大事にしてね」
「ありがとう。
でも、たぶんあの人は大丈夫。見た目だけじゃなくて、きっと中身も良い人のはずだから」
「中身も良い人?」
「わかるの?」
「ええ。きっとそう。
とにかく私に任せておいて」
カエデはそう言い残すと、使用人に連れられて部屋から出て行った。
私とクレアはしばらく無言だったけど、私が「カエデなら大丈夫よね」とつぶやくと、クレアも「きっと上手くやるわ」ってつぶやいた。
その日は終始静かに過ごしたけど、翌日の午前中、前日と同じように私たちの部屋に商館の使用人がやって来た。
「2人とも、お客様が迎えに来たから、すぐに支度して」
「2人ともですか?」
「そうよ。早く支度して」
「わかりました」
どちらか一人が取り残されたら嫌だったけど、そうじゃなかったので、ちょっとホッとした。
そして、使用人に案内されて豪華な執務室に連れて行かれ、そこからは商館主のオランド様と受付のフレアさんに連れられて商館の入口に行くと、ご主人様とカエデが待っていた。
カエデを見ると、私の視線に気付いた彼女が笑顔で頷いたので、どうやら彼女の見立て通りご主人様の人柄に問題は無いようだ。
少しホッとしながらご主人様に挨拶をすると、 「2人とも宜しく」と言われて頭を撫でられた。
そして、サンダルと外套を支給され、着用すると外套のフードで顔を隠された。
するとカエデが近くに来て、「無駄にゴロツキに絡まれない為の配慮だから、町中を歩くときは必ずフードで顔を隠してね。
あと、外に出たらご主人様の左右と後ろを囲むフォーメーションで」と小声で指示してきた。
最後にオランド様にお辞儀をして、90日近く暮らした商館を後にした。
その後、町中を歩き出すと、カエデがご主人様に話しかけた。
その際、彼女は敬語は使わないし彼のことをミツオ君なんて呼び方をしたのですごく驚いた。
それに、服屋で大量に新品の服や肌着を買って頂いたことにも驚いたし、探索者のご主人様がフィールドウォークを使ったことにも驚いた。
そして、拠点の家に移動後、カエデからご主人様の人柄や考え方を教えてもらい、待遇が良過ぎたことへの漠然とした不安は無くなったけど......
ご主人様とカエデの関係を聞いた後に2人の特殊な能力を聞いたときには待遇の件で感じた以上に不安を感じた。
でも......
ご主人様は、私やクレアも彼にとって必要な存在であると言ってくれたし、そのための今後の成長方針を丁寧に説明してくれた。
更に、今の自分の身の丈には不釣り合いなほどの装備品まで購入してくれた。
そこまでされてやっと冷静になれたのか?
初めて自分が如何に特別な環境下にいるかということと、とてつもない幸運を掴んだことを理解した。
今から迷宮に向かうので、先ずは2匹同時攻撃を成功させて鍛冶師に転職するための条件をクリアする。
そして、鍛冶師に転職させてもらい、胸を張ってご主人様のパーティーメンバーだと言えるようになってやろう!
私はそう意気込んで、移動魔法のゲートをくぐった。