異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
ご主人様は真顔になってミサンガを見つめると、「やはり空きスロットがあればモンスターカードの融合が成功するようだな」と呟いた。
すると、次の瞬間ニッコリと微笑み、「リリア。よくやった。今度も成功だ。ところで、まだイケるか?」と聞いてきた。
まだイケる?
2回連続でカード融合を行ったので、MPは少し減った気がする。
だけど、もう限界か?と聞かれたら、MP的にはまだ4、5 回はカード融合出来る気がする。
ただ、たまたま2回とも成功したけど、モンスターカード融合は、かなり腕の良い鍛冶師でも3回に1回しか成功しないと言われているし、腕の良くない鍛冶師だったら10回やっても1回も成功しないとまで言われている。
だから、2回連続でモンスターカードの融合が成功するなんて、奇跡が起こったとしか言いようがない。
それなのに、もう一度カード融合しろっていうの?
それとも失敗するまで続けさせるつもり?
普通に考えたら次の融合が成功する可能性は限りなく低い。
でも......
ご主人様には装備品の空きスロットが視えている。
それに今の成功で、空きスロットさえあれば、あとは私のMPが足りる限り成功すると確信したみたいだ。
ご主人様が確信したのなら、先ず間違いはないのだろう。
次は高価な武器への融合のはず。
失敗したらモンスターカードが消えるだけではなく、武器も壊れてしまう。
仮に素材が全て残っていたとしても、鋼鉄製の武器なんて私には作れない。
ものすごく怖いけど、ご主人様が出来ると言うなら、必ず成功するはずだ。
だから常識ではあり得ないけど、私はご主人様の意思に従う!
私はご主人様と目を合わせ、強い意思を込めて「イケます!」と答えた。
すると、彼はアイテムボックスを開いて、私が使わせてもらっている鋼鉄の戦斧と、兎とコボルトのモンスターカードを取り出した。
私はそれを受け取り、深呼吸して今まで以上に深く集中し、モンスターカード融合の呪文を唱えた。
すると、先ほどと同じように手元が眩いひかりで包まれ、それが収まると鋼鉄の戦斧は壊れずに残っていた。
「おお!強権の鋼鉄戦斧か。さすがはリリアだ。次は槍だが、まだイケるか?」
「えっと...... 大丈夫だと思います」
「じゃあ、頼む」
ご主人様はアイテムボックスに戦斧をしまうと、当たり前のように鋼鉄の槍とモンスターカードを2枚取り出した。
4回目だ...... でも、必ず成功するはずだ......
私は手の震えを必死に抑え、彼から槍とカードを受け取った。
心臓が破裂しそうなくらいバクバクしてるし、胃液が込み上げてきて口の中が酸っぱい。
意識して我慢しないと、今にも吐き出しそう。
こんな状態でまともに呪文が唱えられるのか......
私は3度ゆっくりと深呼吸して気持ちを落ち着かせ、それからモンスターカード融合の呪文を唱えた。
そして、今度もアッサリと成功してしまった。
4回連続でモンスターカードの融合に成功するなんて......
常識的に考えて、あり得ないことだ。
内密にしなくちゃいけないことなんだけど、たとえ何処かで話しても、誰も信じてはくれないだろう。
「ほう。こっちは強権の鋼鉄槍っていう名前になるんだな。
リリア。大丈夫か?」
「はい。MPはまだ大丈夫です」
「いや、なんだか酷い顔をしてるぞ?
だいぶ疲れたように見えるけど......」
「すみません。
鍛冶師になったばかりの私が、日に何度もモンスターカードの融合ができるなんて、普通はありえないのです。
それに、4回連続でモンスターカードの融合に成功するなんて......」
「精神的に疲れたか。
すまなかった。そこまで考えてなかったよ」
「いえ。私のことは気にしないでください。
そんなことより......
