「面を上げよ」
支配者の言葉に集められた各階層守護者とプレアデスの面々が顔を上げる。
「今日集まってもらったのは先日魔導国に仕えることとなったロータスに新たな任務を与えることになったのでその報告、及び福利厚生について新たな提案があったのでそちらの協議に関するものである。ではロータス頼むぞ」
「ハッ」
命令に従い立ち上がると集まった面々の前に立つ、視線の種類は前回よりも良くなった様に感じるがどうにも違和感を覚えた。
「陛下より拝命致しました任務ですがエ・ランテルの住民間における意識改革となっております。改善してきたとはいえ住民にはまだ他種族に対しての忌避感がありますので私が人間種の雌と夫婦としてエ・ランテルに移住し、忌避感の払拭を試みることとなりました」
交配実験についてはまだアインズに伏せている、個人的には伝えても良かったが余計な心労をかけてガス抜きに失敗しても仕方ないだろう。
「また並行して商会の運営を行い、魔導国における文化水準の向上を水面下で行っていく予定です。こちら目的についてですが魔導国の優位性を高める為となっております、軍備、食料以外にも娯楽や芸術と言ったものの質を高め他国との差を広げることで将来的に人的資源や貿易収入の確保が狙いですね」
集った面々を見れば関心半分理解不足半分といった印象を受ける、やはり人間種の支配には興味がない者が大半なのだろうか。
彼らにとってはまだナザリックが全てであり、支配したとしても所詮それ以外はどうでも良いのだ、その姿は昔の自分を見ている様で懐かしい気持ちがこみ上げる。
「続きまして新たな福利厚生制度の提案となりますが、こちらは前回と違い魔導王陛下に関するものになります」
そう言えばアインズから動揺した気配を感じる、パンドラズ・アクターに報告を任せていたのだが詳細を話していなかったのか?
「現在階層守護者各位及びパンドラズ・アクター様につきましては月に二回の休日を設けておりますので、陛下には週に一度の休日をお取り頂こうと考えています。前回守護者各位と休日を共にする制度を制定していただきましたが、そちらは陛下の休日に合わせる様予定の調整をお願い致します」
ちらりと確認すれば休日制度の概要については問題がない様なので次の提案に入る。
「それと特別措置となりますがこれまでに行われました陛下の働きに報いる為の長期休暇についての提案になります」
これについてはざわめきが起こったがそれを無視して続けることにする。
「シモベの方々に関しましては陛下より褒美がありますが魔導王陛下に関しましては我々の上に立つ御方ですので褒美を与える相手が存在しません、なので陛下に関しましては長期休暇という形でそれらを補う制度になります。無論あまりに長期間であると差し障りがありますので、期間に関しましては二週間を上限とさせて頂きます」
提案内容については理解できるが心から納得することはできないといった感じだろうか、言葉にはしないが不満を抱えていそうな者が何名か見受けられる。
「休暇内容につきましては自由としたいのですが、こと陛下に置かれましては森妖精の王国での一件から考えますと魔導国の利益となると感じた瞬間に行動に移してしまうと思われますので最低でも代行者一名の同行を条件とします」
「アインズ様に条件などと畏れ多い!その様なことは看過できません!」
デミウルゴスが叫ぶと他の者も肯定する様な反応だった。
「その意見につきましてはご尤もです、しかし私が知る休暇と言うのは業務を忘れ趣味や観光を楽しみ、心身を休めると言ったものですので。そちらを完全に遂行することを考えるとどうしても補助する者が必要になってくると思われます、エイヴァーシャー大森林における行動がそれを物語っています。聞けば薬師に師事し作業を楽しんでいた最中であったのに戦争の情報を掴んだ瞬間王国に乗り込み、結果として両者の最高戦力を無力化し情報を抜き取られましたから」
そう告げれば否定的な雰囲気は治まってきた、アインズならそういったことが起こり得ると皆考えたのだろう。
「ですのでそういった事態に対応できる様、陛下の代行役としてアルベド様、デミウルゴス様、パンドラズ・アクター様の内一名は最低でも同行しなければ長期休暇が中断する恐れがあります。長期休暇はあくまで陛下の功績に報いる為の制度ですので懸念点は排除しておくべきかと愚考致します」
その言葉に当のアインズ以外は皆納得した様であった。
何と言うか小市民的と言うか、皆が仕事をしていることを考えるとおちおち休めないとでも考えているのだろうか。
悪いこととは思わないが支配者としては……これ以上考えても仕方ないか、とりあえず彼も楽しめそうな内容を語って言いくるめるしかないか。
「そして今回に限り陛下に長期休暇を満喫して頂くため私の方から草案をつくらせて頂きました」
「待ってよ休暇内容まで指定するの?」
「貴方の提案は理解しんしたがそこまでするのは不敬ではありんせん?」
アウラとシャルティアが否定的な意見を上げる。
