異常希性 作:マキアン
「よし、これなら大丈夫そう」
「……」
「だいぶ前に出てった人の家って言ってたけど、ちゃんと整備してくれてるみたいですね」
時刻は夜。辺りはすでに夜の帳が下りて、家屋の明かりなどもほとんどない。
日没と共に眠る、田舎といえば田舎らしい夜の在り方だ。最近の若者、に分類される二人には一日の活動を終えるには少々早すぎる時間だが。
「お風呂が沸くまではゆっくりできそうです」
二人は空き家に案内されると、一通り設備が生きていることを確かめて一安心した。
最近では田舎に移住したり、別荘を持つ人間も多い。そう言った人向けに、放置せずに綺麗にしていた家なのだろう。
「ふぅ、疲れた〜!」
「……」
ここまでの体の疲れに引っ張られるように、由良来は着替えることもなく寝室にて寝具の上に寝転がった。桃花はそんな由良来に背を向けて正座し、荷物を点検している。
「良かったですね、桃花さん。思ったより快適な家貸してくれて」
「そ、そうですね。ちゃんとお風呂も入れそうですし……」
あれからここまで二人の間に会話という会話は無し。桃花は村長と別れるなり、意図的に由良来と顔を合わせないようにしている風であった。
人に冷たくされるのも、いないものとして扱われるのも慣れていたが、他でもない桃花にそういう態度を取られるのは辛い。由良来の胸に少しの寂しさが過った。
「桃花……?」
「っ、な、なななんですか由良来ちゃん?」
呼びかければびくっと震える肩。
様子がおかしい。その理由には検討がついているものの、由良来はイタズラがしたくなった。
悪い笑みを浮かべてその背に後ろから抱きついて、その大きな乳房にワイシャツの上から手を這わせながら肩に顎を乗せる。
「ぁっ♡ 由良来ちゃん……っ!?♡」
「ねぇ、桃花。何で無視するの?」
「ひゃんっ♡ む、無視なんてっ♡ そんなことっ♡」
優しくこねるように揉み込みながら、甘く、しかしどこか責めるように桃花に囁きかける。由良来はこうすることで彼女の秘所が物欲しそうにひくつくことを、優に三桁は下らない性交経験から把握していた。
「ゆ、由良来ちゃん♡ やめてくださっ、ひんっ♡ さっき、お口でしてあげたのにっ♡」
「ねぇ、桃花。さっきのアレ、なんだったの?」
「あ、あれはぁっ♡ 私でも分からないんですっ♡ なんだか無性に由良来ちゃんのソレが欲しくなってしまってっ♡」
「もう、ソレじゃなくておちんぽとか、ペニスとか、そういう言い方してほしいなぁ」
「んひっ♡ お、おちんぽっ♡ 由良来ちゃんのおちんぽが欲しくなったんですっ♡」
むくむくと再びペニスが大きくなっていくのを感じながら、由良来は桃花の言葉を冷静に考える。
おそらく、何かしらの干渉があったはずなのだ。由良来は桃花のことを一年近い関わりの中である程度知り尽くしているという自負がある。
今の桃花の中は自分がしたことに対する後悔や困惑でいっぱいになってしまっているのだろう。普段の自分とのギャップに折り合いが付かない、と言うべきか。
そんな感情を忘れさせるように、せめて和らげられるように由良来は慰める声音で大きな胸を愛撫する。
「わ、私、絶対変だったんですっ♡ あんな、あんないやらしい子じゃないのに♡」
「確かに変だったね。でも、いやらしくてもいいんだよ。わたしはそんな桃花も好きだから」
「ぁひっ♡ や、やですっ♡ 私、由良来ちゃんにそんなはしたない姿っ♡ お姉さんなのに、ぃっ♡」
桃花は確かに尻や胸を触るだけで濡れるし、すぐにおほおほ喘ぐし、清楚ぶってても今や本性は長太いペニスで膣奥をほじられるのが大好きなドスケベ女だ。
だが少なくとも、桃花はあんな風に節操なく外で求めてくることはない。
強情な桃花の精神に刷り込むように、由良来は桃花が決して否定することのない言葉を囁く。困惑や後悔を愛情で甘く蕩けさせる。
「でも桃花はわたしのお嫁さんでしょ? いつもそう言って、ココ、締めてくるのに」
「ぁぁんっ♡ そ、それはぁっ♡ た、確かにそうですけど、ぉっ♡ まだ私たち早いっ、からぁっ♡」
「早くないよ、いつでもわたしは桃花のことをお嫁さんにしてあげられるよ?」
「〜〜っ♡」
ロングスカートの股座を押さえつけてやれば、そこはくちゅりっ♡と淫猥な音を立てて桃花の発情度合いを伝えてくる。
上から何度もくちゅっ、くちゅっ♡と音を響かせながら大陰唇を撫でる。
