異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
午前中の執務を終え、商館で軽く昼食を食べた後、俺たちは一度帰宅した。
そして、セリーに鍛冶用の素材をいくつか渡して、装備品の製作を指示すると、彼女は素材を前に少し不安そうな顔をした。
ちょっと可哀想な気はするけど、鍛冶師のレベルは上げているし、特別難しい物を作れと指示するわけじゃない。
俺が隣にいないと鍛冶が出来ないなんてことでは困るのだ。
要は慣れの問題なので、「無理のない範囲で売却用の装備品を作成しておいてくれ」と言って、作る物に関しては彼女に任せた。
一応護衛役なのでロクサーヌにエストックを持たせ、俺たちは帝都の冒険者ギルドに移動した。
帝都の商館に直接跳べると楽なんだけど、あの店はそのあたりが徹底されていて、外壁まで含めて全ての壁に遮蔽セメントか塗られている。
俺のワープ なら本当は問題ないけど、バレたら大変なことになるので、あそこに行く時は仕方なく冒険者キルドから歩くようにしている。
せっかく冒険者ギルドにきたので2階にある買取専用のカウンターに寄り、ここ数日の探索でアイテムボックスを占領してくれた不要なドロップアイテムを売却した。
量があったため30分ほど時間を取られたけど、そこそこの金が手に入った。
ミリアを仲間に加えたら、その後は商店街に寄って焼き菓子でも買って帰ろう。
そんなことを考えながら冒険者ギルドを出て、帝都の商館に向かって歩いていると、俺たちの少し先に同じ方に向かって歩く二人組がいることに気がついた。
とは言っても初めは大して気にならず、“彼等の行き先も商館なのかも知れないな”と漠然と考える程度だったけど、角を曲がったときに片方の男の顔が一瞬見えて驚いた。
アイツはミツオじゃないか?!
気付かれたらマズイ!
瞬間的にそう思った俺は、ロクサーヌの手を引いて建物の陰に隠れた。
ミツオの隣にいた外套を被ったヤツがジッと俺を見ていたようだけど、そいつを鑑定する余裕なんてない。
とにかく慌ててヤツの視界から逃れ、驚いているロクサーヌに、前を歩いていたヤツがミツオであることを伝えた。
彼女はそれを聞いて目を見開いて驚いたけど、次の瞬間 顔をしかめた。
「レオン様。さっきの男がミツオなんですね」
「......そうか。考えてみたらロクサーヌは会ったことはなかったな」
「そうです。その、ミツオ本人は普通の若者って感じで、強者のオーラみたいなものは感じません。
それより隣にいた女の方がヤバそうですね」
「えっ?隣にいた... 女?」
「はい。外套で頭まですっぽり隠していた女です。
彼女、少し前から私たちが後ろを歩いていることに気づいていたようです」
「えっ?」
「何度か振り返っていたので、いま思えばこちらを確認していたのかも知れません」
「ロクサーヌ。ミツオたちに気付かれないように追跡することは出来るか?」
「すみません。向こうの方が風下なので、厳しいです」
「そうか......」
「ですが、先ほど風向きが一瞬変わったときに、女の方の匂いを覚えました。
どこかの建物に入ったのなら、わかるかも知れません」
「ふむ。それでは少し休んだら商館に向かうから、外套の女の匂いがしたら教えてくれ」
「かしこまりました」
俺たちはそのまま建物の陰で休憩し、5分後に商館に向かいはじめた。
そして、少し歩くと商館の門に着いたので、門番に会釈して敷地に入ると、目の前の建物から使用人がこちらに歩いてきた。
使用人に挨拶して訪問理由を伝え、彼に連れられて建物の中に入ると、ロクサーヌが俺の袖を引っ張った。
「レオン様。先ほどの女の匂いがします」
「ミツオがココに来ているということか」
「彼がいるかどうかは分かりません」
「ふむ...... 取り敢えず俺は打ち合わせしてくるから、ロクサーヌは俺が迎えにくるまでこの部屋で待機していてくれ」
「かしこまりました」
彼女を待機部屋に残し、俺は使用人に案内されて応接室に移動した。
そこで10分ほど待つと、この商館の主がやって来た。
ゲプラン・オラシアン 男 46歳
奴隷商人Lv6
ゲプランさんに会ったのは久しぶりだったので鑑定したけど、年齢以外は前に見た時から変化はなかった。
半年ほど前に冒険者ギルドでこの人の息子たちを見かけたけど、確か長男のシドは22歳で奴隷商人Lv4、次男のユグドは20歳で商人Lv30だったので、彼は自分のパーティーを息子たちに引き継いで、自身は商館の仕事に専念しているんだろう。
「レオン君がウチにくるのは久しぶりだね。
アラン殿はお元気かな?」
「ゲプランさん。お久しぶりです。
父はピンピンしてますよ。もう良い歳なので、おとなしくしてほしいのですけどね。
ところで......」
それからしばらく情報交換をした後、雑談するふりをして俺にとっての本命の話をした。
「実は困っていることがありまして.....
