異常希性 作:マキアン
翌日、二人は村長の家へと足を運んでいた。
吉三は二人をいつもの朗らかな笑みで迎え入れると、居間に通してお茶を用意してくると言ってキッチンに向かう。
「村長さん、やっぱり特に怪しいような雰囲気無いですよね……」
「由良来ちゃん、最初から疑ってかかるのはよくありませんよ」
「それもそうですねぇ。取り敢えず話を聞いてみないと」
実際吉三の雰囲気は人畜無害そのもので、何か裏がある風には見えなかった。
なんにせよ、二人は彼を疑ってはいるが、確信もなければこの人の良さそうな老人を信じたいという思いもある。
そんな二人の心境を露知らず、吉三はお盆に三つ湯呑みを載せて居間へと戻ってきた。
「お二人さん、調査は順調ですかな?」
「実は少し手詰まり気味でして……」
「村長さんにもいくつかお話を聞きたいなと思ってたんです」
「私にですかな? ええ、話せることならば」
机を挟んで対面した由良来と桃花は、出されたお茶に礼を言いながら村長へと話を切り出す。
出されたお茶で口を湿らせながら、桃花は質問を始める。
「この異常が起きたのはいつ頃だったのですか?」
「だいたいここ数週間ほどですな。村人達から、女達が妙な雰囲気だという話しがあがりましてな。実際、異常と言えば異常な事態でしたので境界対策課さんの支部の方にお話はしていたんです」
「それは村長さんが、ですか?」
「いえ、村の者に行かせましてな。その時、私は病で床に伏していたもので」
話に矛盾はない。
実際、昨日の事情聴取の時点で支部に話をしに行ったという人間にも出会っていた。病床に伏していたという話も隠すような気はないらしい。
彼が怪しいという根拠であったそのことに対して、本当に何もなさそうな態度。これが演技なら相当なやり手だが、果たして如何に。由良来はほんの少し警戒度を上げながら口を開く。
「そう言えば昨日皆さんからお話を聞いていた中で、村長さんがすごい重い病を患っていた、という話を聞いたのですが今は大丈夫なんですか?」
「こら、由良来ちゃん。もうちょっとそこは気を遣わないとダメな話ですよ!」
「ほっほ、結構結構。若い方に、老いぼれの病を気遣ってもらうのもむず痒いものですからな」
ほとんどそういった物事や敬うという関係性に触れずに育ってきた由良来には、まだそのようなデリケートな話題に対するデリカシー、というものがあまり理解できていない。時にわかっていて意図してそういう風に振る舞うこともあるが、今回はどちらか、ただ単刀直入に聞くだけの形となった。
しかし少なくとも、医霊班に所属する桃花としてはその物言いは見過ごせないものであった。
由良来に苦言を呈する桃花を手で制して、吉三は柔らかく笑う。
「余命幾許もない私を、仏様が見ていて憐んでくださったのでしょうか。どういうわけか、病が完治して、これこの通り立って歩いて大好きな散歩もできるようになったわけです」
「なるほど、それは良かったですね。でもまたいつ何があるかわかりませんから、お大事になさってくださいね?」
「ほほほ、山城さんはお優しいのですな。孫がいれば、山城さんのように優しく、在原さんのように素直に育ってもらいたいものですな」
そう言って笑う姿からは、やはり怪しさなどは見受けられず。
考え過ぎだったのかもしれない。そう思って真実を告げて疑ったことを謝ろうと考えた桃花であったが、ふとその視点が暗転する。
「ぁ、れ……?」
「っ、桃花!?」
「お、ぉっと、これは……お疲れだったのですかな」
貧血の症状か、それとも。由良来は何があっても大丈夫なように、周囲を警戒しながら桃花を床に横たわらせる。
「在原さん、我が家の寝室に桃花さんを寝かせてあげるといい」
「村長さん、ありがとうございます……お借りしますね」
由良来は促されるまま、意識を失った桃花を抱えると寝室へと向かう。