「ねえ桃花、おまんこ熱くなってる?」
「ぉ♡ そ、そんなことっ♡「ねえ」〜〜っ♡ なってますっ♡ 由良来ちゃんのおちんぽっ欲しいって♡ おまんこ、とろとろになってますっ♡」
「ふふ、かわいいね桃花。もっとたくさん今の桃花のこと教えて? わたし、どんな桃花でも好きだよ」
「あひっ♡ わ、私もっ♡ 由良来ちゃんのことっ♡ ぉっ♡」
初めてアラハバキの力の副作用が出て桃花と交わるようになってから、ここまで幾度となく身体を重ねてきた。その中で、他でもない由良来がそういう風に桃花を染めていった。その自覚と責任とが、桃花を脅かす何をも許容しない。
桃花は自分だけのものだと、腹の奥のどす黒いものが湧き出てくる。
「ひぃっ♡ 由良来ちゃっ、も、無理っ♡ 限界ですっ♡」
「そっか」
「ぁっ♡ ぇ……?」
この場合の限界、という言葉は額面通り受け取るべきものではないだろう。それは理解しているが、由良来はパッと手を離して一切の攻めをやめる。
「ごめんね、桃花さん。今日は疲れてるよね。お風呂入って寝よっか」
「……は、はい。そうですね、由良来ちゃん……」
立ち上がった由良来は、切なく物欲しそうに頬を赤らめる桃花に気が付いていないふりをして、風呂場へと向かった。
□
「由良来ちゃん、昨日のことはお互い一旦忘れましょう」
「え、うん、わかった」
翌日、貸し家の今で向かい合い朝食をとっていると、桃花がそう切り出した。
実際あれだけ情熱的に求められるのも雄として悪い気はしないが、桃花が忘れたいというのであればそれはそれだ。由良来が二つ返事で答えると、桃花は安堵の息を吐いた。
「……桃花さん、ちょっとザーメン臭いですね」
「っ!? 由良来ちゃん、怒りますよっ!」
「あ、あはは。ごめんごめん」
「〜〜っ、もうっ!」
軽口、というよりは由良来の発言に怒って返せるくらいにはメンタルも落ち着いたのだろう。いつも通りに近い桃花の姿に由良来は微笑む。
その後も、二人は軽く他愛もない話をした。由良来にとって、桃花との性的なスキンシップは確かに好きだが、それ以上に彼女と過ごす時間がかけがえのないものであることは齢十五の少女であっても深く実感していた。
だからこそ、桃花に干渉した界異は必ず滅する。
強く決意して、立ち上がる。
「さ、みんなに話を聞いてきましょう!」
「そうですね。でも、多分みなさんお仕事中なのであんまりご迷惑はおかけにしないようにしないと」
「はーい」
羽目村に着いたらまずは情報収集をしよう、というのは昨日の飛行機の中で決めていた動きだ。特に立ち寄った支部で大した情報を得られていない現状、聞き込みは急務だろう。
二人は二手に分かれて回ろうと決めると、早速聞き込み開始することに。
「では、この後夕方にまた集まりましょう。お昼休憩はバラバラになりますが……」
「ふふん、大丈夫です。わたしだってもう16になるんですから!」
「ふふ、それもそうですね。では、くれぐれも無茶はしないように」
「桃花さんもですよ!」
そう言って意気揚々と歩いていった妹分の姿を見送って、桃花もまた自分のするべきことを成すべく行動を始める。
桃花は昨日のこともあり、すぐにでも境界異常を祓い、この村を出たかった。
何かが、雄から子種を搾れと、子を孕めと囁きかけてくる。そんな感覚。自分が自分でなくなるような悍ましさと、堪え難い性衝動。その桃花という人間の精神とのギャップに、確かに桃花は昨日苦悩していた。
昨日の夜の由良来の行動が、そんな自分を見透かして気を紛らわせるための行動だったとしたら、なんとも不器用だがあれに救われた。姉貴分として、今度は私が活躍しなければという思いもあった。
「
『ケーン!』
腰に提げていた竹筒、祭具の蓋を開ければ中からぽんっと小型犬サイズの縁起───調伏された管狐の界異が飛び出てくる。
彼、もしくは彼女の名前は涼風。桃花の幼い頃より共にいる親友、いや兄弟姉妹のような縁起だ。
「涼風さん、聞き込みしますから周りを気にしておいてください」
桃花の言葉に頷いた涼風は彼女を守るように周囲を漂い始める。基本的には由良来や前線部隊の職員と行動を共にする桃花であるが、やむを得ず一人になった時や、桃花だけでは治癒の手が足りない時にはこうして涼風の手を借りるのだ。
それに涼風を伴う利点はそれだけではない。桃花は早速畑仕事をしていた壮年の男に声をかける。
