異世界転生した俺は、原作展開を壊して自由に生きる 作:龍いち
帝都の奴隷商館にて、5人目のパーティーメンバーとして、猫人族のミリアを身請けした。
退館するため受付の前を通り過ぎようとした時、不意にカエデが立ち止まって俺の袖を引っ張った。
「ん?どうした?」
「この商館に来たときなんだけど...
冒険者ギルドを出てから途中まで、ずっと後ろをつけてきていた人たちがいたのよ。
人間族の男と狼人族の女の二人組だったんだけど...」
そこまで話すと、カエデは俺の耳元に顔を寄せて小声で囁いた。
「怪しいと思ったから商館の少し手前の曲がり角で鑑定しようとしたんだけど、そいつら私たちに見つからないように建物の陰に隠れたのよ。
それで、その女の方なんだけど、たぶん今そこの部屋の中にいるわ」
「えっ!マジ?」
「どうかされましたか?」
カエデが指差した扉を見ながら驚いて声をあげると、突然立ち止まって内緒話をはじめた俺たちを訝しんだのか?ユグドから声がかかった。
「いや... そこは何の部屋だ?」
「この部屋ですか? ここは当館に来た方の随行者に待機して頂く部屋ですが」
「中を確認させて頂いてもよろしいですか」
「構いませんが、何かあるのですか?」
「いや、その......」
「すみません。
知り合いが来ている気がするので、出来れば挨拶を」
「そうでしたか。それならどうぞ、確認してください」
理由を問われてどう説明すれば良いか困ったけど、すかさずカエデがフォローしてくれて助かった。
ユグドに続いて部屋の中に入ると、そこは20畳ほどの広さでテーブルと椅子がいくつか置かれており、その一つに狼人族の女性が座っていた。
しかも彼女は予めこちらに気づいていたのか?
部屋に入った瞬間から俺たちを凝視していた。
その顔を見て、俺は思わず息が止まった。
な、ロクサーヌ!
間違いない!あの漫画で見た彼女だ!
なんでこんな所にいるんだ。どう話しかければいい?
突然のことに混乱して固まっていると、そんな俺を放置して、カエデが一歩前に出た。
「ロクサーヌさんですね。
冒険者ギルドから私たちをつけてきたようですけど」
「えっ?!」
「気づいてないとでも思っていたのですか?」
「別につけていたわけじゃありません。
私たちもこちらに用があったので、たまたま歩いていた方向が一緒だっただけです」
「たまたま、ずっと一定の距離をあけて後ろを歩いていたと」
「そうですよ」
カエデは鑑定したようで、いきなり名指しでロクサーヌを糾弾した。
すると、咄嗟のことで動揺したのか、カエデの誘導に引っかかったのか、彼女は俺たちの後を歩いていたことはあっさりと認めてしまった。
しかも、後ろを歩いていたので顔は見えていないはずなのに、俺たちをちゃんと認識していたと......
つまり、俺たちの匂いを嗅いでいたということ......
ってことは、少なからず俺たちのことを意識していたということだ。
しかし、俺は全く気付かなかったけど、カエデは俺たちが誰かにつけられていたことに気付いていて、歩きながらロクサーヌの匂いを覚えたのか......
さすがはカエデだな。
思わず愛おしさが込み上げてきてしまったけど、今はそれどころじゃないので、気を取り直してロクサーヌに視線を向けた。
彼女は話の主導権を完全に持っていかれているようで、カエデとは目を合わせないようにしている。
「では、なぜ私が振り向いたときに隠れたのですか?」
「それはその......」
ロクサーヌは返答に困り、一瞬俺に視線を向けた。
しかし、それをカエデは見逃さなかったようだ。
「なるほど。彼に見つからないためですか」
カエデが俺に視線を向けると、ロクサーヌはもう一度俺に視線を向け、すぐに目を逸らした。
「つまり、あなた達は彼を知っていたのですね」
「わ、私は知りませんでした」
「つまり知っていたのは、同伴の男の方ですか」
カエデが同伴の男と言った瞬間、ロクサーヌの雰囲気が変わった。
「......これ以上、貴方がたとお話しすることありません」
「そうですか。では男の方を問い詰めましょう」
「レオン様に手出しするのなら、承知しませんよ」
「それが貴方の本性ですか。
でもね......
満男君に手を出したら私も容赦しない......
お前自身だけじゃなく、お前の男も仲間もまとめて狩りつくしてやる!」
カエデの挑発に乗ってプッツンきたのか、ロクサーヌから殺気が溢れ出した。
そのプレッシャーに気圧されて少し息苦しくなったけど、次の瞬間、今度はカエデからロクサーヌを上回るほどの強烈な殺気が放たれた。
まさか殺気を返されると思ってなかったからなのか、ロクサーヌは「ウッ!」と唸って椅子を倒して立ち上がった。
そして、彼女はカエデを睨みつけながら、剣の柄に手をかけた。
さすがにこれ以上はマズイので止めようと思ったけど、俺より先にユグドが止めに入った。
「お客様!当館内での揉め事は困ります!
今すぐ収めて頂けない場合は騎士団を呼ぶことになりますが、よろしいでしょうか?」
「......申し訳ありませんでした」
「......すみませんでした」
ユグドは2人が鉾を収めたことにほっとしたようで、大きく息を吐き出し、俺たちに退室を促した。
俺たちはユグドに門まで誘導され、笑顔で商館から追い出された。
奴隷を一人購入しているけど最後の最後に迷惑をかけてしまったので、今後はまともに相手をしてもらえないかも......
