異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
ベイルの奴隷商館に来てから40日経った。
今日は春の58日だ。
私の教育が全て終了したので、レオン様に身請けしてもらう日がきたのだ。
とは言ってもどうすればいいのかわからず、取り敢えず朝食後は部屋に戻りいつでも出ていける支度をして待機していると、サビアナさんが迎えに来た。
そして、アラン様の執務室に連れて行かれて今後もレオン様のもとで商館の使用人として働かせて頂くことへのお礼を述べたあと、そこで待機していたレオン様に連れられて彼の執務室に移動した。
レオン様の執務室に入ると、そこにはロクサーヌさんが待機していた。
そして、私の席を教えて頂いた。
今後私は、帝都にあるレオン様の家に住み、午前中は商館のリネン関係の手配と手の空いたときは洗濯係の手伝い、午後はレオン様と迷宮探索することになった。
因みにロクサーヌさんは食材関係の手配と手の空いたときやヘルプが入ったときは食堂の手伝いを行なっているとのこと。
レオン様に仕事を教えてもらいながら午前中の執務を終え、商館の食堂で昼食を頂いてから帝都の家に移動した。
そして、レオン様から貸して頂いた装備品を着け終わったので、疑問に思っていたことを聞いてみた。
「レオン様。以前鍛冶師に転職させて頂いたときにレベル上げをしておくと言われましたけど、今はどうなっているのですか?」
「そうだったな。あれから20日か」
「いえ。25日です」
「そ、そうだったか。
えっと今は...... レベル31だな。
迷宮の中階層で戦うのに十分な強さだ」
レオン様はそう言うと、アイテムボックスからモンスターカードを何枚か出してきた。
更に、片手剣を1本と、槍を1本取り出した。
「セリー。済まないが、迷宮に行く前にこの武器にモンスターカードを融合してくれ」
「えっと...... 失敗するかも知れませんけど......」
「大丈夫だ。失敗しても、それは素材を用意した俺のせいだから、気にせずやってくれ」
レオン様は“自分のせいだ”と言っているけど、だからと言ってホイホイ融合出来るわけじゃない。
どうしても、“失敗したら私の責任にされる”とか、“失敗したことで呆れられる”とか、“レベルを上げて損したと失望される”などと後ろ向きな考えが頭に浮かんでしまう。
だからと言って、断ることなんて出来ない。
私は一度大きく深呼吸して、覚悟を決めて返事をした。
「わかりました」
「このエストックにウサギとコボルトのカードを融合してくれ」
「......」
い、いきなりカード2枚ですか......
しかもエストックだなんて......
私は2回深呼吸をして再び気持ちを落ち着かせ、エストックにカード2枚を重ねた。
そして、カード融合の呪文を唱えた。
「今ぞ来ませるミココロの、コトホグ蔭のアメツチの、モンスターカード融合」
次の瞬間。眩しく手元が輝き私の周りが白く染まった。
そして、しばらくして視界が戻ると、私の手元にはエストックだけが残っていた。
壊れずにちゃんと残ってるってことは成功したはず。
はじめてのカード融合なので、ホントに成功しているのか心配だったけど、レオン様がヒョイっと剣を持ち上げると、「強権のエストックか。じゃ、次はこっちかな」と言って槍とまたモンスターカードを2枚手渡された。
えっ?成功したってこと?
強権のエストックって言ったんだから間違いないと思うけど......
それよりこの槍は?
あとこのモンスターカードは?
湧き上がる不安を抑えようと深呼吸を繰り返していると、視界の端にレオン様からエストックを受け取ったロクサーヌさんがめちゃくちゃ感激している姿が映った。
しかし、私はそれどころじゃない!
どうやらご主人様は2回連続でカード融合させる気みたいだ。
もう一度、手渡された槍とモンスターカードを見つめて絶句し、それからレオン様を見返すと、彼は私の窮状に気付いたように、「あっ、そうだったな」と言葉を発した。
私はレオン様が、モンスターカードの融合を連続でさせることが非常識であることに気付いたのだと思い、一瞬ホッとしたけれど、残念ながらそうでは無かったようだ。
「すまない。そのカードもウサギとコボルトだ。
宜しく頼む」
「.....」
何のカードか聞きたかったわけじゃないんだけど......
どうしよう、このままカード融合をおこなったら......
さっきレオン様は私の強さなら迷宮の中階層で戦える
って言っていた。
レベル31ですか...... たぶん問題はないんだろう。
私はもう一度深呼吸して集中し、モンスターカード融合の呪文を唱えた。
すると、手元の輝きが消えても、槍は壊れずに存在していた。
ふう......