「こんにちは。私、東京から来た祓魔師の者なんですけど」
「ん、こんにちは、ってうおっ!? なんだいそれぁ!?」
「あ、こちらは私の縁起、調伏界異の涼風といいます。人に害は与えないので安心してください」
「そ、そうか。でも確かに悪いことしそうな見た目はしてねえな」
村人は桃花の姿、正確には彼女の周りでふわふわと漂う涼風の姿に驚く。しかし桃花が名乗りの通り祓魔師であることを理解したのか、すぐにその態度を軟化させた。
こうして驚かせてしまうことはあるものの、涼風を伴っていればまだ若い桃花を祓魔師と認める人間も多いのだ。これは桃花が今回のような聞き込みをする際に身につけた交渉術のようなものでもあった。
「ここ最近、何か変わったこととかってありませんでしたか?」
「変わったことか……そうさなあ」
「どんな些細なことでも大丈夫です。秘密も守りますので」
男は既に齢五十近い身、妻子があって子供は既に大人だ。都会へと出ていった自分の娘よりも若く真面目そうな桃花にそこまで言われれば、何か助けになってやりたいと思った。
水田から上がり桃花の側までよると、男は小声で伝える。
「いんや、大した話じゃないんだがよ? 最近、嫁さんがお盛んになる日があってよぉ。昨日もそうだった。もういい歳だってのに、子供でもこさえたいんかってくらい求めてくるから困ってんだ」
「ぇ、ぁ、な、なるほど……!」
「あー、いやすまん。でりかしぃ、ってのがなかったか。おれも古い人間でな、わりぃわりぃ。ただ、隣の竹丸さんや、数軒向こうの松谷の坊主んとこもそうだって言ってたもんだからよ。ちょっとおかしいなとは思っとったんだ」
相手がまだ未成年であることなどお構いなしの猥談じみた話に桃花は耳を真っ赤に染める。これは田舎特有の明け透けな物言い、やり取りなのかな、と思うが少なくともその話は有益そのものだった。
「その、奥さんがそうなってしまう時っていつもと違うこととか、ありませんでしたか?」
「いつもと違うことかぁ……あ、そうだな、雨だ」
「っ! 雨が降っていたんですか? どれくらい?」
「そりゃあもう土砂降りだったよ。雨自体は一瞬だったけど、あんな中を歩いていたら前も見えなくなるんじゃないか?」
桃花の脳裏に昨日のことが過る。
自分がおかしくなったのも、あの突然の大雨が降ってからだ。視界が完全に遮られるような大雨、そして不可解な欲情。
間違いない。
「ありがとうございます。助かりました」
「おお、そうかい? もし情報が足らないってんなら、おれから話聞いたって言えば竹丸さんや松谷の坊主も話してくれるだろうさ」
「お気遣いありがとうございます、早速聞いてみますね」
「おう。お嬢さんも、あんまり無理すんなよ」
男の気遣いに心温まる思いとなりながら、桃花は礼を述べて次の聞き込みへと向かった。
□
「あ、桃花さん!」
「由良来ちゃん、お疲れ様です」
貸し家の方から駆け寄ってくる妹分の姿を見つけて微笑みながら、桃花は小さく手を振る。
時刻は夕暮れ、村の人から聞けるだけ話を聞こうと張り切って回っていれば、いつの間にかこんな時間になっていた。どうやら由良来の方が先に情報収集を終えて戻ってきていたらしい。
二人は家に入ると、簡単に休憩してから集めた情報を交換することにした。
「うーん、わたしの方はこの村の昔話とかばっかりでしたね。わたしのこと、孫みたいな扱いしてくる人が多くて……」
「まあ、由良来ちゃんはスタイルは良いですけど童顔ですからね」
「むむー、気にしてるのに」
「そもそも由良来ちゃんはもっと食べないとダメです」
「はぁい」
離れていた半日分を埋めるように話に花を咲かせながら、共有される由良来の話をまとめる。
先ず、この村にはケッカイ様という道祖シンのようなカミ様がいたこと。今も高齢の村人を中心に信じられていること。
次に村の異変はここ数週間の出来事で、それまではゲリラ豪雨のような大雨もなかったということ。
三つ目に、今年で百歳になる老人からのみ聞くことのできた話であるが、過去にも一度今みたいな村全体が"妙な空気"に包まれたことがあったこと。その時には大雨が降り、数人の女の人が不審死を遂げたこと。
「……これは間違いない、ですね」
「幸い、まだ被害者は出てないみたいですけど、そんなことを言っていてもいつ出るかわからない。早く解決しないとです」
「そうですね、私も同意見です。」