次にターヘラの奴隷商館に行くことがあったら、フレア嬢経由でユグドに謝罪しておこう。
その後、冒険者ギルドまで歩きながら、今さっきのことを考えた。
ロクサーヌの主人はレオンなのか。
つまり、アイツは......
いや、アイツだけじゃなくベイルの商館主もか。
奴等は、ロクサーヌは販売せずに自分たちのものにし、買い求めにきた俺を嵌めたということか......
しかし、自分たちのものにするだけなら、“その者は身内で身請けしたので販売できません”と言えば済むことだ。
わざわざ俺を嵌めて出禁にする必要はなかっただろう。
何故そんなことをしたんだ?
おかげでセリーを手に入れる道筋がなくなってしまったけど......
そういえば、セリーのときも、なんで商館の奴等は外での揉め事に介入してきたんだ?
セリーがベイルの商館に売られてくることを予め知っていたのか?
もしかして......
ベイルの商館にはあの漫画のことを知ってるヤツがいて、そいつがあの漫画通りにパーティーメンバーを集めているってことなのか?
もしそうなら、今日レオンがココにきたのは、ミリアを購入するためだった......
そうなると......
今後、ミリア欲しさに何か仕掛けてくるなんてことがあるのか?
クソッ!何がなんだか...... 分からないことだらけだ。
ただ、カエデみたいに“前世の記憶”があるヤツが他にいてもおかしくはないだろう。
もしかしたら、俺みたいに転移?転生?してきたヤツもいるのかも知れない。
なんで今までその可能性を考えなかったのか。
自分の迂闊さにため息が出る。
とにかくベイルの奴隷商館の奴等、特にレベルが高かったアイツは要注意だな。
そんなことを考えながら歩いていると、不意にカエデが俺の袖を引っ張った。
「満男君。あそこの店でちょっと休んでいかない?」
「えっ?」
「ほらあそこ、ちょうど良くない?」
「......分かった」
カエデが指差した店は通りに面した2階建てのカフェで、2階の窓からは通りがよく見えそうだ。
つまり、カエデはこのあと通りかかるレオンを鑑定するつもりなんだろう。
セリーを取られたときはヤツは探索者Lv83だった。
あれから30日以上経ってるから、俺も今のレベルがいくつなのか気になる。
通り過ぎるのは一瞬だろうけど、2人で鑑定すれば見落としはないだろう。
店に入って2階の窓際の席に案内してもらい、紅茶や茶菓子を注文した。
そして、ミリアに「商館で揉めた相手の同行者を確認するためココで少し休憩していく。あとで説明するから、少しの間大人しくしててくれ」と伝え、俺とカエデは窓際に張り込んだ。
それから20分ほどすると、ロクサーヌとレオンが通りかかった。そして俺たちには気づかずに、そのまま通り過ぎていった。
ヤツが通り過ぎた後、カエデを見ると目を見開いて驚いていた。
多分俺も同じような顔をしていただろう。
[レオン 男 20歳 探索者Lv86 勇者Lv37
魔道士Lv32 魔法使いLv75 遊び人Lv37
英雄Lv74 禰宜Lv37
装備 硬革の靴 決意の指輪]
[ロクサーヌ ♀ 16歳 獣戦士Lv43
装備 レイピア 硬革の靴]
レオンはジョブが7つ......
つまり、アイツには俺たちと同じ能力があるってことか......
しかもかなりレベルが高い。
セリーを取られたときはジョブは探索者だけだった。
アレは鑑定されても複数ジョブに就けること。つまり、ボーナスポイントを振り分ける能力があることをバレないようにしてたからか......
レオンがあの漫画のことを知ってるヤツ。
つまり黒幕ってことだ。
「カエデ。見たか?」
「うん......」
「どうすればいいと思う?」
「関わらないようにした方がいいと思う」
「だよな......
向こうから絡んできたらどうしようか」
「絡まれることがあるの?」
「実はミリアのことなんだけど......
前に話したこの世界によく似た漫画に出る予定の娘なんだよね」
「予定?」
「漫画は完結してなくて、今日会ったロクサーヌとセリーっていうドワーフの娘までしか出てきてなかったんだけど......
ネットでまとめサイトを見た時に、身長がすごく高い赤髪の女性と華奢で線の細い金髪のエルフ少女、それとミリアが主人公のパーティーメンバーとして書かれていたんだよ」
「じゃあ、満男君はミリアのことを知ってたの?」
「いや、画面で見ただけで、名前も知らなかった。
だから、今日ミリアを見てすごく驚いたんだ」
「そうだったの。
因みに華奢で線の細い金髪のエルフ少女って、クレアのこと?」
「いや、容姿は似てるけど彼女じゃない」
「ふーん。容姿は似てるんだ」
「いや、別にクレアは容姿だけで選んだわけじゃ......
そ、それで、話を戻すけど。
レオンはロクサーヌだけじゃなくセリーも手に入れているんだ。
だから、レオンたちは、ミリアを手に入れに来ていたのかも知れない......」
「ふーん。じゃ、いざってときに備えて、もっと強くならないとね♪」
「......そうだな。
フフッ。悩んだところで仕方がないな」
レオンがすごくヤバイ奴ってことを、俺はかなり深刻に捉えたけど、拍子抜けするくらい軽くカエデに返されてしまった。
おかげで気が抜けたというか、一気に気持ちが楽になった気がする。
せっかくミリアが加わって、戦力が上がるんだ。
カエデの言う通り、当面は探索に専念して俺自身が強くなることに集中しよう。