※この作品はR-18です。

うたわれるものヒロインとイチャイチャする話   作:クラムP

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二白編から導入パートと本番パートを分割します。今回は導入編でえっち無しです。
オシュトル視点。ロスフラ6周年おめでとう。


弍ノ章 二人の白皇
第一話前 亡命先の夜


ヤマト南西・エンナカムイ山中

 

 

「刀とは……こんなに重いものだったか」

 

 夜闇に刻んだ太刀筋は、あの日の洗練された剣閃とは似ても似つかない。

 病み上がりと言えば通じるか、という甘い考えをすぐに振り払う。まずは、兵たちの矢面に立てる練度ではないと認めねば。

 

 某の名は、オシュトル。

 

 生まれはヤマト属国・エンナカムイ。若き身空で帝都へ上り、有難くも帝(みかど)に見出され、右近衛大将の位を戴いた男。

 しかし、帝の崩御ならびに、アンジュ姫殿下毒殺事件が起きてから、全ては一変した。

 

 某は事件の主犯として投獄されたが、隠密の仲間たちの手引きによって、病床の姫殿下と共に帝都を脱出することに。

 だが、追手として現れたのは、八柱(はっちゅう)将・ヴライ。

 

 某は仮面(アクルカ)を解放して迎撃したが、結果として某は深手を負い————ハクは死んだ。

 その時点で、帝都での輝かしい日々は二度と帰らぬものとなった。これまでの安寧も、平穏も、仲間と過ごした時間もすべて。

 

 

『姫殿下を……頼む』

 

 

 某に遺された使命は、姫殿下を護り抜くこと。

 追われる身であろうと、如何なる所業に手を染めようと、必ず果たさねばならぬ。

 近衛大将だからではない。これは某自身が定めた、決して違えぬ誓いゆえに。

 

 

「…………」

 

 

 そこでふと、某を凝視する視線に気づく。

 

「済まぬ。拙い剣を見せた」

 

「いえ。兄(あに)さまはよく頑張っておられるのです」

 

 妹のネコネに気を遣われる。戦場を知る彼女ならば、剣筋の鈍さにも気づいているだろうに。

 更に精進を、と気を引き締めたたところで、彼女のある変化に気づく。

 

「ネコネ? もしかして、泣いていたのか?」

 

「な、泣いてなんかないのです。ただ欠伸をして、そう見えただけなのですよ」

 

…………下手な嘘だ。

 

 ここへ逃げて来てから、ネコネの顔には拭えぬ陰がつき纏っている。以前のような棘棘しさは鳴りを潜め、どこか儚げな印象を受けるようになった。

 

「遅くまで付き合わせてしまったな。帰ろうか」

 

「はいです…………兄さま」

 

 聞き分けの良い返事。

 それを最後に言葉は途絶え、居心地の悪い沈黙と共に夜道を歩む。

 

 ネコネの心に空いた穴を埋められる存在は、もうこの世にはいない。この物憂げな横顔を見るたび、鳩尾(みぞおち)に苦味が張り付く。

 

 隣を歩いているはずのネコネとの距離が、計り知れぬほど遠く感じられた。

 

 

 

 

 

 

 * * *

昼・エンナカムイ城表御殿

 

「改めて、御厚情有難く存じます。姫殿下ならびに我等を受け入れて下さった事、ひいては城での逗留をお許し頂いた事。御前には感謝の言葉しかございませぬ」

 

「なんの。ヤマトの臣として当然の務めだとも。何より、ここは其方の故郷なのだ。気兼ねする必要など無いのだよ」

 

 そう言い、笑みを浮かべる好々爺の名はイラワジ。キウルの祖父にして、エンナカムイ皇その人である。彼は危険を承知の上で、帝都を脱した某と隠密の皆をこの國へ迎えてくれたのだ。

 

「とはいえ、今後は其方に辛い役目を押し付けることになろう。心苦しいが、頼めるかね」

 

「はっ。それこそ我が本懐ゆえ。この命を賭し、必ずやこの國の民と姫殿下を御護りする所存にございます」

 

 

 この場を以て、戦の采配から政務に至るまで、某はこのエンナカムイの全権を賜ることとなった。

 

 

 エンナカムイはお世辞にも豊かとは呼べぬ辺境の地。戦など久しく起きていない。

 代償として兵は戦の経験に乏しく、皇たるイラワジ翁もまた、戦時の指導者としては力不足を否めなかった。

 ゆえに、國の命運をオシュトルに託したのだ。

 

