移住から二週間が経った、暮らしにはそれなりに慣れてきたが関わっている住民についての反応は未だ芳しくない。
ヒルマの方も商会の運営で慌ただしくなり、より住民と接触することが多くなったのだがやはり少し距離を取られている様子だった。
俺の方はヒルマにあちらでの知識を元にした商品の制作を行う為にいくつか工房や服飾店に開発依頼をしている最中に楽器を見つけた。
文化がまだ成熟していない為か楽器の専門店という訳ではなかったがいくつか取り扱っておりそこにリュートがあった。
弦の数は六本で品質にやや難があったが調整や弦の販売もしていたことからそちらで購入し広場のベンチに座る。
あちらではギターこそ弾いたことはあるが同じ様に弾くことはできるだろうかと試してみる、指の硬さから少々手こずったが段々と慣れてくる。
弾いたこともなかったが感覚的に共通するものがあったのか、それともこの身体による学習能力からか感覚を取り戻すように演奏が滑らかになっていく。
こちらでの楽曲など知らないから弾くのは専らあちらでの曲だ、指鳴らしに簡単な民謡を弾き、慣れてくれば徐々に難易度を上げていく。
その過程で弾いたことがない曲を思い出しながら弾いてみると難なくこなせたことから何らかのスキルを発動しているのかとも思う。
しかしそういった演奏系のスキルが発現する職業を得てはいない筈だから不思議だ、あちらで覚えていた技術を元にこちらの優れた肉体で再現していることから技量が上がっているのだろうか。
それとも死亡時によるペナルティでレベルが下がったことにより演奏系の職業を取得したか?それにしては扱っただけで習得できるとは思えない。
ユグドラシルでは基本的に経験値と習熟度によってレベルが上がっていくシステムだ。
記憶による技術再現を行うことで習熟度の向上にバフが入るといったことも、そのシステムを基準とするならば考えづらい。
やはりこの世界特有のシステムがあるのだろうか、鑑定方法があれば職業の確認もできるがコンソールの制限があるから詳細な鑑定は厳しそうにも思える。
そう言えば演奏系で言えば吟遊詩人だったか?確かバフをかける職業スキルがあった様な気もする、ただ演奏するだけと職業スキルには何か違いがあるのだろうか?アレは確か魔力を使用したものではなかった気がするのだが、だとすればこちらにおいての普通の演奏との違いは何だろうか。
そういったことを考えながらリュートを弾いていたが気がつくと側に警邏のデスナイトが一体演奏を聞き入る様に立っており驚く。
「ご苦労さまです、こういった曲がお好みでした?」
そう言いながら直前に弾いていたメタル系の曲を演奏してみればデスナイトは感嘆した様な反応を見せる。
メタル好きなデスナイトとは面白いな、後でアインズにも教えておこう。
いやしかし、そうか音楽か。こういった方向でのアプローチも悪くないだろう。
「すいません今日はもう終わりにします、毎日とはいきませんがこの辺りで演奏しますので機会があればまた聞きにきてください」
そう言うとデスナイトは肯定の意思を示す様に呻き声に似たものを出して警邏に戻っていった。
……
「という訳で吟遊詩人の真似事をしてみようかと思うんだよ」
「はあ、なるほど」
夕食後ヒルマにそう告げて見るも反応は芳しくなかった。
「難しそうかな?正直こちらの娯楽についての知識が乏しくてね、とりあえず何曲か弾いてみるから感想を聞かせてよ」
そう言いながらリュートをとっていくつか曲調が違うものを弾いてみる、反応を見るに割と良いのではなかろうか。
「どうかな?もう少し練習すればそれなりになると思うんだけど」
「正直驚きました、ロータス様はそういった教養もお持ちなのですね」
「前の主人が多趣味でね、色々と叩き込まれたんだよ。楽器ならリュートに似ている弦楽器と打楽器、それとピアノに似ているのもやったね」
「そのピアノと言うのは?」
「鍵盤楽器と言われるものだよ、箱の様な物に白と黒の部品が複数取り付けられていて押せば対応した音が鳴るものなんだけど」
「ああ、フリューゲルですか。こちらでは貴族などの上流階級の間で好まれていますが本当に
色々と嗜まれるのですね」
「正直お固い演奏は好みではないけどね、曲とかも俗物的なものが好きだし」
「そうなのですか、お聞きしても?」
「勿論」
俺はそう言ってあちらで聞いていた曲を弾く、先程弾いたものとはまた違った曲調のもの、それなりに人気こそあったがこちらでは文化レベルが違うからあまり受け入れられるものではないだろう。
「何といいますか非常に前衛的ですね、個人的には好ましくない訳ではなかったのですが多数に受け入れられるものではないかと」
「だろうね、最初に弾いたものだとどれが良かったかな?」
「それだと……三番目に弾かれたものが庶民間で聞かれるものに近いと思います」
となればケルト音楽に近いのが一般的なのか、こうも見た目通りの流行りというのもなんだかおかしく感じるが。
「なるほど……そうなるとこんな感じかな?」
ジャンルとしてはアイリッシュロックに分類される曲を思い出しながら弾いてみる、歌詞は反意を持たれない様に、そうだな……無難に愛についてのものにするか。
そうして数曲歌い終わるとヒルマと使用人の様子が何処かおかしかった。
「どうだった?曲調はこちらの流行りを意識してみたのだが」
「え、ええその……曲調については斬新ではあるものの受け入れられると思いますが……」
であれば問題ないか、後は歌詞をこちらで問題がない様整えるか。
吟遊詩人が一般的なのだとしたら、英雄譚の様なものが好まれるか?あまりに魔導国のことを持ち上げるものは忌避される可能性があるし現地のものを少し調査しなければな。
しばらく考えているといつの間にか使用人が部屋を出ていきヒルマが膝の上に乗ってきた。
「ヒルマ?」
「あの様に素敵な歌をありがとうロータス様、今まで色々な愛を語ってもらってきたけれどあそこまで情熱的なものはありませんでした」
舐る様に情欲に湧いた視線を送るヒルマの様子からあちらでの表現はかなり効果的なものなのだと思えた。
「その気にさせてしまった様だね、それじゃあまだ早いけど楽しもうか」
俺はそのままヒルマを抱えて寝室に向かった。