ご主人様ならモンスターカードの融合を、100%成功させることが出来るということなんですよね?」
「いや、100%というわけじゃない。
何ごとにも不測の事態というものはあるからな」
「でも、確信はあるのですよね?」
「まあ、そうだな。装備品に空きスロットがあればモンスターカードが融合出来ることは間違いないだろう。
それに、空きスロットが付いている装備品は少ないけど、鑑定スキルを使える人がいないから、空きスロットがない装備品にもカード融合は行われている。
だからカード融合の成功率が低いんだろうな」
ご主人様は自分の考えに納得したからか、満足気に頷いた。
「とにかくリリアは俺が鑑定して融合出来ると判断した装備品にモンスターカードを融合している。
つまり失敗しても俺の責任ってことだから、これからは気を張らずに融合してくれ」
「そう言っていただけると、気が楽になります」
「それで良い。これからも宜しくな」
「かしこまりました!」
ご主人様は今まで誰も解明できなかった装備品へのモンスターカード融合の謎を解き明かした。
つまり、人間族のご主人様がドワーフ族を差し置いて“鍛冶師の真髄”に至ったことになるのだ。
ドワーフの私としては少しだけ複雑な気分だけど、同時に凄く誇らしい。
ご主人様の鑑定スキルが無いと証明出来ないので、内密にしなくちゃいけないことが少しだけ残念だけど、彼の能力が貴族や有力者にバレたら凄く面倒なことになる。
場合によってはご主人様や私たちの身に危険が及ぶことも覚悟しなくてはならない。
そんなことにならない為にも、モンスターカードの融合を100%成功させられることは隠し通さなくてはならない。
「ご主人様。ひとつだけよろしいですか?」
「どうした?」
「カード融合に関して、積極的に話すことはないと思いますが、隠しきれなくなった場合は5回か6回に1度しか成功しないと言うようにして下さい」
「それくらいなら不自然じゃないってことか?」
「そういうことです。私も失敗が多くて申し訳ないような態度を取りますので、よろしくお願いします」
「なんだかすまないな」
「いえ。貴族や有力者に目をつけられる鬱陶しさに比べれば、大したことではありません。
私にとっては、ご主人様と一緒に平穏無事に暮らしていけることの方が大切です」
「そ、そうか。それは嬉しいな」
ご主人様は少し恥ずかしそうに返事をすると、カエデとクレアを呼んで、2人にもカード融合の顛末と、内密にする事項と今後の方針について説明した。
クレアはかなり驚いてたけど、鑑定スキルを持ってるカエデはカード融合と装備品の空きスロットの関連性に薄々感づいていたらしく、クレアほど驚きはしなかった。
だけど、“貴族や有力者にバレたら面倒なことになる”という私の考えには賛同してくれて、「私たち3人で、しっかりと満男君を守るわよ」と言ってお互いに握手を交わした。
私たちが落ち着くと、ご主人様はカエデの耳元に顔を寄せて小声で何やら囁いた。
そして、彼女が頷くと、彼は私とクレアに「ちょっとそのまま動かないでいてくれ」と言って、いきなり私の前にしゃがみ込んだ。
何をするのかと思っていると、彼は私の右脚の裾を捲り、足首にミサンガを巻きつけた。
驚いて固まっていると、彼はクレアの前にしゃがみ込み、彼女の足首にもミサンガを巻きつけた。
「ご主人様。これは!」
「身代わりのミサンガだ。2人は前衛だから、着けておいてくれ」
「い、いけません!先ずはご主人様が着けるべきです!」
「そ、そうです!ご主人様に何かあったら......
あっ!そうだ!ご主人様に何かあったら奴隷は殉死するんです。
わ、私も死んじゃうんです!
だから、ご主人様は死んじゃダメです!
