第三者視点→オシュトル視点→第三者視点
栄光ある八柱将が一将にして、麗しき朝廷軍大将・デコポンポ。
彼の目標は反逆者オシュトルの討伐、ならびに拐かされた本物のアンジュ姫殿下の救出である。
ライコウが担いだ自称アンジュの真贋など、聡明なるデコポンポ大将軍にはまるっとお見通し。
誰より早く本物を手中に収め、いけすかないライコウに代わって高貴なる己がヤマトの実権を握る腹づもりなのだ。
そしていずれはアンジュの皇配に、いや、もしかしたら帝の座だって夢ではないかもしれない。夢は広がるばかり!
此度の戦こそ、デコポンポ立身出世物語の新たな幕開けとなるであろう!
彼の花道に立ち塞がるは、田舎辺境エンナカムイ。
デコポンポに恐れをなしたか、向こうは砦に閉じこもることを選んだようだ。
兵は神速を貴ぶ。
臆病風に吹かれた采配師・マロロを厳しく一喝したのち、勇敢なるデコポンポは独自の戦勘に基づき、城門の正面突破を敢行した。
財力と空手形を駆使してかき集めた兵は、常備兵と合わせて数千にも及ぶ。
調練の期間こそ通常より短いが、田舎の小国と手負いのオシュトル相手ならば恐るるに足らず。
城門前に兵を一極集中させ、門扉の前に敷き詰められた土塁を瞬く間に掘り崩してゆく。
「この戦が終わったら、まずは姫殿下との祝言をせねばならんにゃもねえ……。貴きお方とはいえ、まだ小娘。ここは紳士たる儂が、率先して手解きをして差し上げねば。にゃぷぷ、にゃぷぷぷ」
既に、当人の脳内は薔薇色の未来で一杯。
いけいけ押せ押せ、我らがデコポンポ軍。
城門突破まで、あとわずか————。
「軍を拡大し過ぎるのも考えものであるな。一度崩れてしまえば、こうも脆い」
「……にゃも?」
一転、城門前が朱へと染まる。
「ひィ! 逃げ、ひぎゃぁぁ!!」
密集隊形で殺到した兵たちに容赦なく火と油が降り注ぎ、対処する間もなく燃え上がる。
「どけ! どけぇ! 邪魔だぁぁぁぁぁぁ!!」
「お、押すな——」
城門から離れようと一斉に後退した結果、人だかりが倒れこみ、将棋倒しに圧死する。
「来るなッ!! 来るなあッ!!」
助けを求めて味方へにじり寄る、火だるまの同胞を必死に蹴り飛ばす。
「敵の砦の前でご丁寧に雁首を揃えるとは、いささか不用心でしたね」
混乱する前線は、判断を下す者から潜んでいた伏兵に襲われ、立て直しの機会すら奪われる。
「——!! ——!! ——!!!!」
阿鼻叫喚。
前線で起きた異変は後続へと波及し、デコポンポ軍はたちまち機能不全に陥った。
味方から逃げる為、具足を外して疾走する者。
情勢の敗色を悟り、巻き込まれる前に姿をくらます者。
もはや軍とも呼べず、前線には戦意を喪失した個が散在するだけ。
そうなれば、組織化された集団に敵う道理はない。
「待て、何処へ行くにゃもか!! 逃亡は許さん! このような真似をしてタダで済むと……ッ!?」
「退けェッ!!」
「に゛ゃぼげっ!?」
狼狽するデコポンポを突き飛ばし、後退する部隊が後を絶たない。
本来であれば、決着を急がず包囲するだけで勝てる戦。その勝機を自らドブに捨てた愚物の声を聞き届ける者など、この戦場には一人としていない。
そうして——。
「「「ワァァァァーーーッ!!」」」
新たな聖上の御旗の下で行われた、記念すべき初陣。
敵将デコポンポの首級を以って、エンナカムイは完全なる勝利を飾った。
彼我の軍事力の差を覆す戦果に、ある者は熱狂に沸き立ち、ある者は門前を丸ごと焼き尽くしたオシュトルの手腕に慄いた。
どちらにせよ、皆がオシュトルの存在の大きさを改めて思い知ったのである。
しかし——勝利に浸っていられる時間は、そう長くはなかった。
「伝令!」
届いたのは最悪の一報。
「少数の軍勢が正門前に接近! 旗印は…」
名ばかり八柱将とは格の違う、護國の双璧たるヤマト指折りの武人。
「左近衛大将、ミカヅチ…!」
* * *
……やはりというか、ミカヅチの用件は穏当なものではなかった。
「ミカヅチさまっ!! 兄さまは怪我をしているのです! どうか、どうか剣を引いて下さいです!」
地面に倒れ伏す自分をかばい、ミカヅチの脚に飛びつくネコネ。
「……兄、だとォ? 貴様もそのような戯言をッ!」
「きゃうっ!?」
「——ッ!」
しかし、彼女の懇願は場を席巻するミカヅチの怒気によって塗りつぶされた。
それはそうだ。
國の未来を決める大一番に出てきたのが偽物だなんて、ヤツからすれば馬鹿にされているに等しい。
……オシュトルめ、怒られてやんの。
左近衛大将ミカヅチは民の守護者だ。
ヤツはたとえ偽の帝を主と仰ごうとも、アンジュと自分が帝都を目指す道中に流れるであろうヤマトの民の血を看過できないらしい。