猫人族で生娘の仕入れを依頼されているのですが、ワケありでもいいから出来るだけ安くしろと言われているのです。
普通なら断るところですけど、諸事情あって断れない客なので、ここ数日は走り回ってますよ」
「ふむ、断れない客か。
生娘に拘るということは、性奴隷として誰かにあてがう気か、それとも初物趣味か......
実はウチにも何人かそのての客がいる。
あまり相手にはしたくないが...... 困ったものだな」
「はははは。そうですよね」
おかしい?
ここにはミリアがいる筈なのに、なんだか反応が薄いぞ?
今の言い方なら食いついてくると思ったんだけど、さすがゲプランさんということか。
足元を見られることになるかも知れないけど、仕方がないからもう一言付け加えるか......
「ゲプランさん。恥を承知の上でお聞きしたいのですが、ワケありでも良いので猫人族の生娘を安く仕入れられる宛に心当たりはありませんか?」
「ふむ...... 因みに安くとは具体的にいくらを想定しているのだ?」
やっと食いついたか。
ここからは値段交渉だけど、提示金額が安過ぎたら歯牙にもかけてもらえないだろうな......
「客への売却価格を45万ナールとする予定ですので、30万ナール以下で仕入れ出来ればと考えております」
「ふむ。安くといってもそこまで安く売るつもりはないのだな」
「断りづらい客ですが、つけ上がらせるつもりはありません。
相場より1割は安いことを説明して、ゴネるようならそれをネタに2度とムリは聞かないようにしてやりますよ」
「はははは。レオン君はなかなか強気だな。
しかし、猫人族か。
知っているとは思うが、猫人族の生娘はそれだけでも希少だぞ。
あの種族は自由奔放で貞操観念の低い者が多いからな」
「わかってます。
ですので、何処かの商館にて奴隷教育やブラヒム語の教育が済んでいる容姿端麗な者がいたなら、ウチの利益は無くても仕方がないと考えております」
「ふむ。売却可能な状態なら45万ナールでも仕入れると...... その覚悟があるなら結構だ。
そう遠くないうちに条件に合う者が見つかるだろう。
しかし、残念だな。
今の話。1時間ほど前に聞いてたら力になれたんだが」
「は?」
「実はウチに容姿端麗だがワケありのためオークションには出せない猫人族で生娘の者がいるのだが......
レオン君がくる少し前に来た客が、購入の意思を示していたのだ。
ユグドに任せているので結果は聞いておらんが、アレのことだ。おそらく今頃商談をまとめているだろう」
俺が来る少し前って...... ミツオか!
マズイ!ヤツはこの世界の知識を持ってる......
当然ミリアのことも知ってる筈だ!
クソッ!
セリーを手に入れたことで俺は油断していたのか?
ヤツにミリアを取られていたら、どうするか......
「ゲプランさん。もし、その商談がまとまらなかったら、その猫人族の娘を譲って頂いてもよろしいですか?」
「構わんが...... 望みは薄いと思うぞ」
「そうなんですか?」
「うむ。他の商館である程度のことを聞いて、その上で紹介状をもらって来てるのでな」
どういうことだ?
ミリアの情報が何処かの商館に漏れていた?
いや、情報があったとしても、自分の商館にいない者を紹介するのはおかしいよな?
それとも聞いたことは無かったけど、何処かの町の商館がココと業務提携でもしているのか?
そして、たまたまミツオはその商館に行き、希望の者がいなかったのでココを紹介されてきたってことか......
つまりヤツはミリアのことは知らなかったということか?
ヤツはロクサーヌとセリーのことは知っていたから、あの物語のことは知ってるはずだ。
それなのに、ミリアのことは知らなかったのか......
そんなことあり得るのか?
そういえばアイツの隣にいた女は何だったんだ?
ロクサーヌとセリーを手に入れられなかったので、代わりに買った奴隷か?
それとも奴隷ではないパーティーメンバーか?
うーん...... わからないことだらけだな。
「ゲプランさん...... 一応結果が分かるまで、ココで待たせてもらってもいいですか?」
「構わないよ。
ただ、私は仕事があるのでこれで失礼する。
後で使用人をよこすので、結果はその者から聞いてくれ」
「わかりました。ありがとうございました」
ゲプランさんの退出後、一縷の望みをかけて応接室で待たせてもらったけど、10分後に使用人が部屋に来て、希望の者は先に来た客に購入された旨を伝えられた。
はぁ~......
まさかミリアを手に入れられないとは......
一度気を引き締めて今後のメンバーをどうするかちゃんと考えないといけないな。
それと、ロクサーヌとセリーになんて言えば......
俺は意気消沈しながら応接室を出た。
そして、ロクサーヌを迎えにいくと、彼女は顔色を青くして俯いていた。