デジモンアドベンチャー 〜剣と妖精の世界の物語〜 作:藤林 明
直葉サイド
「……なるほど、君たちも結構苦労してきたんだな」
光子郎君がデジヴァイスの解析をしている間に丈君からデジモンと出会った経緯を聞いたエギルさんはどこか感慨深げに呟いた。
「いえいえ、アンドリューさん達こそ大変じゃないですか。僕たちはデジタルワールドという異世界でしたけど、過去にタイムスリップなんておとぎ話の中でしか聞いたことないですし……」
「それを言ったら君たちの異世界旅行だって同じようなもんだろう。…俺は、どこのご時世も子供が大変な思いをしなきゃならねぇのが大人として不憫でならないなと、そう思っただけだ」
「アンドリューさん……」
丈さんにそう答えたエギルさんはどこか遠くを見ているようにあたしには見えた。――ううん、きっと本当に遠くを、幻想の中に浮かぶ、鋼鉄の城を思い浮かべたんだと思う。
「――解析終わりました。3人ともこれを見てください」
そんな空気の中、パソコンを使った解析を終えた光子郎君からデジヴァイスを返却されつつ画面を見るように促されたので光子郎君の隣へ行くと、見知ったメニュー画面が写っていた。これは…
「…もしかしてこれ、ALOの?!」
「あぁ…このメニュー画面の並びは間違いねぇ。ALOのものだ」
エギルさんも確信したようであたしと同じ反応をしている。…そう。この文字列の並びはあたしたちがここに来る前までプレイしていたゲーム、アルヴヘイム・オンライン。通称「ALO」のゲーム内で出てくるメニュー画面のそれと全く同じもので、あたしもエギルさんも驚いてしまった。
「ALOって、桐ケ谷さんやアンドリューさんがやっていたっていうゲームのタイトルですよね?その情報がなんでデジモンを進化させたりデジタルワールドへのゲートを開く道具のデジヴァイスに入ってるんだ?」
「……おそらくですが」
「ん?光子郎君には理由がわかるのかい?」
「ええ、と言ってもあくまで予測ですが……その桐ケ谷さん、アンドリューさん、綾野さんのやっていたというゲームがデジタルワールドと
「……なるほど、VRMMOの世界もそのデジタルワールドっていう世界も共通して電脳空間の中にある。だからこちらの世界と俺たちの世界の技術が重なって起きた偶然。…ってことか?」
「はい、その可能性が今のところ高いかと」
「……あたしには、何が何だか…」
「ぼ、僕も……」
「つまりデジタルデータ同士が混ざり合ってしまった結果、アンドリューさんたちパートナーデジモンを持たないデジヴァイス所有者はこの世界でALOというゲームでの能力を行使できるということですよ」
「直葉ちゃんに分かりやすく言うと、これがあれば
光子郎君とエギルさんの話す内容が難し過ぎて頭を抱えるあたしと丈君に、二人は分かりやすく解説をしてくれた。おー、それなら自分の身は自分で守れるね。
「すごいなそれは……」
「はい、ある意味で一番安全で一番危険とも言えますが……これなら仮にヴァンデモンや配下のデジモンに襲われても戦う力はあるということになります」
「ま、俺としては唯一の大人として子供たちに守られる立場にならずに済んで一安心だがな」
デジヴァイスを見ながらエギルさんは安堵の表情を浮かべていた。――――まぁ、エギルさんはあたしたちの保護者みたいな立場だから守る相手に守られるという状況になるのは嫌だったんだろうけど。
――――次はー、国際展示場前ー、国際展示場前ー
「お、次みたいだな。皆を起こさないといけねぇから手伝ってくれ」
「はい」
「わかりました」
「はーい」
そして、目的地である国際展示場前駅を告げるアナウンスが聞こえてきたので、起きていた4人で手分けして皆を起こして無事に下車することができた。
☆☆☆☆☆☆
「んーーーー、よーーーくねたあぁぁぁっ!」
「本当によく寝てたよね太一君」
「いいじゃねぇか、それでこそ子供ってもんだしな」
改札を出てすぐに太一君は体を伸ばしながらそんなことを言ってたらエギルさんが笑いながらそう言っていた。…まぁあたしを含めてほかの皆は全員苦笑いしてたけど。
「……それよりこれからどうする?一旦家に帰るか?」
そんな中、ただ一人話の輪に入ってこなかったヤマト君が今後について提案してきた。……この子、どことなくお兄ちゃんと雰囲気似てるけどもしかして対人関係苦手なのかな?