和室にポツンと敷かれたシーツ、その上に桃花を寝かせると由良来は桃花の手を握り締めて目を瞑った。
「桃、花……」
程なくして、小さな寝息が二つとなった。
■
『おい、雑魚界異。オレサマの相棒と相棒の番に手を出すなんざ、生意気だな』
『そういうのは、五号級とか、そんな風に言われれくらいになってからにするこった』
『つうか、デカパイ桃花はオマエ如きにゃヤれねえよ。こいつの価値はそんな低くねェ』
『……今回は見逃してやる。さっさとどっか行け』
■
「あ、れ……?」
夕暮れの光が和室に差し込む。
桃花はゆっくりと起き上がると、腿に重みを感じて視線を落とした。
そこには、微かに寝息を立てる妹分の姿。
綺麗な黒髪を撫でて梳かしながら、桃花は自分達が何故眠ってしまっていたのかを思い出そうとする。
「おや、もう大丈夫ですかな?」
「あ、村長さん」
「お二方とも、お疲れだったのかもしれませんね」
声をかけられ振り向けば、心配そうに眉を歪めた吉三の姿。
桃花は由良来を起こさないように立ち上がると、ぺこりと頭を下げた。
「すいません、このような時間まで……!」
「いえいえお気になさらず。まだお若いのにお二人ともよく頑張られているという証拠ですな」
「そう言ってもらえると、幸いです」
実際、界異【背影蟻】祓滅の任務から休む間もなく長旅をして、そのまま村人の事情聴取。どのようなアクションを起こすかわからない界異に警戒もしなければならなかったこともあり、二人の疲れは相当なものだったのは確かだろう。
それでも健康第一の医霊班の人間として、倒れることはないようにしっかりと休んではいたはずだが、この村に来てから特異な状況に桃花はさらされている。誤算があっても仕方がない。
「今日はお話を聞かせていただいた上に、お布団までお貸しいただいて、ありがとうございました」
「いえいえ。もう少し休んでいかれても構わないのですよ?」
「いえ、せっかく素敵なお家を貸していただいていますので、そちらでゆっくり休もうと思います」
「ほほ、そうですかそうですか。この村での暮らしも気に入っていただければ幸いですな」
にこやかな笑みを崩さない吉三に、この時桃花は何か空寒いものを感じて身震いした。
それが何だったのかを知るのに、時間はかからなかった。
□
それから数日。
二人はまだ境界異常を解決することができず、羽目村に残っていた。
その間例の雨が再び降ることもなく、村長もまた嘘か真かの確証はともかくとしてこれ以上は何も知ることはないの一点張り。幸いなことに二人が彼を怪しんでいることを察した風ではなかったが、だからこそ余計に難しい状況となった。
さて、どうするべきか。手詰まりの現状に焦りが募る二人に大きな転機が訪れ、事態が急変する。
それは久方ぶりにあの雨が、仮称"発情雨"が降った日の朝のこと。
「はぁ、は、ぁっ♡ 由良、来ちゃん……っ♡」
「まいったな」
「おちんぽ、おちんぽくださぁい♡」
発情状態の桃花が、はだけたパジャマもそのままに寝起きの由良来の股座に顔を埋めて甘えた声を出す。
しかし由良来はここ数日アラハバキの力を使っていない。端的に言えば、ムラムラしていなかったのだ。
無理やりふたなりペニスを生やすこともできるが、この前は流されてしまったものの今の状態で本当に桃花にちんぽを与えても良いのか、という冷静な考えも浮かんでくる。
「桃花さん、少し我慢できますか?」
「ぇ」
「ほ、ほんの少しですから!」
我慢できるかと聞けば、まるで絶望したかのような顔を浮かべる桃花。その姿に申し訳なさが込み上げてくるがそうも言ってられない。
むしろ、今しかないチャンスがあるのではないか。桃花の直感はそう告げていたのだ。
そして、それは的中する。
「っ、悲鳴?」
雨の中、微かに由良来の耳は女性の悲鳴のようなものを聞き捉えた。
