長い廊下には二人の足音のみが響く。
別に無理して話す必要はない、疑われていようが不快に思われていようがそれなりに立ち回ることができればそれで良い。
「貴方、一体何を企んでいるの?」
アルベドは歩きながら告げる。
「強イテ言ウナレバ魔導国ガコノ世界ヲ完全ニ支配スルコト、デスカネ」
「目的は?貴方は無理にナザリックに下る必要はなかった、辺境の地で盤石な支配を築いて暮らしていくこともできた筈、何故なの?」
そう言って立ち止まって振り返る、その顔は相変わらず猜疑心に満ちていた。
「端的ニ言エバ確実ニ死ナナイ為ニ」
「死なない為?」
「始メハタダ単ニ待遇ハドウデアレ下手ニ動クヨリモ安全デシタカラ、ソシテコレカラ話スコトハアクマデ仮説デス、ソレデモ聞キマスカ?」
「ええ」
「私タチハ何ノ前触レモナクコチラニ転移シマシタ、デアレバ何ノ前触レモナク送リ返サレル可能性モアルノデハ?」
「それは、その、可能性としてはあるけど」
「ソレヲ前提ニ考エルト私達送リ返サレルト確実ニ死ヌンデスヨ、私ト陛下モ原因ハ変ワリマスケド確実ニ死ニマス」
「一体、何を」
アルベドは驚愕の表情を浮かべ絞り出すようにそれだけ話す。
ユグドラシルの様なフルダイブタイプのゲームには電脳法によりログイン時間が制限されているが、それは何も仮想現実にのめり込むのを防ぐ為ではなく単に技術的問題だ。
ニューロンナノインターフェースに用いられるナノコンピューターの耐用限界によって、仮想現実のダイブには制限時間が設けられている。
そして仮にその技術的問題をクリアしたとしても今度は現実の肉体に問題が起こる。
体感時間と同様の時間があちらで流れているのだとしたら肉体は衰弱し死亡してしまうだろう。
そしてこちらの時間とあちらの時間に差異があったとしても問題がある。
俺が知っている技術では圧縮した情報を脳に書き込むことは不可能だ。
あちらでも短期学習の為研究こそされているが、短時間に大量の経験を記憶させようとすると脳が焼ききれて廃人となる。
つまり俺達プレイヤーはこちらにいる時間が長いほどあちらでの生存の可能性が低くなる。
戻れるとするならば恐らく最高でもこちらの時間感覚で三日までだ。
可能性があるとすればこちらの世界にあると思われる欄外の法則に則った力を使用すれば望みはあるが……戻れたとしても俺のやらかしでどの道あちらで争いが起こるのにそう時間はかからない。
もしアインズが上位市民だったとしても争いに巻き込まれる可能性は高いし、アーコロジーの連中から追われている俺も無事ではすまない。
「詳シイ話シハ説明デキナイノデスガソウイウ仕組ミノ筈ナンデスヨネ、ソレデ厄介ナノガ転移サセタ犯人ガ生物的強者デアッタ場合デス。魔導国ヲ建国シタコトトイイ牧場トイイ周辺国家ニハ我々ノ敵ニナル様ナ存在ハイナイノデスヨネ?」
「そうね、少なくとも全力を出すべき相手はそう居ないわ」
「デアレバ転移サセタ者ハ無聊ヲ慰メル為強者ヲ望ンダダケノ愚物デス、危険ガ迫レバ再ビ我々ヲ別世界ニ転移、若シクハ送リ返スデショウ、ソウナレバ終ワリデス」
案外近くにあった死の可能性に気が付きアルベドは動揺し怯えた目をする。
「ナノデ私トシテモ魔導国ニハ最低デモコノ地ヲ支配シテ頂カナイト困ルンデスヨ」
「そうね、我々としても懸念すべきことだわ」