桃花も得た情報を共有していくが、得られた情報は一人目の聞き込みの時とあまり変わらない。
だが、一つだけ気になった情報はあった。
それはこの村に来て出会った最初の村人にして、村長である吉三についての妙な話だ。
「村長さん、実は数週間前に余命だったらしいんです。寝たきりだったのに、いつの間にか元気になったって」
「……うわ、めちゃくちゃ怪しいですねそれ」
「はい。疑いたくはないですけれど、何か村長さんにはあるんじゃないかと思います」
「わたしも同意見です。少し詳しく調べてみましょう」
空き家を快く貸してくれたあの朗らかな老人を疑うのは心痛むが、真相がどうであれ仮にそうであった場合苦しむのは村長だろう。
村というのは利己極まる集団だ。それは現代でも変わらない。村は集団的な人間の関係性そのものなのだから。
今はまだ被害が出ていないからこそ村人の村長への認識は変わらぬままだが、もし仮に被害が出てしまってからでは、余命僅かの身から健康体になったことと異変が起き始めた時期の重なりもあり村長への目は厳しくなることは間違いない。最悪の場合は迫害の後追い出されることもある。たとえそれが無実であったとしても、だ。
ならば、彼が無実であるかどうかを確かめるためにも村長には明日話を聞くべきだろう。
「現に異変が起きている以上は間違いなく境界異常が発生している。早いこと解決しなければなりませんね」
「うん、わたしもそう思います。ただ、向こうがアクションを起こしてくれるのが一番手っ取り早いんですけど……」
「そうは言っても仕方ありません。地道に調査していきましょう」
二人に与えられた時間は一週間。解決は早いに越したことはないが、時間が全くないというわけではない。
なにより既に桃花にも異常が出ている時点で、慎重に行動しなければならない。
(桃花は、絶対に護る。護らなくちゃ……!)
境界異常への対処は仕事だが、由良来にとって桃花は特別な存在だ。
路傍の石に過ぎない己では手の届く範囲のものでも簡単に手のひらからすり抜けてしまう。桃花を守るためには、自分の在り方を曲げてでも彼女一人を注視していなければ。そしてその上で、この村の人を助けるのだ。その為にはこの身体も惜しくは、ない。
そんな思いが、どうやら桃花には伝わっていたのか。知らず握りしめていた拳に、桃花の手が添えられる。
「由良来ちゃん、大丈夫。大丈夫です」
「ふぇ?」
「大丈夫ですから。そんな思い詰めないでください」
由良来を見るその目には、桃花の中の由良来に対するさまざまな想いのあり方が含まれていたが、少なくともその全てが由良来を肯定する類のものであるのは確かで。
いつだってその目が
「由良来ちゃんにとって、私がどういう存在なのか。それは私の口からは恥ずかしくて言えませんけど、それでもその気持ちは痛いほど伝わってますから」
「桃花さん……でも、わたしみたいな石っころに、護れる、かな……護ってもいいのかな……」
「……由良来ちゃんは私にとって、何よりも輝く玉です。他の誰かにとっては価値が無いと、そう思われても。他でもない由良来ちゃん自身がそう思っていても。私には由良来ちゃんの価値がわかる。私は、由良来ちゃんを信じてます」
どこか弱気な、まだ幼い面。
自らを路傍の石であると認識する、普通ではない精神性を有する在原由良来でなければアラハバキに呑まれていた。底なしの善性が無ければ、助けられなかった人がいた。
ヒーローなんて柄ではない。ただ、人助けのために生きることを決めたのだ。そんな由良来にとって桃花という存在は───
「桃花さ、ん」
「由良来ちゃん」
そのまま二人の間には甘い空気が流れ、徐に互いの顔と顔が近づいて。
唇が触れ合う。そして由良来が桃花の体に手を伸ばして……。
「桃花、ありがとう。わたし、まだまだ頑張れそうだよ」
「ん……それなら、良かったです」
「桃花も、この村のみんなも助けて、笑顔で桃花のところに帰ってくる。それがわたしにできることだから」
その顔はつきものが取れたかのように晴れやかなもので。
桃花の知る、桃花の大好きな、在原由良来という少女の顔であった。
「さあ、明日からも頑張りましょう!」
「おー!」
本当の元気か空元気かは定かではないが、少なくとも調子は戻ったらしい。由良来の快活な掛け声に微笑んだ桃花。
その股座がくちゅりと、いやらしい音を立てた。