 エンナカムイの民はオシュトルに着せられた姫殿下暗殺の汚名を鵜呑みにせず、いまだ英雄と仰いでくれている。

 無茶な人事なのは承知の上。それでも、ヤマトの双璧と謳われたオシュトルならば、暴走した現朝廷からこの國を護ってくれると、みな期待しているのだ。

 

 

 そう————『オシュトル』ならば、と。

 

 

「やはり、中央はここを攻めに来るだろうか」

 

「おそらくは。帝のご逝去により、帝都は今なお混乱の只中。姫殿下を連れだした某という不穏分子は、朝廷にとっては晒す首としてさぞ映えることでしょう。いつ動くかまでは存じませぬが、あまり待ってはくれぬかと」

 

 今のヤマトを静かにさせるには新たな後継者の台頭と、その威光を示すための贄が必要だ。

 朝廷は必ず攻めてくるだろう。

 だが、対抗しようにも、この国には足りないものが多い。

 

「目下の課題は三つ。軍備の増強、兵糧の確保、そして何より……御旗たる姫殿下の復調」

 

「どれも如何ともしがたいな。兵の調練は早晩成るものではない。田畑の実りも、姫殿下の御身も然り」

 

 元々、防備は國を囲む険しい山々に頼るのみで、他は脆弱そのもの。糧食も平時なら困りはしないが、長く戦をする余裕などない。

 このままではまともに防衛すら出来ず、一息で朝廷軍に飲みこまれるだろう。

 

 また、アンジュは命に別状は無いものの、とても皆の前に立てる状態ではない。彼女が姿を見せぬまま大義を掲げようと、どの國もついては来まい。

 

「それでも、為さねばなりませぬ。この國が朝廷に抗う力を持つと示さねば、他国との協調は望めぬゆえ」

 

 帝都への凱旋など、現状では遠い夢物語。

 だが、オシュトルは諦めない。

 

「万事、このオシュトルにお任せを。この苦境、必ずや乗り切ってみせましょうぞ」

 

 『オシュトル』は護るべき者を見捨てる不義など、絶対にしないのだから。

 

 

 

 

 

 

 * * *

夜半・オシュトル私室

 

 まず内情を知らねば、内政への着手はできない。

 という訳で、某とネコネはこの國の財政、兵や具足、食料の蓄えを記した台帳をさらっていた。

 

 だが、田舎といえど資料はアナログで膨大。ここ数日、稽古以外の時間はほとんどこれに費やしている。昼夜問わず、私室にまで書類を持ち込んで机に齧りつく日々である。

 國の実情に触れるうち、一國の重みを背負う実感が鮮明さを帯びていく。まったく、気が重いったらありゃしない。

 と思ったら、いつからか本当に頭が痛くなってきた。働きすぎだろうか。

 

「……また遅くなったか。だが、ここまではおおよそ把握できた。ネコネには感謝してもし切れぬな」

 

 無機質な文字の羅列を把握するのに、最初は四苦八苦したものだ。それでも才女たるネコネの助けもあり、ようやく終わりが見えてきた。

 

「感謝なんて必要ないのです。わたしは兄さまの共犯者で、兄さまを補佐する為にいるのですから」

 

「だが、こんな夜分遅くまで付き合わせたのは某の不徳。次からは気を付けよう」

 

「それもよいのです。早く休んだところで、どうせ寝付けませんから。兄さまと仕事をしている方が、よっぽど有益なのです」

 

「……」

 

 どこか頑なな彼女の言葉に、これ以上何も言えなくなる。

 

 

 これこそが、某を悩ませる第四の課題。

 エンナカムイに来てからネコネは、己を追い詰め続けているのだ。

 

 

 夜に隣にある彼女の部屋へ聞き耳を立てれば、一人で泣きはらし、いつも己を責めるか細い声が聞こえてくる。

 朝になれば死人のような顔で現れ、禄に休めた様子もない。

 

 日々すり切れていくネコネが心配で、気を揉むばかり。だが、某にはネコネにしてやれる事はない。ネコネの病は、己自身にしか救えぬものなのだから。今は彼女を信じるしかなかった。

 だが。

 

「ネコネ、こちらへ」

 

 気紛れに、覇気の無いネコネを己の眼前へと招く。

 

「——? はい…うなっ!?」

 

 ネコネの体を抱きかかえると、驚く彼女ごと二人して、そのまま床へころりと寝転んだ。

 

「あ、兄さま?」

 

「某はもう眠い。もう今日は仕事なんぞ、絶対にせぬからな。断じてお断りする。……ああ、ネコネにも付き合ってもらうぞ。某らは——共犯者なのだろう?」

 