「いえ、ひとまず近くの公園で今後の方針について皆でもう一度話し合いをしようかなと思ってます。こちらの事情を話したらアンドリューさん達も協力してくれると言ってましたので」
「あぁ、この後色々世話になるんだ。探し物を見つけるのを手伝うくらい俺たちにもやらせてくれ」
「……わかった。なら早く移動しようぜ」
「そうだな」
ヤマト君と太一君も異論はないみたいだったのであたしたちは光子郎君の提案(まぁ皆が寝てる間にあたしたちで決めたことだけど)で近くにあるという公園に移動して話し合いをすることになった。
「では、早速ですが僕たちの目的を改めておさらいします。まず、デジタルワールドで知った8人目の選ばれし子供をヴァンデモンよりも早く見つけ出すことです」
「確か、選ばれし子供ってのが8人揃わないとそのヴァンデモンとかいう敵には勝てないんだったよな」
「はい、あちらの世界で知り合ったゲンナイさんというご老人にそう言われて僕たちはこちらへと帰ってきました」
「僕たちの推測で、4年前の事件を間近で見ている現在小学生の子供だということと、僕たち皆の共通点で昔光が丘に住んでいたということが分かったので光が丘に行ってきたんですけど、光が丘にはそれらしい子供は居なかったから僕たちと同じ様にお台場に来ている可能性がある。そう読んで僕たちはお台場に帰ってきたんです」
「あの、状況は分かったんですけど…どうやってその選ばれし子供っていう人たちを探すんですか?ここはゲームの世界じゃないからクエストフラグみたいなものはありませんし……」
「あ、それは大丈夫です」
シリカが疑問に思ったことを口にすると、光子郎君はデジヴァイスを出してスイッチをひとつ押した。すると
~♪~♪
と、音が鳴り、デジヴァイスの画面に赤い点が複数表示されていた。
「と、このようにデジヴァイスが反応するのであとはデジヴァイスを持ってお台場を手分けして捜索すればいいんです」
「おお~」
「なるほどな。それなら俺たちにも手伝えそうだ」
「そうですね。あとはどんな組み合わせで探すかだけど……」
「ケケケ…ここにいたか!選ばれし子供たち」
「お前は!」
「ピコデビモン!!」
組み合わせ決めをしようとした矢先、まん丸いコウモリ型のデジモン、ピコデビモンが部下であるボロボロの布切れを被ったようなデジモン、バケモン数体と共に現れた。
「……あれもデジモン、なのか?」
「…アスナさんいなくて良かったですね。あれどうみても…」
「……お化け、ですよね…」
エギルさんはビックリ、あたしとシリカは今はいないお兄ちゃんの彼女で普段は頼りになる人の事を考えて苦笑いした。…まぁ、あたしもお化けはそこまで得意じゃないんだけどね。
「ん?なんか見覚えのない人間が混ざっているようだが丁度いい!おいお前ら!やつらが戦いにくくなるようにあの人間どもを狙え!!」
「ううううう~」
ピコデビモンとかいうまん丸いコウモリっぽいやつが指示すると、何体かのお化けがあたしたちの方へと向かってきた。…たぶん弱いやつを先に狙え~的なのだと思うけど……
「なるほど、俺たちを盾に子供らの自由を奪おうって作戦か。悪くはないが……」
「あたしたちだって」
「戦えるんだよ!!」
あたしたちはそう言うと一斉にデジヴァイスを掲げた。……しかし
「……あれ?」
「……反応しねぇな」
そう。何故かデジヴァイスは何の反応も示さなかった。…ということは…
「まずい!」
今現在、こいつらお化けと戦う力がないということに。それに気づいたエギルさんが前に出てあたしたちを庇おうとすると
「アグモン!」
「おっけー」
太一君がアグモンに呼びかけるとアグモンと太一君のデジヴァイスが光りだした!そして――
「アグモン進化ーー!!……グレイモン…!』
あたしたちより小さかったアグモンが光が晴れるとあたしたちより…いや、むしろあたしたちがゲームで見たモンスターと同じ位の大きさになって現れた。…しかも名前変わってるし…
「これが…」
「はい、これが僕たちに与えられた力。『進化』です…!」
「すごい…」
進化して見た目が変化したアグモン(今はグレイモンだっけ)を見てシリカは驚いてるがあたしたちはさらに驚くものを見てしまった。それは――
『メガフレイム!!』
グレイモンが放った大きな火球がお化けを一瞬で3体も倒したという事実。…どんだけ強いのよこのデジモンって生き物は!
『まだやるか?』
「くっ!生意気な…こうなったら!!こい!!」
グレイモンがピコデビモンにそう言い放つと(ってこのサイズでもしゃべるんだ…)ピコデビモンは後ろに向かって叫んだ。すると……
「グオオオオオオオオッ!!」
ミノタウロスに似たガタイのいい獣戦士が現れた。……あれ?コイツは……
「……データ無し。こいつはデジモンなのか?」
「いやちがう……コイツは俺たちの世界のモンスターだ!」
「なんだって!?」
そう。あいつは間違いない!新生アインクラッドにも出てきたボスモンスター、イルファング・ザ・コボルトロードだ。…なんであいつがこの世界に?!