「ソレデコチラガ本心ナノデスガ私ガ原因デナザリックニ亀裂ヲ生ムノハナントシテモ避ケタカッタンデスヨネ」
彼女は打って変わって再び憎しみに満ちた目でこちらを見る。
「貴方如きの存在が栄えあるナザリックの不和に?馬鹿言わないで」
「始メカラ今コノ瞬間マデ私ヲ殺スコトヲ考エ続ケテイル。ソレヲ達成シタトシテ、陛下ガオ許シニナラレタトシテ、ナザリックガ今マデ通リ変ワラナイトデモ?」
「それは」
「ソレニ貴方ガ排除スル対象、プレイヤーハツイデデ本命ハギルドメンバーデショウ?」
狙いを看破されたアルベドはわかりやすい程狼狽する。
「理由ニツイテハ知リマセンガ大方陛下以外ノ支配者ヲ認メタクナイ、陛下ヲ連レテイカレタクナイッテトコデハ?」
「な、な、そんなこと!!!」
思いを暴かれ耳まで赤くしたアルベドが激昂する、相変わらずわかりやすいな。
「差シ出ガマシイデスガワカリヤス過ギマスヨ、私ノ出現ガ想定外ダッタノダトハ思イマスガ少シハ取リ繕ウコトヲ覚エラレルコトヲオススメシマスヨ」
「うるさい!何なのよアンタは!」
「デモマアプレイヤー殺害ノ方針ハ個人的ニハ賛成シマス、アチラニオイテアインズ・ウール・ゴウンノ名ハ良クモ悪クモ知ラレテイマスノデ。プレイヤーノ転移ガ続ケバ今後敵対者ヤ方針ニ異ヲ唱エル者ハ出テクル筈デス」
アルベドの直ぐ側まで歩みよる、警戒こそしていたが距離をとる素振りも攻撃する素振りも見せない。
「心配セズトモ陛下ハ必ズ男ヲ見セマス、私モ尻ヲ蹴リマスノデ国母タル余裕ヲ持ッテクダサイ」
監視を懸念しアルベドにだけ聞こえるようささやけば、先ほどよりも顔を赤らめ口元を綻ばせる。
「ソウイウトコデスヨアルベド様、全ク、初心ナ生娘トイウ訳デ」
言い終わる前にアルベドから拳が放たれる、避けられない訳ではないがここは受け-
「ッ!?」
事前にポーションを取り出そうとアイテムボックスを開きつつ甘んじて受けようと思ったことを後悔する。
考えられない様な威力の拳は受け流そうと動いた筈なのに頭部に接触した瞬間外殻が砕け複眼ノ一部ガ弾ケテイク、脳ニ達スル前に。
避けナがらアイテムボックスかラポーしょんヲと、いダ、や、蘇。
次に感じたのは廊下を転がる感覚、姿勢を直しながらアルベドに向き直ればその顔は揶揄われたことを怒る少女のそれだった。
「やっぱり貴方気に食わないわ!」
「多少カラカイ過ギタノハ謝罪シマスガ、スキル使ッテマデ殴リマスカ?本当ニ死ヌカト思イマシタヨ?」
そう告げるとアルベドは怪訝そうな表情を浮かべる。
「使ってないわよ、貴方が脆すぎるだけでしょ」
「マサカ、ソンナ筈ハ」
いくら紙装甲とは言っても一撃死はしない防御力とスキルはある、頭部破壊のデバフ?いやあの気配は確実に死ぬ寸前のそれだった。
ステータス差こそあれど同レベル相手のただ腕力を用いた一撃がスキルを無視した絶死の一撃に?そんなことあり得るのか?知る限りユグドラシルにそんな特殊スキルは存在しない、こちらの法則に則った一撃であるのだろうが……再現性があるか検証しなくては。
「端的ニ申シ上ゲマスト今ノ一撃ハ即死回避スキルヲ無視シタ絶死ノ一撃デシタヨ、蘇生アイテム使用シマシタカラ」
「はぁっ!?」
「楽シクナッテキマシタネェ、我々ハコチラデ更ニ強クナレマスヨ……フフフサア疾ク早ク迅速ニ陛下ヘゴ報告シマショウ」
今度こそ無言で俺達はアインズの部屋をへと向かった。