「……そんな腑抜けた事を抜かす兄さまなんて、見た事が無いのです」

 

「悪いが、某とて完璧では無いのだ。だから、こうしてネコネにいて貰わねば困る。下手に体でも壊されれば、某は大いに困ってしまうからな」

 

 そう言うと、ネコネは少し口元を緩めてくれた。無計画なまま突っ走ってしまったが、蹴られたりはしなさそうでひと安心。

 

 

「~~♪」

 

 川の字で寝たまま、鼻唄を口ずさむ。

 傍らで、某の袖をぎゅっと掴む少女にしか聞こえぬほど小さく、眠りを誘えるように。

 

 そうしている内、眠気が差してきた。こんな時間に横になるなど久しぶりな気がする。正直、今も頭がガンガン痛いので有難い。

 

 だがそれよりも、ネコネは休めているだろうか。

 今はネコネの強さを信じて、見守るべき時。

 それでもせめて、傍にいるくらいしてやりたい。

 

 まあ、アイツでなく自分ごときでは、効果はいかほどかとは思うが————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んあ?」

 

 ふと意識が覚醒する。いつの間にか寝落ちしていたようだ。

 浅い眠りだったようで、スッキリとした頭とは裏腹に、体は重く——

 

「いや、重すぎるよう、な……」

 

 両目でハッキリと部屋を見渡せるようになる。

 自分の横には、着ていたはずの袴が雑に脱ぎ捨てられていた。

 だが、それは良い。

 

 まだ外は暗い。今から寝ても、朝には気持ちよく目覚められそうだ。

 それも良い。

 

 

「あう、は…っ、うう……っ」

 

 

 仰向けで現実逃避する自分の目には——裸のネコネが自分に跨り、苦しげに股を揺らす姿が映っていた。

 

「……ネコ、ネ?」

 

「っ!」

 

 下半身の感触からして、既にしっかり挿ってしまっている。寝ぼけた頭も事態の深刻さに気づいたのか、急激に冷えて冴え渡っていく。

 

(寝ている隙に襲ってきた? ウルゥルとサラァナならいざ知らず、あのネコネが? 何故? いや、それよりもまずは)

 

「色々と言いたいことはあるが……ネコネよ。某らは兄妹であるからして、このようことはだな」

 

「わ、私たちに限れば、何も問題は無いのです! ……分かっていますでしょう?」

 

「それは……」

 

 彼女の言葉の意味を察し、二の句を詰まらせる。

 

「このまま、お世話しますです……兄さまは、大人しくしていると良いのです」

 

「しかし、こんな状況、誰かに見られでもすれば醜聞では済まぬぞ」

 

「心配ご無用」

「例によって結界を張っておりますので、音漏れなどの心配はいりません。憂慮なくお楽しみ頂けます。ヤリ放題です」

 

「お前たちまで……」

 

 いつの間にか背後に控えるウルゥルとサラァナが朗報?を知らせてくれる。どうやらこの場には、オシュトルの味方はいないらしい。

 

 だが、大切な妹を相手に事へ及ぶなどやはり憚られる。

 

「お前は某を嫌っていただろう。無理をするな」

 

「……今は、嫌いでは無いのです。なにより、私は誓ったのです。地獄(ディネボクシリ)に堕ちるその時まで、兄さまについていくと」

 

 静かながら有無を言わせぬネコネの剣幕に、思わず冷や汗をかく。

 彼女の昏い双眸からは生気を感じない。こちらが拒むごとに、より陰を深めていくようだ。

 

「お願いします。姉さま達の代わりをさせて欲しいのです。……それとも、私ではお役に立てませんか…?」

 

 冷たい指先。掠れていく声。縋るような視線。

 あの賢い少女が、ここまで頼りなく見えるとは。

 

『兄さま!! 兄さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 その時、脳裏に最悪の光景と、ネコネを失う可能性がよぎった。

 

 今拒否すれば、自刃しかねないほどの危うさと脆さを感じさせる面持ち。こんなことになる前に、もう少しなんとかしてやれればと後悔を覚える。

 

『何を……言ってるのかな……』

 

「——」

 

 考えた末に……拒めなかった。

 

 たとえ過ちだとしても。短絡的な思考だと理解していても。

 自分はもう、誰も喪いたくなかったのだ。

 

 




たいへんお待たせしました。週1ペースで更新したいと思います。
二章からは原作改変要素を明確にしていきます。少なくともエタることは無いのでご安心下さい。

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