異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
ご主人様に身請けして頂いてから6日目。
今日は春の33日だ。
先ほど朝食を食べ終わったので、今から商人ギルドに行って、モンスターカードを受け取ることになっている。
私は鍛冶師になってからまだ5日だけど凄い早さで成長してるので、材料さえ揃えることが出来るなら、武器なら銅の剣や銅の槍。
防具なら銅の盾や硬革の靴も作れるようになっている。
そして、今日はモンスターカードを仕入れることが出来たら、はじめてのモンスターカード融合に挑戦する予定だ。
ただ、仕入れられたカードによって、融合する装備品がかわるので、今からちょっとだけ緊張している。
ご主人様のワープでクーラタルの商人ギルドに着き、受付に向けて1階のホールを横切っていると、人間族で40歳くらいの軽薄そうなオジサンが「やあ兄さん。なかなか羽振りが良さそうだけど、商人ギルドに用があるのかい?俺は仲買人をやってるローレルっていうんだが、良かったら俺が話を聞こうか?」と言って私たちに話しかけてきた。
何?このオジサン。
私たちが目の前の受付に向かってたの、見たら分かるでしょ?
ご主人様も怪しいヤツだと思ったようで、訝しそうに男を睨むと、「悪いが約束がある」と言ってバッサリと断った。
しかし、オジサンは「本当か?」と言うと、私たちの後ろから受付まで付いてきた。
そして、ご主人様が仲買人のライザさんの呼び出しを頼むと、「おいおい。あんな小娘と取引するのか?」と口を挟んだ。
「あんたには関係ないだろ?」
「いやいや。悪いことは言わねえから、仲買人は経験豊富なヤツを選んだ方がいいぞ」
「経験豊富?」
「ああ。あの小娘は仲買人になったばかりだ。
ハッキリ言って、他の仲買人との競り合いに勝てる器じゃねえよ」
「ほう... あんたなら競り合いに勝てると?」
「そういうことだ。俺は、もう10年以上仲買人をやってるからな」
このオジサンは経験豊富な自分に乗り換えるように言ってるけど、こういうヤツは経験上絶対に信用出来ない。
そう思ってご主人様の袖を引くと、彼は私の方を向いて小さく頷いたので、ちょっとホッとした。
するとご主人様はオジサンに向き直り、反撃を開始した。
「アンタ。自分は経験豊富って雰囲気出してるけど、本当に商人か?」
「へっ?」
「仲買人の中には、人との付き合いが上手いだけで商取引自体は苦手なヤツがいるらしい。
だから俺は、ジョブが商人じゃないヤツとは取引したくないんだよな。
アンタのジョブが商人だったら乗り換えを考えないでもないんだが、どうなんだ?」
「いや、ジョブは商人じゃないが、別に商取引が苦手なわけじゃ...」
「じゃあ聞くけど...
1050ナールの銅の剣7本と800ナールの木の盾3個を売って、3900ナールで鉄の剣を2本買ったら残金はいくらだ?
10秒で答えてくれ」
「えっ! えっと... ちょっと待ってくれ...」
「はぁ~。時間切れだ。答えは1950ナール。
こんな初歩的な計算も瞬時に出来ないヤツが、商取引が苦手じゃないって?
