転移門を通って一先ずシュグネウスが拠点としている村に到着した。
「それじゃあ後は任せるでありんす、期待しているでありんすよ」
「シャルティア様有難ウゴザイマシタ、スグニト言ウ訳ニハイキマセンガ必ズヤ成功サセマスノデゴ期待クダサイ」
シャルティアが鼻歌交じりに転移門を抜けたのを確認して村の方を振り返れば、到着に気がついた村人は皆一様に膝をつき頭を下げていた。
「頭ヲ上ゲテクダサイ」
その言葉に従い皆が頭を上げる、顔にはそれぞれ程度は違えど恐怖が刻まれており、いやでも自分が上位者なのだと思い知らされる。
「皆様ドウモ始メマシテ、私ハアインズ・ウール・ゴウン魔導国ニオケル福利厚生ノ相談役ヲ任セテ頂イテイルロータスト申シマス。コチラノシュグネウスト共ニ業務ヲ行ウコトトナリ、ソノ準備トシテ一ヶ月コノ村デ世話ニナルコトトナリマシタ、ドウゾヨロシク」
そう告げれば一部を除いて一様に皆が絶望と不快感を示し笑みが溢れる。
テストケースとしては充分だろう。
「皆様ニツキマシテハサゾゴ不快デアルデショウガ私ガ求メルコトハニ点、私ニ対スル感情ヲ隠サズ今マデ通リニ暮ラス、私トシュグネウス二人デ寝食ヲ共ニスル住居ノ提供ノミ。私ヘノ忌避感ハ隠サズ、敬意モ隣人ニ向ケルモノト同等デ構イマセン、タダ代表者ニ関シテハシュグネウスカラ業務ニツイテ協力ヲ求メル可能性モアリマスノデソノ場合ハ協力シテモラエルト助カリマス」
欄外の化け物を見る視線は変わらなかったが、徐々に困惑が混じった様な表情を浮かべ始める村人、だが今無理して対応する必要性は感じなかった。
「ソレデハ短イデスガ挨拶ハコレデ、行キマショウカシュグネウス」
「はい!」
呼ばれれば跳ねる様に立ち上がったシュグネウスに案内され彼女が住む家に向かった。
……
程なくしてシュグネウスに連れられそれなりの屋敷に迎え入れられ客間にて向かい合う。
茶を用意した給仕はまだ化け物に慣れていないのだろう、震えながら作業を行い、せっつかれる様に部屋を後にした。
「オ疲レ様デシタシュグネウス、突然ノコトデ色々ト驚イタデショウ」
「い、いえ!そのようなことは!この度は誠に光栄な」
「アア私ニ過度ナ敬意ハ不要デスヨ、何セ魔導国ニ忠誠ヲ誓イ仕エルコトニナッタノハ昨日ノコトデスカラ。言ウナレバ私ハ貴女ノ後輩デスノデ、フフフ」
ほんの冗談のつもりだったが彼女はより恐れを抱きカップを持った手を更に震わせる。
「そ、そ、その様な恐れ多い……」
「マア私ガ圧倒的ナ暴力ヲ持ツッテコトハ否定シマセンケドネ、デスガ業務ノ為ニモ貴女トハ対等ナ関係デイルコトガ望マシイ」
そう言ってナザリックでもらっていたストローをアイテムボックスから取り出し、出された茶を飲む、味については安物という訳ではなさそうだがあちらで飲んだものよりも雑味が強く感じられた。
「ヒッ!気が回らず申し訳ありません!」
シュグネウスが勢いよく頭を下げるのを見て一瞬なんのことか分からなかったがすぐに自分が使用しているストローのことだと思い当たった。
「オ気ニナサラズ、ソモソモ私ノ様ナ蟲人……異形種ニ対応デキナイコトハ理解シテイマスカラ、魔導国ニ仕エル前ハ人間種ノ支配国デ暮ラシテイタノデショウ?無理モアリマセンヨ」
相変わらず恐怖心は拭いきれない様であったが震えは治まった様でソファーに座り直した。
「シカシマア随分ト苛烈ナ教育……洗礼?ヲ受ケタト見エマスガ一体何ヲサレタノデスカ?」
その言葉にシュグネウスは呻くような悲鳴を上げて口を押さえる、一瞬毒でも盛られたかと思ったがトラウマによるものであろう。