取り敢えず上手くいったわね。
それに......
あと2、3回はカード融合出来そうな気がする。
“中階層で戦える”ですか......
ふふっ。なんだか少しだけ魔物と戦ってみたい気がしてきたわね。
そんなことを考えながらレオン様に槍を渡すと、彼は先ほどのようにじっと見つめて「強権の鋼鉄槍か。これはセリー用だな」と呟いた。
「わ、私に使わせて頂けるのですか?」
「ああ。そうだ。
基本的に俺は後方から魔法で攻撃するから、セリーはこの槍で魔物が後方に抜けないよう抑え込んでくれ」
「わかりました。頑張ります」
私がレオン様から槍を受け取ると、彼はリビングの壁にワープゲートを開いた。
今から25日ぶりの迷宮探索だ。
ワープゲートをくぐると、早速ロクサーヌさんが魔物を探しはじめた。
そして、2分ほど通路を歩くと魔物が見えてきて、思わず足が止まってしまった。
次の瞬間、魔物はなんだかピカピカひかる砂嵐に包まれたけど、あの大きな貝殻って......
初めて見るけどアレってクラムシェルじゃないの?
アレは低階層の魔物じゃないよね?
しかも数が多い気が...... 1、2、3、4......5匹?!
こ、ここって何階層なの?!
「セリー。呆けてないで集中しなさい!」
「はひっ!」
魔物の種別や数に動揺していると、ロクサーヌさんに叱られてしまった。
凄く怖かったけど、おかげで冷静になれた気がする。
とにかく向かってきた魔物を抑えるのが私の仕事だ。
落ち着いて魔物の動きを見極めよう。
そう思ったけど、魔法の効果が切れると、魔物が一斉に向かってきた。
すごい迫力だ!
思わず目を閉じたくなる。
でも......
恐る恐る隣を盗み見たら、何故かロクサーヌさんと目が合った。
「!」
私は瞬間的に前に向き直り、正面を見据えた。
気を抜いたら彼女に殺られる!
もう、怖くても前しか向けない!
そう思っていると、魔物たちは少し手前で2度目の魔法に包まれた。
そして、ロクサーヌさんから「セリー。5mだけ後ろに下がって下さい」と指示が飛んだ。
慌てて下がり槍を構え直すと、魔法の効果が切れて再び魔物が動きだした。
それと同時に、後衛の魔物の下に魔法陣が浮かび上がり、上空に水の球が浮かび上がった。
「来ます!」
「えっ!」
ロクサーヌさんの警告の後、水球はロクサーヌさんに向かって勢いよく放たれた。
水球は、もはや水弾と言えるほどの速さでロクサーヌさんに迫ったけど、彼女は着弾する直前に体を捻り、攻撃を躱した。
「す、凄い!」
あんな動き、私には出来そうもない......
あまりにも人間離れした動きだったので、思わずロクサーヌさんに目を取られてしまった。
すぐに我に帰ったけど、魔物の方に視線を戻すと、そのときにはもう魔物が目の前に迫っていた。
慌てて槍を盾代わりにして体を縮ませて目をつぶると、次の瞬間“ゴウッ!”という騒音が鳴り響いた。
恐る恐る薄目を開けると、すぐ目の前で魔物がピカピカひかる砂嵐に包まれていた。
攻撃を喰らうと思っていたけど、今さっき5m下がっていたので届かなかったみたいだ。
つまり、ロクサーヌさんは最初に魔物が動けた距離から次に何処まで進めるのかを、一瞬で見切ったということになる。
水弾を躱した動きは凄いけど、彼女が本当に凄いのは、動体視力と瞬間的に周囲の空間を把握する能力なんだろう。
もう一度怒られないように目の前の魔物に集中していると、魔法の効果が切れる前に煙に変わった。
結局3度目の魔法で魔物が全滅したので、ドロップアイテムを回収しながらロクサーヌさんに、ここが何処なのか尋ねてみた。
「ロクサーヌさん。ここが何処なのか分かりますか?」
「ここはクーラタルの迷宮22階層です」
「えっ!22階層ですか?! 私はそんな上の階層は...」
「大丈夫ですよ。そのためにレベルを上げておいたのですから」
「そ、そうですか...」
ロクサーヌさんは言い終わると、にっこりと微笑んだ。
なぜかその顔を見て背筋がゾワッとしたけれど、たぶん気のせいだろう。