※この作品はR-18です。

うたわれるものヒロインとイチャイチャする話   作:クラムP

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第十二話前 オシュトルVSアトゥイ

 

 アトゥイとて、初めからオシュトルの擬態に気づいていた訳ではない。

 

 ウルゥルとサラァナの隠蔽は完璧だった。

 苦楽を友にした仲間たちですら、一見してその正体を見破るのは困難な程に。

 しかし——。

 

『暇を持て余しているならば、仕事を手伝ってもらえるか』

 

 しきりにアトゥイの様子を窺い、気にかける視線がオシュトルらしくない。

 以前の彼は、アトゥイにはもっと距離を置いた付き合いをしていたはずだ。

 

『待て待て。シャッホロでは、ボロ雑巾になった兵を追い回すのを調練と呼ぶのか? 皆が不憫だから、そこまでにしてやれ』

 

 興が乗ったアトゥイを、わざわざオシュトル自身が直接止めに来るワケがない。

 彼ならば、せめて誰か人を使うなりするだろう。

 

 そして決め手は————いや、やめておこう。

 女が心の内を具に晒すものではない。

 確かなのは、彼はオシュトル本人ではなく、あの頼りないアトゥイの逢引き相手だということだ。

 

 

 にもかかわらず、彼はアトゥイの前で、一度も仮面を外してはくれなかった。

 

 

 別に?

 良人(おっと)でもなし、敢えてアトゥイに了解を得る必要などないのだが。

 けれど、遊びで寝るだけの相手に釈明など必要ない、と言われたようで————モヤモヤを越えてイライラした。

 

 それはもう、つい勢い余って友達の情事の場に男を連れ込むくらいには。

 

 あれから何か気でも変わったのか、オシュトルが鍛錬に付き合ってくれと誘ってきた。

 当然、言葉通りの意味でないことくらいアトゥイにも分かる。

 

 要するにこれは——挑戦状だ。

 仮面を捨てさせたくば、力づくでやってみろ、と。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 地面は踏み込みには申し分ないほどに乾き、ふたりの間を遮る障害物は何もない。

 ここならば、気兼ねは要らない。

 

「————フンッ!!」

 

 横から迫る槍の重みを、鉄扇の親骨で確と捉える。

 

「あやや」

 

 オシュトルがアトゥイの初撃を上方へ逸らすと、彼女は感心するように目を見開く。

 

(十分受けられる……いける!)

 

 たった一合ではあるが、確かな手応えを覚えた。

 相手は幼少より数多の戦場を駆けた、己を上回る高手。かといって、むざむざ斬られてやるつもりはない。

 オシュトルとて、今日まで遊んでいた訳ではない。まともに食らえば躰がひしゃげる程の剛力だが、今なら受け流すことも出来る。

 

 これならば戦える。

 アトゥイと正面から喧嘩が出来る。

 

「行くぞッ!!」

 

 返礼とばかりに、オシュトルは槍の間合いへ踏み込み、逆胴への打突を繰り出す。

 

(……!?)

 

 だが、手応えはなく太刀は空を切るのみ。

 目の前にいたはずのアトゥイが消えた? いや、それはあり得ない。ならば、

 

( ————上!)

 

「そないなもん振り回して、似合っとらんぇ?」

 

 頭上からの強襲。

 

「づッッ!? ぐうッ……!」

 

 舞い降りる閃撃に対し、反射的に太刀を掲げるも…………止まらない。

 受けた刀ごと押しこまれ、力任せに後ろへ跳ね飛ばされてしまう。

 背中から地を打ち、数度転がる。

 これはまずいと慌てて立ち上がるが……なぜかアトゥイからの追撃は来ない。

 

「軽いなぁ。これじゃあ物足りんぇ」

 

「……期待外れと断ずるには尚早であろう。こちらはまだ、手の内を見せた覚えはないぞ」

 

 長槍をぶらりと提げたまま、不満げに唇を尖らせるアトゥイに対し、オシュトルは虚勢を張る。

 彼女のやる気を削いでしまうのは本意ではない。

 この場は、彼女の土俵で戦わなければ意味がないのだから。

 

「なら、はよ見せた方がええと思うぇ? でないと——」

 

 言い終えるより早く、アトゥイは得物を高く振りかぶった。

 それは隙だらけにも思える、単調で直線的な振り下ろし。

 

 だが、その直後。

 

「————なッ!?」

 

 二人の間の空間が破裂した。

 

「オシュトルはん、死んでまうぇ?」

 