「そ、その、虫、虫で満たされた、ば、中、中から」
「アアナルホド」
懐かしさに思わず視線を遠くに向け、アイテムボックスから聖者の振り鈴を取り出して鳴らす。余っていて良かった。
鈴の音を聞いたシュグネウスは徐々に落ち着きを取り戻し、何が起きたか分からないと言った表情を見せる。
「精神ヲ落チ着カセル魔道具デス、記念ニ差シ上ゲマスヨ。タダ私モ多分ソレシカ持ッテイナイト思ウノデ盗マレナイ様ニシテクダサイネ」
「そ、その様な魔道具を!ああ、有難うございます……」
感謝を告げるも視線は魔道具に注がれており、恭しく受け取って愛おしそうに抱えた。
「シカシ洗礼ニアレトハマタ、私モ体験シマシタガサゾ辛カッタデショウ」
「ロ、ロータス様ほどの御方もアレを!?」
「エエ迷ッタ所ウッカリ踏ミ込ミマシテネ。本当ニ懐カシイ、仲間モロトモ爆殺シテ突キ進ンデ……アア失言デシタ忘レテクダサイ」
口が滑りそうになり取り繕うもシュグネウスは怪訝そうな表情を浮かべる。
どうにも感情が昂ぶると駄目だな、こんなに口が軽かった訳でもなかった筈なんだが……変動する状況に対応しきれていない自分に情けなさを感じる。
「デスガ私モ痛ミヲ経験シタトイウ点ニオイテハ同士ト言エルデショウ、少ナクトモ人間ガ想像デキル痛ミハ経験シテキタ自負ガアリマスノデ」
「そ、その恐れながらロータス様ほどの力を持った御方が一体何故?」
聞き返されどう答えたものかと迷ったがどうせあちらを知る人間はこちらにいないのだ、自分語りをしても咎められないだろう。
「私ダッテ元々力ヲ持ッテイタ訳デハアリマセンカラネ。物心ツイタ時ニハ実験動物トシテ過ゴシ、生キ残ッテ慰ミ者ニナッテ、気ニ食ワナカッタノデ雇イ主ヲ滅ボセル情報ヲバラ撒ケルダケバラ撒イテ高跳ビシテ今ココニイル訳デス」
「そ、それは……」
「アア勿論ソノ雇イ主ハ魔導国デハアリマセンヨ?アレハ……ソウデスネ、アエテ表現スルナラ国ニナッタ犯罪組織、トデモ呼ビマショウカ」
あちらでやらかしたことを吐き出すのはやはり胸がすく思いだ。
自慢と考えているのか、懺悔として吐露したかったのかは正直分からなかったが語れることで開放されたのだと実感する。
スッキリとした面持ちでシュグネウスを見れば何故か居心地が悪そうにしていた。
「ドウカシマシタカシュグネウス?」
「あ、ああいえ……ただ国になった犯罪組織というのは少し、その、身に覚えが、ありまして……」
尻すぼみになっていく言葉と共に萎縮するシュグネウス、まさかそういった偶然もあるのか。何と言うかいよいよもって作為的なものを感じる。
「モシヤ国ヲ牛耳ル規模ノ犯罪組織ニ?コレハマタ運命的デスネ、察スルニソレナリノ立場ダッタノデハ?」
「ええ、麻薬を扱う部門の長を努めていました……その、ご不快、でしょうか」
「マサカ!ムシロシュグネウス、貴女ニ出会エタコトハ私ニトッテコレ以上ナイホド幸運なコトデス、アルベド様ニモ後日感謝ノ品ヲ送ラナクテハ、フフッフフフッ」
あまりの愉快さに茶を飲み干してストローをアイテムボックスにしまう。
一応仕事の話しもしておくか。
「ソレデシュグネウス、仕事ノ話シナノデスガ」
口にすればシュグネウスは即座に居住まいを正す、やはり有能な女だ、自尊心を取り戻せば有能なパートナーになるだろう。
思っていたよりもことが上手く運びそうで内心笑いを堪えきれない。
「準備ガ整イ次弟我々ハ夫婦トシテエ・ランテルニ移住シマス」
そう告げればシュグネウスは呆けた顔でこちらを見ていた。