悪いけどそう思えないから、俺はアンタとは取引しない」
「チッ!わかったよ。
経験不足な小娘を選んだこと、精々後悔しないようにな!」
オジサンは馬鹿にされたことが悔しかったのか、肩をプルプルと震わせながら、捨て台詞を吐いて立ち去って行った。
オジサンが離れると、様子を見ていた受付の女性が「商談室2番でお待ち下さい」と言って、間取り図で部屋の場所を案内してくれた。
更に彼女は、「あの人、女癖悪いらしいから、近寄らない方がいいわよ」と小声で伝えてくれた。
ご主人様は受付女性に「ありがとうございます」とお礼を言って商談室に向けて歩きはじめたので、私たちも小さくお辞儀をしながら商談室に向かった。
商談室は前回よりも少し広めで10人用の部屋だったので、今回は片側に全員で座った。
そして、5分ほど待っているとドアがノックされ、「失礼します」と言ってライザさんが入ってきた。
「ミツオ様。お待たせしました」
「いや、この部屋では大して待ってはいないが、受付で変なヤツに絡まれた。
3人の正体を証したらコレかって思ったよ」
ライザさんが座ると、ご主人様は先ほど受付で絡まれたことについて話し始めた。
そして、最後に絡んだオジサンの名前がローレルだったと聞くと、「あいつそんなこと言ったんですか!」と言って憤慨した。
ライザさんの説明では、ローレルという男は他の仲買人の客を横取りしたり、他の仲買人にオークションの価格操作を持ちかけたり、オークションで競り負けると嫌がらせや恐喝したりするらしく、殆どの仲買人から嫌われている。
それに、商人ギルドを通さない詐欺まがいのトレードを客に斡旋して顧客に大損させたり、客の女性奴隷に酒を飲ませて昏睡状態にし、性的暴行を加えた前科もあるらしく、どちらも示談にはなったものの、仲買人のライセンス停止処分とされて、商人ギルドを出入り禁止にされたこともあったらしい。
しかし、噂では貴族にツテがあるらしく、それだけ問題行動を起こしても商人ギルドから除名処分にされることはなかった。
それどころか、いつの間にかライセンス停止も解除されていて、最近また仲買人として商人ギルドに出入りするようになった人物とのこと。
かなり胡散臭い人物だし、女の敵であることは間違いない。
私みたいなチンチクリンをどう思うのかは分からないけど、次からは見かけても目だけは合わさないよう気を付けよう。
「ミツオ様は3名も女性奴隷を連れております。
あいつが声をかけた理由はミツオ様が金のなる木に見えたからだと思われますが、彼女たちに目を付けた可能性もあると思いますので、ご注意下さい」
「やっぱりその可能性もあるか。
結構しつこかったから、追い返すのに骨が折れたが、次に絡まれたらどうするか......」
「相手にしないのが一番ですが、困った場合は受付経由で商人ギルドの運営に相談して下さい」
「了解した。それで、今日はモンスターカードの仕入れ状況を確認しに来たのだが」
「はい。いくつか仕入れましたので、お渡しします」
「よろしく」
ライザさんは頷くと、カバンの中からパピルスで包んだカードを出しはじめた。
そのパピルスにはカード名称が書かれている。
出されたカードは全部で7枚。
パピルスに書かれた名称は、芋虫、芋虫、山羊、兎、兎、コボルト、コボルト。
たった3日で7枚も仕入れるなんて......
仲買人を100%信用することは出来ないけど、このライザさんは若いけどかなりのやり手なのかも知れない。
それでも、彼女も仲買人であることにはかわりないから、気を許してはいけないけど、父を騙したアノ仲買人みたいな嫌な雰囲気はしないわね。
とにかく仲買人の方から何か仕掛けてくるまでは様子見ね。
「仕入れ出来たカードは全部で7枚です。
1枚あたり10ナールで、ギルド神殿でカードに間違いないか確認出来ますが、利用されますか?」
「確認?」
「はい。モンスターカードが本物であることの確認です」
「ふむ......」
ご主人様はモンスターカードを確認するのか聞かれると、少し俯いて考え込んだ。
彼は鑑定スキルが使えるから、カードの正否はすぐに分かるはず。
考え込んでいるのは、どうやってギルド神殿の利用を断るか... といったところか。