それはこの時何かがあるのではないかと、そう周囲に気を張り巡らせていた由良来でなければわからないほどに些細なものだった。
「涼風さん!」
『ケーン!』
「んぇ、ぇ? 涼風さん?」
由良来が切羽詰まった声でその名を呼べば、そばに置いてあった竹筒からぽんっと桃花の縁起が飛び出してくる。
普段であれば、喧嘩するように反目し合うような仲ではあるが、それでもこの時だけはその意図を察して由良来の声を聞き届けたらしい。
「桃花さんを護って!」
言われなくても、というように涼風が頷いたのと同時。
困惑で動けない桃花に、ナニカが飛び掛かる。
『ケーン!』
『■■ッ!?』
涼風の張った加護防壁が間一髪間に合い、桃花の身を守る。
加護防壁にひびを入れるもあと一歩のところで破壊できず、弾かれて寝室の床に転がったのは、牛に似た顔に猿のような身体の毛むくじゃらの存在。明らかにまともな生物ではないことを示すようにその腕は二対あり、その目は赤く光り輝いていた。
「界異ッ!」
『■■!!』
拳を構えた由良来を威嚇するように、その界異は唸り声をあげた。
何の界異かはわからない。由良来の知識にも、桃花の知識にもない見たことのない存在だ。
しかし、威嚇しながらもその目線が何やらいやらしく自分たちの胸元や腰を見ていることだけは、二人にもわかった。
「……間違いない。お前が、この境界異常の犯人でしょ」
桃花だけでなく、胸も大きくなければ全体的に肉の薄い由良来にまでそういう視線を向けるということは、無差別的に女性を襲う界異。
今回発生している女性が発情する状況を考えれば、真犯人か、そうでなくても無関係であるはずはない。
『■■ッ!』
「っ、このッ!」
飛び掛かってくる界異に向けて、腰に差していた黒小太刀を抜き放ち応戦する。
アラハバキの力を使おうにも、今の桃花は狩衣を纏っていない。アラハバキの穢れによる汚染で万が一の可能性もあって、その力を発動させるのは躊躇わざるを得なかった。
「ッ、どこ触って、変態界異ッ!」
由良来を攻撃する手とは別に、空いているもう一対の手が由良来の身体を弄るように触る。
ばつっとボタンを弾き飛ばし、身体はちゃんと女の子であることを示すように最近実りつつある由良来の乳房を揉むその手に、由良来は顔を赤らめながら抵抗する。
「このっ、馬鹿ッ!! 触っていいのは、桃花だけだっての!!」
『■■ッ!?』
怒りのままに蹴り飛ばせば、界異は警戒したように距離を取って見つめてくる。
その姿には確かに知性のようなものも感じさせて、由良来が何かをされる前に祓わんと小太刀を構えて走り寄るより先に、界異は動きを見せた。
界異は由良来にとって、何が一番大切なものなのかを理解していた。
【ケーンッ!?】
「す、涼風さん!? きゃぁっ!?」
「桃花っ!」
界異は護るように張られた涼風の加護防壁と、立ち塞がった本体のその霊体を鋭い爪と豪腕で吹き飛ばすと、桃花に組み付いてその身体を抱える。
そしてにんまりと嘲るように由良来を見た後に、寝室の窓ガラスを突き破って家の外へと飛び出すと、視界を遮る豪雨の中へとその姿を消した。
「っ、待てっ、くそ界異!!」
由良来もその後を追ってすぐさま窓から飛び降りるが、後ろにあるはずの貸し家すらも見えなくさせるほどの大雨の中ではその姿を追うことはできず、霊感もまた不自然なほどに乱されてしまい界異と桃花の気配を探ろうとすることもままならない。
「桃花ぁっ!?」
少女の悲壮な叫びが、大雨の中に掻き消えていった。
■
「ん、んぅ……」
目が覚める。
どうやら気を失っていたらしい。
桃花は起きあがろうとして、自分の身体が何かに縛られていることに気がついた。
「っ!? むぅ〜っ!?」
桃花は全裸だった。口には布を噛ませられており呻き声しかあげられない。