ミカヅチが求めたのは、オシュトルとの一騎打ち。
これを断ろうが、どのみち朝廷最強格であるミカヅチの部隊に襲われては一たまりもない。受けざるを得なかった。
——しかし、にわか仕込みのハリボテ右近衛大将が、現ヤマト最強の男に敵うはずもなく。
「ミカ……さ……どう…………が……です…!!」
「オシュ……ッッ!! 立…………じゃ!! ……トル……!!」
ネコネと皇女さんの声が朧気ながら耳に届く。
一騎打ちの作法なぞ何するものぞ、ってか。二人とも、早くこの場から離れて欲しい。
手足は……まだ繋がっている。
だが、ミカヅチの大剣を一撃止めただけで、体中の力が持っていかれてしまって動けない。
しかも、正体がバレた。終わりだ。
分かっていた。所詮、自分ではミカヅチには敵わないと。
「……さまっ!」
ただ一つ、自分を討つのがミカヅチで良かった。
大丈夫。あいつならば、皇女さんを悪いようにはしないはずだ。
皇女さんはぎゃあぎゃあ喚くだろうが、命あっての物種だ。
國を扇動した自分はさすがに助からんだろうが、他のみんなのことも、きっとうまくやってくれるだろう。
有り難い。
ぐうたらな自分にしては、これまでよく頑張ったほうだろう。
「…シュト……ーッ!!」
……って、楽できれば良かったんだが。
皇女さんは、アンジュは覚悟を示した。
なのに、あの子を置いて、自分だけ一抜けするつもりか?
それは流石に格好がつかんだろう。
あの世で兄貴はともかく、ほのかさんに笑われたらどうする。情けなさすぎて、おちおち冥土へ渡ることもできん。
「————兄さま!?」
ネコネはようやく心が持ち直してきた頃だ。
それなのに、また彼女から兄貴を奪うのか。
もう彼女を悲しませたくはない。
何よりネコネを泣かせたまま死んだら、きっとオシュトルに恨まれる。
……いや、違うな。恨むのは自分の方か。
全く、とんだ面倒事を押し付けおって。
地獄へ行ったら、あいつに文句の一つでも言ってやらにゃ気が済まん。
だけど、
「それは、今じゃ無いよな」
ほんの少しだけ湧いた力を、折れそうな両脚に込めて立ち上がる。
そしてネコネの前に進み出で、ミカヅチと対面する。
「貴様——」
あの時、オシュトルは立ち上がった。
自分の知るアイツは、こんな所でのびて終わる男では断じて無かった。
自分は頼まれたのだ。受け継いだのだ。
ならば、立たなくては。
なぜなら、自分は。
今は、某こそが。
『頼んだぜ、アンちゃん』
「某はオシュトル! 右近衛大将! オシュトルである!」
無意識に仮面を掴み、無我夢中で叫ぶ。
勝算など何もない。
気を奮い立たせ、『オシュトル』であることを強く意識する。
軟弱なサボり魔は、今はいらない。
『オシュトル』として刃を振るう——力が欲しい。
「————繧ュ繝医コ繝峨チ繝医Μ繧ュ」
* * *
希望から絶望へと傾いた、エンナカムイ側の空気が再び転じてゆく。
「嘘だろ……?」
「まさか、あれが……」
見る者の魂を畏怖が貫いた。
仰天する者。腰を抜かす者。神話の光景かと見紛い、震えて拝む者すらいた。
皆、一様に信じられないという目をしている。
その威容の意味を知る者ほど、かの存在の重さを理解し、圧倒された。
城門前が紺碧の輝きに包まれ——
白銀と空色の外殻を纏う巨人が降り立った。
エンナカムイ自慢の城門の背丈すら越える巨体。
ヒトなど虫のように潰してしまえるほど、巨大な手足。
しかし、その存在からは不思議と恐怖は感じず、雄大で全てを包み込むような、言いようのない神聖な雰囲気を漂わせていた。
其れなるは、生ける伝説。
神たる帝がもたらした、この世の奇跡。
「
ネコネの消え入りそうなか細い声は巨人へ変容したオシュトルには届かず、空へと溶ける。
「クク……クハハハハハハハハ!!」
その威容の前に立ちはだかるは、高らかに笑う……もう一柱の巨人。
紫電が収束して顕れたのは、神秘的な翡翠色の稲妻を纏った、無骨な鎧を身を包む巨躯。
オシュトルとは対称的に、それは荒れた嵐の空のごとく、見る者の心をざわつかせた。
オシュトルに続き、仮面の者と化したミカヅチは宿敵の元へと駆け、紅紫色の外甲に覆われた巨大な拳を迷う事なく振り抜く。
剛拳を受け止めたオシュトルと組み合い、間に挟まれた空気が破裂し、地面ごと砕け散る。
「あ……ああ……」
ヤマトが誇る左右の大将による、同じくヤマトの至宝を用いた、別次元の戦い。
それはネコネにとって、忌まわしい悪夢の再現以外の何物でもなかった。
まさしく、兄を失ったあの戦いそのもの。
根源から力を引き出し、最後には無へと還ったあの記憶が、否が応でも掘り起こされてしまう。
「駄目、なのです……。兄さま…