 爆ぜた空気が仮面に向け、刺さるように吹き荒ぶ。届いてもいないそのひと振りが、男の肝を強く揺さぶった。

 当たれば命はないと断言できる、膨大な殺意が乗った一撃。

 帝都にいた頃の彼ならば、間違いなくこの時点で土下座し、許しを請うていただろう。

 

「お願いやから、あっさり終わらんとってな?」

 

「ッッ!?」

 

 気づけば瞬息の間に、無数の突きが男の視界を埋めた。

 

「グッ……! クソ、捌き、きれん……!」

 

 まさに荒れ狂う大海の如し。

 刀と鉄扇を握る力が削られていく。

 ミカヅチとの一騎討ちでも体験した、死の足音が近づいてくる。

 文字通り息つく暇もない。血が昇って頭の血管が破裂しそうだ。

 

『アトゥイから一本とるだけなら、そう難しくはないかな』

 

 クオンはそう言っていた。

 攻めに傾倒したスタイルと俊敏さを活かした制圧力は脅威だが、反面守りは甘い。

 格下のひと刺しをも許しかねないほどに、彼女の戦い方は危ういのだと。

 

『ただ問題は……きっと、アトゥイは止まらないと思う』

 

「ガッ!!?」

 

 連撃に紛れ、ふいに軌道を変えた石突きが脇腹へ沈んだ。

 肋骨から嫌な音が響く。

 槍に込められた苛烈なまでの害意が、メリメリとオシュトルの肉を冒す。

 

 分かってはいた。

 アトゥイの槍は戦場(いくさば)で培われた、確実に敵を仕留めるための武。一撃有効打を入れて終わり、なんて考えは甘すぎる。

 ましてオシュトルは、ここに至るまでにアトゥイを蔑ろにし続けた。その怒りも乗っているやもしれん。

 つまり、この立ち合いを挑んだ以上、こちらも命を懸けねばなるまい。

 

「ぐ、く……おぉぉぉっ!!」

 

 痛みに悶絶する躰を意志でねじふせ、歯を食いしばってアトゥイの懐へ再度飛び込む。

 死ぬつもりはない。

 あくまでこれは『オシュトル』の目的とは関係ない、男自身の我儘なのだから。

 

「アトゥイッ!!」

 

「ん〜、必死やねぇ」

 

 『オシュトル』との約束を果たしたい。

 だが、アトゥイを離したくもない。

 どちらも捨てられない男は、人類らしい強欲な目論見を抱いてここに立った。

 その愚かさに、呆れもするだろう。

 

「許せ。こちらも今は、女ひとり振り向かせるのに必死なものでなッ!」

 

「…………」

 

 ハクでなく、オシュトルとして彼女の心を奪う。

 

 彼が気を惹きたい目の前の女は、言葉だけで納得させられるような性質(タチ)ではない。

 こちらも意地を通す以上、こじれる事は想像に容易い。

 ならば彼女が納得しやすい形で受け止め、改めて口説き落とす。

 これは、その為の戦いだ。

 

「だからそーいぅの、求めてたんとちゃうんよ」

 

 一撃を凌ぎ、男が槍の内懐へ飛び込んでくる。

 だが、分かりきった男の狙いに二度も乗ってやる義理はない。

 アトゥイは再び軽やかに地面を蹴ると、つまらぬ兵法に頼る頑固者との間合いをとり直す。

 ここからは先ほどの焼き直しか。あるいは、次こそ男の最期になるか。

 

 しかし、オシュトルの狙いは、アトゥイの思い描くものとは異なっていた。

 

(——根源を探れ)

 

(——そこから力を汲み上げろ)

 

(——必要なのは、己を通す為の力)

 

 仮面(アクルカ)を通じて、自らの内奥にある扉に手をかける。

 

 それは、神に見放された人類が持ち得ぬ力。

 命の始まりの地から続く、大いなる流脈の力。

 

 それらを借り受け————放つ。

 

 

「……はれぇ?」

 

 

 足元を侵食する予想外の景色に、アトゥイが間の抜けた声をあげた。

 

 眼下に広がるは——『寒獄』。

仮面(アクルカ)の持つ、化神への変化以外の機能。

 本来、男の身には宿らぬはずの水神の加護を仮面(アクルカ)を介して行使し、地面から彼女の両脚までを氷で埋め尽くしたのだ。

 

 だが、この程度で有効打を許すアトゥイではない。一瞬の足止めこそ食らったものの、即座に足元の氷塊を叩き割る。

 

「まだだッ!!」

 

 その猶予だけで十分。

 すかさず側方から肉薄し、またも水神の加護を帯びた流水の如き斬り上げを見舞う。

 

「あやや、急に躍起になりはったなぁ」

 