その豊満な胸も、安産型の巨尻も、むっちりとして柔らかい太腿も全てあますところなく曝け出した姿で、きつく縄に縛られていた。
辺りには同じように縛られている女性達が見える。その年齢は様々であったが、どうやらこの村の人間らしいことは、数日の関わりで見知った仲になった顔ぶれを見つけたことで理解する。
『■■』
視線の先には界異の姿。
界異はまるで女達の主人のように、和室の奥でふんぞり返っていた。
そして界異は桃花を含め全員が起きたことを確認すると、のそりと立ち上がって女達の前へとやってくる。
その股間には、大きなモノが屹立していた。桃花にとっては物足りないサイズではあったが。
「ん〜っ!?♡」
あろうことか、界異は正座の体勢で待つ女達の股座に足の甲を差し込むと、その大陰唇を雑に擦り上げて刺激する。
その雰囲気は品定めのように思えた。
数人隣の女から徐々に近づいてくる、ぬちゅりという湿った音と女のくぐもった嬌声。そしてとうとう桃花の順番が回ってくる。
『■■♡』
「っ」
その目は桃花のたわわに実った胸と子をたくさん成せそうな尻を見ていやらしく笑むと、その股座に同じように足の甲を差し込んで、他の女よりも強く擦り上げた。
「んむぉ〜っ!?♡」
『■■っ♡』
由良来とのセックスである程度乱暴な扱いにも慣れている桃花にとっては、むしろちょうど良い刺激であった。
腰を震わせて絶頂した桃花に界異はぱんぱんと手を叩いて、満足そうに嗤う。
それだけでは終わらず、界異はぴんっと勃起した少し大きめのクリトリスを手の指のように長い足の指で器用につまんで容赦なくシゴく。
「ん、ぉおぉ〜っ!?♡ ぉっ♡ んぶぅっ!?♡ んぉぉ〜♡」
『■■〜♡』
ぶしっ、ぶしっ♡と畳の上に潮を吹き散らしながら、桃花は雑な愛撫で絶頂させられる。
ぶわぁっ♡とメスのフェロモンが放たれ、反応した界異のペニスがさらに大きくなる。
このメスで間違いない。
界異は頷くと、アヘ顔で脱力する桃花を抱き抱えて部屋を後にする。残された女たちなどもう興味はなかった。
「きゃぁっ!?」
『■■』
道中で口の布を外された桃花は、ある一室に辿り着くなり敷布団の上に放り投げられる。
下卑た目を向けながら寄ってくる界異を気丈に睨み付けると、桃花は淡い快感の余韻に悶えながら声を上げる。
「っ、んっ♡ な、何が目的なんですかっ!?」
『■■? ■■■』
この世ならざる言葉で話す界異には人間の言葉など通じない。むしろこの界異は確かな知性を感じさせる分、まだマシな手合いでもあった。
その目は、その雰囲気は、その言葉に載せられる意味は察することができる。
界異は手足を縛られて動けない桃花の足の拘束を解くと、その脚を大きく広げさせて股座に、匂い立つ女性器に顔を近づけてすんすんとにおいを嗅いだ。それはまるで桃花という人間の羞恥を煽るように、こういう行為に手慣れている雄であることを嫌でも桃花に実感させる。
「か、嗅がないでっ、んひっ!?♡ な、舐めるのもやめてくださっ、ぁぁんっ♡」
『■っ』
「ぉお〜んっ!?♡ らめっ、らめらめらめっ♡ 中、舐めまわされて、ぇっ♡ こ、これ舌長すぎぃんっ♡」
桃花の膣穴に長く厚ぼったい舌が差し込まれ、味わうように全体を舐め回す。それはここまでお預けされていた桃花の身体をすぐさま高めていき、桃花は呆気なく絶頂に至った。
舌による膣ほじりは数分間続き、口が離れた頃には桃花の膣穴はぱっくりと開き中まで丸見え状態になるまでほぐし切られてしまう。
「ほ、ほひっ♡ 舌っ、もうむりですぅ♡ 堪忍してください〜♡」
『■■♡』
「あんっ♡ や、やめてくださっ♡ あっ、熱っ♡」
勝ち誇ったように界異は桃花の大きな乳房に脚を乗せると、限界まで勃起していたペニスを緩くしごいてその端正な顔にびゅっ、びゅっと精液を浴びせる。神聖な雰囲気を纏ったこの少女を白濁に汚すのは界異にとって、この世の何よりも甘美な感覚であった。
