朝陽が差し始めた、エンナカムイ外縁の山中にて。
「ほら、集中、集中!」
「ぐご!! ごへえッ!! あばぁッ!?」
結界の中、少女の猛攻を前に、仮面の男の悲鳴が絶えず木々を揺らす。
「オシュトルの相手はミカヅチなんだから、早く成長しないと、命は無い、かな!」
「そんなこと言ったって、ぎゃびぃ!?」
オシュトルは今、クオンから稽古と言う名の拷問を受けていた。
朝廷側の監視は未だ続き、エンナカムイの国庫が底打ち、困窮するのを待っている。
こちらが外へ動き出せば、すぐに実情がライコウへと伝わるだろう。
ゆえに、今は表立って動かず、國内の地力を引き上げる時期だ。
いずれ他國の力を募る必要はあるが、おんぶに抱っことはいかない。反朝廷連合を構築した際に矢面に立つのは、他ならぬエンナカムイなのだから。
目標は朝廷側の最高戦力、ミカヅチの打倒。
幾千の兵を揃えたとて、それらを一薙ぎにする仮面の者への対策は必須。
そのためには同じく仮面を継承したオシュトル——ハク自身の成長が急務である。トゥスクルのおかげで手に入れた猶予をうまく活用したい所だ。
「クソッ!『止まれ!』」
「——! こんな、ものっ!」
「いぃっ!? ————ほげえっ!?」
クオンを『命令』で止められたのは、ほんの一瞬。
直後、瞬く間に懐へ踏み込んだ彼女の掌底が、オシュトルの鳩尾を打ち抜いた。
「お、おええええぇぇぇぇ」
身体の中心を突き穿たれ、思わず蹲り嗚咽を漏らす。これで手加減されているのだから恐ろしい。
「やっぱり、相応の使い手との戦いでソレに頼るのは自殺行為かも」
クオンの言う通りだ。
ミカヅチ級の武人、ひいては人智を超える
下手にアテにすると、口が回る前に頭と胴体を真っ二つ、なんてことも有り得る。
世の中そう甘い話は無い。
今しがた、身を以って知ったところである。
「どうする? ここまでにする?」
困ったような顔で、クオンが膝をつくオシュトルに手を伸ばす。
(ぐ……クオンって、こんなに強かったのか)
直に相対して思い知らされた。オシュトルも強くなったつもりだったが、ここまで差があるとは。
というか、昨夜も腹が膨らむほど中に出したというのに、今朝にはすっかり元通りなのはどういうことか。
以前より明らかに肌のツヤが増しているし、タフさにも拍車がかかっている。
びっくり人間のひと言では済まない超人ぶりだ。
「……いや、まだだ。もう一本頼む」
だが、鍛練相手としては申し分ない。
仮面による底上げがあるといえ、ハク自身の力量は
独力での修練にも限界を感じていた所だ。ありがたい機会だと思わなくては。
「そういえば、思ったんだけど」
再び対峙しながら、クオンがおもむろに雑談を始める。
オシュトルはそれにあえて乗らない。目の前の少女は口車に乗った瞬間、不意打ちをかますくらいのことはするからだ。
集中の糸を切らすな。底上げされた膂力に任せて闇雲に攻めても、彼女には届かない。
太刀を振るった後の相手の動きを想像し、次を見据えろ。誘いに応じるばかりでなく、こちらから展開を誘導するのだ。
「オシュトルがそこまでして正体を隠す必要って、もうあまり無いんじゃないかな?」
「……ッ!? そこ!」
「残念。踏み込みが足りないかな」
クオンの足捌きを読み、着地と同時にオシュトルが突きを繰り出すが——クオンは切先をするりと躱し、悠々と後退した。
「正直エンナカムイは、アンジュとオシュトルの身柄を差し出せば許される、なんて段階はもう越えちゃってるかな」
「……口を動かす余裕が、いつまで保つかな!」
クオンの揺さぶりには耳を貸さず、彼女に肉薄することだけに注力する。
「あなたが誰であろうと、あなたが
オシュトルの鉄扇とクオンの苦無が競り合う。
続けざまにもう片方の手に持つ刀を振り下ろそうとするも、クオンが鉄扇ごとオシュトルの身体を跳ね飛ばし、体勢を崩され、
「エンナカムイはもう、ここにいる『オシュトル』と心中する以外の選択肢は残されてない、かな!」
「ぐあっ!!」
クオンの背負い投げが決まり、オシュトルは無防備に天を仰ぐ結果となった。
「くっ、だがオシュトルでなければ、兵や諸侯は耳を貸さぬであろう。信じていた者に裏切られたと知れば、なおさらだ」
「そこは、本物の皇女様の腕の見せどころだと思うけど。ちょっとアンジュに過保護すぎるんじゃない?」