「随分と待たせたな! おかげで、ようやく捉えたぞ!」

 

 アトゥイは地と空両面の対処を迫られ、はじめて守勢に入らされた。

 負ける筈がないと思っていた男の剣筋が、徐々に届き始めたのである。

 自身に追いすがり始めた脅威を前にして、アトゥイは——。

 

「………………いひ♪」

 

 心底愉快そうに、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 己という器から壊れぬよう、細心の注意を払って引き出した仮面(アクルカ)の力。

 エンナカムイに来てから練り上げ続けた、太刀と鉄扇のコンビネーション。

 

 それらはミカヅチ、そしてアトゥイとの闘いを経て、着実に一つの流れとして実を結びつつある。

 ヤマトでも有数の強者に通じる領域に手をかけたと言えよう。

 

 しかし、オシュトルはまだ人としての観念に囚われていた。

 戦という狂気に身を置き、己が内なる獣性と同居する術を、彼はまだ知らない。

 

「ガハッ!!」

 

 場の主導権を握り返し、そのまま間髪入れず攻め立てたはずのオシュトルだったが——気づけば、背後に吹き飛ばされていた。

 

(ナにが……起きタ……? ……ッ!?)

 

 幸い、五体の感覚は残っている。

 しかし、今重要なのはそこでは無い。

 

「うひ、ひひひ……♪ こないにもてなされたら……嫌でもその気になってまうぇ……♪」

 

 先程までの心踊らなそうな様子は微塵もない。

 誰もが引き込まれる美貌は愉し気に歪み、その双眸は薄昏く揺蕩い、雰囲気は獰猛な猛獣そのもの。

 

 狂い姫。

 まさしくそう呼ぶにふさわしい、清純可憐な外見に戦狂いの獣を内包した、尋常ならざる存在がそこにいた。

 

「えりゃっ♪」

 

 可愛らしく弾んだ掛け声。

 それに比べ、超人的なバネから繰り出される凶悪な一振りは、放たれた矢の初速すら凌駕する。

 

(急に速く! 不味い——!)

「クソッ!」

 

 こちらの回避行動まで織り込んだ、槍の薙ぎ払い。地面に刀を突き立てて軸にすることで、辛うじて別方向へと転がって凌ぐ。

 

「目ぇ離したら、アカンよぉ!」

 

 追撃は止まない。

 距離を離すことすら許されず、跳ねるようにしなった槍が加速しながらオシュトルの首を狙う。

 まさに獣。もはや兵(つわもの)同士の理合などではなく、化物に追われる獲物の心地であった。

 

「槍、使いがッ!! 太刀の間合いにッ! 入ってくるんじゃ、ないッ!!」

 

「そんなん、ウチの勝手やも~~ん♪ やっ!」

 

 距離を詰めることで致命の一撃を躱すが、互いがぶつかり合い————体重が重いハズのオシュトルの方が弾き飛ばされる。

 

「ぁあ……ったく! つくづく常道ってモンを知らん奴め!」

 

「オシュトルはんが道を語るんは、ちょっと筋が通らんのとちゃう?」

 

 図らずも開いた間合い。

 互いに刃を構え、憎まれ口を叩きながら向かい合う。

 

「それについては本当に、その通りだよッ!」

 

 先ほどよりも気が抜けたようでいて、その威圧感はむしろ増している。

 改めてアトゥイという少女の底知れなさに背筋が凍らせながらも、オシュトルは突貫を止めない。

 

 楽しんでもらえたなら結構。

 それでこそ、もてなす側として本望というもの。

 機嫌を直してもらえたならば、あとは目的を果たすのみ。

 

「だが、この『オシュトル』は! このやり方で、全てを手に入れる! 無論、お前も、例外ではないッ!」

 

 両者ともに水神の加護を纏い、剣撃が交わる。

 加護が水滴となって発露し舞う様は、いっそ神々しさすらあった。

 

「なんや、らしくもなく情熱的やねぇ。まぁ……悪い気ぃはせんけどっ!」

 

「ぬぐッ!!」

 

 アトゥイが槍を振り抜けば、オシュトルは死力を以ってそれに応える。

 本領を発揮した彼女を受け止めることが、男の務めなのだから。

 

「乙女の命は短いんやから、あんま待たせるもんとちゃうんよ?」

 

「だから今! こうしているのだろうッ!!」

 

 鉄扇で穂先の軌道を捻じ曲げると、彼女を夢中にさせようとすかさず刃を返す。

 目を離させはしない。

 オシュトルの刃に釘付けになってもらう。

 

「おオオオァッ!!」

 