そしてもう愛撫は十分であろうと、その膣穴にペニスをあてがう。
界異の目的はただ一つ。
自分の子種を託し、次の自分を生ませること。
そのためにこの村にある結界に擬態し続け、生まれ変わりの時期には人を誑かして女を見繕い、こうしてその時がくれば手元に集めて孕ませてきたのだ。
「ぉ、ぉ〜♡ ぉっ♡」
『■■』
この娘はさぞかし強い自分を産んでくれるだろう。
もしかすれば人間の言う三号級にも至れるかもしれない。界異はほくそ笑んで、桃花の膣に自らの猿魔羅を沈めようとして、
『っ、■■!?』
「っ、それだけはっ、だめですっ」
強い意志を秘めた女の顔を見た。
それは全く知らない相手に犯されることにも、界異に孕ませられることにも抵抗を示す顔だが、それ以上に一つ、何よりも強い意志が垣間見えた。
愛。既にどんな相手にも靡かないと誓った、オンナの顔。
お前みたいな相手にこの身体を使わせるものかという、加護よりも強く、鋼鉄よりも確かな操の決意。
膣口に張られた加護防壁。それはまるで女の心の強さ、決意の固さを現すように堅く、界異のペニスを全く通さない。
界異は後少しで極上の雌を孕ませられるのに、どれだけ挿入しようと腰を突き出しても拒まれるソコに、何度もペニスをぶつけて破壊しようと試みる。
しかし、それは愛の前に、なによりこの界異では逆立ちしても敵わぬ強い雄に全てを蹂躙され尽くしたオンナの前では何一つ魅力的には映らず、何とも無意味なことであった。
『■■ッ!』
「っ、由良来ちゃんっ!」
焦れた界異が、怒りのままに桃花をわからせようと拳を振るおうとする。桃花は目を瞑り、その人の名前を呼んだ。
強く、願った。
「───桃花ァっ!!!!」
その時天井を破壊しながら一人の少女が、否、最愛の人を取り戻しにきた一人の雄が現れたのはまさしく必然だったのだろう。
誓ったのだ。この人を護ると。この人の為の英雄で在るのだと。
失うものか、奪わせるものか。この身は路傍の石なれど、ただ一人のために輝き、この世の何よりも価値を示して見せようとも。
その為に、在原由良来はこの力を振るう!
「来やがれ、アラハバキィッ!!!」
『応ッ!!!』
由良来の細腕を、隆起し蠢く黒い筋肉の塊が覆いて剛腕と成す。
それは面を食らって動くことのできない界異の顔面を殴り飛ばし、その首から上を消し飛ばした。
『ハッ、馬鹿界異!! 言っただろうが! オマエじゃコイツはヤれねえってなァ!!!』
「桃花は、わたしのモノだッ!!!!」
二人の怒りが、首を飛ばされてなお逃げおおせようとする界異を竦みあがらせ、その動きをほんの僅かに止めさせる。
それがこの一連の騒動の、終わりだった。
「C2-3! カースドアーツ!」
『応ッ!』
由良来の要請に応え、アラハバキを纏った剛腕が蠢きその形を変える。
それはある女性との共闘によって得た、新たな力の形。
長大な銃身の姿を模したそれは、地下鉄で共闘したある祓魔師が用いた砲戦用祭具のアラハバキアレンジ。
「ハイメガ・セイクリッドレーザー!!!!」
『出力完璧ッ、ぶっ放す!!』
「『───ファイアッ!!!!』」
声が重なった瞬間、放たれる超高速のレーザー。周囲の畳も、襖も、壊れかけた屋根も余波だけで吹き飛ばしながら、逃げる界異の背を捉える。背の桃花だけしか護るつもりのない、怒りのままの一撃。
それはたかが二号級の界異など一瞬で掻き消して、それだけにとどまらず遠くの山まで到達すればその山頂すら焼き溶かした。
「身の程を知れ、馬鹿が」
憎悪すら滲ませた顔で吐き捨てる。夕暮れの空は晴れ渡り、二人の祓魔師の仕事が終わったことを示していた。
祓滅完了。
桃花はその小さくも頼もしい後ろ姿に安心し、極度の緊張で張り詰めていたその意識を手放した。