蜜羅は全身を黒い衣に覆われたまま、苦痛に悶えている。
一匹の精蟲が千切れた乳首の断面から肉の中に潜り込んだ。
それに呼応するかのように精蟲たちが全身の傷口から皮膚の下に潜り込む。
さらに、膣や肛門からも精蟲が侵入していく。
精蟲は体の中でも鋭い牙で肉を食い荒らした。
蜜羅は意識が朦朧とする意識の中で肉体を失った先にある死後の世界を夢想した。
轟雷は、そんな蜜羅を尻目に扉を開け、寝室の外に出た。
部屋の前は石造りの廊下で、扉と反対側の壁には吹きっさらしの窓がいくつも並んでいた。
窓から冷たい夜風が吹き込む。
轟雷は一番近くの窓に近づき外を見た。
地面までの高さは10メートルほど、数人の兵士が見回りをしているのが見える。
だが城壁を飛び越えれば、兵士に構わず敷地外に脱出する事が出来た。
しかし、城壁の外は絶壁の崖で、下までは更に50メートルはある。
いくら屈強な轟雷といえ少し躊躇してしまう高さだ。
崖の下には精気を吸い取る恐ろしい凶骨樹の森もあった。
「ううむ・・・だが、ここは行くしかないな」
轟雷は呟くと、力いっぱい勢いを付けて窓から飛び降りた。
大気を掻き分けながら巨体が落下する。
轟雷は肉体が魂を追い越して落下するような不思議な感覚を味わった。
やがて、巨体が地面に到達すると、凄まじい衝撃が足裏に走った。
だが轟雷は堪え、仁王立ちを決め込んだ。
周囲には禍々しい雰囲気を放つ凶骨樹の森が広がっている。
激しいセックスと戦闘で消耗した轟雷の精気を容赦なく凶骨樹が吸い取る。
「ぐぬっ・・・力が抜いて抜けていく・・普段なら凶骨樹など屁でもないのだが・・とりあえず、一刻も早く森を抜けねば」
轟雷は森の中を、ゆっくりと進んでいく。
走って抜けようとも思ったが、そんな事をすれば体力を消耗しへたばってしまうかもしれない。
それに、生命力の弱った者ほど凶骨樹に養分を吸い取られやすいと言われている。
轟雷は凶骨樹に出来るだけ近づかないように森の中を歩いていく。
凶骨樹が養分を奪ってしまうため、森の中には他の植物や動物はいない。
地面の土も乾燥して干からびている。
まさに死の森といった雰囲気だ。
しばらく歩き続けていると、轟雷は突如、眩暈と激しい疲労に襲われる。
そして、思わず地面に膝をついてしまう。
目を凝らしてみると、蜘蛛の糸のようなモノが当たり一面に漂っていた。
轟雷は悟った。
凶骨樹は普通の樹木のように地面に根を張って、土から養分を得ている。
さらに、大気中にも根を張り、侵入者の生命力を吸い取っているのだ。
この蜘蛛の糸のような物体が、その根である。
ふと、気が付くと根が轟雷の体の周りに集まっていた。
「ええいっ!!小癪な、俺に纏わりつくな!!!」
轟雷は慌てて根を取り払おうとしたが実体が無く掴む事が出来ない。
大気中に張られた根は霊的な存在なので実体がないのだ。
だが、轟雷は恐怖と焦燥感のあまり実体の無い根を必死で払おうとした。
根は冷酷に轟雷の生命力を奪っていく。
しかも、弱まれば弱まるほど大量のエネルギーを吸い取る性質を持っている。
轟雷は段々、意識が朦朧としてきた。
そして、地面に倒れこむと赤子のように静かで深い眠りについた。
凶骨樹の別名をオニゴロシという。