「それについては充分理解しております、しかし情勢を鑑みるに今しか行えず危険性を加味した内容ですのでご容赦ください。勿論こちらを選ばれるかは最終的に陛下のご意思となりますので」
まだ不満は拭えていないだろうが一先ず静かになったことを確認して続ける。
「休暇内容のテーマですが未知なる冒険となっています」
「ほう」
居心地が悪そうだったアインズが興味を引かれた様子を見せる。
「ただ完全な未知となりますと現在判明している真なる竜王など危険因子の問題から認められません、ですので問題になる敵対種が少ないであろう竜王国の観光を考えています」
「何故竜王国なのだ?他にも国家はあるだろう」
「こちらの文化水準から考えますと人間種の国家程度では正直お楽しみ頂けないかと、他候補として空中都市と呼ばれる遺跡も考えましたが文字通りの建造物であった場合、転移者の拠点跡である可能性が高く、徹底した事前調査が必要だと判断しました」
アインズは自らが掴んでいる情報からその答えに納得した様に頷く。
「加えてこちら単純な考えですが竜王国を自称しているのですから、竜王に見放された血族がいる可能性もあります。現在も魔導国が軍事支援を行っていることからビーストマンの侵略行為に対抗しきれない軍事力しかないので表面上の安全確保は容易でしょう。それに竜王が残した何らかの情報、技術が伝わっている可能性が高いですからそちらの調査研究でも良いですし、現地民に合わせた位階魔法のみを用いた防衛ゲーム、超位魔法を使用した殲滅戦、国家の存亡そのモノを娯楽とするのはまさしく陛下に相応しい休暇になるかと」
「で、でもそれって休暇になりんすか?内容だけ考えれば普通の侵略行為ではありんせん?」
尤もな意見を述べたシャルティアに同意する。
「ですので陛下には身分を偽って頂き魔導国とは無関係の上位存在の同行者という体をとって頂きそれを欺瞞工作とします、加えて休暇補助を行う者として政治判断をパンドラズ・アクター様、身辺警護をセバス様、陛下の身の回りのお世話をソリュシャン様に対応して頂くことを考えています」
「人選についての判断を聞いても?」
「畏まりましたデミウルゴス様、先ず三賢者たるアルベド様、デミウルゴス様においては魔導国の運営と不測の事態への対応から残って頂いた方がより効果的だと判断致しました。セバス様におきましては種族が竜人ですので万が一正体を疑われた際に竜王の関係者だと思わせます、ソリュシャン様におきましては戦闘メイドプレアデスの一員であることと陛下はスライムによる身体洗浄を好まれると聞き及びましたので」
人選についての理由、特にソリュシャンの選定理由を話したところ一気に空気が変化した。
何だ、問題があったか?
「い、いやソリュシャンに三吉君の代わりを任せるのは些か問題がある」
アインズの言葉にも疑問を晴らせなかったがシャルティアの様子を見て察することができた。
「ああ、これは私としたことが、気がまわりませんでしたね。ただ倫理的問題点を無視しても対外的なことを考慮すると必要な措置と考えます」
「ほう、対外的な問題とは?」
「前提として今回の休暇は身分こそ偽りますが自由行動を確保する為上位者として振る舞う必要があります、その関係で確実に羽虫が湧きますので弁えさせる為にも容姿に優れた異性を使用人とすることで最低限の知性がある者は引き下がるでしょう」
「なるほど、欄外の強者を婚姻によって取り込もうと考える者は居るだろうな」
懸念点を述べれば各位納得した様に感じる。
「それに……ないとは思いますがこの地の文化水準から考えますと入浴、睡眠中に事を及ぼうとする羽虫も居ると思いますので」
「イクラナンデモソンナコトアリ得ルノカ?」
「文化とは知性の積み重ねですからね、こちらの発展状況を考えますと……正直そういった品性に問題ある行動を起こす愚物が存在することも考えておいた方が良いかと」
そう告げるとアルベドとシャルティアの両名が妙に居心地が悪そうにし始める。
歪んだ精神性からあるとは思っていたが何か発散方法を考えておいた方が良いか?ヒルマに相談してみるか。
「しかしそれなら入浴をしなければ良いのではないか?」
「それは陛下の為にも止めておいた方が良いかと、竜王国の衛生観念については把握しておりませんが今後支配するとしてそういった衛生文化が根付いていないと問題もありましょう。無論気配遮断のできる配下に護衛してもらうのも手ではありますが」
「おお!そうだ!それで……ンンッ、いや今回はその案を採用しよう」
まるで蜘蛛の糸を見つけたと言わんばかりに食い気味で決められたことに思わず苦笑する。
薄々思っていたがこれは後で突っ込むか。
ソリュシャンからも期待の眼差しを向けられているので一応説得しなければならないだろう。
「では今回につきましてはそちらの案を採用しましょう、なお休暇計画の詳細につきましては長くなりますので後ほどパンドラズ・アクター様とご説明させて頂きます」
報告は以上で終了となりアインズに続いて退出する、その際ソリュシャンにそれとなくサインを出せば彼女は口角を釣り上げ鋭い眼光を向けた。
目をつけられちゃったぁ