「あいつはどうやって戦えばいいんだ!」
「…見ろ。あいつの頭の上にHPバーが4本あるだろ?あれを全て0にすれば良い」
「攻撃は普通に通るんですか?」
「あぁ、変な制限が無ければ攻撃してダメージを与えていけばいい。…だが最後の1本になると武器が変わるからそこは注意しないといけないがな」
『なるほど、それなら!!――メガフレイム!!』
話を聞いたグレイモンがさっきの火球をイルファング・ザ・コボルトロードに向かって放った。
「グオォォォォォォォ!!」
攻撃が当たり、イルファング・ザ・コボルトロードは怯むが
「うそだろ……」
「グレイモンのメガフレイムが全然効いてないよ!!」
HPバーを見ると、1本目の10分の1すら削れていなかった。――あ!そっか!!
「エギルさん!!確かあいつって」
「あぁ、奴は新生アインクラッドで出現した際に火属性に耐性がついていた。だから火属性に分類されるメガフレイムじゃ効果が半減しちまうんだ」
「えぇ!?そんなぁ」
「何か弱点は無いんですか?」
悲観する丈さんをよそに空ちゃんがエギルさんに質問をする。
「もちろんあるぜ!奴は火属性のモンスターだ。ってことはだ、火を消すなら?」
「みずー!」
「まずいな……」
エギルさんのクイズ(?)に元気よく答えるタケル君。…でも何故かこの子以外の皆が難しい顔をしているのが気になるんだけど……まさか
「水を使えるデジモン。俺たちのパートナーにはいないぞ…」
「…そうですね。ゴマモンは水棲型ですが、技そのものは水と言うより雷とか火ですから」
「……ってことはピナに頑張ってもらうしかないか」
「きゅるるる~」
光子郎君やヤマト君の言葉を聞いたエギルさんは腕を組みながらそう呟く。…確かに、このメンツ見てて水属性のモンスターなんていないとは思ってはいたけど…まさかここでピナ頼みになるとは思わなかったなぁ~
「…ピナだけ、ですか?」
そんな中、ピナの主人で友達でもあるシリカが俯きがちに聞いてくる。…まぁ、無理もないかな
「……あたしはピナ一人で戦わせるの、嫌です」
「…そりゃあもちろんボスクラスの相手にピナ一人で突っ込ませはしないさ。あくまで弱点で攻めるならって話でな」
「……じゃあどうするんだよ!このままじゃ「あたしもピナと一緒に戦います!!」…え?」
エギルさんの言葉に納得のいかないヤマト君の言葉にシリカは自分の意思を重ねた…ってえ!?ちょっ!?
「このデジヴァイスって機械は皆がピンチの時に助けてくれた機械なんでしょ?だったら、あたしが敵に突っ込めば何か起こるかもしれない」
「けど……」
シリカの真剣な表情・口調に押されるあたし。
「それにもし、あたしがALOのアバターに変身できたらそれこそ戦いが有利になります。あたしのソードスキルは水属性が多いですから」
「……なるほど。シリカちゃんなりに考えてのことか……太一君、すまないが彼女の援護を頼んでもいいか?」
「!!エギルさん!?」
「もちろん!お前もいいよなグレイモン」
『あぁ!まかせろ!』
「……シリカちゃんがああ言ってんだ。やらせてみるのも悪くないさ」
「でも!」
「ま、もちろん危なくなったらそん時は俺が助けにいくが…実際、シリカちゃんのソードスキル、ピナのバブルブレスが今の俺たちの希望なのに変わりはないんだ。ここは多少危険でもあの子に賭けるしかない」
「ありがとうございますエギルさん!よーし、行くよピナ!」
「きゅるる~」
「……絶対、死んじゃダメだよ…珪子」
「もちろん!…あたしだってこう見えて旧アインクラッドを冒険してきた経験があるんだもん。こんな所でリタイアなんかしないよ」
「きゅる~!」
あたしの心配を、珪子は自信に満ちた目で見返してからそう言うとピナと一緒に駆けていった。
サイドアウト
珪子サイド
――――リーファにはああ言っちゃったけど、本当は凄く怖い。そりゃあもちろん言った事に嘘は無いけど、それで怖くないかと聞かれたらあたしの答えは≪怖い≫だ。……でも
「あたしもピナと一緒に戦いたい。今までも、そしてこれからも!」
そしてあたしはイルファング・ザ・コボルトロードへと走って行きながら、ポケットにしまっていたデジヴァイスと取り出して空へと突き出す。そして――――
「だからお願い!あたしの声に応えて!!」
――そう叫んだ直後にあるひとつのキーワードが頭に浮かんできた。そしてそれを何も考えずに口にした。
「――リンク・スタートっ!!」
そして、あたしの視界は光に包まれた――――
サイドアウト
珪子/シリカの叫びが木霊し、無事アバターモードへと変化を遂げたALO組は襲いくる獣の王との戦いをデジモンと共に始めるのだった。一方その頃黒い少年一行はお台場で不思議な光景を目の当たりにしていたのだった!
次回!デジモンアドベンチャー ~剣と妖精の世界の物語~ 「戦いのはじまりと霧
」 今、冒険が進化する。