「オークションで偽物が出ることがあるのか?」
「いえ、出品前にギルドで確認しているので、偽物が出ることはありません」
「それなら確認の必要はない」
「よろしいのですか?」
「ああ。ライザさんを信用してるから」
「ありがとうございます」
モンスターカードは全て本物で、思った通りご主人様は断る方法を考えていたみたいね。
そう思っていると、彼はモンスターカードをアイテムボックスにしまい、「残りのカードを頼む」と言って立ち上がった。
私たち3人も立ち上がるとライザさんも立ち上がり、「かしこまりました。融合の成功を御祈りしております」と言って深々とお辞儀した。
商人ギルドから帰宅すると、私とご主人様は早速カード融合を行うため、作業机に向かい合って座った。
因みにカエデとクレアは掃除と洗濯を行っている。
ご主人様はアイテムボックスからミサンガと芋虫のモンスターカードを取り出した。
「リリア。これは君が最初に作ったミサンガだ。
偶然、このミサンガには空きスロットが付いていた。
先ずはこのミサンガに、芋虫のモンスターカードを融合してくれ」
「かしこまりました」
私が最初にミサンガを作ったとき、ご主人様は最初の一つをアイテムボックスに取り分けていた。
あのときはMPが枯渇しかけてバタバタしてしまったけど、1番端に置いたものをしまっていたから、最初に作った物で間違いはないはず。
鍛冶師には、“最初に作ったミサンガで身代わりのミサンガを作れた鍛冶師は成功する”という言い伝えがある。
ただの俗説で、何をもって成功なのかも判然としていないけど、それでも融合が成功したら嬉しい。
私は大きく深呼吸をすると、ミサンガにモンスターカードを重ねて深く集中し、モンスターカード融合と念じた。
そして、頭の中に浮かんだ呪文を唱えた。
「今ぞ来ませるみこころの、ことほぐかげのあめつちの、モンスターカード融合」
次の瞬間、私の手元は白く輝いてひかりに包まれ、1分ほどで収まった。すると、掌の上には元のままのミサンガが残っていた。
ほどけてないので成功してると思うけど、分からないのでご主人様に「どうでしょうか......」と言ってミサンガを差しだすと、彼は一瞬だけじっと見つめ、すぐにニッコリと微笑んだ。
そして、「身代わりのミサンガだ。リリア。よくやった」と言って頭を撫でてくれた。
「これでリリアは鍛冶師として大成出来るな」
「えっ!知っていたのですか?」
「ああ。昔小耳に挟んだことがあってな」
「ただの俗説ですし、何をもって成功なのか判然としていないのですけどね」
「はははは。それでもいいじゃないか」
「そうですね。成功出来て嬉しいです♪」
ご主人様に言われたからじゃないけど、俗説とはいえ成功できたことはやっぱり嬉しい。
彼が目の前にいるから抑えているけれど、本当は跳び上がりたいくらいだ。
ご主人様がアイテムボックスを開いて身代わりのミサンガを収納しているところを見ながら融合成功の余韻に浸っていると、次の瞬間彼は別のミサンガと芋虫のモンスターカードを取り出した。
「じゃあ次、行ってみよう♪」
「......えっ?」
ご主人様は私の右手にミサンガとモンスターカードをポンっと乗せて、ニッコリと微笑んだ。
MPはまだ大丈夫そうだけど、立て続けに融合させるなんて......
しかも、失敗なんて微塵も考えてないような雰囲気で渡されても......
「あの......」
「あ、そのミサンガも空きスロットが付いてるやつだから大丈夫だよ♪」
「......」
どうやらご主人様は、空きスロットがあればモンスターカードの融合は成功すると思っているようだけど......
そうかも知れないけど、連続となると精神的にはキツくなる。
だけど、ホントにMPは余裕な気がする。
普通は連続成功なんてあり得ないけど、奴隷の私が逆らうわけにはいかないし......
もうやるしかない!
私はもう一度深呼吸をして心を落ち着かせ、モンスターカード融合の呪文を唱えた。
すると、先ほどと同じように 手元が眩いひかりに包まれ、ひかりが収まると手の中にはミサンガが残っていた。
どうやら2度目のカード融合も成功したみたいだ。
私は大きく息を吐き出して、ご主人様にミサンガを手渡した。