しかし、世界を震わす青と紫の二柱の巨躯には、少女の声など届かない。
「オオオォォォォオオオ!!!」
オシュトルが山をも紙のごとく破砕する力を拳に込め、我武者羅に放つ。
只人が食らえば、肉も骨も、血の一滴すらも残らぬに違いない。
しかし、護国の要はそれほど甘くはなかった。
「コンナ、モノカァ!!」
人の身で極限まで昇華させた技巧は、暴力の化身と化した今もなお健在。
鳴神の化身となったミカヅチは、オシュトルの怒涛の連撃をあっさり捌ききり、すぐさま反撃へ転じる。
「グウゥ!?」
武を磨き続けた剛腕がオシュトルの身を捉え、血肉を軋ませた。
城門を背にした巨人が体勢を崩したことで、國中に地響きが轟く。
「このままじゃ……ああああ・・・…」
「ネコネ?」
昂るアンジュの横で、ネコネが慟哭する。
「兄さまが、死んでしまうのです……」
「な、なにを申すか。見よ、あの美しい姿を。オシュトルは健在そのものではないか。安心するのじゃ。余のオシュトルは、誰にも負けはせぬ」
興奮混じりのアンジュの言に、ネコネはかぶりを振って返す。
「勝ち負けではないのです……。
「————は?」
ハクの体は、巨躯へ昇華する直前より既に満身創痍。
これ以上戦いが続けば、あの時と同じように。
「わたしの兄さまが……死んでしまうのです……!」
本物の
ようやくその想いに気付けたばかりなのに、こんなにも、あっさりと——。
「ヌァァアアアア!!」
「グオオオオッ!!」
しかし、オシュトルは水神の気をその身から放ち、身を裂く雷にもひるまず正面から突貫した。
その覇気は、余りにも純粋で、大切なものを守り抜くという強い想いに満ちていた。
己が護る者たちに、絶対に手を出させない。
他でもない己自身が、すべてを守るのだという信念。
まさしくその姿は、まさしくかの右近衛大将オシュトルそのものであった。
「ミカヅチイイイイイ!!」
「ソウダ! ソレデコソ、オシュトルッ!」
迫る新しき宿敵に、ミカヅチもまた前に乗り出す。
両者の拳が、再度激突し————
光が、弾けた。
* * *
気づけば、二柱の巨神は姿を消していた。
砦前の地面ははるか先まで盛大に抉れ、原型をとどめていない。
急ぎ後方へと避難したエンナカムイの兵たちに被害が出なかったのは奇跡と言えよう。
『貴様の意志、しかと受け取った。また戦場で逢おうぞ、オシュトル』
オシュトルが偽物と気づきながらも、ミカヅチは撤退した。真意は不明。
だが、あれは得物を見つけた猛獣の眼だ。
いずれ再戦の時が来るのは間違いないだろう。
「……勘弁、してくれ」
「オシュトル!?」
「兄さまっ!!」
エンナカムイ初陣——
敵将デコポンポ、討伐。
敵将ミカヅチ、撤退。
「クオンの、くすり、しみるから、いや、なんだよ、な……」
気持ち暗めのパートにようやく終わりが見えてきた。
ヤマトの属國
エンナカムイ:現在地。ドデカいクレーター状に出来た山脈に出来たド田舎。何があってこんな所に國を作ったのか。
クジュウリ:ルルティエの故郷。エンナカムイから一番近い、つまり辺境だがあちらよりは国土が広く、文化レベルもマシ。
イズルハ:ノスリの故郷。やや涼しい気候で、一年を通して紅葉が見られる。春夏秋冬が分かれすぎている。
シャッホロ:アトゥイの故郷。南に位置する海洋國。市街地を除く首都機能は城船・ポロロウンハ号に集約された変わり種。
アシワラ:ライコウ・ミカヅチの故郷。帝都の水源でもある広大な湖に位置する水の都。新作ではどうなるのか。
イヅモ:ムネチカの故郷。エンナカムイより西、砂漠の秘境。軌道エレベーター…だと…?
あなたのうたわれ歴は?
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散りゆくのみ
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偽りあるいは偽り二白のみ
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散り~二白三部作
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三部作+ロスフラあるいはモノメビ
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ロスフラのみ・モノメビのみ
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うたわれは未履修
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その他