「はやぁ、まだそんなの隠してたんけ。ひひ、ええよええよっ♪」

 

 水神の気を帯びた剣気が刀身を離れ、後方へ飛び跳ねたアトゥイの胴を襲う。

 攻守が目まぐるしく移り変わり、次、さらにその次と。

 今までの時間を取り戻そうと言わんばかりに、間断なく多彩な攻め手を披露し合う。

 

 そんな、苛烈極まる攻防が数十を超えると。

 

 

「なぁなぁ、もっともーっと! ウチと闘ろぉ♪ おにーさんっ♪」

 

 

 いつの間にかアトゥイの頬は緩みきり、童のようにはしゃいでいた。

 だって仕方ないのである。

 ずっと他人のフリをして連れなかった男が、今は本気でアトゥイと遊んでくれているのだから。

 

(楽しい! 楽しい!)

 

 そんな風に目を輝かせるアトゥイを見て、思わずオシュトルも苦笑を漏らす。

 

「なんだ。某たちは、喧嘩をしていたのではなかったか?」

 

「ん~、そやったっけ? まぁそういえば、ウチらってちゃんと喧嘩したこと、なかってんなぁ」

 

 オシュトルも同意する。

 アトゥイが一方的に当たり散らすことはあっても、こうして真剣にぶつかり合うことなど、以前の男なら何としても拒んでいただろう。

 

(それも、意外と悪くはなかったな)

 

 想いを乗せた刃を交わすことで、オシュトルは不思議な高揚感を得ていた。

 己とは程遠い人種とばかり思っていた、目の前の戦馬鹿の気持ちが多少は理解出来るほどに。

 

 しかしながら、

 この蜜月もそろそろ手仕舞い時である。

 

「アトゥイ」

 

 オシュトルが独自に編み出した構えを取り直すと、二人の視線がぶつかる。

 見つめ合ったまま静寂が間合いを吹き抜けるが、高揚した感情は一向に収まらない。

 

 このように、確と彼女の顔を見たのはいつ以来だろうか。

 愛らしく、荒々しく、昏く、明るい。

 久しぶりに見るそのすべての表情が、愛しくてたまらない。

 

 だから——。

 

「某を見ろ。ここにいるのは某、オシュトルである。お前が某に何度愛想を尽かそうと、某は何度でもお前の瞳に映り続ける。二度とお前を退屈させることなく、アトゥイの眼を惹き続けようぞ」

 

 切先を向けたまま、精一杯の想いを押し付けた。

 

「え……………………うぇ」

 

「……おい」

 

 アトゥイの微妙な反応を受け、思わず刀を落としそうになる。

 男とて、恥ずかしくないワケがないのだ。スベったとしても、そこは水に流して欲しいところである。

 

「う…………そんなつもりや、のうて……うぅん」

 

 やや逡巡したのち、アトゥイもまた、槍先をオシュトル目がけて構えた。

 

「……二度と、置いてけぼりになんてせんといてな? オシュトルはんがおらんとつまらんくて、あくびが止まらんくなってまうんよ」

 

 再び視線が合うと、互いに口元がほころぶ。

 久方ぶりに、彼女との間にできた距離が縮んだような気がしたのは、きっと錯覚ではないだろう。

 

「手加減なら歓迎するぞ」

 

「あかんぇ? 惚れた女をもてなすのも」

 

「男の甲斐性の見せ所……か?」

 

「さっすが、分かっとるんやんっ♪」

 

 想いを確かめ合ったのち、再び交わる剣戟は言葉よりも雄弁な睦言となる。

 終わりを拒むかのように飛び散る水飛沫は、二人を祝す花吹雪のようであった。

 

 




神憑(カムナ):アイスマンのデータから作られた亜人の躰に宿る加護。あるいはその影響が表層に現れた状態。大抵は、自身の内なる神が何を司っているのか知らぬまま一生を終える。土神(テヌカミ)⇒クオン、火神(ヒムカミ)⇒ノスリ、水神(クスカミ)⇒アトゥイ・ネコネ、風神(フムカミ)⇒ルルティエの4種、名称不明の光神、闇神の2種が存在。
例外として、クオンは神憑の属性を自由に変える『四神変転』と『願いの神』の力の解放が可能。クオンはなんでもアリ。

あなたのうたわれ歴は?

  • 散りゆくのみ
  • 偽りあるいは偽り二白のみ
  • 散り~二白三部作
  • 三部作+ロスフラあるいはモノメビ
  • ロスフラのみ・モノメビのみ
  • 白への道標まで全て履修済
  • うたわれは未履修
  • その他
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