男を見下ろすクオンは、息一つ切れていない。
だが、それはそれとして、
「……何か、ムキになっておらぬか?」
「むぅ……普段は鈍いくせに、そういうとこだけは勘が働くんだから」
クオンは拗ねたようにそっぽを向いた。図星のようである。
「『オシュトル』のことは
クオンは、『ハク』を殺したことをまだ完全には認めていないらしい。
その気持ちはとてもありがたいのだが、張本人であるオシュトルとしては少々胸が痛む。
「だがな、クオン」
「え?」
ゆえに、彼女の面前で決意表明をする。
「自分はもう逃げるつもりはない。ここで自分に出来るすべてをやって、皇女さんも、みんなも、全てを護る。たとえその為に、道義や公徳に背く手段を用いようともだ」
ハクが欲しいものは、もともと帝都にすべて揃っていた。それ以上、男は何も望まない。
今となっては、オシュトルとの約束だけではない。
皆のことが好きで、これ以上誰も欠けて欲しくないから戦うのだ。そのスタンスは曲げない。
「『オシュトル』はまだこの國に必要だ。だから、もう少しだけ自分に付き合ってくれ。頼む」
地べたに擦れるくらいに、深く頭を下げる。
みんなを繋ぎ止めておく為なら、何だって出来る。
どこまでも自分勝手な論理を押し付けることにはなるが、ここは譲れない。
「……分かってる。そんなの、言われるまでもないかな。…………これからは、一人で背負わてなんてあげないんだから」
「クオン?」
「何でもない。さあ、頭を上げて。そろそろ、皆起きてくる頃合いかな」
クオンの呟きはオシュトルには届かなかったが、穏やかになった彼女の言葉を受け、一安心する。
だがしかし、男の決意が彼女にしっかり届いてしまった結果、翌日からの訓練はさらに苛烈さを増すのであった。
* * *
昼過ぎのエンナカムイ城内。
難航している治水事業や肥料比率の調整など、現場の下見を終えて戻ってきたオシュトルは不意に足を止めた。
「なんや、オシュトルはんかぁ。ふあ……サボりけ?」
前方、木造りの廊下にぽつんと座り込んでいたアトゥイが、気の抜けた声を上げる。
「それはこちらの台詞なのだが……。アトゥイ殿、そんなところに居座ってどうしたのだ。そこはたしか……ルルティエ殿の部屋か?」
「別に~。戦以外でウチがどこにいようと、オシュトルはんに関係あるん?」
「む、それはそうだが」
突き放すような物言い。
奔放なアトゥイらしいとも言えなくもないが、その語尾には確かに微かな棘が仕込まれている。
応じるオシュトルの胸に、妙な居心地の悪さが生じた。
だが、彼がその違和感を口にするより早く、彼女の視線はより冷ややかなものへと移り変わる。
「へ~、オシュトルはんは、ウチのことなんてどうでもええんやねぇ」
「そ、そうは申してなかろう」
自ら壁を作ったかと思えば、今度は拗ねたようにぶつかってくる。どうしろと言うのか。
元より気分屋で掴みどころのない彼女だが、最近は群を抜いて何を考えているかわからない。
なにゆえここまで不機嫌なのだろうか。
「ん~~~~」
すると、今度は腕を組み、こちらを見やり何かを悩み始める。
「…………オシュトルはん。こっちこっち」
唐突に腕の力を解いたアトゥイがルルティエの部屋の引き戸へ手をかける。
そして、オシュトルに向けて小さく手招きをした。
「? どうしたのだ。ルルティエの了解も得ずに——」
「しっ。静かにせんと、気づかれてしまうぇ?」
悪戯っぽく唇に指を当て、アトゥイは忍び足で歩を進める。
そのまま奥の間の襖を、指一本分だけわずかにずらした。
そこには、
「…………うぅ、ひっ♡ あっ♡ る、ルルティエ、そこはっ」
「ノスリさまの乳首、すっかり硬くなってしまいましたね……。お任せください、このまま、気持ちよくして差し上げますから……」
部屋の奥、敷かれた布団の上。
半裸のノスリがルルティエに組み敷かれ、ペッティングに及んでいた。
「ちょ……! アトゥイ、これは」
「黙っててな? オシュトルはんを通したことがバレてしもたら、ウチが怒られてしまうぇ」
慌てて声を潜めるオシュトルに対し、アトゥイは事もなげに囁き返す。
幸い、中にいる二人は互いに集中しきりで、注がれる視線に気づいた様子はない。
「こうして……すりすりすると……いかがですか? きもちいい、ですよね……?」