とにかくこれはご主人様が着けていなくちゃダメなんです!」
我に返って慌てて訴えると、クレアもハッとして我に返り、私以上に猛然と抗議をはじめた。
彼女は少し取り乱しているようで、しゃがんで自分に巻かれたミサンガを外そうとした。
しかし、次の瞬間ご主人様に抱き起こされて、少し藻掻いたけど、キュッと抱きしめられるとすぐにおとなしくなった。
すると、ご主人様は私も抱き寄せた。
「2人とも聞いてくれ。まだ話してなかったことなんだけど、俺とカエデは自分が動く速度を少しの間爆発的にあげるスキルを持っている。
だから自分の身に危険が迫っても、それを回避するすべがあるんだ」
ご主人様はそう言うと、私とクレアを解放した。
クレアは「そんなスキルがあるのですか?私は聞いたことがないのですが」と言って訝しそうに首を傾げた。
クレアは知らないようだけど、私は聞いたことがある。
確か帝国の初代皇帝が、速く動けるようになるスキルが使えたという記録がある。
それに初代皇帝は、自分のジョブは英雄であると公言していたという記録もある。
確かご主人様とカエデは、英雄のジョブを持っていたから、ご主人様の言ってるスキルは英雄のスキルなんだろう。
そう思っているとご主人様は私の表情を見て微笑んだ。
どうやら私が気付いていることを察したみたいだ。
「リリアは気付いたみたいだけど、オーバーホエルミングという英雄のスキルだ」
「え、英雄のスキルですか.....」
クレアは英雄と聞いて一瞬驚いたけど、私と目が合ったので黙って頷くと、彼女は溜め息をついた。
しかし、ジトっとした目でご主人様を見つめているので、彼が嘘をついていないことは理解したものの、自分が身代わりのミサンガを先に着けることには納得出来ていないようだ。
「それにな。数日すれば残りの芋虫のカードも手に入るだろう。
空きスロット付きのミサンガのストックはあるから、数日早いか遅いかの違いだ」
「そうですか......」
さっきまでの勢いはなくなったけど、クレアはまだ納得はしていないようだ。
そう思っていると、ご主人様は小さく息を吐き出して、もう一度クレアを抱き寄せた。
そして、耳元で何か囁くと、見る見る彼女の耳が赤くなって「わかりました」と小声で答えた。
何を言われたのかは分からないけど、取り敢えずクレアは身代わりのミサンガを着けることを了承したようだ。
でも..... 何を言われたのだろう?
私にも言ってくれないだろうか......
“羨ましい”という気持ちが顔に出てしまっていたのか?
ご主人様はクレアを解放すると、今度は私を抱き寄せた。
「リリア。俺は君が好きだ」
「えっ?!」
「だから次が作れるまでの数日間だと思うけど、身代わりのミサンガは君に先に着けておいてほしい。
俺のわがままなのかも知れないけど、きいてくれないかな?」
「は、はい......」
「ふふっ。ありがとう」
こ、これはダメ!
大好きなご主人様のお願いを断ることなんて、私には出来ない。
それに好きなんて言われたら、尚更断ることなんて......
今の“好き”って、どういう“好き”なの?
私を可愛いと思ってるくらい?
それとも愛おしいって思うレベルってこと?
そんなことを考えていると、彼は離れ間際に私の頬を撫でた。
ヒャッ!今の何?!
やっぱりご主人様の“好き”は、愛おしいってこと?!
私もご主人様のこと......
私は恥ずかしさと嬉しさで、完全にトリップしてしまった。
その後すぐに我に返ったけど、いつの間にか“少し休憩したら、ターヘラの迷宮に向かう”ということで、午後からの予定が決まっていた。
こっそりカエデに「もしかして私、変だった?」と聞くと、「呼びかけても気付かないくらい、完全にトリップしてたわよ」と言ってクスクスと笑われてしまった。
どうやら醜態を晒してしまったようだ。
その後、軽食とハーブティーを頂きながら1時間ほど休憩し、それから新たな装備を身に着けて、ターヘラの迷宮12階層に移動した。
そして、強権の鋼鉄戦斧を掲げて、前衛タンクにふさわしい活躍をしようと心の中で誓いを立てた。