「やっ♡ そんなに弄ったら……♡ あっ♡ また……よわく、うぅぅ♡♡」
「あまり声を出してしまいますと……さすがに気づかれてしまいます……。外にはアトゥイさまが居てくださいますけれど……」
「だ、だが、そんなこと言われても、はあっ♡ 止められ、ん゛っ♡」
そのアトゥイは、男を伴って絶賛のぞき見中である。
彼女の悪戯に気づく由もなく、ルルティエの掌には余るほどに豊かな乳房は優しく、かつねちっこく愛撫を受け続けた。
「ひゃっ!?♡ やっ♡ ~~~っ♡ んん~~♡♡」
一対の乳頭は、ノスリの発情ぶりを反映するように確りと勃起していた。
その先端を乳輪ごとルルティエの指先につままれると、勝手に濃艶な音吐を漏らしてしまう。
外に聞こえぬようにと、ノスリは咄嗟に自らの口を塞ぐも、それはむしろ逆効果。
「だんだん、分かってきました……。こうやって、乳首の中の固いところをくにくにされるの……お好きですよね?」
「んんんッ!?♡♡ ん、ああっ♡♡ じん、じんして……ひゃわ、あぁっ♡♡」
ルルティエの愛撫を我慢しようとするたびノスリの羞恥心が刺激され、彼女の身体は余計に発情してしまう。
「では、次は……秘密の場所に、まいりましょうか」
「ま、待てっ。こ、心の準備が……」
「……大丈夫ですよ♪」
————つぷっっ
「ひあああっ♡」
「
ノスリの紅く弾力ある菊肉が抵抗むなしく、ルルティエの白い指の通過を許した。
「——————ッ♡♡」
「ほな、退散するぇ?」
「へ?」
気づけばしっかり見入っていたオシュトルの頸根っこを、アトゥイの手が容赦なく掴む。
抵抗する間もなく、オシュトルはあえなく部屋から排除されてしまった。
* * *
「アトゥイ殿…………どういうつもりだ?」
アトゥイの真意を問うため、オシュトルは彼女を自分の部屋へ連れてきた。
さすがに放置は出来ない。彼女の真意を問いたださねば。
「ルルティエ殿とノスリ殿の……さっきのアレを、なぜ某に見せたのだ?」
その前にアトゥイがみせた不機嫌な態度の理由など、聞きたいことは他にもある。
だが、まずは覗きの共犯にされた件が先だ。
あんなもの見せられて、次に彼女たちと顔を合わせた時、知らぬ顔を貫けるか分からぬではないか。
「なぜって……そら、ぜーんぶオシュトルはんのせいやし」
「……何?」
「ルルやんとノスリはんが持て余してしもてるのも、ウチがもやもやしとるのも。ぜんぶオシュトルはんが悪いと思うんよ。違うけ?」
「!?」
空気が、一瞬にして凍りついた。
アトゥイの語り口は、驚くほど落ち着いていた。
怒鳴るでも、泣くでもない。ただ静かにオシュトルを問責している。
いや、これは『オシュトル』に対してではない。
「アトゥイ……お前は……」
気づいているのか、と。
オシュトルは彼女に問い返そうとするが。
「ウチはなんも知らんよ?」
しかし、恍けるアトゥイによって制されてしまう。
「だが、今の問いは」
「ウチはなーーんも、聞かせてもらっとらんし」
「——!!」
アトゥイに気性を荒げる様子は一切無い。
終始、まるで他人事のように白けた態度を貫くのみ。
しかし、その徹底した無関心さが、余計にオシュトルの胸を締め付けた。
何も知らない。何も聞かされていない。
そのように計らったのは、他ならぬオシュトル自身だというのに。
「……オシュトルはんの邪魔がしたいんとちゃうから、気にせんでええよ。——でも」
————おにーさんの、アホ。
声として、紡がれることはなかった。
しかし、小さく動いたアトゥイの唇の軌跡が、然とオシュトルの失策を難じていた。
「ほな、ウチ戻らんと」
「待て、アトゥイ——」
部屋を後にしようとするアトゥイを思わず呼び止める。
しかし、
「……それじゃあ、女の子は捕まらへんよ?」
その一言を置き土産に、アトゥイは彼の前から去っていった。
オシュトルはただその場に立ち尽くし、その後ろ姿を、ただ見ていることしか出来なかった。
マジメな話ばっかすると、これがエロ二次創作ということを忘れてしまうので……申し訳ねぇ。次はちゃんとスるので!
あなたのうたわれ歴は?
-
散りゆくのみ
-
偽りあるいは偽り二白のみ
-
散り~二白三部作
-
三部作+ロスフラあるいはモノメビ
-
ロスフラのみ・モノメビのみ
-
白への道標まで全て履修済
-
うたわれは未履修
-
その他